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ゼロの軌跡-02


第二話 虚無の扉


 その日、ルイズはメイジとしての自らの尊厳と存在をかけて召喚の儀に挑んでいた。
 地面に穿たれた無数のクレーターはその努力の証左だ。既に何度目か、数えるのも億劫になるような試行錯誤のその果て。ありったけの精神力と祈りと願いを込めて振り下ろした杖の先。
 浴びせられる嘲笑と罵声は濛々たる白煙の中から聞こえる駆動音と蒸気にかき消された。

 煙が晴れてそこに鎮座していたのは巨大なゴーレム。しかし土で出来ているようには見えない。総鉄製の人形はその手を何かを守るかのように胸の前に掲げていた。


 湧き上がった歓喜もつかの間、ルイズは戸惑いの渦中にあった。
 自分の起こした爆発の中から現れたのだから、間違いなくこのゴーレムは自分が召喚したのだろう。しかし生物でないものを召喚するなどということがあるのだろうか。
 同級生はもとより、いかな文献や授業でもそのような話は聞いたことがなかった。そもそも鋼鉄で出来たゴーレムなんてものが知識の範疇外のものだ。

 「コルベール先生、その…この場合ゴーレムと契約することになるんでしょうか」
 「ああ、そうだね。この儀式はしんせ…いや、無理に契約しろとは言わないよ。君が気に入らないなら私が引き取ろう。うん、それがいい。是非とも新しく召喚しなおしてくれ」

 この機械バカに聞いた私が間違いだった、とルイズは内心で毒づく。

 「いえ、やはり契約します」

 思い切り残念そうな顔をしたハゲを尻目にルイズはゴーレムに近づいた。心はまた喜びで満ちた。





そうだ、これは私の使い魔なのだ。ゼロだった私が立派なメイジになった、その証なのだ。誰にも、誰にもくれてやるものか。今まで蔑みの対象でしかなかった私を守ってくれる鋼の揺り籠。

 ゆっくりと近づいて、私はその腕にキスをする。暖かい。きっとこのゴーレムも私を祝福してくれているのだ。
 胸に刻まれた複雑なルーン。私とこのゴーレムをつなぐ絆。そう思うと意味もわからないその文様すらいとおしく感じられる。



 ルイズは高らかに叫ぶ。それは凱歌だ。今まで自分を見下し続けた世界に対する勝利宣言だった。

「見なさい、これが私の使い魔よ。竜の炎も獣の爪もものともしない、くろがねの王。
私の、私の使い魔よ!」

 しかしルイズの歌は背後から聞こえる音に突然遮られた。





 振り向けば、ゆっくりと開かれるゴーレムの手のひら、そこに立っていたのは一人の少女。年の頃は12,3歳くらいだろうか。紫の髪に黒のリボン。白と黒を基調とした上品でかわいらしいドレスに赤いネクタイ。

 そしてなにより、その手に握られた彼女の身の丈ほどもありそうな異形の大鎌。金色に縁取られた漆黒の刃の先端は新雪のように白い。その、人を殺すにはあまりにも優美な曲線。尖った柄は春の光を浴びて鏡のように少女の顔を幾つも浮かび上がらせる。

「あなた、今なんて言ったの・・・」

 その言葉に込められた、竜をも殺さんばかりの殺気。

 しかし、もうルイズは後には引けなかった。
それは世界と彼女とを繋ぎ止める桎梏。失えば再び侮蔑が彼女を襲うだろう。
 魔法に見捨てられるゼロに戻ることなど、選べるはずもなかった。

 ルイズは無謀にも叫ぶ。手負いの獣のいななきのようなその言葉。

「そのゴーレムは私の使い魔!私の物!そこから降りなさい!」

 その言葉を聞いて少女がその稚い顔をゆがませた次の瞬間、ルイズは宙に浮いた。足を掬われたのだ、と気づく間もなく地面に思い切り叩きつけられる。
 肺から逃げた空気は音にもならず、首筋に当てられた刃を見て悲鳴を必死に飲み込んだ。






組み伏せられたルイズを見て、コルベールはすぐに彼女を下がらせなかった自分の判断の甘さを悔やんだ。しかし、あの速さでは自分が彼女をかばっていたとしても守りきれたかどうか。
 それどころではない、とかぶりを振り今は不必要な思考を追い出す。ともかくも、あの少女を落ち着かせることだ。あのままでは、ルイズが危ない。

