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イザベラ管理人-03


第3話:最初の試練・中編

「コースケ!あたしの声が聞こえなかったのかい!」
混沌とした場を切り裂いたのは、イザベラの再度の怒声であった。
「あ、イザベラ、やっと起きたのか。おはよう、寝すぎると頭痛くなるぞ?君、大丈夫か?」
耕介はイザベラに挨拶だけすると、すぐに自身が抱えるタバサに向き直って呼びかける。
「こ…この平民風情が…!!」
イザベラの怒りは一気にレッドゾーンへと達したが、それに気づいた者はいなかった。
「この子、どうしたんでしょう。ちょっと癒してみますね。」
御架月の手が燐光に包まれ、タバサにかざされる。
「うーん、ダメですね…外傷じゃなくて、精神的なもので気を失ってるみたいです。」
しばらく続けていた御架月だったが、特に変化が無いことに落胆しながら私見を述べる。
「そうかぁ…イザベラ、この子のこと知らないか?」
「そいつは、あたしの部下だよ。北花壇騎士7号のガーゴイル娘さ。」
頬をピクピクさせながらイザベラは答えを返した。
「きたかだんきしにがーごいる…?まぁいいか、イザベラ、とりあえずどこかに寝かせてあげられないか?」
イザベラの雰囲気に違和感を覚えながらも、今はこの気を失った子どもをなんとかするのが先決と判断した耕介はイザベラに尋ねた。
「じゃあその辺の部屋を用意させよう。その娘とあんたらに、あたしから話もあるしね…!」
そう言ってイザベラは踵を返し、メイドに部屋を用意するよう言いつけるべく歩き出した。
おそらく、イザベラに命じられるメイドは寿命を縮めるだろう。
何故なら今のイザベラは激怒しているからである。
薄らと笑顔を浮かべてはいるが、目が笑っていない。さらに重苦しい雰囲気をまとっている。
普段からイザベラを知るプチ・トロワの使用人が最も恐れる状態のイザベラである。
しかし、会ってから二日しか経たない耕介たちには知る由も無いのであった。
「う、うわ、耕介様、なんですか、この生き物!」
シルフィードにやっと気づいた御架月が遅ればせながら驚きの声を上げる。
「あぁ、こいつはこの子の使い魔で風竜って種族らしい。」
きゅい!とシルフィードが挨拶するかのように鳴き声をあげる。
「竜なんですかぁ。大きいですねぇ。あ、イザベラ様が行っちゃう、耕介様行きましょう!」
物珍しげにシルフィードを眺める御架月であったが、イザベラがプチ・トロワに入ったことに気づいて、耕介に報告する。
「あ、ああ、そうだな。いこう御架月。
お前、ご主人様を連れてくけど、きっと大丈夫だからな。」
耕介はシルフィードに一声かけると、タバサを抱えなおしてイザベラを追うべく走り出した。
きゅい…と心配げな声をあげるシルフィードであったが…それも数秒、すぐに興味は鍋へと戻り、最後の肉とチーズを舐め取り出すのであった。

妙に顔を青くしたメイドに空き部屋に案内してもらい、耕介はベッドにタバサを寝かせた。
「ちょっと顔色が悪いけど、どうやら今は眠ってるだけみたいだな。目を覚ましたら事情を聞こう。」
タバサの額に手を当てたり、手首から脈を取って異常がなさそうなことを確認する耕介。
それはイザベラの怒りにさらに油を注ぐ行為なのだが、気づけというほうが無体というものであろう。
だが、イザベラは怒鳴ることはしなかった。
何故なら、試練を思いついたからだ。
つい数分前まで試練のことなど忘れ去っていたイザベラだったが、一連の出来事で怒りの限界を突破した際に電撃的に思いついたのである。
(これならどっちに転んでも面白いことになる…フフフ、あたしはやっぱり知将タイプなのさ!)
