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ゼロの夢幻竜-31


貴族派のホーキンス将軍は、総攻撃という事態に対してこの上ないほど悠然とした態度で向かっていた。
昨夜の演説で、敵はどれ程の覚悟を持って挑んでくるか分からないので、気など抜かぬようにと言いはしたが、現状を見つめているとそう思っていては部下達から気が入りすぎているのでは?と、つっこまれるかもしれないからだ。
第一、戦力としての差があまりにも歴然としているのだからしょうがない。
何千という魔法戦士だけではなく、何百という銃士隊、幻獣、亜人、そして幾つもの巨砲を搭載した艦隊まで使っているこちらに対し、王党派にはただ魔法兵士が300人程度いるだけである。
しかも、如何に一流の戦闘を積んだトライアングル、スクウェアクラスのメイジであろうとも、たった一人なら同程度か一クラス下のメイジが何十人、何百人と束になれば太刀打ち出来るものではない。
ドット、ラインメイジ200~500対スクウェアメイジ1でははっきり言って勝負にならないだろう。
質はモノを言わせる時もあるが、数がどうしてもそれを勝る時もあるというものだ。
次に敵はひたすら篭城形式の戦闘をしている事もあった。
ニューカッスル城は堅牢な事で知られていたが、逆に言うなら、それが破壊されてしまえば後は一気に切り崩すだけである。
攻める方向が一方向しかないのは如何ともし難い事ではあったが、それを考慮したとしても得る見返りは非常に大きいものだ。
そもそもホーキンスは、ニューカッスルをあまり壊す事無く戦闘を終わらせたかった。
堅牢と噂されているのであればそれを有用に使わない手は無いし、新政府の象徴として使える建物も今のところはあれぐらいしかない。
遥か前方では砲撃による煙や炎が見え隠れしていたが、どうやらそこまで大きいものではない。
破壊された区域が少なければ急いで修理させても悪くはないだろう。
尤も、あの自分の体面ばかり気にする総司令官殿が、それを簡単に許してくれるかどうかは分からないが。
まあ、勝敗は早くて半時間、遅くとも一時間と経たない内に決するだろう。
ホーキンスはそう予測を立てていた。
そんな時、前線付近で待機をしていた伝令兵が彼の元に向かってきた。
表情を察するに、何かこちらにとって不都合な事でも起こったかのようだった。

「何が起きた?手短に話してくれ。」

手短に話してくれとは言ったものの、別にそこまで急ぐような事は何も控えてはいないし、特段忙しいわけでもない。
ただ、将軍としてこのような状況で手持ち無沙汰だと思われるのもなんなので、一応言ってみただけだった。
伝令兵はそんな彼の思いなど露知らず、かしこまった調子で前線からあった報告を告げていく。

「はっ。最前線からの報告によると、先刻ニューカッスル城の城門手前に竜が一頭現れたとの事です。」

竜が一頭。その言葉を聞いてホーキンスは危うく脱力しかけた。
それが風竜か火竜かどちらであったとしてもこちらにとって不都合な事でなければ、ましてや驚く事でもない。
王党派の連中が秘蔵の一匹として飼い馴らしていたという事も十分に考えられるからだ。
加えて、そんな竜が一頭出てきたところで、この戦局が大きく傾く事など考えられるわけが無い。

「竜一頭出てきた程度で何を慌てる必要がある。王党派の連中が我々に対して向けているせめてもの虚勢だろう。捨て置け。」
「それが……唯の竜ではないとの事です。」

唯の竜ではないと聞いてホーキンスの体は一瞬だけ固まる。

「唯の竜ではないとはどういう事か……出来るだけで良い。その時の状況と特徴を克明に教えてくれ。」
「はっ。大体の城壁が破壊されたので、最前線にて構えている兵士が城内への総突撃を検討しておりました時にその竜が現れました。大きさは1メイルから2メイルの間。
体色は赤と白が主になっており、空中に浮遊していたそうです。」
「それは風竜か?それとも火竜か?」
「いえ、それが……対面した小隊長の一人が、近くにいたその方に詳しい者に訊ねたのですが、その竜はどんな風竜や火竜とも似ても似つかないとの事です。」

はてな?とホーキンスは首を傾げた。
通常戦闘に用いられる竜というのは、風竜か火竜が主流である。
それでないというのは一体どういう事だろうか?

