あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの少女と紅い獅子-07


「ふむ、アルビオンか……」
 口ひげをいじりながらマザリー二が呟く。
 トリステイン王宮内の枢機卿執務室、マザリーニはその部屋の主である。
 右腕のワルドが特に報告したい事があると言うので時間をとってみれば、成るほど確かにこれは急を要する事であった。
「『暗黒の欠片』か、話と危険性はそれと無く先王や古参の重臣から聞かされたよ」
 そこで言葉を切り、考えるように天井に目をやるマザリーニ。
「だが、正直君が出張る事とは思えん。アルビオンなどに向かうなら尚更な」
「『暗黒の欠片』の正体を知っている者によれば、一国を壊滅せしめる、とのことですが」
 無表情にワルドが応える。
 言葉と裏腹にその様はいたって沈着冷静である。
「確かヴァリエール公の三女の使い魔だったか。ふむ、何時ぞやの怪物騒ぎの事と絡めれば、知っていてもおかしくは無いが……。
これについてはいつか正式に調査が必要だな」
 枢機卿として政治家として常に有能であろうとする彼の元にはこんな情報も入ってきていたのである。
「まあ、その件についてはさて置こう。問題は行き先だ」

 アルビオンが平和ならばさっさと行って来いと言う運びになっていただろう。
 だが現在アルビオンは内乱中であった、しかも現王室の命脈は風前の灯である。
 無論大軍はおろか一部隊も送るのは困難であろう、そんな事をすれば増援と取られるだろう。他でもない反乱軍に。

 ハルケギニアの統一と言う大層なお題目を掲げた反乱軍『レコン・キスタ』。当然、トリステインへの進攻も何時かは
企てる事だろう。
 現にそのことを察したマザリーニを初めとするトリステインの重臣は、王女アンリエッタとゲルマニア帝との婚礼を図ろうとしていた。
 この婚礼がなされそのまま軍事同盟となる前に、進攻の口実をみすみす『レコン・キスタ』にくれてやる訳には行かなかった。

 枢機卿の懸念をよそにワルドはあくまで淡々と応じる。
「少人数ならば問題はないかと」
「君のほかには?」
「ルイズ・ヴァリエールとその使い魔、あとは必要ありますまい」
 彼の説明にやや顔をしかめるマザリーニ。
「彼女らを連れて行く必要は有るのか? 私は君一人でも十分と思うがね」
「有益と踏んでの選択です」
 殆ど間もなく即答するワルド。あまりの即答ぶりに些か不審を覚えたマザリーニであったが気を取り直す。
「まあ、君がそう言うなら口は挟むまい。ところでアルビオン到着後の行動にアテは有るのかね」
「ある程度は。逃げるためにわざわざアルビオンに渡ると言う行為が異常ですので」
 ワルドの返答に細身の枢機卿は目を細める。
「連中絡みである、と?」
 ワルドが軽く頷くのを見て彼は
「くれぐれも気を付けたまえよ」
 と、幾つかの意味を含ませ嘆息交じりに形だけの激励を送った。

 その時執務室の扉をノックする者がいた。今は秘書も席を外しているため、マザリーニが応答しなければならなかったが、
返事を待たずに扉は開かれた。
 王宮内でそんな事を許される人間は限られている。
「雑務の事で話があると聞いて待っていたのに、随分と待たせるのですね枢機卿。それともそんなに忙しいのかしら?」
 入ってきたのはトリステイン王女アンリエッタであった。
「これは、殿下にご足労いただくとは恐れ入ります」
 もっとも、台詞ほど恐れ入っている様には聞こえなかったがマザリーニは頭を下げる。
 ワルドも同様に礼をとった。
「それで? 二人で何を企んでいたのかしら」
「企むなど……。少々厄介なコソ泥の後始末の方法を模索しておりましただけです」
 マザリーニはアンリエッタに顛末を説明した。
 その最中、アルビオンと言う単語にアンリエッタがピクリと反応するのをマザリーニは見逃さなかった。
「殿下、小煩いようで恐縮ですが……」
 マザリーニの諫言を彼女は首を振って打ち消す。
「分かっております枢機卿。もう詮無き事であると。明日にはニューカッスルの王城は陥落するかもしれない」
 そこで一度言葉を切りため息をつく王女。マザリーニはため息に眉をひそめるが今度は何も言わない。
「でも……好きな人を案じて嘆くのは私の勝手でしょう?」
 アルビオン王子ウェールズとアンリエッタが両思いであることは、王宮内の極僅かの人間の間では公然の秘密であった。
 世相が常識的な範囲で平和であるならば、婚礼の相手はウェールズであったであろう事は想像に難くない。
 とは言え、その事を王女自ら口にするとはマザリーニも思っていなかった。

