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イザベラ管理人-05


第5話:翼人と人間・前編


耕介は普段よりも少し遅めに目を覚ました。
霊力を大量に使った後は、大量の食事と睡眠が必要になるからだ。
なんとも燃費の悪いことである。
まずは、御架月の点検と身支度(といってもメイドが善意で持ってきてくれた服に袖を通すだけだが)。
さすがに何日も同じ服を着るのは色んな意味で厳しいので、メイドの心遣いが助かる。
次に、翼人掃討に同行する旨を伝えるためにタバサを探すことにした。
タバサは前庭でシルフィードに餌をやっていた。
「タバサ、シルフィードおはよう。」
タバサは耕介を一瞥してわずかに頷き、シルフィードはきゅい!と一声鳴いた。
タバサの性格をなんとなくつかんできた耕介は用件を手短に言うことにする。
「タバサ、イザベラの試練で俺もヨクジン掃討に同行することになったから、出発する時は俺も連れて行ってくれ。」
突然のことにタバサはいぶかしげな視線を向けるが、イザベラの命令とあっては是非もない。
「わかった。2時間後くらいに、出る。」
短くそう言うと、シルフィードへ餌をやり終わったようで、プチ・トロワへと戻っていった。
「さて俺も…あ、忘れてた。シルフィード、エギンハイム村…だっけ?にはお前ならどのくらいで着くんだ?」
「お姉さまは2時間くらいって言ってたのね。」
周囲に人影がないことを確認してからシルフィードは小声で耕介に答える。
「そうか…ならちょうどいいくらいかな。ありがとな、シルフィード。移動の時はよろしく頼む。」
きゅい!と鳴き声で応じるシルフィードに手を振り、耕介はプチ・トロワに戻っていった。
目指すは厨房、時間がないので急がねばならない。

厨房は戦場である。
その戦場の指揮官であるマルコーはコックたちに指示を飛ばし、自身も獅子奮迅の活躍をしていた。
そんな忙しく立ち働くコックたちに混じって、耕介の姿があった。
「コースケ、そっちの鍋頼むわ!」
「はい!」
耕介は、イザベラの任務がない時だけ、厨房での手伝いをマルコーに願い出ていたのだ。
まずは簡単な手伝いをこなし、徐々にこの世界の料理の作法を盗むつもりである。
と言っても初日から時間がないのが申し訳ないところだ。
「コースケ、そろそろ用意しないとならねぇ時間じゃねぇか?」
マルコーの言う通り、タバサの予告した出発時間が迫ってきていた。
「あぁ、そうですね。じゃ、マルコーさん、申し訳ないんですが今日はこれで抜けさせてもらいます。」
「おう、殿下の任務じゃしゃぁねぇ、がんばってこいよ!」
マルコーをはじめとするコックたちが温かい言葉をかけてくれる。
たとえ出会ってから一日とはいえ、同じ料理の道をいく戦友同士なのだ。
「はい、ありがとうございます!あ、この余った食材少しもらっていいですか?昼食用に簡単なもの作りたいんで。」
「おう、その辺のはまかないにでも使おうと思ってた分だ、好きなだけもっていきな。」
耕介はありがたく野菜や腸詰のあまりをもらい、手早くパンに挟んでサンドイッチをこしらえる。
本当はマスタードがほしいところだが、どうやらないようなので贅沢は言えない。
それでもマルコーたちが作ったソースのあまりを少しもらってパンに塗ったりと工夫をこらす。
この辺は料理人としての意地である。
作っている最中、食材の中に昨日の夕食の時にタバサが大量に食べていたトゲトゲの葉を見つけた。
タバサがよほど好きらしい食材に興味を引かれ、耕介は1枚だけ食べてみることにした…地獄への道であったが。
「ぬぐ…!これは…ゴーヤーを生で食った時以上…!!」
強烈な苦味に舌がおかしくなりそうなほどだ。
慌てて水で飲み下すが、口の中は未だに苦味でいっぱいである。
「タバサは苦いのが好きなのか…。」
さすがにこれをサンドイッチに使うことはできない、苦味が強すぎる。
「さて出来たっと。それじゃ、いってきます!」
耕介は厨房の皆に挨拶をすると、次なる目的地に向かった。まだまだ急がねばならない。

