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ゼロの魔獣-28


ニューカッスル

アルビオン王家終焉の地となった、かつての名城は、今や見る影もない。
王党派最後の砦は、物理的な意味で文字通り『壊滅』していた・・・。

百倍以上の敵に囲まれ、完全に進退が窮まった事で、王軍三百はその悉くが死兵となった。
城門に迫る敵を薙ぎ払い、一人でも多く道連れにせんと、烈火のごとく逆襲をかける。
その裂帛の気合は、生き延びて勝利の美酒を味わいたい雑兵達に耐えられるものではなかった。
前線の思わぬ崩壊に『レコン・キスタ』首脳部が採ったのは、考えうる中で最も単純かつ頭の悪い策であった・・・。

瓦礫の山に悪戦苦闘する火事場泥棒どもに侮蔑の視線を投げかけつつ、羽帽子の長身が進んでいく。
向かった先は、レコン・キスタ旗艦-『レキシントン』・・・今回の戦いの趨勢を決定付けた艦であった。

「首尾はどうだったかね? 子爵」

「・・・今 手の者に回収させているところですよ
 しかし いまさら『彼』に何の用です? ミスタ」

「フフ・・・ 適材適所というヤツさ
 まあ 私のちょっとした趣味といった所だよ」

『ミスタ』と呼ばれた白衣の男は、そう言ってニヤリと笑う。
「それにしても」 と、辺りを見回しながら、羽帽子の男・ワルドが話題を変える。

―改修前、『王権(ロイヤル・ソヴリン)』の名を冠し、王家の守護神とまで謳われた名鑑の名残はどこにも無い。
 優美なマストは取り払われ、物々しい砲台と無骨な計器類が立ち並ぶ・・・
 明らかに既存のハルケギニアの『船』のルールを飛び越えた、空の要塞であった。

「実に閣下の好みそうなデザインだ
 まったく・・・異界の技術とは恐ろしい物ですな・・・」

この『異物』がハリボテで無いことを、ワルドは既に知っている。
先の戦いにおいて、この艦は単独で城門に突撃し、
逃げ惑う味方と必死の形相で踏みとどまる敵を、城ごと吹き飛ばして見せたのである。

「なに・・・ 私の知人が構築した技術を この世界の魔法技術で応用してみただけのことだよ
 もっとも その友人は 既にこの世の者ではないがね・・・」

「・・・魔獣・・・ですか」

ワルドの指摘に、男の瞳が黒眼鏡の底で怪しく光る。
-ややあって、男が口を開く。

「魔獣といえば・・・ 慎一くんに噛まれた傷の具合はどうかね?」

「すこぶる良好ですよ
 いまだったらオークと殴りっこしても勝てそうだ」

そう言いながら、ワルドは永遠に失われたハズの左腕-
その肘先に取り付けられた銀色の篭手を巧みに動かしてみせる。

「それは長上 介抱祝いといってはなんだが ひとつ贈り物を用意させて貰うよ
 ― 子爵は乗馬は嗜むのかな?」

「一応は 乗りこなせない幻獣など存在しないと自負していますが」

「結構 だが こいつは予想以上のじゃじゃ馬だよ
 覚悟して置きたまえ」

白衣が指を鳴らす。
ひとつの巨大な影が現れ、二人の頭上を高速で飛び去っていく。
突風に煽られる羽帽子を押さえながら、ワルドはまず驚愕の色を浮かべ・・・
次いで子供のように瞳を輝かせた。


トリステイン南方、ラ・ロシェールのさらに先、タルブ―。

広大な草原に囲まれた寒村、その近くに建てられた簡素な寺院を
慎一はシエスタを連れ立って訪れていた。

「・・・ これが 『竜の羽衣』 なのか・・・?」

「ええ おかしな話でしょう?
 こんな鉄のカタマリが 空を飛ぶはずなんてないのに」

「・・・・・・」
「あの・・・ シンイチさん・・・?」

―ここに来るまでの道中、慎一は一つの仮説を立てていた。
 シエスタの祖父は、何らかの事故に巻き込まれ、
 飛行機に乗ってこの世界にやってきた『地球人』なのではないかと・・・。

その予想、半ばまでは当たり、残りの半分は外れていた。

目の前にある鉄の塊は、間違いなくこの世界の物ではない。
おそらくは『飛行機』であり、シエスタの祖父は、ほぼ間違いなく『異邦人』であろう・・・。

― おそらく、と言ったのは、それが慎一の知る一般的な飛行機では無かったからである。

慎一が古い記憶を辿る。
子供のころ見た特撮ヒーロー番組。
地球を跳梁する宇宙怪獣、 巨大な敵に立ち向かう地球防衛軍。
ピッチリとした近未来的なスーツ、 ビビビーッと音の出るスーパー光線銃。

― 慎一の眼前にあるのは そんな世界から飛び出してきたかのような『戦闘機』だった・・・。 

慎一は『竜の羽衣』 の周囲をゆっくりと回り、その全体像をあらためて確認する。

外見は上履きを巨大化させたかのような流線型、
塗装の類は施されておらず、全体が地金の渋い銀色で覆われている。
翼は無く、機体後部にモヒカンのような尾翼が申し訳程度に一本。
後方にはジェット機のようなブースター。