「いやはや、これは大事で御座いますな。しからばゲルマニア帝との婚礼は直ちに破棄いたしましょう」
 珍しく芝居がかった態度を取る枢機卿にアンリエッタは苦笑を浮かべる。
「白々しいですよ枢機卿」
 それから思い出したようにワルドの方を見る。
 ワルドはさして興味もなさそうに
「はっ、お仲がよろしいのは結構な事ですな」
 と、こちらもワザとらしく見当違いな事を口にした。

「それにしても、ルイズ・フランソワーズがその様な使い魔を召喚していたなんて……」
 言葉尻に僅かに懐かしさを滲ませながらアンリエッタが呟く。
「危険、とは申しませんが少々調査が必要ですな。殿下はヴァリエール公の御息女を存じておられる?」
「昔、遊び相手になってもらいました。そういえば、子爵の領地はヴァリエール公家の近くでしたわね?」
 話を振られたワルドは首肯し応える。彼は微笑を浮かべ、
「はい。私も彼女の事は幼い頃から知っております」
「彼女も連れて行かねば成らないというのなら、くれぐれもよろしくお願いしますよ」
 アンリエッタの何気ない一言に、しかしワルドは跪いて頭をたれる。
「はっ、この身に変えましても。不逞のやからの指一本、彼女には触れさせません」
 そう言うと彼は立ち上がり、二人に一礼すると退室しようとした。
 だが、部屋のドアの前でふと立ち止まると振り返えり再び口を開く。
「枢機卿。もし、賊の足取りを追っている最中に偶然ニューカッスル近くに行く事になり、
たまたま王党派の方々と遭遇した場合は保護すればよろしいですかな?」
 聡いワルドらしかぬ発言にマザリーニが露骨に顔をしかめる。
 遠回しに外患を引っ張り込むと言っている様なものだ。
「いいかね子爵。その様な偶然は、絶対に、起こり得ない」
 何か言おうとするアンリエッタをこればかりはと目で制してマザリーニは続ける。
「もし、その様な偶然が起こり得るとしたらそれは王党派の方々、と言うより王族の方々自信がお望みであればの話だ」
 強く言おうとして言葉がおかしくなっていたが合えて指摘するものはいなかった。
 ワルドはもう一度一礼すると今度こそ退室した。


 執務室を出たワルドは早足にその場を立ち去る。
 そしてめったに誰も来ない一角で壁に背を預けると、自分の顔を押さえて苦悶の声を上げた。
「勝手に……出てくるなと、言っているだろう……」
 応じるものは誰もいない。だが彼は構わず続ける。
「貴様の望むとおりになっているだろうが……。そして俺が望む通りにもなっている」
 違和感が引いたか彼は顔から手を離した。
「そうだ、全て望み通りだ」
 そして、もと来た通路を戻っていく。
「望みどおりにならないとすれば」
 再び立ち止まり、夜空を見上げて呟く。
「あの娘だけだ」
 鉄面皮に僅かに表情が浮かんだが、それを見たのは満天の星と双月のみであった。



 厳しさに定評のあるギトーの授業中でありながら、ルイズは上の空であった。

 いつの間にかアルビオン行きが決まってしまった。

 数日前、ワルドが学院長室に現れた後、話はとんとん拍子に進んでしまったのだ。
 ゲンは早速足取りを追うべきだと主張し、これにワルドも大して反対しなかった。むしろ彼女にはタイミングの悪さから
ゲンの思い付きを煽っているようにすら見えた。学院長にいたってはアルビオン行きの話が出た時点で鼻毛を抜き出した始末である。

