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イザベラ管理人-01


a prologue side:イザベラ
その日、ハルケギニア最大の国ガリアの王女イザベラはとても不機嫌であった。
眺めの良いテラスで、宮廷料理人が作った豪華で美味な昼食を食べていても、砂を噛んでいるような心地しかしない。
それほどにイザベラがイラついているのには当然理由があった。
あの鼻持ちならないガーゴイル娘タバサが使い魔召喚の儀式で見事な風竜を召喚したというのだ。
(なんでいつもあいつばかり…!)
同じ王族の血筋であるはずなのに自分は無能王ジョゼフの血を継いだせいか未だドット、タバサは天才であった王弟シャルルの子に相応しく既にトライアングル。
いったいあいつと自分のどこが違うというのか…タバサはあらゆる面でイザベラの劣等感を刺激する存在であった。
最低の気分で食事を終えたイザベラが食後のワインを飲んでいると、庭を狼をつれたメイジが通っていくのが見えた。
(ありゃ、使い魔かい…?まったくどいつもこいつもあたしに見せつけやがって…。)
被害妄想も甚だしい考えを抱いたその瞬間、イザベラの脳裏をとある思い付きが電撃的に駆け巡る。
(あたしもサモン・サーヴァントしてみようか…案外、ガーゴイル娘の召喚した風竜なんて比べ物にならないくらい凄い使い魔が現れるかも…ククク…!)
連鎖的に風竜よりも凄い使い魔を召喚してタバサを叩きのめす自分を妄想し、愉悦の笑みを浮かべる。
しかしその姿はあまりにも不気味であり、給仕のメイドたちをドンビキさせていたことには気づかないイザベラである。
「そうと決まれば善は急げだね!」
不機嫌から一転、イザベラは乱暴にティーカップを置くと自分の杖をとりに部屋へと戻るのであった。


「えっと呪文はどうだっけね…」
部屋に戻ったイザベラはメイドたちを追い出して入ってこないように言いつけると、杖を取って呪文書を見ながらサモン・サーヴァントを詠唱する。
いくら部屋が広いといっても収まりきらない大型の使い魔が現れる可能性があることや、呼び出した後どうするかなど、ノリにノったイザベラが思い至ることなどありえない。
「さぁ、いくよ…使い魔よ、我の呼びかけに応えな!」
その言葉とともにイザベラが杖を振り下ろすと、眩い閃光が奔り、目の前には―――

a prologue side:耕介
その日、人外魔境のパイオニアさざなみ寮の管理人槙原耕介はとても上機嫌であった。
「おれーはーこうすけーきみーのーなかーまーだー♪」
190センチの長身の男が、ニヤニヤ笑いながら作詞作曲槙原耕介の「耕介の歌」を歌いながら寮のリビングで霊剣・御架月の刀身の手入れをしている様は有体に言って不気味である…が、住人は皆出かけているのでその姿を見る者は一人を除いていなかった。
「耕介様、ご機嫌ですね!」
霊剣・御架月に宿る剣霊である、くすんだ金髪に黒い着物の少年御架月がニコニコしながら問いかけると、耕介は待ってましたとばかりに上機嫌の理由を語りだした。
「いやーやっと和真とまともに打ち合えるようになったんだよ!前は一方的にやられるだけだったけど、やっとあいつと同じ舞台に立てたかと思えると嬉しくてさー。」
6つも年下の相手とやっと打ち合えるようになったことを自慢するのはいかがなものかとは思うが、神咲和真は耕介の直接の師匠にあたる神咲薫をも上回る剣椀をもつ剣士であるので耕介の喜びようも致し方ないところであろう。
「それはおめでとうございます!以前は触れさせてももらえてませんでしたから、凄い進歩ですね!」
「…確かにそうなんだが、そうはっきりいわれるとさすがに凹むな…。」
「え、あ、ごめんなさい、耕介様…僕、また無神経なことを…。」
全く歯が立たずにあしらわれた過去を思い出させられ上機嫌から一気に転落した耕介に、御架月が哀れなほど取り乱して謝罪する。
「いや気にするな、勝って兜の緒を締めよって諺もあるし俺が調子に乗ってたのが悪いんだから…勝ってないけどな!」