部屋に戻った耕介は、御架月に話しかける。
「御架月、どうだった?」
「やっぱり、まだ寝ておられました。イザベラ様、本当にいつも昼頃まで眠ってらっしゃるみたいです。」
どうしても昨夜のイザベラが気になり、耕介は御架月にイザベラの様子を見に行くように頼んでいたのだ。
しかし、やはりまだ寝ているらしい。もしやとは思っていたが、本当に貴族とは怠惰なものであるようだ。
「そうか…ありがとうな、御架月。なら仕方ない、プランBでいくか。」
「ぷらんB…?」
「ああ、ちょっと気になることがあってな。」
耕介はあらかじめメイドにもらっておいた羊皮紙とインクを取り出した。
そして、そこではたと気づいた。
「………考えてみればさ、御架月。」
「なんでしょう、耕介様?」
「俺たちの言葉が通じてるのっておかしいよな?」
「そういえば…そうですね。全然文化が違うのに言葉だけ同じというのはおかしいですよね。」
召喚されてから波乱続きで気に留めていなかったが、これは明らかにおかしいことだ。
文化が違えば言葉が違うのは確実だ、なのに言葉が通じている。
「うーん、俺たちを呼び出したサモン・サーヴァントってのが関係あるのかな…。」
「そうかもしれませんねぇ…でも、突然どうしたんですか?」
「ちょっと、イザベラに書置きを残していこうと思ってな。でもそうなると、日本語じゃダメだよなぁ…。」
耕介と御架月が揃って頭をひねっていると。
扉が何の前触れもなく開き、タバサが顔をだした。
「そろそろいく。」
短くそれだけ言うとタバサは出て行こうとする…相変わらず没交渉である。
「ああ、わか…そうか!タバサちょっと待ってくれ!」
タバサを見送ろうとした時、耕介は閃いた。
そう、ないものはあるところからもってくれば良いのである。
「ちょっと頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」
タバサは振り返り、いぶかしげに耕介を見つめた。