「似ても似つかない?では何かね?その竜は死滅したという伝説の古代竜、韻竜であるとそう言いたいのかね?」
「恐らくは……」

ホーキンスは、そんな馬鹿なと思いつつも、ひょっとするとという感情も織り交ぜつつ話を聞いた。
もし齎された話が真実だとするならば多少は気を引き締めなければならない。
知能が高い韻竜は人語を解すだけでも驚きに値するが、一番厄介な事は今ではエルフぐらいしか使わないとされる先住魔法も操るとする事だ。
先住魔法の恐ろしさをホーキンスは身に染みて知っているので、敵に回せばどれ程の脅威になるか軽く頭で勘定をしてみる。
苦戦する事は間違い無い。
人的、物的被害に関しても当初の予想より大きくずれる事になる。悪くすれば桁が一つ増える事になるだろう。
しかし今一つ解せない事がある。大きさが1メイルか2メイルそこそこしかないという事だ。
ホーキンスはそれ程竜の生態等に詳しいわけではないが、経験によれば、どんなに小柄な幼生の竜でもその倍以上はあるものだ。発育不良なのだろうか?
ともあれ、予断を許さない状況となったのは確かである。
そう思ったホーキンスが、軍全体に対して進撃の一時中断を通達しようとしたその時だった。
突然、前方で強烈な爆発が起きた。
巻き上がる土煙と水蒸気に多くの銃士や騎士達が、後方に向かって吹き飛ばされる。
判断を出すのが遅れた……!
その一瞬はホーキンスがこの日で一番悔しい思いをした一瞬となった。

神様、あとほんの少しでいいです。勇気を下さい。
城門の前に出てややあった後に、特大級のミストボールを銃士隊に向かって幾つも放ったラティアスはそう願わずにいられなかった。
確実に勝てる戦いではないだけに、襲ってくる恐怖の量は半端ではないからだ。
統制を失った銃士隊は少しの間混乱していたが、直ぐに態勢を建て直してラティアスを狙撃しようと何発も撃ち込む。
しかし高速で高空を飛び回る小柄なラティアスは、しとめる、しとめない以前に視認する事が異常なまでに難しいものであった。
相手を撹乱させながら、ラティアスは次の作戦を考える。
対象がばらけてしまって集中的に狙う事が出来ないなら、上手く誘導して一箇所に集めてやれば良い。
円を描くようにして範囲を拡げていけば、他の兵士達も巻き添えにする事が出来るだろう。
考え新たに、ラティアスは後方に控えている騎兵隊を巻き込みながら、ミストボールで銃士隊を駆逐していく。
だが、上手く注意を配りながら絶えず動き回っていなければ直ぐに、更にその後方にいるメイジの騎士達が繰り出す氷の槍や風の刃、そして炎の球が自分を襲ってくる。
必死になってかわす事に専念していると、今度は攻撃の方が疎かになり、敵の進攻を許してしまう事になる。
またミストボールが如何に攻撃用の技であっても、所詮は強烈な風による攻撃だ。
相当当たり所が悪くなければ、相手は直ぐに戦線復帰してしまうだろう。
炎系の技のように、確実に相手の息の根を止めさせるというわけではないのだ。
それが分かっているだけに、ラティアス自身はフーケ討伐の時に出したサイコキネシスを出したいと思っていた。
しかしあの時は懐に『こころのしずく』があった。
あれの力に関する助けがあって初めて打ち出せたものなのか、つまり今は出せるかどうか不安定なものなのか。今では分からない。
技その物に関してよく考えてみても、撃てば間違い無く敵に大損害を起こすのは目に見えていた。
だが、一発放てばあっという間に飛べなくなるほどの精神力切れを起こすのもまた事実だった。
となると、今のところは地道に攻めていくしか他あるまい。
すると、同士討ちを避けるためか発砲と弓の発射が次第に止んでいった。
これを好機と見たラティアスは、敵の動きを更に混乱させるべく陣の奥へと突っ込んでいく。
しかし、貴族派の動きは一種の陽動も兼ねていた。
陣の最深部で待機していたマンティコアなどを筆頭とする幻獣部隊が、ラティアスを墜とさんと急に戦闘を仕掛けてきたからである。
人間を相手にしている時は大きさの事もあってまだましとも言えたが、自分より遥かに大柄な生き物を相手にするのは流石に震えを覚えるものがあった。
いや、実際ラティアスが元いた世界で人間がやっていた携帯獣同士の戦いなら、自分より大柄な相手との戦いはありはしたが問題は別の所に存在する。
それは数だ。かなりいるので、一騎ごとにいちいちミストボールを放っていては直ぐに力が尽きてしまうだろう。
そこでラティアスは自身の姿をさっと消して、ある一頭の竜まで近付いた。
目の前で突然消えたラティアスに竜、騎士共々驚いているようだ。
だが、竜の方は鼻が利くそうなのでラティアスの居場所を探ろうと、周囲に対してかなり警戒をしている。
どうか気付かれませんように……と、気配を殺したラティアスは祈った。
その竜の向こう側にはもう一騎の竜騎兵がいる。
やはりラティアスを探そうと、鼻を動かしながら首を彼方此方に動かしていた。
そして、二頭の竜と自分が一直線上に並んだその時、ラティアスは前方の竜に向かって力の限りに体当たりをした。
体当たりされた竜は姿勢を整える間も無く、慣性のまま奥にいた竜に思い切り衝突する。
衝突された奥の竜は、集中していたのを乱されたのがよほど腹に来たのか、騎士の制止も聞かずに怒りに任せて暴れだし、乗っている騎士を振り落とさんばかりの勢いでぶつかってきた竜に、攻撃をかけた。
次にラティアスは、同じようにして別の竜にも攻撃をかける。
ラティアスが考え付いた作戦は、竜という人にあまり懐かない動物の特性を利用した同士討ちだった。
混乱が始まってからは狙いをつけるのがなかなか難しくなっていったが、一旦火がついたそれは治まる気配を見せる事が無かった。
後はその混乱にちょいちょいと足し火をしていけばいいのである。
冷静に対処している幻獣も少なからずおり、彼等は気にする事も無い様子だったが、血の気の多いものは騎士を振り払いそうになってでも相手に攻撃をしかけていた。
その様子を見ながらラティアスが高度を下げていたその時だった。

