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ゼロの軌跡-06


第六話 貴族の道 ルイズの道 レンの道


 レンはその一部始終を離れて見ていた。耐えようもなく不快だった。あの醜態は吐き気すら催しそうだった。

 貴族とはなんなのか。その権に酔い力に奢り弱者をいたぶる存在なのか。
 それは絶対に違う、レンはそう思わざるを得なかった。



 こちらの世界に来る以前、リベールにおいてレンは貴族に面識があった。
 面識だけではない、共に旅をして、言葉を交わした。

 クローゼとオリビエ。
 正確に言うならば貴族の中の貴族。二人は王家に連なる人間。
 クローゼは王太女、オリビエは庶子という違いこそあれ、二人が国と民を思う気持ちに微塵も違いはなかった。



 クローゼは常に悩んでいた。
 玉座とは座るものでなく背負うものだと理解していたし、だからこそ彼女はそれの重さと自分の力の差に苦しんでいたのだ。

 それでも彼女は前を向いた。己を至らなさを認識し、そしてそれを埋めようと努力している。
 彼女だけが成しえる事、守りうるものの存在から目を背けることをやめて、逃れようのない女王という十字架を背負うことにしたのだ。

 <輝く環>事件の際に、レンは執行者として王宮で彼女を拉致した。
 今思えば、その時の毅然たる振る舞いに、その瞳の輝きに、王としてのあるべき姿、その一片を垣間見た気がする。

 国のために民があるのではなく、民のために国がある。
 それを認識しているものが、ルイズを笑い蔑む輩の中に一人でもいるのか。



 オリビエはずっと苦しんでいた。
 大陸一の大国、エレボニア帝国。数多い皇帝の庶子の一人に過ぎないオリビエにさしたる権力はなく、帝国の実権は一人の宰相オズボーンの手に握られていた。

 それでもオリビエは決意した。一人の友人と共に敵に立ち向かうことを。
 国の重鎮でありながら、犯罪結社である<身喰らう蛇>とさえ手を結んだその宰相に。

 軍部の七割を掌握しているオズボーンに勝てる算段などないに等しい。それでも、彼が望む世界の行く末、それは火を見るよりも明らかで。
 だからオリビエは己の身命を賭して勝負に出たのだ。

 オリビエの飄々とした振る舞いの中に一体どれほどの苦悩が隠されているのか。
 それを見て取れるものはあの群衆の中にはいるまい。ただ、ルイズ一人を除いて。



 レンは立ち上がった。







「やめなさい」

 辺りは静まり返った。その一声に含まれた気迫、それを無視しうるものはそこにはいなかった。
 レンが一歩進むごとに波が退いて海が割れた。

「あなたは貴族なのでしょう。貴族ならそれに相応しい振る舞いがあるのではないかしら」


 ギーシュは激しくたじろいだ。まさかレンがルイズに肩入れするとは思ってもみなかったのだ。
 ここでレンに立ち向かえばどうなるか。目の前に立つルイズ、その彼女の傷跡が雄弁にその末路を語っていた。 
 興奮していた頭は瞬時に氷点下まで冷え、冷静な思考がそれに取って代わる。