準備万端となった耕介は今、空の人となっている。
「こ、これはちょっと怖いな…。」
耕介、御架月、タバサの一行はシルフィードに乗り、エギンハイム村へ向けて空を飛んでいる。
しかし、耕介にはどうにもシルフィードの上は落ち着かないのであった。
騎乗用の鞍などがあるわけでもなく、シルフィードの体に直接座る上に、バランスは背びれをつかむことでとっているのだ。
少しシルフィードが暴れるだけで、地面向けて真っ逆さまである。
「タバサは怖くないのか?」
相変わらずタバサは本を広げているが…シルフィードの上でも本を読んでいるとは、筋金入りの活字中毒っぷりだ。
「…<<フライ>>がある。」
タバサは顔も上げずに短く答える。
「あぁ、あの飛ぶ魔法か。確かにあれがあれば落ちても問題ないか。」
「コースケ失礼なのね!シルフィはお姉さまやコースケを落としたりしないのね!」
不満げなシルフィードであるが…足場が安定しないというのは不安を感じるものである。
「そうだな、頼むぞ、シルフィード。そういえばタバサ、ヨクジンの掃討とは聞いたけど、ヨクジンってなんなんだ?」
イザベラとは昨夜から会えずじまいなので、耕介は翼人の詳細を知らないのだ。
「背中に鳥のような翼が生えている先住民族。先住魔法を使う。」
「先住魔法…タバサたちが使ってる魔法とは違うのか?」
「先住魔法は自然さえあれば杖なしで使える魔法で、とても強力。自然そのものが敵になる。」
タバサはさらりと言ったが…耕介はそれを流すことはできなかった。
「自然が敵って、勝てるのか?というか話を聞くと翼の生えた人間って聞こえるんだが…。」
耕介としてはそれは否定してほしい事だった。
「勝てるかはわからない。数による。翼人は外見的には翼の生えた人間。」
タバサはまたもさらりと言った。
「タ、タバサ、ちょっと待ってくれ。翼人ってのは人間とどう違うんだ?」
わけのわからないことを聞いてくる耕介に、タバサはいぶかしげな視線を向けつつ答えた。
「翼と考え方と先住魔法。他は基本的に同じ。」
「…えっと、今更こんなことを聞くのはどうかとは思うが、今回の任務はどうして『掃討』なんだ?」
「………翼人がエギンハイム村の産業である林業に悪影響を与えている。」
タバサは耕介の質問の意味を理解し始めていた。
「…うーん…話し合いでなんとかできないか?」
タバサは一瞬だけ耕介に視線を向けたが、再び本へと視線を戻す。
耕介が心底からそう言っていることを、タバサは昨日の会話と、手紙の一件から理解していた。
そして、その上で彼女はこう答えた。
「……私達は兵士。与えられた任務をこなすだけ。」
それが『ガリア北花壇騎士・雪風のタバサ』の結論だ。
心を壊された母を守り、憎き仇に近づくために、15歳の少女が歩む氷の道。
「…タバサ……。」
耕介には何故タバサがそこまで無感情になれるのかはわからない。
だが、こんな幼い少女を駆り立てる『何か』と、彼女の力になってやれない自らの不甲斐なさに怒りを覚えるのだった。
それでも、これだけは言っておかなければならない。
「タバサ、君がどうしてそうしようと思ったのか、今は聞かない。でも、タバサが何か助けがほしくなった時は相談してくれ。できる限り力になるよ。」
槙原耕介とはそういう人間であるからだ。
タバサは本から顔をあげることもなかったが…一言だけポツリと言った。
「…………どうして?」
答えは簡単だ。
「子どもは困ったら大人を頼るもんだ。」
耕介は単に腹が立つのだ。子どもが幸せに暮らすこともできなくなるような『何か』に。
好意の押し付けだとか、偽善だとか、罵られても仕方ないこともわかっている。
それらを全て理解した上で、なお耕介は信じたいのだ。
『皆が幸せな未来』を。
タバサは結局、エギンハイム村に到着するまで、本から顔を上げることはなかった。

ガリアとゲルマニアの国境沿いに広がる『黒い森』と二国から呼ばれる深い森の一角に、エギンハイム村はある。
そこに住む村人たちは今、重大な危機に瀕していた。
その危機から村を救わんと屈強な猟師たちは今まさに『危機』に立ち向かっている。
「く、くそ、バケモノどもめ!!」
だが、森に生きる狩人たちの中でも特に弓に優れた名手たちが放つ矢がことごとく『それ』には当たらない。
いや、正確には当たらないのではなく、逸らされるのだ。
「空気は蠢きて矢をずらすなり。」
『それ』の口が言葉を紡ぐだけで頭、首、胴に過たず命中するはずだった全ての矢が突然軌道を変える。
「ひ、ひるむな、いくぞ!」
村長の息子サムは斧や鉈を構えた猟師を叱咤し、矢がダメならばと斬りかかる。
「我らが契約したる枝はしなりて伸びて我に仇なす輩の自由を奪わん。」
しかしそれも無駄なこと、『それ』が先ほどと違う言葉を紡ぐだけで、足元から木の根が飛び出し屈強な猟師たちを身動き一つ取れぬほど堅固に束縛した。
「ちくしょう、動けねぇ…!」
「や、やっぱりあんなバケモノどもと戦うなんて無謀だったんだ!」
根の束縛の対象にならなかった者たちは戦意を喪失し、我先にと逃げ出し始める。
もはや戦いの趨勢は決していた。
やはりただの人間がバケモノになどかなうべくもないのである。
「枯れし葉は契約に基づき水に代わる力を得て刃と化す。」
バケモノたちは止めを刺すことにしたらしい。
言葉と同時に、猟師たちの足元に散らばっていた枯れ葉が舞い上がり、鋼のごとき強度を与えられる。
サムたちの運命はもはや火を見るより明らかだ。
それでもサムはバケモノどもを最後の最後まで睨みつけてやる、と意地を張った。
その、鳥のような翼を生やし、自分たちを無感情な目で睥睨する血も涙もないバケモノどもを。
だから、何が起こったのかを目撃したのはサムだけだった。
突然凍てつくような風が吹きすさび、鋼となった枯れ葉たちを虚空へと追いやったのだ。
「え…?」
バケモノたちの視線が空へと向けられる。
そこには…空から黒いマントをはためかせて落ちてくる人間…いや、少女がいた。
バケモノたちは再び言葉を紡ぎ、枯れ葉に必殺の威力を持たせ、今度は少女に向かって射出する。
だが、少女は如何なる手段か、空中を飛び回り枯れ葉をことごとく避ける。
どうやらこの少女が先ほどの風の主らしい。
「騎士様だ…!」
捕まっていた猟師の誰かが感極まった声でそう言った。
「騎士様…騎士様が来てくれたのか!」
猟師たちは思わぬ救世主が現れたことで歓喜の声を上げる。
見た目は年端もいかぬ少女だが、メイジであることは明白。これで自分たちは助かるのだ!