「は、はい、耕介様が勝てるように僕も頑張ります!」
「おう、目標はでっかく打倒・和真だ!…よし、綺麗になった。」
落ち込ませてしまった御架月を前向きに矯正しつつ耕介は汚れを落とした霊剣御架月をひとしきり眺めて曇りが無いことを確かめる。
400年前から存在するとは思えないほど美しい刀身を流れるような動作で鞘に収めると、耕介は自分の部屋に戻るべく立ち上がる。
「いつも手入れをありがとうございます、耕介様!」
「お前には未熟な俺に付き合ってもらって無理させてるから、せめてこれくらいしてやらないとな。さぁ部屋で一息ついたら掃除だ、今日はキッチン周りを徹底的にやるぞ!」
「あ、僕もお手伝いします!」
心なしか手入れ前より晴れ晴れとした顔をしている御架月が耕介に浮遊しながらついていく。
今日もさざなみ寮は全くもって平和であった…耕介がリビングの出口をくぐる寸前に目前に現れた鏡に触れる、その瞬間までは。

第1話:A princess kidnaps a youth

その瞬間のイザベラの胸中を言語化することは非常に難しい。
だが、その胸中を埋め尽くす全ての感情がマイナス方向のものばかりであったことだけは断言できる。
風竜よりも凄い使い魔を呼ぶはずが、出てきたのは見たこともない服を着ているがマントも杖も持たない代わりに細長い棒を持ったやけに大柄な(多分)平民であったのだからそれも無理からぬことである。
その瞬間の耕介の胸中を言語化することは非常に容易だ。
茫然自失…これだけで済む。
リビングを出たと思ったら眩い光に包まれて気がついたら見覚えのない部屋にいたのだ、無理からぬことである。
だが、二人にはこの異常な状況において決定的な違いが一つあった。それは経験値だ。
「えー…何が起こったのかさっぱりわからないんだけど、君は誰かな?」
いきなり見覚えのない部屋に出現したというのにいち早く自失から立ち直り、状況把握に努めようとする彼の異常な状況に対する経験値はまさに特筆すべきものだろう。
「あ…あんた、いったい何者だい!?」
だが哀しいかな、それはイザベラの導火線に自ら火をつける行為であった。
目の前の(多分)平民の男に恐れ多くもガリアの王女である自分を誰何され、イザベラの怒りが一気に燃え上がったのだ。
「このあたしを知らないなんて、どんな田舎からきたってんだい!それともあたしが無能王の娘だからってバカにしてるのかい!?いいや、そうに違いないね、こんな侮辱は初めてだ、あんた生きて帰れると思うんじゃないよ!あたしの使い魔だからって容赦し…な…」
凄まじい剣幕で被害妄想をがなりたてるイザベラだったが、途中から目の前の相手がサモン・サーヴァントにより呼び出された自分の使い魔だと気づき言葉が尻すぼみになっていく。
「えっと…ごめん、俺ってもしかして君にどこかで会ったことあるのかな…?もしそうなら本当にごめん!」
耕介はイザベラの言葉を自分なりに解釈してなんとか会話を成立させようと試みるが、イザベラは先ほど気づいた事実に打ちのめされ耕介の言葉に反応することはなかった。
「は…ははは…よっぽど始祖ブリミルとやらはあたしがお嫌いなようだね…あたしには平民風情がお似合いってわけかい…。」
「あの…俺の言葉通じてるかな…日本語は完璧なようだけど…。」
虚ろに笑うイザベラ、そのイザベラを相手になんとか意思疎通を試みる耕介…その不毛な図に変化をもたらしたのは第三者であった。
「こ、耕介様、大変です!こんなこと初めてです、僕どうしたらいいのか…!」
召喚によるショックか、霊剣の中に戻っていた御架月が要領を得ないことを叫びつつ現れたのだ…イザベラの目前に。
「ぬわ!え、な、なんだってんだ、あんた今どこから現れた!?」
混乱した御架月の出現により場はさらに混迷を極める。そんな混沌を落ち着かせたのは…
「二人とも落ち着いてくれ!御架月はまずわかったことを整理してくれ。
それで、君はこの状況に対して何かわかってることがあるんじゃないかな?まずはそれを聞かせてくれないか。」