燃え盛る怒りと自画自賛がいい感じに混ざり合い、イザベラは見た者がとりあえず謝りたくなるようなオーラを発していた。
タバサのことで頭がいっぱいであった耕介はいまだに気づいていないが、御架月はイザベラのオーラを感じて部屋の隅に退避している。
「うぅ…なんでイザベラ様、あんなに威圧感あるんだろう…。」
その呟きは、誰にも聞かれることはなかった。
「そうだ、イザベラ、何か話があるんじゃなかった…か…」
ようやくイザベラのことを思い出した耕介は振り返り…その威圧感に気づいたのであった。
「ど…どうかしたのか、イザベラ…?」
恐る恐る耕介が問うが。
「いいや?どうもしないよ?ただ、いい案を閃いて嬉しいだけさ。」
イザベラの威圧感は些かも減じることはなかった。
それどころか、笑顔の圧力はさらに増しているようにすら感じる。
「そ、そうか…で、話ってなんだ?」
とりあえずは判断を保留にして、耕介はイザベラを促すことにする。
「まぁそれはそいつが目を覚ましてから話すことにするよ。それより、あたしの質問に答えてほしいんだがね?」
「質問…ってなんだ?」
「あんたが何をしていたかってことさ。」
さらに増す圧力。
「あ、あぁ、この子の使い魔に餌をやってたんだ。肉を食べるっていうからさ、俺が作ったチーズフォンデュをやってたんだ。」
「チーズふぉん…でゅ?なんだいそりゃ。というかあたしが聞いてるのはなんであんたが料理なんてしてるのかってことだよ。」
思考の一部を謎の単語への疑問に割いたおかげでイザベラの圧力が若干減じる。
「厨房で、料理を見せてもらってたんだ。
俺は料理人だからさ、この世界の料理が気になってね。
チーズフォンデュってのは俺の世界にある料理の一つだよ。
溶かしたチーズに白ワインを混ぜて滑らかにして、適当にパンや野菜を入れてチーズを絡めて食べるんだ。
料理を見せてもらったお礼に、こっちの料理も教えてあげたってわけだ。」
「ふぅ…ん…チーズにねぇ…。」
イザベラの思考が未知の料理への興味に染まる。
「ああ、良ければ厨房から持ってこようか?たくさん作ったからまだ残ってると思うけど。」
イザベラの圧力はすっかり鳴りを潜めていた。
「そうだねぇ、まだ昼食も食べてないし…ってちがぁう!!!」
「「うわ!?」」
唐突に怒りを思い出したイザベラの怒声に、耕介と御架月が驚きの声を上げる。
「あたしは昨日、あんたらにあんまりうろつくなと言っただろ!
一晩寝たら言いつけも忘れちまったってのかい、ええ!?」
食欲に釣られて怒りを忘れかけた自分を誤魔化すように威勢よく耕介に食って掛かるイザベラ。
「え、でもイザベラが起きてくるのはいつも昼頃だっていうし、それまで何もしないのもなぁ、と思ったんだけど…。」
「そ、そうですよ、耕介様は何も悪いことは…」
二人が抗弁するが、それはやはりイザベラの怒りに油を注ぐことにしかならなかった。
「お黙り!あたしはあんたらの主なんだ!あたしの言葉は絶対なんだよ!わかったらこれからは勝手な行動は慎むこと!いいね!」
「わ、わかったよ、イザベラ。大人しくしてる。」
「わかりました、イザベラ様…。」
凄まじい剣幕でまくし立てるイザベラを、すぐに落ち着かせることは無理だと悟った耕介と御架月はとりあえず頷いておく。
二人が従ったことに気を良くしたイザベラはそっぽを向いて怒りを吐き出すかのようにため息を一つつく。
イザベラ自身も、酷い難癖をつけているという自覚はあった。
自分でも怒りの源泉を判じかねているのだ。
無視されたことが頭にきたのか?先ほど言ったように昨晩言いつけたことが守られていなかったことに怒っているのか?