 「お嬢さん、ひとまず落ち着い『<パテル=マテル>、ダブルバスターキャノン!!』」

 コルベールの言葉は途中で遮られ、少女の怒号が響いた。
 彼にも上手く咀嚼できない少女の声を理解できる者がその場にいるはずもなく、けれども不吉なものを感じ取った生徒たちが後ずさりを始めた時、ゴーレムから二つの閃光が走った。
 その暴力的なまでの輝きを放つ光は塀を紙細工のように粉砕し、木立を飲み込み、轍を形作った。

 数瞬の後、轟音と閃光が静まる。そして沸き起こる混乱、生徒達とその使い魔の悲鳴と呪詛が辺りを埋め尽くした。


 生徒達は皆逃げて失せた。コルベールは慌ててルイズに近寄ろうとしたが、ルイズとコルベールの間に彫られた轍、それを越えようとしたときゴーレムが再び動き出すのを見て歩みをとめざるを得なかった。
 手を出すな、ということか。コルベールは臍をかむ。ゴーレムの動きをとめつつ少女からルイズを救出する。そんな離れ業が出来るとも思えず、彼に残された道はただただルイズの無事を祈ることだけだった。




 今なおルイズの頚動脈に置かれている少女の鎌、地面に突き刺さった柄はルイズの桃色の頬に触れんばかり。次第に遠くなるクラスメイトの悲鳴を聞くたびに、死の淵にいながらルイズの頭は逆に冷えていくようだった。





私は思う。きっと私はここで死ぬのだろう。ゼロの私は己の魔法で喚び出したものに殺されるのだ。

「さっきの言葉を撤回しなさい!」

 それは私には出来ないことだ。それには私が魔法に捧げてきたもの全てが懸かっている。
 この少女に思い知らせてやりたい。私がどれほどの時間を費やし、寝食を削り、体を酷使し、心を擦り減らし、願いを込めてあの言葉を吐き出したのか。
 立派な貴族足らん、メイジであらんとして求めたもの。その結晶があのゴーレム。

「<パテル=マテル>はレンの何より大事なものなの!」

 ああ、レン、あなたはレンっていうのね。折角の可愛い顔が台無し。
 そんなに怒りに身を震わせて私に刃を向けないで。
 そんなに怯えに身を竦ませて私を見ないで。
 あなたにはきっと、天使のような微笑が似合うはずなのだから。

「レンのパパとママよ!絶対に渡さない!」

 その言葉を理解する前に私の体は再び宙に浮いた。首に手をかけられて持ち上げられる。こんな状態ではさっきの言葉を撤回しようにも話すことすら叶わない。彼女の我慢が限度を越えたのだろう。もう私には死しか残されていないということか。
 耐え切れずに動いたコルベール先生がゴーレムの腕で横薙ぎに吹き飛ばされるのが見える。死に際してこんなにも冷静な自分自身の思考が奇妙にも可笑しく感じられた。意外なほどに恐怖を感じないのは何故なのだろう。



 ああ、そうか。
 私は得心する。

 レンと私はとてもよく似ているんだ。
 きっとレンも世界に見捨てられたことがあるに違いない。
 でなければ、こんな眼をするはずがない。

「しんじゃえ…」

 でもかわいそうに、レン。
 私はそのゴーレムで救われるけど。
 あなたはそのゴーレムでは救われなかった。

 段々視界が黒く塗りつぶされていく。
 意識が薄くなりながらも、私はレンの笑顔が見れないことが悲しくて仕方がなかった。


 私の命が閉じるその寸前、雲耀の差で首に掛かる力が弱まった。どうにか眼をこじ開けるとレンの唇が動くのがかすかに見えた。 

 「だめよ、『レン』
 あなたも私も本当は優しいお姫様なのだから」

 ああ、そうか。
 私は嘆息する。

 レン、あなたはゴーレムだけでは救われない。
 あのゴーレムで救われるのは『レン』だけ。
 あなたのパパとママは『レン』しか守ることは出来ないの。
 レンは今もずっと、一人きりで泣いているのね。


 誰か、レンを助けてあげて。
 心の奥底で、孤独に怯えているレンを暖めてあげて。
 太陽のような光で、優しい想いで。






 ルイズの意識は、そこで暗転した。


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