ただ一人冷静さを失わなかったさざなみ寮という混沌の調停役槙原耕介であった。

「………ちょっとごめん、今までのことを整理させてくれないか…。」
二人を落ち着かせることに成功した耕介はイザベラと情報交換をしていた。
一目で高級品とわかる木材のテーブルを挟んで耕介は自分の立場とわかる範囲でのここにくることになった経緯を、イザベラはここがどこで何故二人が現れることになったのかを説明しあった。
御架月が気づいた事実と併せるとここが異世界であることを認めざるを得ない…あまりの事実に頭痛を覚えながらも耕介はなんとか冷静さを保とうと努力する。
「えっと、君はこの国の王女イザベラ様で、さもん・さーヴぁんと?なる一生を共にする使い魔を呼び出す魔法を使ったら俺がここにいた…。
さもん・さーヴぁんとは呼び出すだけで帰す方法はない…。
これで合ってる?最後は否定してほしいけど…。」
「フン、あぁそうだよ、帰す方法がないってところまで合ってるよ。少なくともあたしは知らないね。」
「そ…そうか…。
御架月の話と総合して、わかったことは『ここが日本どころか地球ですらない』『本物の魔法があるけど変なところで不便』…救われない」
ガックリorzと落ち込む耕介をイザベラは不気味なものを見る目で見つめていた。
(魔法のことどころかハルケギニアもわからない上に、ウミナリだとかニホンだとか訳のわからないことばかり喚くし、こいつ頭でも狂ってるのかい…?
ミカヅキとかいうインテリジェンスソードもどきは興味があるけど…はぁ…呪文書にはサモン・サーヴァントにはその者に相応しい存在が引き寄せられるとか書かれてたけど、ありゃ絶対に間違いだね!)
ネガティブな事実ばかりを突きつけられてもなんとか目の前の事態に対処しようとする耕介であったが…この理不尽に対する怒りを抑え込んでいることも手伝って前向きな思考をしづらくなっていた。
(これは本気でまずいな…故意じゃないらしいけど状況が悪すぎる、クソッ…。)
悪意を持って拉致されたわけではないらしいが、今まで様々な超常現象を目にしてきた耕介であってもキャパシティを超えかける事態であった。
何より戻れないというのが致命的である。
大国の王女であるらしいイザベラが方法を知らないということは帰る手段がない可能性が高いことを意味するからだ。
大切な家族たちとこんな形で永久の別れというのは、耕介にとって耐え難いことであった。
「そ、そんな、それじゃまるっきり誘拐じゃないですか!しかも帰す方法もわからないなんてそんなの無責任すぎます!」
耕介に姉剣である十六夜の気配がここに来てから全く感じられないこと、霊力に似た力が大気中に充満していることを伝えてから沈黙を守っていた御架月が耐え切れずにヒステリックな声をあげる。
400年の間、姉剣十六夜を探して彷徨っていた御架月は、人間として暮らした期間が数年と短かいこともあって精神的には子どもといっていい。
そんな御架月が大切な姉と引き離されては不安と不満をぶちまけるのは仕方のないことであった。
「待ってくれ御架月、気持ちはわかるが今は抑えてくれ。
今の俺たちが考えなきゃならないのはこれからどうするかだ。
大丈夫だ、絶対に十六夜さんたちの元へ帰れるよ。」
「耕介様…わ、わかりました、耕介様がそうおっしゃるなら…。」
御架月が激昂したことによって逆に冷静さを取り戻した耕介が御架月を諌める。
こんな状況にあっても耕介の言葉で御架月が自分を抑えたことは、そのまま二人の信頼関係の証といえるだろう。

「ハン…思い出したよ、サモン・サーヴァントをもう一度する方法はあるよ。」

だが、二人の信頼関係を見せられたイザベラの胸に暗い色の火種が燈りだす。
「え、本当ですか!?なら早くしてください、それで帰れるんですよね!」
御架月がイザベラの期待する通りの反応を示したことも火種に油を注いだ。
その火種は瞬く間に燃え上がり、イザベラを突き動かす。
「あぁ、本当さ。簡単だよ、あんたらが死ねばいいんだ。」
「「な…!?」」
イザベラの言葉に引っかかるものを覚えて口出しせずにいた耕介も、これには絶句せざるを得ない。