どちらも理由の一つではあるが、源泉ではない。
メイドたちに同じことをする時はそんなことは思いもしないが、何故だか耕介を相手にしている時は「相手がどう思うか」をわずかに考えてしまうのだ。
わずかではあるが、それはイザベラの変化の一つだと言えるだろう。
もっとも、それは現時点ではイザベラの怒りを静めるものとはなりえないが。
「うぅ…ん…」
微妙な沈黙が降りた部屋に、タバサのうめき声が小さく響く。
タバサが目を覚ましたのだ。
「あ、君、大丈夫か?」
すぐさま耕介がタバサの顔を覗き込む。
「………貴方…誰…?」
いまいち意識がはっきりしないタバサは覗き込んできた男に半ば脊髄反射で問いかけつつ、自分がどうして横になっているのかを思い出そうとした。
瞬間、その顔が凍りついた。いや、表情はほとんど変わっていないのだが、一瞬ビクッと痙攣した後、停止したのだ。
直後、タバサは体にかけられていた布団を一気に頭まで引き上げて隠れてしまった。
「俺は槙原…って、おい、大丈夫か、寒いのか?」
耕介が心配げに、ぷるぷると震えている布団の膨らみに顔を寄せると、小さく声が聞こえる。
「ゆ…幽霊…いや…」
「幽…霊…?」
耕介の視線は自動的に相棒へ向かう。
そう、剣霊…すなわち剣に宿った幽霊である御架月に。
「幽霊…ですか?イザベラ様、この宮殿って幽霊が出るんですか?」
どう考えてもその幽霊は御架月なのだが、自身をあまりそう認識していない御架月はこの場で宮殿に最も詳しいイザベラに問いかける。
「ゆ、幽霊!?そそそそんなもんいるわけないだろ!!」
何故かイザベラは取り乱すが、幸いにも耕介がツッコミを入れたのは別の事柄に対してだった。
「いや、多分彼女が言ってるのは御架月のことじゃないか?」
「え、僕ですか?あ…そういえば、さざなみ寮じゃないのに壁を抜けたりしてしまっていました、ごめんなさい耕介様…。」
御架月がやっと事実に気づき、消沈と謝罪する。
「まぁ仕方ないさ、環境が変わりすぎて俺も注意するのを忘れていたしな。これからはちゃんと扉を使うんだぞ。」
「はい、耕介様。」
二人の間ではこの問題は既に解決したが…御架月が幽霊という事実に劇的に反応した人物がもう一人いた。
イザベラである。
「ななな、ミカヅキ、あんた幽霊!?あんたインテリジェンスソードじゃなかったのかい!?」
イザベラは一気に御架月とは反対側の壁まで後退し、カタカタ震えながら言い募る。
実際、剣自身とは別に体のあるインテリジェンスソードなどおかしいと思うべきだろうが、彼女にとって御架月は単なる耕介の付属物であったので、深く考えていなかったのだ。
先ほどまでの怒りなど水をかけられたかのように消え去り、今彼女を支配しているのは恐怖だけである。
「あーいや、幽霊といえばそうなんだけど、御架月は悪さをしたりはしないよ。
…イザベラも幽霊が怖いの?」
「こ、怖いわけあるかい!!このイザベラ様がそんなの怖がるわけあるかい!!」
未だに御架月から距離をとっているので、説得力などあろうはずもない。
「まぁ、大丈夫だよ。
御架月は剣に宿っていて霊力が尽きない限り死なないってだけで、他はほとんど人間と変わらない。
だから二人とも安心して。」
布団にもぐっていたタバサは少しだけ顔を出して、部屋の隅にいた御架月をおっかなびっくり見つめている。
御架月はそんなタバサに気づくと、人懐っこい笑みを浮かべて挨拶をする。
「こんにちは、どうやら僕が驚かせてしまったみたいで、ごめんなさい。僕は御架月っていいます!」
御架月の人畜無害そうな様子に安心したのか、タバサはベッドから上体を起こして周囲を見回す。
「あ、君、本当に大丈夫か?」
念のため耕介はタバサの額に再び手を当てる。
タバサは耕介のその行動に一瞬停止する。
思えば、そんなことをされたのはいったいいつ以来だろう…?
