あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無(ゼロ)からはじめる筋肉革命-05

「……なんだよこれ。感じわりぃな」

 自分の使い魔が、教室に入って最初に呟いたのがそれだった。
 周りのようすを見れば、鈍感なこいつでも気づくだろう。
 教室に入ったとたん、先にやってきていた生徒たちが一斉に振り向いた。
そしてすぐに笑い声がクスクスという雑音を成して自分の耳に届く。
 いつもながら本当に腹が立つ!
 以前は失敗するたびに笑われるだけだったのが、今度は存在そのものを笑われるのか。
『サモン・サーヴァントで平民を召喚した無能なメイジ』と。
 いったいなんで自分がこんな理不尽な目に遭わなくてはいけないのか。
 まったくもってわからない!

「……ふん!」

 私はいつも通りそれらの嘲笑を無視して席に座る。
 キュルケが何か言おうとしているようだったが、どうせろくでもないことに決まっている。
 聞くだけ無駄だ。
 私に倣うように自分の使い魔も隣の席に座った。
 本来、ここに座れるのはメイジだけだと注意したかったが、あいにくそんな気分にもなれなかった。

 ほどなくして、教室の扉が開く。
 入ってきたのは紫の装束を身に纏った女性。
 少しふっくらとした感じの優しそうな先生だった。
 たしかミセス・シュヴルーズという名前だった気がする。
 彼女は教室を見回すと、満足そうに微笑んで言った。

「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔を見るのがとても楽しみなのですよ」

 そんなセリフを悪気も無く言ってくる。
 なんだか少し居た堪れない気分になってきた。

「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」

 ミス・シュヴルーズが、自分の使い魔のほうを見てとぼけた声で言うと、周りが湧くように笑い出した。
 そんな調子で授業は始まった。



「何して遊ぶ?」
「いや、今授業中なんだけど……」

 ミス・シュヴルーズが教壇の上で何かを喋り始めたと思ったら、隣に座っていた使い魔が話しかけてきた。
 仮に遊びに誘うのにしても、授業が始まるこのタイミングで誘うのはどう考えてもおかしいと思う。

「そっかよ……」

 私がそっけなく答えると、大きな背中を丸めて向こうを向いてしまった。

「ミス・ヴァリエール。授業中に余所見をする余裕があるなら、あなたにやってもらいましょう」

 さっそく注意されたあげく、教壇の上で錬金をやってみろと言われてしまった。
 私は自分の使い魔のほうを思いっきり睨んでやったが、なぜか安心したようにふぅと息をついていた。

「……一応言っておくけど、万が一にもあんたが授業で指されるようなことはないからね」
「なっ!? マジかよっ!?」

 使い魔は心底驚いたように目を見開いたかと思うと、今度は悔しそうにギュッと目を瞑った。

「くそっ……まったくわからないのに授業で指されたらどうしよう、って不安と戦っていた自分が馬鹿みてえじゃねかっ」
「……」

 なんだか少し頭痛がする。

「あ、あの~先生」
「何か?」
「やめておいたほうが……」

 マリコルヌの発言にほとんどの生徒が、うんうんと力強く頷く。

「危険です! ルイズがやるくらいなら私が!」
「危険? 錬金の何が危険だというのです?」

 とうとうキュルケにまで言われた!
 ここまでぼろくそに言われたら、もう黙ってなんかいられない!

「やります! やらせてください!!」

 そう言って教壇のところまで行き、杖をかまえて教卓の上の小さな石ころを凝視する。

「ルイズ。やめ―――」
「頑張れよっ。ルイズ!」

 キュルケの言葉を自分の使い魔が遮った。
 ―――そこでふと気づいた。
 物心ついたときから、やめろやめろ、どうせまた失敗だと言われ続けていた。
 改めて思う。
 魔法を使うときに応援されるのは久しぶりだった。
 自分の使い魔は、信じているのだ。
 主人の成功を。

(これは……成功させないとね)

 私はいつもより杖を持つ手に力を入れる。

「錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」

 ミセス・シュヴルーズがニコリと微笑みながら言う。
 その言葉を聞いて、私は肩の力を抜いた。

(そうよ! それに、サモン・サーヴァントだって成功したんだもの! 私はきっとできるわ!)

