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ルイズ風水回廊記-01


ルイズ風水回廊記
あまりの寝苦しさに目を覚ます。
気が付けば蒸し暑い空気が辺りを包んでいた。
汗で肌に張り付いた長い髪が鬱陶しい。
私の自慢だけど、こんな時にはバッサリと切り落としたくなる。
服も着替えたいぐらいに汗ばんでいる。
さっきまではむしろ寒いぐらいだったというのに、突然のこの茹だる様な暑さは何なのか。

寝転がりながら視線を巡らせれば、そこは貧相な小屋。
白い塗料が壁を覆い、屋根を木造の木組みが支えている。
それは実家の屋敷や学院とは程遠い瑣末な物に見えた。
どこか田舎の平民の家だろうか?と見覚えのない景色に首を傾げる。

――――そもそも私は、どうしてこんな所で寝ているの?

こんがらがった記憶を一つ一つ紐解いてく。
最初に頭に浮かんだのは春の使い魔召喚儀式の事だ。
他の級友達が次々と召喚に成功する中、私だけが緊張で動けなくなっていた。
どんな使い魔が出てくるのだろうという期待感よりも、使い魔が出てこなかったらどうしようという恐怖が勝っていた。
進級の懸かった大事な儀式、失敗は決して許されない。
最後に私の名前が呼ばれた時、震える手足を堪えながら私は杖を振るった。

そうして出てきた物は巨大な岩だった。
見上げるような大きさの、卵にも似た岩塊。
勿論動いたり、ましてや喋ったりしない只の岩。
周りを取り巻く級友達が声を大にして笑う。
“こんな物が使い魔なのか?”
“ゼロにお似合いじゃないか、役立たず同士で”

召喚のやり直しを求める私に、コルベール先生は取り合ってもくれなかった。
“これは神聖な儀式だからやり直しは出来ない”とにべもなく答えた。
そんな体面や理屈なんてどうでもいい。
使い魔の出来はメイジの実力が反映される。
この役にも立たない石は嘲笑の対象として刻まれるだろう。

どんな形であろうと私は使い魔の召喚に成功した。
分相応な使い魔と共に、嘲笑われながら学院に残るのだ。
これから受け続けるであろう罵りや冷たい視線を想像し、彼女はきゅっと固く口を結んだ、

……いっそ、どこかへ消えてしまいたい。

心の水面より顔を覗かせる気持ちを押し殺し、彼女はそっと岩へと手を触れた。
その直後、彼女の身体は重力の楔より解き放たれた。
己が身体が光の粒子に変わり、世界を駆け巡るような錯覚。
そして、私の意識はそこで途絶えたのだ。

「そうよ、あの岩に触れた所為だわ」

がばっと起き上がりながら私は結論を口に出した。
思いついた限りでは、それ以外に理由が考えられない。
だけど、まだ判らない事はたくさんある。

まず第一にあの岩は何だったのか?
意識を失う間際の感覚と目覚めた状況から、どこかに飛ばされた可能性が高い。
だけど、そんな力を秘めたマジックアイテムなんて学院の宝物庫にだって無い。
ううん、それどころかハルケギニア全土を探してもあるかどうか。
当たりを引いたと喜ぶべきか、それとも厄介な物を抱え込んだとみるべきか、大いに頭を悩ませる。

次に、ここは何処なのか?
そもそも家があるぐらいだから誰かがいるのは確実。
加えてトリステインより暖かいんだから南の方、それも相当な田舎だ。
もしかしたら『東方』に来てしまった可能性だってある。
ここから一歩足を踏み出すと、そこには殺気を漲らせたエルフの集団が…等と、想像するだに恐ろしい映像が脳裏に浮かび上がる。

「お目覚めになられましたか」

不意に背後から掛けられた声に身を震わせる。
しかし、それは相手を敬うような礼儀正しい口調。
どうやら私が貴族と分かっているみたい。
なら貴族として平民風情に恥ずかしい所を見せる訳にはいかない。
オホンと小さく咳払いして相手へと向き直る。

「全く、貴族を床の上に寝かせたままなんて……」

ぴたりとルイズの言葉が止まった。
彼女に話し掛けていた者の正体、それは平民などではなかった。
ましてや人間でもエルフでさえない。
喩えるならスコップを持った大きな猫狸。
フワフワした体毛から申し訳程度に出ている手足と耳。
おまけに、丸い尻尾がちょこんと付いてる。
それが人懐こそうな表情を浮かべて近付いてくる。
目にした瞬間、ピシリとルイズの常識という名の器に亀裂が走った。

「い、いやぁあああああああ!!」
「あの、落ち着いてください」
「きゃああああ!!」
「別に危害を加えるつもりはありませんから」

半ば狂乱状態になった彼女を静めようと宥めるも逆効果にしかならない。
初めて目の当たりにする不思議生物が流暢に喋るなんてのは悪夢以外の何物でもない。
彼女が自力で平静を取り戻すまでの間、小屋から叫び声が耐える事はなかった。



「落ち着かれました?」
「ええ。おかげさまでね」
「それは良かった。あのままでは話も出来ませんから」

はいと手渡された取っ手のないカップを受け取る。
何故か心が落ち着く香りに誘われて、内を満たす茶に口を付けた。
飲み慣れた紅茶とは違う不思議な味だけど、決して不味くはない。
それに叫び疲れて喉がカラカラだった事もある。