あの運命の日から心を凍らせて戦いの日々に生きてきたタバサにとって、その掌の温かさは懐かしさを覚えるものであった。
だが、今はまだ、それだけでは彼女の心を包む氷はわずかも溶け出すことはない。
タバサは視界の端にイザベラがいるのを認めると、耕介の手を無言で振り払い、耕介とは反対側に降りる。
「…任務…。」
未だに恐怖の混ざった視線で御架月を見つめていたイザベラはその言葉にハッと我を取り戻す。
「あ、ああそうだ、あんたたちに話があるんだ。任務にも関わることさ。」
イザベラは殊更に尊大に腕を組んでベッドのそばまで歩いてくるが、先ほどまでが先ほどまでなので威厳など取り繕えるはずもなかった。
「先ほども仰ってましたよね。いったいなんでしょう?」
御架月が耕介のそばにやってくる。
イザベラとタバサがカニ歩きでベッドから少し離れたことにツッコミを入れるものは誰もいなかった。
「北花壇騎士7号シャルロット!あんたには任務が二つある!
まず一つはアルデラ地方の小村エギンハイム村に出没する翼人の掃討だ。
なんでも、そいつらがいるおかげで木材を切り出せなくなって困っているらしいよ、早めに片付けな。
で、もう一つの任務だけどね…そこにいる男はコースケっていうんだ。
田舎からきた、カタナとかいう武器で戦う傭兵でね、北花壇騎士候補だ。
あんたが試験官として、こいつが北花壇騎士として相応しいか戦って試しな!」
「え、戦うって、俺がこの子と!?」
イザベラの思いついた試練とは、これであった。
どんな力を持つのか未知数の耕介の力を計り、さらにはタバサと戦わせることでどちらが倒れても面白くなる。
自分の知恵者っぷり(人はそれを悪知恵というが)にイザベラはニヤニヤ笑いながらさらに宣言した。
「そうさ、コースケ、これが試練だ。二人とも全力で戦うんだよ!」

任務を言い渡されたタバサはさっさと部屋を出て行ってしまった。
無害とはいえ、幽霊である御架月のいる部屋には長くいたくはなかったのだろう。
「良かったねぇ、耕介。試練の相手があのガーゴイル娘でさ。
本当はもっと強いメイジを試験官にしても良かったんだけど、寛大なイザベラ様に感謝しなよ?」
イザベラは耕介が期待通りに驚愕したことに満足し、ニヤニヤ笑っている。
だが、耕介が愕然としたのはイザベラが考えている理由ではなかった。
「イザベラ、あんな年端も行かない子と本気で戦えって言ってるのか?」
困惑を隠せない耕介の言葉は、イザベラを落胆させた。
「あんた、あいつが何者か…知るわけないか。」
言っている最中で耕介が花壇騎士のことなど知るわけがないことを思い出し、イライラと片手で頭をかくイザベラ。
「いいかい、あいつの二つ名は雪風。トライアングルクラスの強力なメイジだ。
早い話が、上から数えた方が早いくらい強いのさ。
ま、あたしの部下にはもっと強い奴だっているけどね?アハハハ!」
嫌味な笑い声をあげるイザベラを複雑な表情で見やる耕介。
「イザベラ…あんな子どもが、戦ってるのか…?」
「ああ、あいつはそれなりに強いよ。
なんせ今までいくつも難しい任務を与えてやったけど、その全てをこなしてきたからね。
そう、あのガーゴイル娘は強い…まるでバケモノさ…。
ドットでも下のほうに位置するあたしなんぞとは比べ物にならないくらいにね…。」
イザベラの瞳と声には様々な感情が混ざって、正体がつかめなかった。
少なくとも怒り、失望、嫉妬…だが、本当の成分はもっと複雑なのだろう。
「あぁでも、あんたにとってはあたしもバケモノになるのかね?
