「ゲッタアアァァァ トマホオオォォォクゥッ!!」
ルイズの絶叫が轟き渡る。
右手に灼熱の闘志を込め、握り締めたレバーを力いっぱい押し倒す。
主の激情を受け止めるが如く、ロボの両眼が力強く輝く。
右手に灼熱の闘志を込め、握り締めたレバーを力いっぱい押し倒す。
主の激情を受け止めるが如く、ロボの両眼が力強く輝く。
直後、ドシュウゥッ、という重低音を響かせ
巨大ロボの右肩のハッチから、何物かが高速で射出される。
巨大ロボの右肩のハッチから、何物かが高速で射出される。
飛び出したのは特殊合金のカタマリ。
放射線の影響を受け、音速の世界を突き抜けながら、鉄隗が分裂、増殖、変形を繰り返す。
ボコボコと膨らむ棍棒の側面から、ジャキリと肉厚の刃が生え、巨大な斧へと変化を遂げる。
放射線の影響を受け、音速の世界を突き抜けながら、鉄隗が分裂、増殖、変形を繰り返す。
ボコボコと膨らむ棍棒の側面から、ジャキリと肉厚の刃が生え、巨大な斧へと変化を遂げる。
重心の変化が高速回転を呼び、直線的だった軌道が大きく捻じ曲がる。
破壊の権化と化した大車輪が、箱舟の甲板を砕き散らしながら二人に迫る。
破壊の権化と化した大車輪が、箱舟の甲板を砕き散らしながら二人に迫る。
「うおおッ!?」
かろうじて我に返り、横っ飛びで難を逃れた慎一の脇を、ギロチンの烈風が通過する。
膨らみ続ける巨大な的に、避ける余裕はない。
膨らみ続ける巨大な的に、避ける余裕はない。
「「「ウボえあアアアアぁアアァァああああ!!!!」」」
巨体の半ば以上を切断する鉄隗の一撃に、肉ダンゴの中の獣たちが多重奏を奏でる。
トマホークの勢いは止まらず、箱舟の内部まで突き刺さって、シャフトを甲板へと縫い付ける。
トマホークの勢いは止まらず、箱舟の内部まで突き刺さって、シャフトを甲板へと縫い付ける。
「まだまだああああああ!!!」
「や ヤヴェろオオおおおおおォォオオオ!!!!」
「や ヤヴェろオオおおおおおォォオオオ!!!!」
ルイズが特攻する。
磔となった獲物目掛け、赤い機体が稲妻の如く加速する。
磔となった獲物目掛け、赤い機体が稲妻の如く加速する。
ド ワ オ
―と
二本の角が身動きの取れないデカッ腹をブチ破り、
巨大ミートボールを摩り下ろしながら、箱舟の下層へと巻き込んでいく・・・。
二本の角が身動きの取れないデカッ腹をブチ破り、
巨大ミートボールを摩り下ろしながら、箱舟の下層へと巻き込んでいく・・・。
慎一の耳には、ボゴンボゴンと箱舟の床を突き抜ける音だけが聞こえていた。
― 箱舟 中心部
頭上の大穴から降り立った慎一が見たのは、巨大なメイン・コンピュータに、対手を磔にしているイーグル号だった。
直ちに頭部のハッチをこじ開け、中からルイズを引きずり出す。
バイザーが大きく割れて気を失ってはいるが、特に外傷は見当たらない。
コルベールの暴走に感謝しつつ、デルフを担ぎ、ルイズを脇に抱える。
バイザーが大きく割れて気を失ってはいるが、特に外傷は見当たらない。
コルベールの暴走に感謝しつつ、デルフを担ぎ、ルイズを脇に抱える。
―シャフトはまだ息があった。
串刺しとなった肉隗の頂点、痙攣する血みどろの頭がちょこんと乗っている。
串刺しとなった肉隗の頂点、痙攣する血みどろの頭がちょこんと乗っている。
「無様なもんだな シャフト・・・」
船内のあちこちで、ドウオズワオと爆発音がこだまする。
ズズズ・・・と地響きがして、一科学者の野望を乗せた要塞が、緩やかな落下を始める・・・。
ズズズ・・・と地響きがして、一科学者の野望を乗せた要塞が、緩やかな落下を始める・・・。
「俺にしてみりゃあ テメエなんざ所詮十三分の一だ
こうなっちまったら もう手を下すまでもねえ・・・
ゆっくりじっくり時間をかけて ミジメにくたばるがいいぜ」
こうなっちまったら もう手を下すまでもねえ・・・
ゆっくりじっくり時間をかけて ミジメにくたばるがいいぜ」
シャフトは答えない。
震える唇で不気味な笑顔を作り、ふるふると頭を振るう。
ひしゃげたサングラスがずり落ち、カツン、と金属音をたてる。
震える唇で不気味な笑顔を作り、ふるふると頭を振るう。
ひしゃげたサングラスがずり落ち、カツン、と金属音をたてる。
―シャフトは眼球が無かった・・・。
窪んだ眼窩の奥にあるのは、ぬらぬらと蠢く液体のような虚穴。
キィキィという耳障りな泣き声が聞こえ、甲虫のようなグロテスクな生物がカサリと動く。
肉隗のあちこちから紙魚のように虚穴が広がり、両目の穴からシュルリと触手が伸びる。
キィキィという耳障りな泣き声が聞こえ、甲虫のようなグロテスクな生物がカサリと動く。
肉隗のあちこちから紙魚のように虚穴が広がり、両目の穴からシュルリと触手が伸びる。
「ッ!? シャフト!! テメエ・・・!」
慎一が叫ぶと同時に、シャフトの穴という穴から虚空が噴出した。
「・・・ン・・・」
激しい揺さぶりを感じ、ルイズが目を開ける。
目の前に現れたのは、慎一の横顔・・・。
激しい揺さぶりを感じ、ルイズが目を開ける。
目の前に現れたのは、慎一の横顔・・・。
「シンイチ! 見た! 見た!?