その時、上空を影がよぎった。
「タバサ!!」
上から誰かの声が降ってくる。
サムがハッと視線を上げると、上空からさらにもう一人、人影が降ってきたのだ。
その声に呼応して、全ての枯れ葉を避けて大地に着地していた少女が杖を振る。
人影の落下速度が若干緩和され、大地に転がりながら着地する。
それは長い棒を持った長身の男だった。
「ふ、二人も騎士様が来てくれたぞ!」
猟師たちはもはや勝利を疑わなかった。
何度領主に騎士の派遣を要請しても全く連絡がなかったので諦めていたが…領主様は我々を見捨ててはいなかったのだ!
二人の騎士は猟師たちの大歓声をもって迎えられた。

長身の騎士…耕介は素早く周囲を確認し、猟師に死傷者がいないことを確認する。
(良かった、みんな捕まってるだけだ。)
できれば話し合いでなんとかしたいと耕介は考えているが、既に死傷者が出てしまっていてはそれも難しい。
何より、目の前で人が苦しむ様など見たくはない。
上を見上げると、4人ほどの人間が空に浮いているのが見える。
「あれが翼人…!」
背に鳥のような翼を持っていることを除けば人と変わりない姿である。
その場に滞空している様に違和感を覚えるが、おそらく魔法で浮いているのだろうと推測。
まずはこの場を収めなければならない、とりあえずは根を斬り猟師たちを脱出させるべきか、いや再び魔法で捕えられる可能性もある…。
どうやって矛を収めさせるかを耕介が考え始めた…その時。
「待って!貴方たち、森との契約をそんなことに使わないで!」
悲鳴のような女性の声が、緊迫した戦場となった森に響いた。
翼人たちの向こう側から美しい亜麻色の長髪をなびかせながら少女が現れたのだ。
その少女の背にもやはり翼が生えている。
「アイーシャ様!?」
翼人たちにとっても少女の出現は予想外だったのだろう、彼らに動揺が生じる。
その隙をタバサは見逃さなかった。
魔法を発動させるために詠唱をはじめ…。
「ま、待ってください!」
タバサの腕を掴んだ誰かが邪魔をしたせいで詠唱が乱れる。
「退いて!争ってはいけません!」
アイーシャと呼ばれた翼人の声によって、4人の翼人たちは渋々と飛び去っていった。
最後に翼人の少女も飛び去ろうとしたが、去り際に彼女はちらりとタバサの方へ視線を向けていった。
一応翼人が去るまで警戒を緩めずにいた耕介だったが、やっと一息つく。
捕らわれていた猟師たちの拘束も解け、彼らはタバサと耕介の元に集まってきた。
「本当にありがとうごぜぇます、騎士様!…あ、騎士様でいらっしゃいますよね?」
猟師たちは窮地を救った二人を勝手に騎士だと認識していたが、冷静になってみれば必ずしもそうとは限らないことに気づいたのだ。
「ガリア花壇騎士、タバサ。」
タバサが短く答えると、猟師たちは再び歓声を上げる。
そしてその熱視線が次に捉えたのは耕介の姿であった。
「え、あ、あぁ、俺もか、えっと、ガリア花壇騎士…になるのか?耕介です。」
マキハラコウスケと言っても通じないと思われるので苗字は省いた。
冷静に聞けば妙な自己紹介ではあるが、歓声を上げる猟師たちは特に気にしなかった。
「やったぞ、騎士様が二人も来てくだすったんだ!これであのバケモノ鳥どもを追い出せる!」
だが、その歓喜の声はタバサの横にたたずんでいた誰かへの罵倒へと変化した。
「おいヨシア!おめぇ、騎士様の魔法を邪魔するなんて、罰当たりなことを!」
猟師たちの冷たい視線がヨシアと呼ばれた華奢な少年へと向けられる。
少年は悲しそうな表情で俯いたままだ。
不穏な雰囲気を察して、耕介は横槍を入れることにした。
「あの、待ってください皆さん。まずは村へ戻って、お話を聞かせてもらえませんか?」
耕介の提案に猟師たちは気を逸らし、とりあえず村へ戻ることとなった。

