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召喚! 妖怪モットクレ!

 貴族の子女が通う名門トリステイン魔法学院にその恐るべき“妖怪”が住み着いたのは、春の使い魔召喚の儀式以来のことだった。
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール侯爵令嬢によって異世界から召喚された彼は、見た目は人間の青年であり、付け加えるならそれなりの美貌の持ち主だった。
しかしてその性は極めて奇天烈にして、言動は予測不可能。人心掌握の術に長けるのか、妙なカリスマがあるのか、はた迷惑な悪戯や猥褻な言動などを執拗に繰り返しながらも、たちまち学院の人気者となっていった。

「あ、あの。これ私が厨房を借りて作ったんですっ! 食べてくれますか?」

 今日も今日とて、彼の気を引こうと手作りのお菓子を差し出すのは、学院で働くメイドの娘、シエスタだ。シエスタは初対面から彼を慕い、何かと世話を焼いてくれる。
 昨夜も女子生徒から告白まがいの言葉と共に食べ物を貰い、ご主人様の嫉妬(?)を買って飯抜きの罰を言い渡された彼は、謝礼もそこそこに眼の前のカロリーに食らいついた。

「モグモグ……」
「あの、おいしかったですか?」

 味わう余裕もないとばかりに一心不乱に食事を続ける彼に問い掛けるシエスタ。期待と不安の入り混じった視線は恋する乙女のそれだった。
 だが、

「もっとくれ」
「へ」

 メイドの笑顔が硬直する。瞬く間に小さなバスケットを空にした彼の言葉は、全く予想だにしないものだった。

「女の子が頬を染めながら渡した手作り料理に対して、あの反応……っ!?」
「何というか、そう! 男としてのスケールが違う!」

 通りすがりの男子生徒の声も彼には聞こえていない。

 ――モットクレエエエエエエエエエエエエエエ!!!

 エコーの掛かった奇声を響かせながら、何故か使い魔は突然学舎の壁面に飛びつき、達人めいた登攀術を披露する。見る見るうちに二階に到達する彼の雄姿を、シエスタは呆然と見上げるしかない。
 もう、わけがわからない。だが、最近は彼がどのような行為に及ぼうとも、「まあ、ルイズの使い魔だし」「ルイズの使い魔なら仕方ないな」と学院の日常風景として皆に受け入れられつつもあるのだった。

「ルイズの使い魔がまたなんか騒いでいる!?」
「そんでもって壁をよじ登っとる!?」
「妖怪モットクレだ!」

 ――モットクレエエエエエエエエエエエエエエ!!!

 生徒達が騒ぐ中、ダメ押しのように妖怪モットクレの咆哮が木霊する。





 召喚! 妖怪モットクレ!



 今更ではあるが、妖怪モットクレは、特に化生の物というわけではない。
 彼は名を新沢靖臣(にいざわ やすおみ)という至って普通の人間であり、妖怪モットクレと化すのは、テンションに任せた奇行の一環に過ぎない。
 この世界には、魔法を行使する貴族・メイジと、それに統治される平民に分かれた階級制度がある。新沢靖臣は異世界人であっても、能力的にその平民と何ら変わることはなかった。
 つまりは何の異能も持たない、普通の人間なのだ。
 彼のご主人様となったルイズ侯爵令嬢の落胆たるや相当のものだった。魔法成功率に由来する“ゼロ”という二つ名が表す通り、学院最低の落ちこぼれである彼女は、使い魔召喚にメイジ生命を賭けていたといっても過言ではない。
 「メイジの実力を見るには使い魔を見ろ」との格言もある。ドラゴンやグリフォンなど強力な幻獣でなくても良かった。それなりの使い魔をでも、召喚出来ればそれを期に己の才能が花開くのではないかと、そう思っていたのに……


「靖臣っ! 部屋にいないと思ったら、なんでご主人様の椅子で朝ご飯なんて食べてるの!?」
「だって、テーブルに座ったら行儀が悪いだろう?」
「そういう問題じゃないわよっ!!」


「ご主人様のご飯を食べるなんて、やっぱり馬鹿犬にはしっかりした躾が必要ね……!!」
「……毒入り危険。食べたら死ぬで」
「食うなっ!」


「なあルイズ。やっぱり、使い魔なんて俺には無理だよ」
「だから、あんたに出来そうなことやらせてあげる。掃除、洗濯、その他雑用」
「言わせておけば、何だとこんちくしょう!」
「取り敢えずこの下着、明日になったら洗濯しといてね」
「頑張ろう」


「あのね、あんたは私の使い魔で、私はあんたのご主人様なの! ここまでは分かる?」
「……使い魔?」
「なんで首傾げるのよ!? と思ったら頭じゃなくて体の方を斜めにしてる!?」
「ままならんなぁ」
「あんたがよっ!」


「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」
「ゼロのルイズ! 召喚出来ないからって、その辺歩いていた平民を連れてくるなよ!」
「違うわ! ちゃんと召喚したもの!」
「あの日。ボクはいつものように牛乳配達をしていました。そうしたらルイズ様が、ボクを無理矢理拉致してっ! その後ボクは檻の中に監禁され、くっ……これ以上は思い出したくありません」
「可哀相に……」
「使い魔くん、えっと、私の胸で泣いてもいいよ?」
「ルイズ、鬼畜……」
「嘘吐け!!!」