あたし 敵の親玉をやっつけたわ!!」
「よくやった! しゃべるな!! 舌噛むぞ!!」
あたし 敵の親玉をやっつけたわ!!」
「よくやった! しゃべるな!! 舌噛むぞ!!」
慎一の間抜けな叫びに辺りを見回す
崩れ落ちる箱舟の中、慎一に抱えられて飛んでいる。
―そして・・・。
―そして・・・。
「・・・シンイチ!? 何!? 何なのアレは!?」
「しゃべんなッて言ってんだろうがッ!!」
「しゃべんなッて言ってんだろうがッ!!」
だが、この場合うろたえない方が無理というものである。
足元に広がる暗黒のプール。遠くから近くから聞こえる断末魔の嵐・・・。
足元に広がる暗黒のプール。遠くから近くから聞こえる断末魔の嵐・・・。
そして・・・ その中を悠然と泳ぐ異界の生物達。
甲板に飛び出した慎一が、落下速度を増す箱舟を駆け抜ける。
「・・・! アレって ウェールズさま!?」
傾く甲板を滑り落ちる亡骸を拾い上げ、慎一が飛ぶ。
その目の前に、見覚えのある風竜が現れる。
乗っているのは、赤髪と青髪の少女。
その目の前に、見覚えのある風竜が現れる。
乗っているのは、赤髪と青髪の少女。
「乗って! ダーリン!!」
「泣かせる登場するじゃあねえか!? どこで出待ちしてやがった!」
「泣かせる登場するじゃあねえか!? どこで出待ちしてやがった!」
軽口を吐きながら慎一が飛び乗る。 タバサがシルフィードを急旋回させる。
直後、箱舟の甲板を突き破り、暗黒が間欠泉の如く吹き上がった・・・。
ズズン・・・と音を立て、猛烈な砂煙を上げながら箱舟が不時着する。
大破した船の残骸、その表面をぬらぬらとした異形が塗りつぶしていくのが遠目にも分かる。
大破した船の残骸、その表面をぬらぬらとした異形が塗りつぶしていくのが遠目にも分かる。
「ダーリン・・・ アレは 何なの?」
「ドグラだ!」
「ドグラだ!」
キュルケの問いかけに、シンイチが憎憎しげに答える。
― かつて、虚空での戦いの中、神の尖兵の持ち出した『兵器』のひとつ・・・
生物の体に取り付き、虚穴を広げ、自らの宇宙を作り出す化け物。
空間を奪い合うため創られた、虚空のような生物兵器。
空間を奪い合うため創られた、虚空のような生物兵器。
自分なら制御できるという驕りから、シャフトが体内で飼っていたものなのか?
あるいは、全てが『神』の掌の上だったのか・・・?
あるいは、全てが『神』の掌の上だったのか・・・?
いずれにしろハルケギニアは、空間侵略という、有史以来の危機に曝されていた・・・。
箱舟が見下ろせる小高い丘へと降り立ち、慎一は対策を考える。
ドグラに対抗しうる手段は、大きく分けて三つ・・・
ドグラに対抗しうる手段は、大きく分けて三つ・・・
ドグラが成長する前に、焼き払うなどして破壊する。
空間跳躍を使い、敵を彼方へと『追放』する。
相手よりも巨大な空間を支配して、その力を完全に掌握する。
空間跳躍を使い、敵を彼方へと『追放』する。
相手よりも巨大な空間を支配して、その力を完全に掌握する。
現時点で、ドグラの破壊は不可能となっていた。
シャフトの巨体全てがドグラ化し、既に箱舟は彼奴等の巣窟となっている。
未だ真理阿の力が目覚めぬ今、『追放』も『掌握』も慎一には不可能だった。
シャフトの巨体全てがドグラ化し、既に箱舟は彼奴等の巣窟となっている。
未だ真理阿の力が目覚めぬ今、『追放』も『掌握』も慎一には不可能だった。
箱舟サイズまで成長してしまったドグラが、タルブの大地を飲み込むのは時間の問題である。
そして・・・ ドグラ宇宙を通じ、『神』の尖兵がハルケギニアの地に光臨するであろう・・・。
そして・・・ ドグラ宇宙を通じ、『神』の尖兵がハルケギニアの地に光臨するであろう・・・。
「・・・キュルケ、タバサ お前らは姫さんの所へ行って 全軍を引き上げさせろ
ああなっちまったら もう 焼こうが凍らせようが手遅れだ」
ああなっちまったら もう 焼こうが凍らせようが手遅れだ」
言いながら、慎一がキュルケへとデルフリンガーを手渡す。
タバサは頷きながら、ウェールズの遺体に自らのマントを被せる。
タバサは頷きながら、ウェールズの遺体に自らのマントを被せる。
「待って シンイチ・・・ あなたはどうするの?」
「・・・・・・」
「何か 打つ手があるの?」
「・・・・・・」
「何か 打つ手があるの?」
「・・・ある!」
慎一の断言に、キュルケもまた覚悟を決める。
「分かったわ ・・・無理だけはしないでよ ダーリン」
「シンイチ 死んでは駄目」
「シンイチ 死んでは駄目」
二人は慎一を激励すると、トリステイン本陣へと飛び去っていった。
丘の上には、慎一とルイズの二人だけとなった・・・。
「でも・・・ どうするの シンイチ?