それとも、ミカヅキみたいな幽霊と付き合えるあんたならバケモノとも付き合えるのかい?」
まるで世界の全てを嘲笑うかのようなシニカルな笑い方に、耕介は悲しげな表情を浮かべる。
「イザベラ、俺は君をバケモノだなんて思ったことはない。」
それは耕介の心からの言葉だった。
「ハン、下手なおべっかはいらないよ。」
だが、イザベラにはそんな言葉は寒々しいだけだ。
それでも。
「何度でも言う。君はバケモノなんかじゃない。さっきの子もそうだ。
君がいったい何に絶望して、何に怯えてそんな風に考えるようになったのか、俺にはわからない。理由を言えとも言わない。
だけど、俺は君に言い続けるよ。君はバケモノなんかじゃない。」
耕介はそう宣言した。
「………フン、平民に何を言われたって、あたしには関係ないね。」
耕介から目をそらし、イザベラは弱々しく、けれどもはっきりと拒絶した。
「………剣を取ってくる。」
耕介は踵を返し、霊剣・御架月を取りに自室へと向かった。
「…耕介様ぁ…。」
その後を、あまりにも重いやり取りに縮こまって黙っていた御架月がついていく。
後には、普段の彼女からは想像もつかないような弱々しさのイザベラだけが取り残された。

「耕介様ぁ…本当に戦うんですか?」
御架月が不安げに耕介に問いかける。
二人は部屋に到着し、霊剣・御架月を点検しているところであった。。
「ああ。イザベラによれば、あの子は実戦を経験しているし、上から数えた方が早いくらいの位階だそうだし。」
霊剣・御架月を抜き、刀身に異常が無いことを確認する。
「で、でも、あんな小さな子と戦うなんて…。」
「相手は魔法使いだから見た目からじゃ戦力は測れないと思ったほうがいい…いざとなったら組み伏せばいいし。
それに、この世界にいる以上、戦闘における魔法ってものに触れておいた方がいいと思うから。」
「そう…ですね…耕介様、あんまり傷つけないように頑張りましょう!」
正直に言えば、耕介とてあのような小さな子と戦闘などしたくはない。
しかし、タバサと戦えと言った時のイザベラの目は本気であったし、何より…。
「気になるんだ…イザベラもシャルロットって子も…一瞬だけだけど、凄く冷たい目をしていた…。」
耕介の呟きは小さすぎて、御架月に届くことはなかった。
イザベラの暗い瞳と、タバサの冷たい瞳…あの年齢であんな目をすることになる理由など、想像したくもない。
放っておくなど論外である。
だが、彼女たちは普通に接しても心を開いてはくれないだろう。
イザベラに関しては未だ方策が見えない。
だがシャルロットならば、彼女は騎士であるらしいから、この世界では全く未知の技である神咲の技を見れば接触しやすくなるだろう。
これが耕介が下した結論であった。

舞台にはプチ・トロワから少し離れたところにある猟場が選ばれた。
平原と森の境目に耕介とタバサは10メイルほど離れて対峙していた。
二人からさらに10メイルほど離れたところにはイザベラがおり、メイドたちに用意させた長椅子でくつろいでいる。
さらにはテーブルも用意させ、遅くなった昼食(耕介が作ったチーズフォンデュだ)を用意させて観戦モードだ。
シルフィードもイザベラから少し離れたところで待機している…チーズフォンデュを虎視(竜視?)眈々と狙いながら。
「………。」
タバサはこの戦いには全く乗り気ではなかった。
当然であろう、戦う意味が皆無だ。
憎き復讐相手であるガリア王の娘であるイザベラの目の前で本気を出す気もなかったし、何より目の前の男は平民であるらしい。
カタナとかいう武器は初めて見るが、剣の一種であるらしいので近接戦専門。
しかもルール上、最初から離れた位置で開始される。
せいぜいが森に入って視線を遮りこちらの魔法をやり過ごし、近接戦を挑む…その程度が関の山だろう。
その程度ならば対処する手は山ほどあるし、何より目の前の男からは圧力が感じられない。
今もこちらをじっと見つめているが、そこからは殺気や戦意といったものも感じられない。
はっきり言って戦士とすら思えない相手だ、戦意が出ないのも仕方ないところだ。
しかし、それだけに不気味なものを感じるのも確か。
タバサは結局、平民の傭兵でも上位程度の警戒レベルで臨むことにした。
一方の耕介は、冷静にタバサと周囲を観察していた。