エギンハイム村の村長の家へと案内された二人は、最大限の歓待を以て迎えられた。
「さぁさ、騎士様方、ご存分に食べて英気を養ってくだせぇ!」
目の前には、おそらくこの小村で精一杯のご馳走が並べられている。
ちょうど時間が夕暮れ頃ということもあり、二人はありがたくいただくことにした。
タバサは一心不乱に食事を続け…耕介は村長から話を聞くことにする。
「あの、村長さん、聞きたいことがあるんですが。」
「はい、なんでしょう騎士様?」
人の良さそうな村長は笑みを浮かべながら応対してくれる。
「翼人と皆さんの関係を聞かせていただきたいんですが…。」
耕介の質問の真意がつかめず村長は困惑したようだったが、結局はそのまま答えることにしたらしい。
「へぇ、わしらは代々、この『黒い森』と呼ばれとる森に根を張って、木材を切り出したり家具を作ったりして生計を立てとります。
ですが、半年ほど前からあのバケモノ鳥どもがわしらが木を切るのを邪魔しおるんです。そのおかげでわしらは収入を断たれて困っとるわけでございます。」
「翼人が邪魔を…。翼人たちはどこからきたんですか?」
「そこまではわからんのですが…とにかく奴らはわしらがあの辺の欅に近づこうとすると魔法で攻撃してくるんですわ。」
村長のその言葉に、耕介は引っかかるものを感じた。
「あの辺って…他の木はダメなんですか?」
耕介の質問に村長は少し渋い顔になった。
「ダメってわけじゃないんですが…あの辺の欅は幹も太くて加工しやすいんで、一番売りやすいんで…。」
「そうですか…ありがとうございます。」
ある程度納得のいった耕介は食事を再開する。
食べながら考えるのは、やはり村人と翼人を和解させる方法だ。
村側の言い分はわかった。次はなんとかして翼人側と接触し、向こうの言い分を聞かなければならない。
耕介がそんなことを考えていると、突然部屋の扉が開き、サムと呼ばれていた男が入ってきた。誰かを連れてきたようだ。
「さっきはこの野郎が失礼なことを…申し訳ねぇこってす。どうぞ、騎士様のお好きに煮るなり焼くなりしてやってくだせぇ。」
それは縄で後ろ手に縛られたヨシアであった。
「そ、そんな、待ってください。何もそこまでしなくても…。」
耕介の言葉と、タバサが無言で首を横に振ったこともあり、ヨシアの縄は解かれた。
「お優しい騎士様方に感謝しろヨシア!」
ヨシアは悲しそうに顔を俯かせ、去っていった。
どうやらまだ、聞くべきことがあるようだ。