二人の反応がさらに炎を燃え上がらせ、イザベラの凶暴性はさらに加速していく。
「あんたたちが死ねばあたしはもう一度サモン・サーヴァントができるのさ。
あたしがほしいのは風竜よりも凄い使い魔だからね、あんたたちみたいな何のとりえもなさそうな平民なんて願い下げなんだよ。
そうだね、あまり不安がらせるのも良くないし、すぐに終わらせてあげようか!」
昏い笑みは狂騒的な笑みへと変化し、先ほどの怒りもあいまって本物の殺意が沸いてくる。
直感的にイザベラは理解した。
意に沿わぬというだけで殺そうとする、無慈悲な無能王ジョゼフの血を正しく継いだ娘。それが自分の正体なのだと。
ハイになったイザベラの脳裏を電撃的に様々な考えが走り抜ける。
(納得のいく使い魔を引くまで殺しまくるってのもなかなか面白そうだねぇ、あぁそうだあのガーゴイル娘も気に入らないし殺しちまおう。任務で呼び出した時に騙し討ちにすればいくらあのガーゴイル娘だってイチコロさ、フフフ…その次は…)
「こ、耕介様…!!この人、本気です!」
御架月がイザベラの殺意が本物であることを感じ取り主に危険を伝える。
イザベラが立ち上がり、杖を耕介に向ける。部屋中に殺意と狂気が満ち、まるで空気が氷結しながらも中心は燃えているかのよう。
だがそんな最中にあっても。

「君には無理だよ。」

耕介は動じなかった。誰が聞いても戯言にしか聴こえない言葉でも、耕介は確信を持って言い放っていた。
「なんだって…?」
凶暴な想像が耕介の一言で凍りつき、ひび割れる。
「耕介様…?」
御架月が不思議そうに主を振り返る。そこには、泰然とイザベラを見つめる耕介がいた。
「御架月、大丈夫だ。」
今まさに殺意をぶつけられているとは思えないほど落ち着いた声音で耕介は御架月を制する。
イザベラは耕介のことを今まで人間とは認識していなかった。彼女にとってこの平民は自分と同じ目線の者ではなく、事故によって現れた不快で無粋な虫けらに過ぎなかった。
だが、耕介の視線に気づいた時…虫けらなどではなく確固たる人間の視線に気づいた時、彼女を支配していた昏い炎はその色を激怒の朱色へと変えた。
「あんた…あんた、いったい何様のつもりだ!!なら今すぐここで証明してやろうか!?あたしはあんたみたいな虫けらを殺すのに躊躇なんてしない!!」
激情のままに水のドットスペル<<ウォーターバレット>>を放つ。
圧縮された水弾が耕介めがけて射出され、派手な破裂音とともに炸裂した…耕介の背後の壁面に。
「狙いが甘かった…!?く、もう一度!」
続けざまに三発の水弾が射出され、二発は先ほどと同じように壁面に着弾する。だが最後の一発は耕介の肩を浅く抉り取っていった。
「耕介様!!」
泰然とした態度を崩さない耕介を尊重して手を出さなかった御架月もさすがに狼狽を隠せない。
「ハァ…!ハァ…!フフ…ほら、痛いだろ?泣いて命乞いでもしてみたら?」
痛みに顔をしかめる耕介を見てイザベラはわずかに溜飲を下げた。
だがいまだに炎は燃え上がり続けている。当然だ、ここまで自分を侮辱した虫けらをこの程度で許せるはずもない。
この虫けらをどうやって痛めつけてやろうかと考えを巡らせるイザベラ。

しかし。

「やっぱり君には無理だよ。」

耕介の声音は先ほどと全く変わらなかった。いや、むしろ憐憫の色さえ混じっていた。
耕介の言葉に混ざった憐憫を敏感に感じ取ったイザベラの炎が、タバサに対する劣等感さえも超えるほどに熱量を上昇させる。
「こ…の…!平民風情が!!」
頭が真っ白になるほどの怒りに身を任せたまま再び<<ウォーターバレット>>を詠唱する。今度こそこの不快な‘人間’の頭を吹き飛ばすために。
だが……水弾はいくら呪文を詠唱しても射出されることはなかった。
「クソ、クソ!なんでだ!」
意地になってイザベラは呪文を唱え続けるが、やはり出ないものは出ない。
「イザベラ、自分に震えてる君じゃ、人は殺せない。」
焦りと怒りで真っ白になったイザベラの心に耕介の言葉が滑り込む。
「震えて…る…?このあたしが…?」