 彼女自身はアルビオン行きには反対であった。
 だが話の内容が内容だけに彼女も強硬な反対はしにくかった。
 もっとも彼女自身、何故反対するのかと言えば明確な答えはなかった。
 戦争中だから危険というのはあまり理由にならない。確かに危険では有るが、ゲンとワルドが共にいて、なお危険な状況などは考えたくもない。
 あえて指摘するならば自分が話についていけず蚊帳の外にいる。それだけならともかく、自分がそれでもこの話に
首を突っ込まざるを得ないのが、自身の使い魔に幾ばくかの原因があると言う事であった。
 無論、彼女自身はこの点を頑なに認めようとはしないが。

 放っておけないのは分かる。怪獣の恐ろしさはその身をもって知っている。フーケや仮面男を放置できないのその通りだ。

 だが、彼女はその中心にいない。

 他人事、でもない。だが、自分はただ振り回されているだけ。中心にいるのはゲン。ついでワルド。

 気に入らなかった。だが、それを口に出してゲンやワルドに知られる事はもっと気に入らなかった。
 仕方がないので本日何回目かのため息をついて、その代わりとした。

 奇跡的に、目敏いギトーの授業を上の空で乗り切ったルイズは食堂に向かおうとして教室の出口でキュルケに捕まった。
「タマには一緒に食事でもどう?」
「その台詞、同姓から言われるとは思わなかったわ。ま、別に良いけど」
 そんな訳で、彼女とタバサに捕まったルイズは珍しく三人で食事をする事になった。


「で、わざわざ声かけてきたって事は何かあるんでしょ?」
 他愛もない話がひと段落した頃ルイズは話しを振ってみた。無論キュルケに向かってである。
 タバサは先程から黙々と食べ物を口に運んである。邪魔するのも悪いような気がした。
「ん~、まあそんな別に重要な事でもないんだけどさ」
 と、勿体ぶった後キュルケはルイズに向き直る。
「そろそろ落ち着いたことだし、貴方の使い魔の正体を教えて欲しいのだけど?」
「知らない本当よ」
 質問が終わるとほぼ同時にルイズは反射的にそう答えた。
 キュルケは一瞬目を見開いた表情を見せたが、直ぐに目を細めルイズに顔を近づける。
「そんな訳ないでしょうが、赤い球の事とか聞いてないの?」
 キュルケの質問にもルイズは目を合わせようとせず、
「知らないわよ、あいつに聞いても何も教えてくれないし。その内教えるって言ったきりだもの」
 聞けない、或いは聞きにくいと言うのはこの際言わないで置く。わざわざバカにされる材料を相手にくれてやることもない。
 だが。
「あらら、手綱はしっかり握らないとだめよ」
 キュルケは大して深い意味はなく発言したつもりだったが、その言葉は今のルイズには中々効いたらしく彼女は思わず机に突っ伏してしまった。
 その様を見てキュルケが半分呆れたような笑いを浮かべる。
「あ、もしかして結構深刻?」
「うるさいうるさい、ほっといてよ。大体なんでゲンの事がそんなに気になるのよ?」
「え? そんなの面白そうだからに決まってるじゃない」
 ルイズの問いにキュルケは当然とばかりに応じる。
「アンタ……いつか火傷するわよ」
「フフン、ツェルプストーがそう簡単に火傷するわけないでしょう」
 豊満な胸を張って威張ったように応じるキュルケを見て、ルイズはため息をついた。

「まあ、じゃあ彼のことは良いわ。じゃあ次は赤い巨人」
「あれだって勝手に現れたのよ、っていうか近くにいたからって私が何でも知ってるわけないでしょう?」
 これは完全に嘘である。彼女はその目でゲンが光に包まれ巨人に変貌するを見ている。
 しかし、それを明らかにするのは何故か躊躇われた。
 存在してはならない者への畏怖がそうさせたか、或いはいずれ話す――つまり今は聞くな――といった事を気にしていたか判らない。
 ただ少なくとも、面白そうだから、で聞いて来る相手には(その真意はさて置き)応えるつもりはなかった。

「知ってる事を言ってくれればいいじゃないの。なにをそんなにムキになってるのよ」
「ムキになってなんかいないわ」
「そうやって直ぐに反駁するのをムキになってるって言うのよ」
 やれやれ、とキュルケは肩をすくめる。