 心を落ち着かせるために大きく息を吸い、そして吐く。

 杖を振り下ろし、呪文を唱えた。
 半テンポほど遅れて、光り輝きだす石。

(やった! 成功―――)

 そう思った瞬間、自分の間近で聞き慣れた音を聞いた。
 いや、普段聞き慣れた音よりも何倍も大きな、
 ―――爆発音を。

 しばらくすると、爆発とともに立ち込めていた煙が晴れる。
 目の前に映るのは、砕け散った教卓。
 粉々の窓ガラス。
 ひびが入り、ずり落ちた黒板。
 そして頭から煤を被ったかのように全身黒焦げのミセス・シュヴルーズが痙攣しながら倒れていた。
 生徒のほうも、前の席にいた何人かは気絶していた。
 これは酷い。
 我ながらそう思った。



「ドンマイ、ルイズ」

 使い魔が箒を片手に、励ますように言った。
 結局、教室をめちゃくちゃにした罰として掃除を命じられた。
 でも、命じられたのは私だけのはずだった。
 もちろん自分を応援してくれた使い魔に手伝わせようなんて思っていなかった。
 けれども、先に行ってていいと言ったのに、二人のほうが早く終わんだろと無理やり手伝ってくれたのだ。
 嬉しかったが、なんとなく後ろめたい気分になった。

「……私、魔法が苦手なのよ。ううん、まるっきり成功したためしがない」

 教壇のあったはずの場所を箒で掃きながら、気を紛らわすために話しかけた。

「魔法の成功確率ゼロ。ついたあだ名が『ゼロのルイズ』よ」

 使い魔は何も言わず、無言で箒を掃く。
 自分に背中を向けて掃いているので、どんな顔をしているかもわからない。

「おかしいでしょ? あんなにあんたをこき使っておいて、その主がこのざまよ」

 自分でも笑えてくる。
 あぁ、今の自分はなんて無様なのだろうかと。

「なぁルイズ」
「なによ?」

 慰めの言葉でも言うのだろうか。
 なんだか言われるたびに自分がどんどん惨めになっていく気がしそうだった。

「俺を殴ってみろ」
「……は?」

 こいつは今、なんて言った?

「おまえが持っている筋肉のパワーすべてを出し切って、俺を思いっきりぶん殴ってみろ」

 なぜか自分の目の前に立つる使い魔。
 手を伸ばせば触れられる距離だ。

「さあっ! こいっ!」

 有無を言わせないような凄みで叫ぶ使い魔。
 こっちの意見はお構いなしらしい。
 ……もうどうにでもなれ!

「……ふんっ!」

 振り上げた腕を使い魔の腹部に、全力で叩き込んだ。
 ボコンと鈍い音が二人だけの教室へ響く。
 打ち込まれた使い魔は、少しはよろめいたり声を上げたりするかと思ったが、まったく微動だにしなかった。
 確かに当たったはずなのに、まるで太くて大きな木を腕で押しているような感触だった。

「……やっぱりだ」
「何かわかったの?」

 私は殴ったほうの手を少しさすりながら、意味ありげな顔をする使い魔に聞いた。

「ああ……どう見ても、筋肉が足りないぜ」
「……え? いや、それだけ?」

 しばらく呆然としていた私は、当然の疑問をぶつけた。

「は? 殴っただけで他に何がわかるんだよ」

 こいつ頭大丈夫かよ? と言いたそうな目をして言われた。
 よりによってこの使い魔にだ!

「こ、ここここ、この犬! ご主人様になんて口の利き方をするのかしらっ!?」

 こいつの言葉に真剣に耳を傾けた自分がアホらしく思えてきた。

「まぁ聞けルイズ。それがおまえを救う鍵になるんだ」

 またわけのわからないことを言ってきた。

「じゃあ何? 私が魔法を失敗するのは筋肉がないからって言いたいの?」
「よくわかったな。その通りだ」

 やはりこいつの言葉に耳を傾けたのは失敗だった。
 頭痛がする。

「まあ、正確には違うな。魔法のミスを筋肉でカバーするんだ」
「……もう正直、ついていけないわ」

 駄目だこいつ。早くなんとかしないと……

「騙されたと思ってちょっと鍛えてみろよ。世界が変わって見えてくるぜ?」
「そんな世界見たくないわよ。ぜっっっったいに筋肉なんて鍛えないからね」

 はっきり言って無駄な時間を過ごしてしまった気がする。
 今度からこいつの言葉の半分は聞き流すことにしよう。
 そう思いながら、私は箒を持つ手を動かし始めた。
 背中越しに見える使い魔の表情は、どことなく落ち込んでいるようにみえた。
 勝手に落ち込んでいてほしい。

 そんなこんなで、結局二人して昼食を食べ逃したのだった。



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