「さっきの魔法が俺に当たらなかったのは俺が避けたからじゃない。イザベラの手が震えていたからだ。
俺にはイザベラがどうしてそんなに無理をしているのかはわからない。
でも、そんなことを続けていたら君がいつか壊れるってことはわかる。」
耕介は穏やかにそう言うと、自然な動作でテーブル上に置かれていたティーポットから芳しい香りのする紅茶をカップに注ぎ、イザベラに差し出す。
「ほら、飲んで。少しは落ち着くよ。」
意識を漂白されたまま、椅子に力なく座り込んだイザベラはまるで操られているかのように耕介の差し出した紅茶を一口飲む。
イザベラにとっては飲み飽きている上にポットに入れられてから時間が経っているせいで淹れたてより味も香りも落ちるが…それでもそれは温かく、体に沁みる。
いつの間にかイザベラを突き動かしていた炎は消え去っていた。
不思議な穏やかさを感じながら、イザベラはカップをソーサーに置こうとした時に気づいた。
どこからかカチャカチャと音がするのだ。
不思議に思って考え込むと、原因はすぐに判明した。
手に持ったカップが震えて、ソーサーとぶつかっていたのだ。
その時になってやっとイザベラは自分の手が震えていることを理解した。
「ハ…あたしは虫けらすら殺せない臆病者ってわけか……救いようが無いね…。」
自嘲しながらイザベラが力なく言葉を漏らす。
「それは臆病なんじゃない。君は自分の心を守ったんだ。それだけだ。」
さりげなく自分の分の紅茶を注いだ耕介は普段飲んでいる紅茶よりも相当上質な香りを感じつつ口をつける。
「あんたの言ってることは意味がわからないことばかりだよ…。」
イザベラは俯きながらも上目遣いに耕介を睨みつける。だが、不思議とさっきのような怒りは感じなかった。
わずか、部屋に穏やかな沈黙が降りた。
(いったい…こいつ何者なんだ…?杖を向けられても魔法を受けても平然として…ただの狂人かと思ったけど…。)
沈黙のまま、お互いに少しずつ紅茶を飲む。カップがソーサーと触れ合う音だけが時間が動いていることを示していた。
「さて、落ち着いたみたいだし、これからのことを話さないか?」
イザベラが紅茶を飲み干したタイミングを見計らって耕介が言葉を紡ぐ。
「これから…?」
すっかり毒気を抜かれたイザベラには本気で耕介の言葉の意味がなんのことなのかわからなかった。
わずかに首をかしげ、瞬きをするイザベラを愛らしく思いながら耕介は苦笑とともに補足する。
「これからどうするか、だよ。
俺はなんとかして元の世界に戻りたい。君がわからないなら、自分なりに調べてみたいんだ。
でも、君は使い魔がいないと困るようだし、どうだろう、俺は元の世界に帰る手段を見つけるまで、君の使い魔をする。
君は見返りに俺の調べものを手伝ってほしい。いや、自由に動くことを容認してくれるだけでもいい。
俺は寮の管理人をしていたから家事全般はできるし料理にはちょっと自信がある。
秘薬の材料の採集は無理だけどある程度なら戦闘もできる…と思う。何を相手取るかにもよるけど。
だから、取引といかないか?」
「…取引…?」
耕介の言葉を数秒、ぽかんとして聞いていたイザベラだったが、まだ頭が再起動していないらしい。
呆けたような表情で小首をかしげたまま耕介の言葉を鸚鵡返しにするその様は、年相応の愛らしい少女でしかない。
けばけばしい印象を与える豪奢な青いドレス姿も、今ばかりは丈の合わない服を着た純朴な少女のような印象に変化し、愛らしさを助長していた。
元々イザベラは美少女に分類される整った顔立ちをしているのだ。
それが普段の傍若無人ぶりと気品のなさによっていやらしい印象を与えるだけで、素直になれば彼女は十二分に魅力的な少女であった。
イザベラの愛らしさに優しい笑みを浮かべながら、耕介が言葉をつなぐ。
「ああ、取引だ。なんなら試してくれてもいい。イザベラが納得する方法でね。」
そこでやっとイザベラが再起動を果たした。
言葉の意味を租借していたイザベラの口元に徐々に意地悪な笑みが浮かんでくる。