特徴的なのは、コックピット前方、機体の上部に取り付けられた防弾ガラス。
半透明の黄色と緑、六角形の窓が組み合わさって、亀甲模様を作っている。
ガラス内部には人が入れそうなスペース。一瞬複座型かとも思ったが、シートは無い・・・。

そこまで調べた時、慎一は機体表面に、引っかき傷のような文字が彫ってあることに気付いた。

「・・・『試作壱号機 ― 荒鷲』」
「えっ?」

慎一の言葉に、シエスタが驚きの声を上げる。

「シンイチさん その字・・・読めるんですか?」

「・・・爺さんの遺品を見せてくれるか?」
程なく、シエスタは二冊の本を持ってきた。
とりあえず慎一は、辞書のように分厚い一冊を開く。
中には頭痛がするような大量の数式と、やたらと細かい図面・・・。
一目で機体の仕様書である事が分かったが、それ以上の事は慎一には分からない・・・。

ひとまず本を閉じ、小さい手帳の方を開く。
それは、シエスタの祖父の手記であった・・・。

【昭和49年 4月4日】
慎一はそこで首を傾げた。
シエスタの論述が正しいならば、彼女の祖父がこの世界に来たのは終戦の前後であるはずだ。

来る途中で時間軸が捻じ曲がったのか、地球とハルケギニアでは時間の流れが違うのか
或いは・・・彼の住んでいた『地球』は、慎一の知る『地球』とは、似て異なる世界なのか・・・?

「・・・・・・」
「何か 分かりましたか?」

「・・・この機体は、宇宙開発用に作られたものだったんだ」
「宇宙・・・?」
「コイツでお月様まで飛ぼうとしてたって事さ・・・」
「そんな事・・・?」

慎一にとっても、にわかに信じられる記述では無い。
だが、ここに書かれている事が事実ならば、
このマシーンは十三使徒・・・慎一の知る科学者達が作り上げたものではないだろう。

十三使徒の科学力は自然のコントロール ― 地球の『内』を向いた保守的な思想に乗っ取っていた。
この機体にはその逆 ― 地球の『外』を目指した技術が詰まっていることになる。

ページを進める。記述は徐々に、男の身辺の話へと移っていく。

三体の変形合体により高い汎用性を持たせるスーパーロボット計画。
その合体テストの際に発生した事故。
中央の機体がサンドイッチになって大破し、臨界状態となった炉心が爆発、
先頭の機体に乗っていた『彼』は、強烈な爆発に巻き込まれ―

― 気が付いた時には、ハルケギニアの空を飛んでいた・・・。

それは、筆者の心の痛みが伝わってくる文章であった。

-事故に巻き込まれた仲間の安否
-プロジェクトを失敗させてしまった無念
-日々募っていく望郷の念

いつしか慎一は、タルブの草原で夕焼けを望む『彼』の横顔をそこに見ていた。

『この手記を手に取ってくれたあなたに・・・』

最後のページに書かれていたのは、『彼』から慎一にあてたメッセージであった・・・。

『この手記を手に取ってくれたあなたにお願いがある。
 あなたにこの、竜の羽衣を託したい。

 私はもう、生きて故郷の地を踏むことは無いだろう。
 技術や手段の問題ではない。
 私はこの地で愛する家族を手に入れ、すっかり根を下ろしてしまった。
 故郷に帰るための翼を失ってしまったのだ。

 だが、この機体は違う。
 この機体には、無限の未来を託して散っていった仲間たちの想いが宿っているのだ。

 不躾な頼みである事は承知だが、是非、この機体を本来あるべき場所へ
 虚空の彼方へと、解き放ってやって欲しい・・・。』



慎一は静かに手記を閉じた。

「・・・シエスタ この『羽衣』の事なんだが」

「ええ 私には 難しいことは分かりませんが・・・
 でも シンイチさんに預けることで 祖父もきっと喜ぶと思います!」

「ありがとう」

慎一は機体の上に四つんばいになると、ゴリラの筋肉を纏い、鷹の翼を広げた。

「え! ええっ!? ここから?」

「一足先に学院に戻る 休暇明けには迎えに来るさ
 家族水入らずで 骨休めしとくといいぜ!」

重厚な銀色の機体がズズッと持ち上がる。
慎一は緩やかに、夕焼けのタルブの草原へと飛び立った―。


― 元の世界に戻るための手がかりを得た慎一ではあったが、問題はいまだ山積みであった。

この機体は、専門知識を持つシエスタの祖父にも動かせなかったのだ。
半世紀以上もブランクのある骨董品を、ド素人の慎一が治さねばならない。
慎一としては、一縷の望みにかけるしかなかった・・・。
学院に戻ったときには、既に太陽が頭上へと来ていた。
機体の置き場に困り、とりあえず、かつて決闘を行った広場へと着陸する。

衆人が注目する中、慎一はある人物を待っていた。
―やがて、人込みを掻き分けながらこちらに向かってくる禿頭・・・。

「シ シ シ シンイチくーん! その素晴らしいマシーンはどうしたんだい!?」

学院一の変人 ジャン・コルベール

―― 慎一の一縷の望みが、気持ち目玉をグルグルさせながら現れた。


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