(さて、どうしようか…二つ名が雪風ってことは、そのまま雪や風の魔法をよく使うってことなんだろうけど…。)
地形も含めて、戦術をいくつか組み立てるが、結局タバサの戦力がわからないので臨機応変ということにしておく。
「この銅貨が地面についたら試験開始だ、いいね?じゃぁいくよ…あっ!」
メイドから取り上げた銅貨(イザベラは現金など持っていない)を指に乗せる。
そして真上に弾こうとして…失敗し、銅貨はイザベラの指から転がり、地面に落ちてしまった。
思わず羞恥に顔を紅潮させたイザベラだったが、脇に控える3人のメイドがこちらに注意していないことに気づく。
銅貨が地面についた瞬間に耕介とタバサの戦闘が始まっていたからだ…。

タバサはまず事前に詠唱しておいた水と風のラインスペル<<アイスバレット>>で3つほどの拳大の氷弾を放った。
おそらく男は氷弾をよけるために森に入るだろう。
森を移動しているうちに詠唱を済ませ、飛び出してきたところにまたアイスバレットを打ち込めばよい…そう考えていた。
だが、男の取った行動はタバサの予想を全く裏切るものだった。
男はまず、しゃがむことで高い位置の氷弾の射線から身を逃がした。
さらにわずかに右に移動して、左側に飛んでくる氷弾の射線も避ける。
だがそこで時間切れ、右側に飛ばした氷弾が男を捉えた…その瞬間。
「…!」
氷弾が砕け散っていた。
見れば、男がカタナをいつの間にか抜いている。
おそらくカタナで氷弾を斬ったのだろうが…信じられない強度だ。
錬金で数打ちで作られた粗悪な剣など、タバサの氷弾は問題なく打ち砕ける。
しかし、遠目でわかりづらいが、男の持つカタナはヒビすら入っていないようだ。
加えて、男の雰囲気が変わっていた。
直前まで戦士とは思えなかったが、今は違う。高まった戦意をぶつけられ、油断していたタバサはわずか後ずさる。
タバサは直感的に理解した。
(この人…強い…!)
それでも、タバサは自分の勝利を疑いはしなかった。
確かに平民としては剣筋も鋭く、カタナの強度は脅威だが、相手は近接攻撃しか出来ないのだ、近づけなければいい。
最悪、わざとそばに誘い込んで水と風のトライアングルスペル<<ウィンディアイシクル>>で吹き飛ばせる。
ただ、警戒レベルを上げただけだ。
しかし、さらにタバサの予測を裏切る事態が発生する。
「神我封滅…!」
男がカタナを地面と水平に構え、何事か呟くと、刀身を白い炎が覆ったのだ。
(マジックアイテム!?)
剣型のマジックアイテムなど聞いたことも無い。
「神咲無尽流…。」
男がさらに体勢を低くし、右半身を引く。
それはまるで、解き放たれる直前の弓のような構え…さしずめカタナは矢か。
いくつもの死線を潜ってきた戦士としてのタバサの勘が突然、警鐘を鳴らしてくる。
今から”来るもの”に対処できなければ負ける…それは確信に近い予感であった。
タバサはその予感を疑わず、すぐさま風のラインスペル<<ウィンドシールド>>を展開する。
結果的に、それがタバサを救った。
「洸牙!!」
引き絞られた弓が開放され…横一文字に振り切られたカタナの軌跡から白い炎が解き放たれて飛翔する。
その様に驚愕しながら、タバサはさらにその場にしゃがむ。
白い炎は<<ウィンドシールド>>に激突し、数秒拮抗して…風の盾を食い破ってタバサの背後へと流れていった。
男が…いや、コースケが半身の構えに戻るまでの数秒、コースケ以外の者の時間は凍りついたようだった。
メイドたちは目の前の戦いに恐れをなし、イザベラに至っては驚愕のあまり持っていたワイングラスを取り落とした。
グラスが地面に落ちて砕け…くしくもそれが、とまっていたタバサの時を動かす。
タバサはすぐさま詠唱を開始した。
もはや油断などできようはずもない。
あれは敵だ、剣だけの平民などでは断じてない。
氷弾の軌跡を見切って斬り砕くその技量、カタナの強度。
さらには見たこともない魔法を使い、それは<<ウィンドシールド>>すら食い破った。
本気にならなければ負けるのは自分の方だ。
そう悟ったタバサは、イザベラの前であることも忘れて完全な戦闘モードになる。
神咲流剣士・槙原耕介とトライアングルメイジ・雪風のタバサ。
本来出会うはずのない両者の戦いは始まったばかりだ。


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