「へぇ…ただの平民が王女であるあたしと取引ってわけかい。面白いじゃないか…いいよ、試してやろうじゃないか。」
「じゃぁ、仮契約ってことで。よろしくな、イザベラ。」
耕介はイザベラがもう自分を殺そうなどと考えていないことを感じ取り、笑顔を浮かべる。
イザベラは耕介の笑顔に若干気恥ずかしさを感じつつ、そっぽを向いて宣言した。
「ふん、よろしくなんてしないよ!あんたが根を上げるような試練を課してやるよ!」
「ハハ、お手柔らかに頼むよ。」
先ほどの素直なイザベラを惜しみつつ耕介は苦笑していたが…完全に気を抜いていたのが仇になった。
「耕介様ぁ!!」
「うわ、御架月!?」
そう、この部屋には3人目がいたのだ。耕介たちに救われ、今は耕介の愛剣となっている霊剣・御架月その人である。
「さすがです、耕介様!!やっぱり耕介様は僕の最高の主様です!!」
「いて、痛い!!傷口を触らないでくれぇ!!」
抱きついた御架月の手がものの見事に耕介の肩の傷口に触れ、さすがにやせ我慢の限界を突破する。
「あ、あぁ、ごめんなさい耕介様!」
御架月が慌てふためきながら耕介から離れるが、一度我慢の限界を突破した痛みは上限知らずに増していく。
「あ、忘れてた…というかあんた今まで平気な顔してたろ!」
イザベラは自分がつけた傷をようやく思い出し、あわてて杖を持って駆け寄る。
左肩からは未だに血が流れており、何故気づかなかったのかイザベラ自身も疑問に思うほどだ。
「ち、仕方ない、このあたしが<<ヒーリング>>をかけてやるんだ、感謝しな!」
「イツツ…ひーりんぐ…治癒?傷を治す魔法か、本当に便利だな…。」
肩から放射状に広がる激痛に顔をしかめ、魔法の便利さと不条理さについて呆れながら治癒を待つ。
「くぅ…全然治らないんだけど…。」
だが、<<ヒーリング>>はいっこうに始まらなかった。
「あ、あれ…?呪文間違えた…?いやそんなはずは…!」
イザベラは焦りながら何度も呪文を唱えるがやはり魔法が発動する様子は無い。
事ここに至って、イザベラはようやく気づいた。
「あ…!せ、精神力が尽きたんだ…!」
そう、ドットクラスな上に才能に乏しいイザベラは精神力のキャパシティが少なく、先ほどの水弾4発で底をついてしまっていたのだ。
「う…あう…そ、そうだ、水のメイジを呼ばないと…!」
羞恥と不甲斐なさにイザベラの顔が一瞬で真っ赤に染めあがる。
狼狽しながらも人を呼ぼうと左右を見回すが、誰もいないことに気づいてさらに焦燥感がつのる。
この部屋にはイザベラたち3人しかいないことすら頭から吹っ飛んでしまっていたらしい。
その様におかしさを感じながらも耕介はイザベラに声をかける。
「いや、大丈夫だ。秘密兵器があるんだよ。」
「へ…?」
耕介の言葉の意味が理解できず、イザベラは頬を紅潮させたまま小首をかしげる。
「御架月、治癒を頼む。いい加減ちょっと痛みで意識がやばいんだ。」
「え、あ…そ、そうだ、今すぐ癒します、耕介様!!」
イザベラと一緒になって慌てていた御架月が耕介の言葉にハッと我に返って、両手に霊力を集めて耕介の傷口に流し込んでいく。
白い燐光の舞う神秘的な光景にイザベラは羞恥も忘れて見入ってしまう。
魔法という神秘に普段から触れているイザベラであっても、こんな光は見たことがなかった。
「ふぅ、楽になってきた…。御架月、薫や十六夜さんも言ってることだけど、もう少し冷静になろうな?」
「は、はい、本当にごめんなさい、耕介様…。」
自分のできることすら焦って忘れてしまっていたことに恥じ入り、御架月は泣きそうな声を出す。
「ありがとな、御架月。お前にはいつも助けられてるよ。」
耕介は穏やかな表情で半泣きになっている御架月の頭を撫でてやる。
沈んでいた御架月の表情が照れくさそうなものに変わるが、抵抗する素振りはない。
「あ…」
その時、傍らからその光景を見ていたイザベラの脳裏に去来するものがあった。
まだイザベラが物心ついたくらいの年頃の光景だ。
魔法が巧くできないと火が着いたように泣く自分と、その自分を包み込むように優しく頭を撫でてくれる優しい人。
(あれは…母様……?)