日が暮れたこともあり、この日は休むこととなった。
夜の森で自然を味方につける翼人を相手にするのは自殺行為だからだ。
二人は親子か師弟と思われたらしく、同じ部屋をあてがわれていた。
若い男女が同じ部屋…というとあらぬ方向へ妄想が突っ走りそうになるが、そこは耕介とタバサである。
耕介にとってタバサは子どもであるし、何より彼は女子寮で様々な女性に囲まれて暮らしていたのだ、この程度で揺らぐような理性の持ち主ではない。
タバサに至っては、男女の機微など存在しないかのように耕介の存在を黙殺している。
「やっぱり、この姿で自然に触れる方が気持ちがいいです。」
「不自由させて悪いな、御架月。」
耕介はやっと外に出られた御架月と会話を、タバサは相変わらず本を読んでいる時、窓を叩く者があった。
言わずもがな、シルフィードである。
「きゅい!お姉さま、コースケ、シルフィともお話してほしいのね!」
二人を森に降ろした後、放置されていたシルフィードであったが、機嫌を損ねてはいなかった。
耕介が朝に作っておいたサンドイッチを食べてご機嫌であるからであった。
シルフィードが窓を開けて首を入れた時…タバサも耕介も立ち上がった。
「誰だ?」
耕介の誰何の声とともに、御架月が剣へと戻る。シルフィードも動きを止めた。
「ぼ、僕です…ヨシアです。」
耕介が扉を開ける。そこにいたのは、タバサの詠唱の邪魔をしたあの少年であった。
「やぁ、ヨシア君。来るんじゃないかと思ってたよ。」
「え…?」
耕介には、彼が今夜やってくるという予感があった。
アイーシャと呼ばれた少女は去り際にタバサのほう…正確に言えばヨシアを見つめていたし、彼は翼人を排除することに否定的なようだ。
これらを考え合わせれば、彼が何かを訴えにくるのは必然と言える。
「入ってくれ。俺たちに言いたいことがあるんだろ?」
ヨシアは耕介の優しげな雰囲気に悲壮感を薄れさせ、一礼して部屋へと入ってきた。
窓から顔を突き出すシルフィードに気づき、ギョッとするが、タバサが短く「使い魔。」と説明する。
「そ、そうでしたか…。あの、そちらの騎士様のおっしゃる通り、僕はお二方にお願いしにきたんです。」
「なんだい?」
タバサは何も言わないので、耕介がヨシアを促す。
「……翼人に、危害を加えないでもらいたいんです!」
わずかに躊躇ったヨシアだったが、すぐに真剣な声で耕介の予想した言葉を言った。
「事情を聞かせてくれるね?」
耕介の優しげな声にヨシアは救われたような顔になると、事情を話し始めた。
「は、はい。翼人たちは季節ごとに巣を作る木を変えるんです。今は春なので、家族が増えます。だから幹の太い欅に巣を作ってるんです。
だからあの辺に近づくと翼人たちは木を切られまいとして邪魔をするんです。
でも、俺たちは他の木を切れば生活できるんですが、あの辺の欅を切った方が儲かるからって、皆どうしても諦めてくれなくて…。」
「で、領主に翼人掃討の依頼を出したわけか…。」
繁栄を求めるのは人の常だ。
だが、翼人たちが巣を作っていることをわかっていてなおその欅を切ろうとするということは、村人たちは翼人を同じ人と認識していないのだろう。
「そうなんです。それに、元々この森に住んでたのは翼人たちなんです。後からやってきた俺たちが自分の都合で翼人たちの巣を奪うなんてこと、許されるはずがない!」
「そうなのか…君はずいぶん翼人について詳しいんだね。村長も知らなかったことなのに。」
耕介は感心したように頷き…すぐさま傍らの御架月を取っていつでも抜けるように構えて窓へ視線を向けた。
タバサも杖を構え窓へ厳しい視線を向ける。
「ま、待ってください、私、ヨシアに会いに来ただけで、危害を加えるつもりなんてありません!」
そこにはシルフィードと窓の隙間から顔を出した、アイーシャと呼ばれていた少女がいた。