 確かに今の自分の振る舞いはどうみても立派なものとはいえない。
 誤ればそれを正すのも貴族としての在り方だ。

 そう結論付けてギーシュはおとなしくルイズに頭を下げた。

「すまない、ミス・ヴァリエール。僕としたことが、君にひどい仕打ちをしてしまった。
 この通りだ、許してほしい」

 事態の急変に戸惑うルイズ。ええ、とか、うん、と曖昧に言葉を返す。
 それをおいて再び盛り上がったのは周囲の野次馬達だった。

 まったくその通り、二股のギーシュ、いい気味だ。
 一度失った標的をまた見つけて、聞くに堪えない雑音がレンの耳を覆った。




 なんと愚かな連中か。

 まるで、腐臭さえ漂ってくるようではないか。

 生者の肉を啄ばんで彼らは生きているのではないか。

 嘲笑と罵倒を歌い、享楽に浸る亡者の群れだ。 



 レンは叫ぶ。

「あなた達も同罪よ!ここにいる、ルイズ以外の全ての貴族!」

 クローゼの、あの澄み切った水のような美しさが懐かしかった。
 オリビエの、あの捉えどころのない風のような芯の強さが思い出された。

「この世界では盗賊のことを貴族というのね。知らなかったわ。
 そうやって、自分の口から出た嘲笑がその身に還ってくるその時まで、愚かに踊り続けるといいわ」

 自分達よりもずっと年下の少女から浴びせられる、叱責というにはあまりにも苛烈なそれ。
 満場、身じろぎ一つなかった。

「自分の責務も知らず、他人の痛みをせせら笑う。
 憂うべき国も、思うべき民も見捨てて、己の愉悦に溺れて肥え太る寄生虫!」






 狂わんばかりの怒声が上がった。

 それを見やれば一部の生徒が青筋を立てて怒りに震えていた。
 既に大半の生徒はレンの剣幕を恐れて事態を遠巻きに見守っている。


 この自分を見ても怖気づかないところからすると、上級生か下級生か。噂が広まってないはずもないだろうに、それでも立ち向かってくるのは<パテル=マテル>の姿がないからだろう。
 それでも周りの様子を見ればその噂が事実が否やかは見て取れぬはずがない。

 つまりは己も他人も見ることの出来ない盲いた連中。
 ならば多少痛い目に会わせてやるのも一興か。

「生意気な平民の小娘!今の言葉を撤回しろ!這いつくばって貴族の慈悲を請え!」

 レンの冷静な思考にぶつけられる、力を後ろ盾にした激情に身を任せた思慮なき怒り。

「お断りよ。そんなに謝罪が欲しいなら力でもぎ取ったらどうかしら?
 あなた達がいつもそうしているようにね」
「いいだろう、決闘だ!もう泣いても謝っても許さん!」

 ヴェストリの広場で待つ。そう言い残して彼らはその場を去った。





 あまりの事態の急変にしばし呆然としていたルイズだったが、去っていった貴族を、軽蔑を隠そうともせずに睨みつけるレンを見て、自分が今何をすべきかを思い出した。

 まず謝らなければいけない。レンから大切な父と母を奪いかけた自分の行いを。
 そして感謝しなければならない。自らが信じる貴族の道を歩もうとしたルイズを助けてくれたことを。

 それが出来なければ、私はもはや貴族ではいられない。







「レン」


「何かしら、ルイズ。レンにはあなたと話している時間なんてないの」


「ごめんなさい。

 そして、ありがとう」




 全く予期していなかったその言葉にレンは思わずルイズを見つめた。

 やっと私を見てくれた。
 私とレンは、ここが始まりなのだ。




「私、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、ここにレンの父と母<パテル=マテル>を私の使い魔にしないことを誓うわ」

 レンは目を見開いて石の様に固まっていた。

 ああ、こんな顔もするのだ。
 ルイズはそこに、年相応の少女の姿を見た気がした。



「そして、私を助けてくれてありがとう。
 レンがいなかったら私は挫けていたかも知れない。貴族でなくなっていたかも知れない」

「…」

「レンは私を助ける気なんてなかったかも知れない。それでも構わない。
 レンは私に貴族としてあるべき道を指し示してくれた」



 ルイズはレンに右手を差し出す。





「私はメイジでなくても構わない。でも貴族である自分は絶対に捨てられない。
 いえ、捨ててはいけないと思う」



 ルイズは一人言葉を紡ぐ。

 この時からルイズはメイジではなくなった。

 だが、この世界の誰よりも貴族らしくあった。

 それを、だれが非難し得ようか。



「この言葉を、この手を受け取ってもらえなくても構わない。
 それでも、言わせて欲しいの。

 ごめんなさい。

 そして、ありがとう」





 レンは思い切り微笑んでルイズの手をとった。紛うことなき、天使の微笑がそこにあった。


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