「あなたの落としたのは、銀の香水ですか? それとも金の香水ですか?」
「神秘的なエコーかけんな」


「靖臣……私は確かに昨夜、私の部屋にハンモック吊るさないで、とは言ったわ」
「うむ。ちゃんと聞いてたぞ」
「だからって学院長室に吊るすんじゃないわよっ!」


「なあルイズ。ここの文字で“発毛魔法試験中”と“ここからワカメ畑”ってどう書くんだ?」
「……何するつもり?」


「恋してるのよ。あたし。あなたに。恋はまったく、突然ね」
「キュルケ、む、むちゃくちゃ胸当たってる、むちゃくちゃ胸当たってもが、うぐっ、息が……ぐるじ……ガクッ。ぶらーん」
「ツェルプストー! 誰の使い魔に手を出して……って靖臣ー!?」


「おっ、タバサ!」
「何」
「使い魔品評会で、物まねをやろうと思うんだ。ちょっと見てくれよ」
「興味ない」
「まあまあそう言うなって。行くぞ! 馬鹿犬馬鹿犬馬鹿犬ううう! ……どうだ?」
「中途半端に似ていて気持ち悪い」


「靖臣、昨日タバサと何話してたの? べ、別にあんたが誰と仲良くしようがどうでもいいんだけど、そう、あれよ、ちょっと気になっただけ」
「俺……タバサと付き合ってるんだ」
「嘘っ!?」
「嘘です」


「馬鹿犬うううううううううううう!! あんたでしょっ!! 私の杖をひのきの棒とすり替えたのはっ!!」
「実はそれ……樫の木なんだ……」
「どっちでもいいわよっ!」




 ……現実はこんなものである。召喚以来、ルイズは使い魔靖臣の奇行に次ぐ奇行に振り回される日々を送っていた。
 そもそもは第一印象から最悪だった。寝ぼけ眼の見知らぬ平民に「んんー? すずねえ随分ツルペタになったなあ」と発展途上の胸をまさぐられたあの屈辱を、ルイズは生涯忘れることはないだろう。
 靖臣をだだ甘やかしていた年上の幼馴染と間違えたのだと説明されようが、傷ついたプライドと乙女心が癒されるわけでもない。
 しかし何だかんだで、ルイズはこの青年を気に入っていた。
「ごめんなさいご主人様ぁ……! ボク、寂しくて、ご主人様に構って欲しくてっ! それでついあんなことを言っちゃったんだ!」と母性本能をくすぐる仕草付きで許しを請われた日には、演技と分かっていてもついつい甘やかしてしまう。
 もっとも、そればかりというわけではない。
 靖臣に対するルイズの認識が決定的に変わったのは、「お姉ちゃんパンチっっっっっっっっっ」なる先住魔法を使う謎の美少女を召喚して平民の身でありながらメイジを撃破してみせた時からでもない。
 といって、学院食堂のコック長マルトーと結託して売り出した化学兵器まがいのハシバミ草青汁で城下町を大混乱に叩き落とした時からでもない。
 あれは、ルイズが授業中に魔法を“ちょっと”失敗させてしまい、大爆発を起こしてしまった日――たった一人で、黙々と命じられた掃除と後片付けをしていたルイズの前に現れて、靖臣は言ったのだ。

「掃除道具箱妖怪、チリ・トリオです」
「変な名前」
「うっさい!」
「……何か、言いたいことがあるんじゃない?」
「チリという国で生まれた三人組妖怪だ」
「一人しかいないじゃない。ってそういうことじゃないわ」

 思えば、新沢靖臣はいつだって道化師のようにおどけていた。だが時折、彼がひどく寂しそうな表情をすることに、ルイズは気づいていた。

 使い魔として召喚を受ける前にも、彼には彼の生活があったのだ。元いた世界の仲間達との愉快で素敵なエピソードを聞く度に、ルイズの胸はちくちくと痛んだ。

「無理やり召喚して! 偉そうにこき使って! こんな失態を見せて!」
「言いたいこと、か」

 いつになく真剣味を帯びた靖臣の表情に、ルイズはびくりと身構える。罵倒も嘲弄も覚悟の上だった。
 彼から世界を根こそぎ奪い去り、あまつさえ使い魔の身分にまで貶めたのは、他でもないルイズ自身。メイジとして振る舞いながら魔法の一つも使えない、傲慢で無能なルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 だが、

 ――その性は極めて奇天烈にして、言動は予測不可能

「お前はメイジとして最高の素質を持っている!」
「へ」

 新沢靖臣は言い放つ。いつものように自信に溢れた不遜な笑みで、ルイズの期待も不安も吹き飛ばす。

「俺がお前の才能を伸ばしてやろう!」

 畳み掛けるように、靖臣がルイズに手を差し伸ばす。
 根拠がなくても気にしない。見通しなんてつまらない。手段なんて後から考えれば良い。彼は天下無敵の風雲児。こんな使い魔となら、どんなことだって出来るに決まっていた。
 靖臣と一緒に、覚えたての魔法で、退屈している仲間をスリルに巻き込んでやったらどんなに痛快だろう。

「よし! 真田流水泳術その一っ!」
「水泳なんかしないわよっ!」

 殊更に大声を張り上げて、ルイズは靖臣の手を握り返した。




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