遠いあの日には確かにあった優しさと安らぎ…だが、今はもう亡いもの。
それを思い出したイザベラは、我知らず呟いていた。
「あ、あたし…にも…」
それは口に出したイザベラ自身、自分の喉が紡ぎだしたものとは思えないほどか細く不安げな声だった。
自分の言動が信じられず頭が真っ白になっていたイザベラは耕介の行動に全く気づかなかった。
「イザベラも、治そうとしてくれてありがとうな。」
優しい声とともに耕介の手がごく自然にイザベラの頭に置かれ、撫でられる。
普通なら怒り狂ったイザベラの制裁が始まるところであるが…普段からは考えられないことに、彼女は全く抵抗しなかった。
それどころか心から安堵したような恥ずかしげな微笑を浮かべ、両手を組み合わせてもじもじさせながら撫でられるに任せる。
正直な話、この姿を普段のイザベラを知る者が見たら、風のスクウェアスペル<<フェイスチェンジ>>を疑われただろう。
その穏やかな時間はしばらく続き…そして唐突にイザベラは我に返った。
「あ…?え、あ、う、うぁああああああ!!」
耳まで真っ赤にしながらイザベラは意味のなさない叫びをあげながら両手を滅茶苦茶に振り回して耕介の手を振り払うと一気に飛びのいた。
その拍子に足を滑らせ、転びかけるが咄嗟にそばにあった棚に手をついて難を逃れる。
だが、その衝撃でメイドたちを呼ぶベルが床に落下し派手な音をたてる。
「お、お呼びでございますか、イザベラ様!」
1分も待たずに部屋に飛び込んできた3人のメイドが目撃したのは…顔を真っ赤に染めながら右手を棚につき、左手で顔や頭を撫で回してなにやらうめいているイザベラと、見たこともない二人の男がイザベラに駆け寄ろうとする姿であった。
有体に言って、天変地異の前触れと思っても仕方のない情景であった。
しばらく思考がフリーズしていた3人のメイドは我に返ると…悲鳴を上げた。
「キャーーーー!!イザベラ様を手をかけようとする侵入者よーーー!!」
「うわ、ちょっと待って、俺たちは怪しいものじゃ…」
誤解を解こうとする耕介であったが、哀しいかな、そんなセリフが信じてもらえるわけもないのである。
あっという間に部屋には兵士やメイジが詰めかけ、耕介の目前には槍や杖が博覧会を開けそうなほど突きつけられる。
「頼む、頼むから待ってくれぇ、イザベラからも説明してくれ!」
「こ、耕介様、どうしましょう!?」
手を出すわけにもいかない耕介は両手を上げてイザベラに助けを求めるが、さすがに耕介もテンパっていた。
「貴様!イザベラ様を呼び捨てにするとは…!このお方はガリア国の正統なる王位継承者であられるのだぞ!」
そう、イザベラは王女であった。耕介はいまいち実感がわかなかったのと、イザベラの威厳のなさも加わって自然と呼び捨てにしていたが、普通なら死罪モノである。
「怪しい奴め、どこの手の者か、拷問にかけてじっくり吐かせてやる!」
さらに突きつけられる槍と杖によって窓際まで追い詰められ、牢獄いきの瀬戸際に立たされる耕介。
だが、そこに救いの声があがった。
「ま、待ちな!そいつは怪しい奴じゃない、あたしが呼んだんだ!」
オーバーヒートからやっと立ち直ったイザベラである。
「は…?い、イザベラ様のお客人ですか…?しかし、お客人と会われるご予定などありましたか…?」
いぶかしげに問いかける衛兵だったが…仕事熱心であるがゆえに彼は貧乏くじを引くこととなってしまった。
「あたしがそうだと言ってるんだからそうなんだよ!それとも何かい、あたしが誰と会うか、何をするか、全部あんたに言わなきゃならないのかい!?ええ!」
ようやく普段の勢いを取り戻したイザベラが烈火のごとき勢いで衛兵に詰め寄る。
「ほら、わかったらとっとと失せな!暑苦しいんだよ!」
王女の命とあらば兵士たちには是非もない。全員一度敬礼をするとすぐに部屋から出て行き、後に残ったのは再び3人だけになった。