アイーシャを迎え入れ、耕介たちは二人の関係を聞いていた。
「へぇ、二人は恋人同士なのか。」
種族を超えた恋…素晴らしい美談だ。
「はい。アイーシャは俺たちの知らない森のことを知っているし、魔法で傷も癒してくれた。俺たちはもっと協力し合えるはずなんです。」
「でも…私たち翼人も、村人たちも、取り付く島もなくお互いを否定しあっていて…。」
二人は寄り添いながらも悲しげに視線を落とす。
「私たち…もうどうすることもできないのかしら…。」
アイーシャの悲しげな声が沈黙の降りた部屋に沁みる。
「…皆、試してみたい案があるんだ。」
難しい顔で考え込んでいた耕介が出した案に、ヨシアとアイーシャは真剣な表情で聞き入る。
「そ、そんなことできるんでしょうか…。」
それは現状では難しいと言わざるをえない提案であった。
「でも、成功すれば素晴らしいわ!」
だが、成功すればそれはまさしく八方丸く収まる案。
「タバサ、いいか?」
耕介に問われたタバサはわずかに考え込んだ後頷いた。
彼女とて無理に戦いたいわけではないのだ。
その時、遠くから荒い足音が聞こえてきた。
その足音は瞬く間にこの部屋へと近づいてくる。
「うわ、まずい!」
その足音は部屋の前で立ち止まり、次の瞬間扉が吹き飛びそうな勢いで手荒く開かれ、間一髪アイーシャはベッドの向こうに隠れた。
そこにいたのは…
「コースケ!!!」
いかにも怒髪天を衝いているイザベラであった。

時は数時間前に遡る。
イザベラは夕方頃に空腹で目を覚ました。
結局あの後なかなか寝付けず、眠れたと思えば悪夢で目を覚ますのを繰り返し、あまり眠れていない。
だがどんな時でも生きている以上は腹が減るものだ。
陰鬱な気分は晴れないが、何かを食べようとメイドたちを呼んで言いつける。
用意された食事をもそもそと食べていると、メイドの一人が進み出てきた。
「殿下、マキハラ様からお手紙を預かっておりますが…。」
イザベラは顔をしかめ、それでもメイドから手紙を受け取った。
「なんなんだい、全く…。」
耕介を翼人退治にいかせたのは、ひとえに耕介の顔を見たくないからだ。
だのに手紙を残していくとは、少しは空気を読めと言いたい。
その手紙には、どこかで見たような流暢なガリア公用語でこう書かれていた。
「おはよう、イザベラ。あんまり寝すぎると体に悪いぞ。それと、一人で泣くな。悲しみを誰かにぶつけるだけで楽になれることもある。泣きたくなったら、俺でよければいくらでも付き合うよ。困った時、子どもは大人を頼るもんだ。遠慮するな。」
その手紙を読み終わった瞬間のイザベラの胸中は、まさしく混沌であった。
色々とつっこみたいことがあった。
寝すぎとあたしの悲しみを同列に扱うなとか、元凶が何言ってやがるとか、子ども扱いすんなとか、言いたいことが山ほどある。
山ほどあったので、イザベラは行動することにした。
「今すぐ竜騎士を一人手配しな!エギンハイム村に向かう!」
「え、は、はい!?」
泡を食ったメイドが飛び出していく。
様々な感情が錯綜した結果、頬を引きつらせて凶暴な笑顔を浮かべたイザベラは決意した。
「あのバカをぶん殴る!!!」
今の彼女を外見だけで王女とわかる人間は、世界広しといえど存在しないだろう。


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