あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの軌跡-05


第五話 お茶会への招待


「ミス・レン、朝食をお持ち致しました」
「ありがとうシエスタ。
 でも私、昨日お願いしたはずだけど。私のことはただのレンでいいわ」
「で、ですが…レン様のことは賓客としておもてなしするようにと言われておりまして…」
「レンって呼んで」


 シエスタが真っ青な顔をしたメイド長から呼ばれたのは昨日、ルイズの付き添いを終えて遅い夕食を取り終えた時だった。

 何事だろうか、もしや気づかぬうちに貴族に粗相をしてしまったのではないかと内心不安を抱えながら用件を聞けば、それは今日学院にやってきた少女の世話を、というものだった。
 安堵したのもつかの間、学院の塀を破壊しルイズを殺そうとしたのがその少女だと知ってシエスタは危うく昏倒するところだった。

 無論のこと、あまり豊富とはいえない彼女の持ちうる語彙全てを駆使して控えめに辞退したのだが、ただの雇われメイドの身に選択権などあるはずもなく。否応無しにベッドメイキングと御用聞きのためにレンの部屋に向かったのがその日の夜。
 一体どんな凶悪な亜人が出てくるかと思えば、シエスタを出迎えたのは彼女の予想とは似ても似つかない、あまりにも可愛らしく稚い少女だった。


 如何なる無理難題を吹っかけてくるかと恐れていたがそのようなこともなく、どうにか責務を終えて退出するその間際、お願いがあるのだけど、と鈴の鳴るような声にシエスタは扉に向かうその足を止めた。

 遂にきたか、と動揺を抑えて耳を済ませる。次いでレンの口から出てきた言葉にシエスタは耳を疑った。
 敬称はいらないからレンと呼んでほしい。
 想像していた要求とその言葉との落差に彼女の思考は一瞬凍りついた。

 レンの年齢と容姿を考えればそう呼ぶのも至極最もであるとシエスタも思わないでもなかったが、興奮と自失のために数秒ごとに明滅を繰り返しながらシエスタに命を下したメイド長の語気を思い返すと、軽々しくレンの名を呼ぶのも勇気を要することだった。

 即答も出来ず、かといって拒絶することは尚更出来ず、その晩はどうにか誤魔化して辞去した。一晩たてばそのような戯れもあるまいと高をくくり朝食を運びに来たシエスタだったが。


「ではその…せめてレンさんと」
「レン」
「レ…レン…ちゃん」
「うふふ、仕方ないからそれでいいわ。
 シエスタ、早くスプーンを取って。レン、とってもおなかがすいちゃったの」


 しかし、レンの発言、立ち居振る舞いを見るにつけてシエスタの中の違和感は次第に大きくなってゆくのだった。

 曰く塀を一瞬にして消し去っただの、あのオールド・オスマンを外で裸に剥いただのという噂は既に使用人の間でも広まっていたし、実際にルイズの首に生々しく残る手形と窓の外に聳え立つゴーレムを見ては疑うべくもないのだが、
それでも、上品にスープを飲み干す目の前の少女に、冷酷で恐ろしい姿を重ね合わせることがシエスタには出来ないのだった。




「ごちそうさま」
「レンちゃんはこの後どこかに出かけますか?もしよければその間に部屋の掃除など済ませてしまうので」
「そうね、お昼ご飯まで出掛けることにするわ」
「でしたら昼食は外で召し上がりませんか?いいお天気ですし、紅茶とデザートも振舞われますよ」
「あら、それはとっても素敵ね。レン、楽しみにしてるから。
 行きましょう、<パテル=マテル>。今日は北の方を探検するわよ!」





 その朝、ルイズが重大な決意をその平坦な胸に秘めてレンの部屋に向かおうとした時、秘書のロングビルに呼び止められた。

 疲れた顔のロングビルから今日の授業は休んでも構わない、絶対にレンを怒らせないように関係の修復を図るようにと学院長からの連絡を聞く。途中から愚痴と化していたそれはオスマンとロングビルの困憊を如実に表していた。
 去り際に、塀の修繕費の工面とか王宮にどう報告したらとか呪詛めいた口ぶりでロングビルが何かを罵っていたが聞こえなかったことにする。
 今のルイズがそれらに対して出来ることは何もなかったし、何より今すべきことはそんなことではない。