地上部隊の進攻の遅さに業を煮やした艦隊が、ニューカッスル城に向けて再度大々的な集中砲撃を開始させたのだ。
ニューカッスルはそれを受け、無残な姿を外に晒していく。
その中には主人であるルイズ、そして国王ジェームズ1世がいるであろう謁見用ホールもあった。
風が吹きすさぶ中、ラティアスの心の中で何かが音をたてて切れる。
あそこには御主人様がいた。王様もいた。御主人様は私に、どんなに怪我をしてもいいから戻って来てと言った。
主人の命令には従うのが使い魔である。
この戦闘に介入したのは自身の自由意志だが、それに伴って課せられた事はきちんと全うしなければならない。

「なら……ボロボロになってでもこの軍を撤退させようじゃないの!!」

ラティアスは艦隊の方をキッと睨みつけ、再びミストボールを放とうとする。
しかし、それは放たれなかった。エネルギー切れである。

「やだっ?!もう出せないの?!!」

こうなると残された手段は一つしかない。
ラティアスは敵からの攻撃をかわしながら、精神を極限にまで集中させる。
前とは違い、頭の中に眠っている何かを揺り起こすような感覚だった。
それにしても力の引き出し方がなかなかはっきりと見えて来ない。
前回は『こころのしずく』があったから、綺麗に見えてきたというのなら分からないでもないが。
眼下では隊列を整えなおした騎兵隊と魔法戦士隊が、再び進攻を開始しようとしている。
そして……やっと力の引き出し方を思い出したラティアスは、迷う事無くそれを全開にする。
その瞬間、空気が一瞬にして歪み、空中を飛ぶ幻獣達は次々にコントロールを失っていく。
ラティアスを中心として吹き荒れる風に、前線の兵士達は何事かと一、二歩後ろに後ずさってしまう。
次いで爆発的な衝撃波が辺り一帯を襲った。
その勢いは前回フーケに対して炸裂させたものより弱冠規模が大きく、兵士も馬も亜人も皆、まるで風に吹かれた木の葉の如くその場から1~2メイルほど舞い上がり、やがて後方に向かって吹き飛ばされる。
舞い上がらないにしても、念動波を基にした衝撃波に対する反応は様々で、両耳を両手で押さえて絶叫している者もいれば、口元を押さえて必死に嘔吐するのを抑えている者もいる。
艦隊の最前列にいる戦艦に至っては、衝撃の大きさにただただ煽られるのみだ。
ゆっくりと、しかし確実に進路が変わり、それに伴ってバランスも崩していく。
フネの中でもマストや翼が波を受け流しきれずに途中から折れていくのはザラだ。中には船体が罅割れていく物もある。
やがてその内の一隻が航行を持続する事が出来なくなったのか、遂に地上に向かって落下し始めた。
落下地点にいる兵士達は蜘蛛の子を散らす様にあちこちに逃げる。
しかし、普通に空を順航するより速い速度で地面に衝突した戦艦は木っ端微塵に大破し、四散した破片は容赦無く逃げ遅れた兵士達を襲っていく。
魔法が使えるメイジはそれを払う事が出来るが、平民上がりの傭兵はそんな術等無く次々に破片に捕らわれていく。
メイジの兵士達はそんな混乱の中で呪文を完成させ、ラティアスに対しせめてもの一矢を、と攻撃する。
しかし、激しく渦巻く念動波はそれらを次々に打ち破っていく。
中にはスクウェアスペルクラスの物だろうか、念動波を打ち破ってラティアスの身を焦がし、切り裂いていく。
純粋に痛かった。血はあちこちから流れてくるし、体の一部は動かなくなっている。
下手をすれば骨の一本でももっていかれているかもしれない。
だが、それで集中力を切らしてしまっては技が続かなくなるし、飛ぶ事もかなわなくなる。
ラティアスは残っている体力の半分を攻撃力に変換し、尚も攻撃を続ける。
更に新たな一隻の戦艦が航行出来なくなったのか、失速しながら地面に近付いていく。
地上では、続け様に起こった混乱が軍の中程にまで波及したらしく、統制など細々とした所でしか取れていないといった状態だった。
と、地上部隊の一部が徐々に後方へ移動し始めだした。
艦隊も二隻も沈められたのでは堪ったものではないと思ったのか、ゆっくりと転進していく。
それは攻撃中止の合図でもあった。
ラティアスは感慨無量の気持ちで後方に退きだす。