どうやってアイツを止めるの・・・?」
どうやってアイツを止めるの・・・?」
慎一は、無言で箱舟を指差す。
異形がひしめくドグラの海を、イーグル号が浮島のように漂っている。
異形がひしめくドグラの海を、イーグル号が浮島のように漂っている。
「イーグル号はまだ死んじゃいねえ・・・
今から俺がもう一度飛び込んで アイツの炉心に火を付ける」
今から俺がもう一度飛び込んで アイツの炉心に火を付ける」
「そんな!」
「黙って聞け! ここからが大事だ。
エンジンがフル回転して 炉心が臨界状態に達したその時に・・・
エンジンがフル回転して 炉心が臨界状態に達したその時に・・・
お前の『魔法』で、イーグル号を誘爆させるんだ」
「・・・ッ!!
バ バカな事言ってんじゃないわよッ!?
そんな事したら アンタは・・・
それに この大地だって無事ではすまない・・・」
バ バカな事言ってんじゃないわよッ!?
そんな事したら アンタは・・・
それに この大地だって無事ではすまない・・・」
「問題ない」
慎一が言い放つ
慎一が言い放つ
「お前が魔法を発動した瞬間に 俺が真里阿の力を解放する
真里阿は生じた爆発をエネルギーに変えて 虚空へとつながる『門』を開く
うまく行けば あの粗大ゴミを宇宙に投げ捨て 俺は地球にオサラバって寸法さ!」
真里阿は生じた爆発をエネルギーに変えて 虚空へとつながる『門』を開く
うまく行けば あの粗大ゴミを宇宙に投げ捨て 俺は地球にオサラバって寸法さ!」
「そんな事・・・」
慎一はコンビニにでも行くかのような気楽さで語るが、それは、あまりにも儚い可能性。
もし、イーグル号が故障していたら
もし、ルイズの魔法が失敗したら
もし、真里阿の力が目覚めなかったら
もし、ルイズの魔法が失敗したら
もし、真里阿の力が目覚めなかったら
全ての条件をクリアした上で、慎一が元の世界に戻れる確立は・・・
「無理 無理 無理よ・・・ シンイチ
あなたは私を買いかぶってる 私には あなたが思っているような・・・」
あなたは私を買いかぶってる 私には あなたが思っているような・・・」
「出来るさ
さっき お前が助けに来てくれた時な
正直 俺ァ 震えたぜ・・・
さっき お前が助けに来てくれた時な
正直 俺ァ 震えたぜ・・・
前にお前のこと 『恐るべきメイジ』と言ったが 訂正するぜ
お前は 『恐るべき女』だ!」
お前は 『恐るべき女』だ!」
「・・・なによ それ・・・」
「それによ・・・
今の俺は 始祖ブリミルの加護とやらを信じてみたい気分なんだ
この絶体絶命の状態で 1パーセントの可能性を残しやがるなんざ
お前らの神様も ずいぶんと粋な計らいをするじゃねえか?」
今の俺は 始祖ブリミルの加護とやらを信じてみたい気分なんだ
この絶体絶命の状態で 1パーセントの可能性を残しやがるなんざ
お前らの神様も ずいぶんと粋な計らいをするじゃねえか?」
「・・・・・・・・・」
「ちょっとばかし『伝説』ってやつを作ってやろうか? 『ご主人様』よお・・・」
「・・・分かったわ
やる・・・ やってみせる・・・!
せいぜい足引っ張るんじゃないわよ 『使い魔』!!」
やる・・・ やってみせる・・・!
せいぜい足引っ張るんじゃないわよ 『使い魔』!!」
ヘッ、 慎一が笑う。
ルイズも不敵に笑う。奥歯がカチカチと鳴る。
ルイズも不敵に笑う。奥歯がカチカチと鳴る。
慎一が、バサリと翼を広げる。
「あばよ! ダチ公!!
楽しいバカンスだったぜ!」
楽しいバカンスだったぜ!」
拍子抜けするほどの陽気さで、慎一がドグラの海へと飛び立った。