 ともかくもレンの部屋に向かって再び足を踏み出したルイズが見たものは、白煙と炎を噴出して飛び立つ<パテル=マテル>の姿だった。

 「逃げられた…」

 無論レンがルイズから逃げ出した訳ではないのだが、この行き場のない決意をどうしてくれようか。
 煩悶としながらルイズは自分の部屋に戻って朝食をとることにした。







 レンが昼食のテーブルに着いたのはちょうどシエスタとの約束の時間。そのそばにいつもあるはずの<パテル=マテル>の姿はなかった。

 探索に出てしばし、さしたる成果が上がらずにじれったくなってくるレンだったが、そろそろ戻らないと昼食に遅れてしまう。
 時間を過ぎたらご飯抜きということはないだろうが、自分から約束した刻限を自分の都合で破ることには少々忸怩たるものがあった。

 仕方ない、昼食を食べている間は<パテル=マテル>一人でがんばってもらおう。理由はよくわからないがこちらの世界に来てから出力が上がっている。自律行動させても然程の問題はあるまい。


 そう思って学院に戻ると、庭には多くの生徒と使い魔の姿があった。
 おそらく大半がルイズと同級生なのだろう。まだ使い魔が物珍しいのか、既に溺愛しているのか、そこかしこで戯れているのが散見される。

 しかし、給仕をするシエスタと二人、レンに近寄ってくるものは一人と一匹たりともいなかった。
 昨日の有様を目の当たりにしてはそれも至極当然のこと、遠巻きにして時折こちらを見ては「ゼロのルイズ」という言葉が風に乗って届くばかり。

 おそらくはルイズの二つ名だろうが、「ゼロ」とは奇妙だ。シエスタはその謂れを知っているのだろうか。


「それは…私が申し上げていいのかは分からないのですが。
 ミス・ヴァリエールは大貴族でいらっしゃいますが未だに魔法を成功させたことがなく、それで…「ゼロ」と」


 成る程、一つ疑問が氷解した。レンはずっと不思議だった。ルイズが死の間際まで見せた使い魔への執着が。

 普通、使い魔に自分の命を秤にかけてまでこだわるものなのだろうか。ずっと一緒にいて愛着が湧いたというのならば納得も出来ようが、召喚してたかが数分であの入れ込みよう。
 こちらの世界ならではのものかと思っていたが、オスマンの話を聞いたところではそういうものでもないらしかった。


 つまりルイズはその存在を、メイジとしての自分を<パテル=マテル>に託していたのだろう。だからあんなにも頑強で偏執的な抵抗を見せたのだとレンは思い至る。
 貴族しか魔法を使えないこの世界で「ゼロ」であることがどのように彼女の身にのしかかるか。それが想像できないほどレンは愚かではなかった。


 きっと世界に見放された気分になるのだろう。この私のように。


「愚かにも、哀れな話ね」
「は、はあ…そうかもしれないですね」


 そう思うと、ルイズに抱いていた憎しみと警戒心もいくらか和らいだが、だからといって<パテル=マテル>を渡すことは出来ない。それとこれとは話が別だ。
 おそらくまだルイズは諦めてはいないだろう。次に会ったらどう思い知らせてやるべきか。
 考えているところに、生徒の一人がシエスタを呼ぶ声が聞こえた。


「あのレンちゃん…」
「レンのことは気にしないで行ってくるといいわ。戻ってくるときにデザートと紅茶をお願いね」







 レンの姿を求めて庭にやってきたルイズが目にしたものは、シエスタを気障ったらしくなじっているギーシュの姿だった。
 一体何があったのかと近くにいたタバサとキュルケに声をかければ、二股がばれたギーシュが腹いせにシエスタをいびっているというあまりにもお粗末な事態。

 上手くやらないからあんな道化を晒すのよ、などとのたまうキュルケはとりあえず放置する。貞操観念が希薄な彼女を責めるのは後にするとして、ともかくもシエスタを放っては置けなかった。
 昨日ずっと介抱してくれた彼女を見捨てるわけにはいかなかったし、それを置いても貴族としての責任感と覚悟がそれを許さなかった。


「ギーシュ、二股がばれた責任をメイドに転嫁するなんて。あなた、それでも貴族なの?」
「おや、ゼロのルイズじゃないか。召喚した使い魔とは仲良くやってるようでなにより。
 なにせ君を殺しかけた上、離れて食事中とはね」

 あの少女とルイズはまだ和解してないと踏んで、ギーシュはその嘲笑の矛先をルイズに向けた。

「僕も君の使い魔くらい立派なものを召喚したかったね。ほら、まだ首に手形が残ってるじゃないか」

 その発言に周囲の生徒からも笑い声が上がった。聞くに堪えないそれは折り重なって不愉快な協和音をなした。
 思わずルイズはその白い肌を羞恥と怒りで赤く染めたが、それでもその傷は隠れようもなくその存在を主張していた。




 私は既に使い魔を手放す決心をしたのだ。



 ルイズは再び自分が独りになったことを知った。


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