 と、それまでキュルケの横で黙々と食事を行なっていたタバサが、脇に置いていた分厚い本を机に載せた。
 タイトルは『ハルケギニアの民間伝承』、驚くべき事に彼女はまだ料理の残っている皿を脇にどけてその本を開いた。
「アンタにしちゃ変わった本ね」
 キュルケが意外そうに口を開く。日頃タバサが読んでいるのは学術書の類、それも大体は魔法に関することである。
 これも学術書には違いないだろうが、少々毛色が違う。
 タバサはページをめくりながら唐突に、
「巨人の伝説はハルケギニア全土に点在してる。アルビオンにも」
 と呟く。そうしてある章を開くと二人が見えるように本を少しずらした。

「場所はバラバラなのにも拘らず、殆どの言い伝えには共通点がある。輝く巨人である事、一度現れれば常識はずれの奇跡を起こす事、
現れたかと思ったらものの数分でいなくなること、そして――」
 彼女はそこで一度言葉を切って、チラリとルイズの方を見た。
 ルイズは嫌な予感がした。
「そして? 最後は何なの」
「二つ有る。一つはその地域に闖入者が現れてること、もう一つは何らかの災厄で命を落としたと思われてた人が生きてた事。伝承の殆どは
この人物が登場するあたりから始まってる。そしてこの人物達は話の最後にどこかに行ってしまう」
「でも、それは御伽噺にはよくある話じゃないの?」
 そうキュルケが意見を述べるとタバサは首を横に振って続ける。
「巨人が出てくるだけなら、謎の人物が現れるだけならもっと有るかもしれない。でも、こんな特異な共通点が幾つもあるのは
作られたにしては不自然。なにか元があるはず。一番簡単なのは全部本当である事」
 そこまで喋ってタバサは自分に向けられる二つの好奇の視線に気づいた。
 キュルケとルイズは目を丸くして彼女の事を見つめている。件の光の巨人がいま目の前に現れてもこれ程には驚かないだろう。
 それ程タバサが多弁になるのは珍しかった。
 タバサは、コホン、と小さく咳払いをし
「更に言えば件の人物が巨人に変身すると明確に書かれてるのもある。これらの伝承に今回の件を当てはめると共通点が多い。そして
今回の場合にその人物に当てはまるのは、オオトリ・ゲン」
「ら、乱暴すぎるわよ、幾らなんでも!」
 突然のタバサの断言に思わず大きな声が出てしまうルイズ。
 対してタバサは落ち着き払って応える。
「これは伝説から考えられる仮説に過ぎない。別に彼がそうだと決まったわけじゃない」
 それからルイズを正面から見据えて続ける。
「彼が伝説の巨人だったら何か困るの?」
「べ、別に困ったりはしないけど……」
 そう、ルイズが困る事は何もないはずなのだ。
 平民の使い魔ごときの頼み(使い魔が頼み事をすること事態の異常性はさて置き)ならば最悪黙殺してもトリステインの貴族の行動としては
取り立てて問題があるわけではない。
 ルイズが躊躇する原因は記憶に引っかかってるコントラクト・サーヴァントの時のゲンの、レオの言葉。

『私の力を頼り過ぎないで欲しい』

 彼は言外に自分の力の危険性を語っていたのだ。そしてそれは数日前に思い知った。
 無暗にその力を借りようなどとは思わなかったし、今はそんな必要もない。
 この二人に話しても、何か無茶な事を言ってくる事はないだろう。
 だが、人の口に鍵をかけることは出来ない。どんなに他言無用と念を押しても、誰かに漏れればそこからは瞬く間に広がるだろう。
 その時、私は? ゲンはどうなる? 彼の力は掛け値なしにトリステインどころかハルケギニア全土をを敵に回して有り余るかもしれない。
 例えばトリステインの国軍がその力に目をつけたら?
 そんな大事には成りはしないと分かってはいても、小さな不安が彼女の心に巣食いチリチリと燻るのだった。