茶を啜りながらジトッとした目でルイズが見据えるのは、ちょっとした気配りも出来るこの毛玉に手足が生えた怪奇生物。
『東方』には色々と怪しげな物が多いと聞く。
その中には、言葉を話す二足歩行小動物がいても可笑しくはない。
頭では理解できないけど、そう割り切ろうと彼女は決めた。

それによくよく見れば、どことなく愛らしい姿形をしている。
ふわふわした毛並みも手触りが良さそうな感じ。
実家に連れて帰れば、きっと小姉様も喜んでくれるかもしれない。
きっと私みたいに取り乱したりはせず、
「まあ、お喋りできるなんて珍しい狸さんね」と平然と受け流すに違いない。
なんだか考えるだけで頭が痛くなる光景だけど、その可能性は非常に高い。
あるいはアカデミーに連れて行けば、世紀の大発見間違いなしだ。
亜人以外で人語を解する種族なんて韻竜ぐらいしか確認されていない。
この生き物の学術的な価値は計り知れない物がある。
あの高慢なエレオノール姉様も私を見直すだろう。
溜息をついたり薄ら笑いを浮かべたりとルイズの百面相を眺めていた彼が徐に口を開いた。

「申し遅れました。僕は窟子仙といいます」
「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」
「……随分と長ったらしい名前ですね」
「そっちこそ変な名前じゃない」

貴族に対して無礼な口を利くクッシセンに強気で言い返す。
何というか開き直ってしまえば、さほど怖くはない。
まさか手にしたスコップで人の首を刎ね飛ばすとも思えない。
魔法は使えないけど取っ組み合いになれば必ず勝てる自信がある。

「それでここはどこなの? 言葉が通じるんだからハルケギニアよね?」
「残念でした。ここはハルケギニアじゃありません」
「違うの!?」
「ハルケギニアというのが何処にあるのかは知りませんけど違います」
「それじゃあ、ここはどこなのよ!?」
「ここは仙界……僕達みたいな仙獣や仙人が住む国です。
その中でも、この村は仙獣が多いので仙獣界という事の方が多いですね」

驚愕する私に追い討ちを掛ける様に並べ立てられる知らない言葉。
踏ん張っていた膝の力が抜けて、その場にへたり込む。
その時、私は見知らぬ世界に投げ込まれた事を初めて自覚した。
常識も通用しない異世界、そこで一人になったという事実が恐ろしかった。
こんな場所には居たくない。誰に笑われても構わない。
トリステインに帰りたい、どんなに嫌な場所でもあそこが私の居場所なんだ。
どれほど自分が恵まれていたのか、世界と切り離されてやっと気付いた。
まるで迷子にでもなったかのような恐怖と孤独感。
それを理解しようともせず無神経にクッシセンが話し掛ける。

「時の潮が満ちるまで村を見て回られたらどうですか?」
「……! ふざけないで!!
帰れるかどうかも判らないのに、そんな気分になれる訳ないでしょ!?」
「勿論帰れますよ」

目に涙を浮かべていた私に、あっけらかんとクッシセンは言い放った。
え?と間の抜けた声を出す私を無視して彼は続ける。

「ルイズさんは飛天石でここに来られたんでしょう」
「ヒテンセキ? 何それ、聞いた事ないわ」
「離れた場所と空間を繋げる力が込められた石です」
「そんな魔法があるの!?」
「魔法じゃなくて仙術ですから」

厳密に言えば、彼らが言う仙術とは魔法とは異なるものらしい。
より近い物で言えば先住魔法の類になるのだろう。
ともかく、そのヒテンセキには異なる世界を繋ぐ力がある。
彼が言うには、この小屋は人間界と仙獣界を結ぶ場所で、ここに時の潮という物が満ちれば再び人間界と繋がるという。
そうすれば私は学院にあるヒテンセキを頼りに問題なく帰れるらしい。
それまでの間、滞在を余儀なくされるので暇潰しにと観光を勧めたのだ。

一切の杞憂が吹き飛び、脱力から大きく項垂れる。
もう喜んでいいのか、恥ずかしがればいいのか区別もつかない。
とりあえず言われた通り、気分転換に外へ出る事にした。
どうせやる事もないし、このモヤモヤした気分も晴れるだろう。
お気をつけて、と私の背に声を掛けるクッシセンに振り返り訊ねる。

「ところで仙獣って何なの?」
「人間に召喚されてお手伝いする者です」
「それって使い魔ってこと!?」
「うーん、多分そうだと思います」

何気なく訊いただけの他愛もない質問。
でも、その返答は私が想像していた以上の物だった。
ここにはクッシセンの様な誰も見た事がない使い魔がたくさんいる。
その中には物凄い能力を秘めた者だっているに違いない。
もしかしたら小姉様の病気だって治せるかもしれない。
彼等を使い魔にして帰れたなら、私の評価は逆転する。
誰も私をゼロなんて蔑んだりはしない。

目的のない散策ではなく、使い魔を見つける決意と共に外へと踏み出す。
気付けば仙獣界の湿った空気なんて気にならなくなっていた。
まだ見ぬ使い魔とこれから始まる冒険への期待が胸の内に満ちていた。


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