「終わった……やった、やりましたよ、御主人様……」

戻った時の賞賛を心待ちにしつつ、ラティアスはふらふらと城のホールに戻っていった。

「攻撃中止……ですか?」
「そうだ。攻撃中止だ。一時撤退する。」

やや間の抜けた調子で自分に訊き返してきた副官に対し、ホーキンスはぴしゃりと言い放つ。
当然と言えば当然の判断だ。
何しろ例の竜は極めて短時間で自分の近くにいる兵士にまで動揺と混乱を齎したのだ。
これは唯単に誤算だとかで片付けられるほどの損害ではない。
また負傷者の数も見積もっていた数値の倍以上となった事だろう。

「損害を報告してくれんか?」
「はい。現在までに確認された数値によると死者106名、負傷者は706名との事です。」

何という事だとばかりにホーキンスは瞠目した。
見積もっていた数値以上ではないか。
しかも現段階での数ゆえに増加する事は容易に考えられる。
5万も存在する軍の人間全体からすれば、そこまで深刻に考える損害ではないのかもしれないが、今地面に墜落したものも含めれば、戦艦が二隻も沈められたのだ。
更に、体の彼方此方に傷を負いながら息も絶え絶えにやって来た前衛部隊の隊長が報告する。

「前衛部隊は完全に瓦解して機能しません。再編成するには少なく見積もっても5~6時間はかかるでしょう。」

だが、再編成がもし出来たとしても兵全体の士気が問題になってくる。
恐らく今日のような進撃速度は望めないだろう。
ホーキンスは苦い顔をしてその場にいた全員に告げる。

「例え再編成が短時間で可能であったとしても、進軍する時にはそれなりに猶予という物が必要になってくる。この分では少なく見積もってもあと2~3日は間を空けねばならんだろう。
それに……あの竜が一匹しかいないという保障はどこにも無いのだ。」

その言葉に全員が震え上がる。
前線を瓦解させ、戦艦を沈める事の出来るあの竜が何十頭とこちらに向かってきたら万に一つもこちらに勝ち目は無い。

「我々はあの竜に対して策を講じなければならない。加えて、あの竜が先住魔法を操るというのであれば、我々はエルフに立ち向かうのと同じ覚悟であの竜に立ち向かわなければならない。
……取り敢えず今日の残りは前衛の再編成に専念する。明日明後日は兵士達に休息を与えると共に、かの竜に対しての対抗策を講じる事とする。
再進撃は少なくともそれ以降になるが、各種準備を怠らない様に。」
「はっ!!」

ホーキンスの指示を聞いた指揮官達は、さっと敬礼して各々の持ち場へと戻っていった。
それから彼は馬の向きを反転させてその場から退こうとする。
その直前、彼は煙の棚引くニューカッスル城を見つめ直した。
完全に甘い判断と油断が今回の大敗北を招いたのは確かだ。
連中はそこを突き、更に秘蔵っ子を繰り出す事で自分達を一時的にせよ追い詰めた。
何とかしなければ……
彼は小さく心の中で呟き、指揮所となっていた丘の上を、スカボロー方面に向かって下って行った。


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