「と、とにかく知らないものは知らないの。ゲンがあの巨人だって思うなら本人に聞けばいいでしょう」
 話は終わりだとばかりにルイズが強引に幕引きを図る。
 タバサもこれ以上は別に議論するつもりはないようだ、開いていた本を片付け始める。
 と、それまで黙って推移を見ていたキュルケが口を開いた。
「ところで、タバサ。アンタにしちゃ随分調べたみたいね? そりゃあんなもの見たら興味の一つも沸くでしょうけど」
 タバサは一瞬動きを止めたが、それもつかの間。聞こえなかった風に片づけを続けようと鞄を開いた。
 その鞄の中に見覚えのあるタイトルを見つけたキュルケは、断りもせずにその本を鞄から抜き取った。
「あっ……!」
 タバサの制止は一瞬間に合わず、手を伸ばしたときにはその本はキュルケに奪われていた。本のタイトルは、
「えーと? 『イーヴァルディの勇者~外伝・光の巨人伝説~』へぇ、この御伽噺こんなのもあったの」
 さして興味もなさそうなキュルケ反応に、心なしかほっとしている様に見えるタバサは、
「『イーヴァルディの勇者』は色んな伝承の複合体だから混ざっててもおかしくない」
 そういいがら本を取り返した。
「……まさかそれに影響されてあんな事言ったんじゃないでしょうね?」
 ルイズの突っ込みに今度こそ完全に動きが止まるタバサ。
 ウソでしょう? と言いたげなキュルケの無遠慮な視線が突き刺さる中彼女は、
「関係、ない」
 と、殊更に早口に言うと手早く本を片付けてその場を立ち去った。
 残された二人が思わず顔を見合わせていると、タバサは振り返り
「関係ないから」
 と、もう一度念を押すように言って今度こそ食堂を出て行った。


 一方その頃、その食堂の奥、つまり厨房の更に奥の一角でゲンが大量の洗物と格闘していた。
 最近はもっぱらここでの仕事が多い。

「戦争中?」
「ええ、そんな噂を聞きます。どうなってるのかまでは知りませんが……」
 横で同じく皿を洗っていたシエスタにアルビオンの事をそれとなく聞いてみたところ、帰ってきたのがこの回答だった。
 実はルイズから既にアルビオンの情勢は聞かされていたのだが、平民と貴族では戦争の捉え方も違うかもしれない。
 そう思っての質問だったが、結果は会話の糸口になった位だった。
「アルビオンがどうかされたんですか?」
「いや、ちょっと気になってね。この辺の事はあまり知らないから」
 あいまいな返事で返答を避けるゲン。
 シエスタはそれには特に疑問を挟まず、ため息をつく。
「嫌ですよね、戦争って。まあ、もしトリステインが巻き込まれても私の田舎やこの学園は襲われる事もないでしょうけど」
「君の故郷には強い軍が居たりするのか?」
 ゲンの質問に、シエスタは一瞬目をぱっちりさせた後可笑しそうに答えた。
「逆ですよ、何もありません。本当にただの田舎です、一つだけ変わった建物がありますけど」
 そこで言葉を切ったシエスタは思い出したようにゲンの方を見る。
「そういえば、オオトリさんの故里はどんな所なんですか?」
 その問いが出た瞬間、ゲンの脳裏をかすめたのは二つの故郷。
 星の海に消えたL77星。
 命を懸けて守った地球。

「そうだな……綺麗なところだ。自然が豊かで美しい。ここからは少し遠いから、帰るのは一苦労だな」
 その言葉の端々にシエスタは小さな寂寥感を感じ取ったが、その理由を尋ねる前にゲンが口を開いた。
「ところで君の故郷のある代わった建物ってのは一体どういうものなんだい?」
「えっ? ああ、そうですねえ。本当に変わってるんです。80メイルくらいの講堂みたいな建物なんですけど、変な出っ張りが
あったり形も変だし。私のひいおじいさんが作ったって聞いてるんですけど。今は集会場の代わりですね」


 洗物から開放されたゲンが厨房の裏口から出ると、表の方から青い髪の少女が来るのが見えた。

 確かタバサと言ったか。そんな風にゲンが思っていると、彼女はゲンに気づくとてくてく彼の方に近づいてきた。
 やがて数歩の距離まで来ると足を止めたタバサはジッとゲンを注視した。
 そのあまりの唐突さに思わずゲンもたじろく。
 やがて、彼女は何か言おうと口を開こうとしたとき一羽のフクロウが何処からともなく飛んできた。フクロウは
タバサに手紙を渡すと直ぐに飛び去った。
 フッ、とため息ともつかぬ息を洩らすとタバサは手を口に当てて笛のように吹く。
 直後、青い竜が上空から舞い降りた。タバサはすばやく竜に乗るとゲンの方にチラリと目をやり、
「また……」
 と呟いて、竜に指示を出す。
 青い風竜は彼女を乗せてあっと言う間に空の彼方に飛び去った。               


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