「ふぅ…助かったよ、イザベラ…。」
「耕介様に何事もなくてよかったです…。」
重圧から開放され、床にへたり込む耕介と安堵のため息をつく御架月。
「アハハハ、なんだいあんたら、さっきの威勢はどうしたんだい!」
その不恰好な有様にイザベラは大笑いするが、それは邪気のない素直な笑い声であった。
素直な笑顔を浮かべるイザベラの様子に耕介と御架月も一緒に笑い出す。
「あーおかしい…さて、なんだか長いこと経っちまったね。あたしは湯浴みして寝ることにするよ。あんたらは部屋を用意させるから、今日はそこで寝な。」
いつの間にやら窓から差し込む光は茜色から月光へと様変わりしていた。
「ああ、わかった。ところで、試練とやらはいいの?」
耕介の言葉にイザベラはきょとんとした表情を浮かべるが、すぐに得心がいったのかポンと手を打つ。
「あぁ、試練か、試練ね…もう今日はいいわ、すぐに思いつかないし。明日には考えとくから、覚悟しておきな!」
ビシ!と耕介を指差し、イザベラは再びベルでメイドを呼び出す。
また1分も経たずに現れたメイドに湯浴みの準備と、部屋を一つ用意するように言いつける。
「ほら、このメイドについていきな。あんまりうろちょろするんじゃないよ!」
「わかってるよ、さっきみたいなことは御免だからな。じゃぁ、おやすみ、イザベラ。」
「ああ…って、いい加減呼び捨てはやめな!仮にもあたしはあんたのご主人様で王女なんだよ!?」
やっと呼び捨てにされていることを意識したイザベラは険しい表情で耕介に食ってかかる。
「あぁそうか…うーん、じゃぁイザベラ様…でいいのか?」
「それでいいんだよ。じゃ、あたしは湯浴みにいくからね。」
イザベラはメイド二人を伴って部屋を出ていく…その間際。
「おやすみ、コースケ、ミカヅキ。」
一瞬だけ振り返ったイザベラはそう言った。
「ああ、おやすみ、イザベラ様。」
「おやすみなさいませ、イザベラ様。」
今日初めてイザベラが自分たちの名前を呼んだことに気づき、二人が弾んだ声で挨拶を返す。
メイド二人がまるで信じられないものを見たような表情で耕介と御架月を見ると、慌ててイザベラを追っていった。
最後に残ったメイドも狐につままれたような顔で二人を見ていたが、ハッと意識を取り戻すと「こ、こちらです、お客様」と部屋を出るように二人を促した。

メイドについて部屋を出た耕介たちは客人用と思われる広めの部屋に通された。
イザベラの部屋ほどではないが、やはり調度品も何もかも豪華である。
「大変なことになってしまいましたね、耕介様…。」
一息ついたことで不安がぶり返してきたのか、御架月が不安げな声を出す。
「そうだなぁ…不思議なことには慣れてるつもりだったけど、さすがに異世界は考えたことなかったしなぁ…。」
ふわふわのベッドに腰掛けながら、耕介も御架月に同意する。
「このまま帰れなかったら…どうしましょう…。」
御架月は自分の言葉に触発されてどんどんと落ち込んでいく。
全く先行きが見えないのだ、仕方のないことであろう。
だがそれでも。
「大丈夫だ、御架月。俺たちは一人じゃないんだ。何か方法があるはずだ。」
耕介は力強く言い切った。
「耕介様…そうですね!頑張りましょう!」
御架月を救った時と同じ、耕介の希望を持った言葉に、御架月は嬉しげに同意する。
「でも耕介様…イザベラ様は僕たちのこと認めてくださるでしょうか…。」
再び不安げな声になった御架月が呟くように問いかける。
そしてやはり耕介は
「それも大丈夫だ。イザベラともうまくやっていけるさ。」
確信を持って言い切る。
「それに俺は初めてじゃないんだ。」
「初めてじゃ…ない?」
耕介の言葉の意味がわからず、御架月が問い返すと、耕介は笑顔を浮かべながらその答えを返す。
「多分、イザベラは昔の美緒やリスティと同じなんだ。だから俺はあいつらの時と同じようにするだけだ。」
「美緒様やリスティ様と同じ…。」
「ああ。子どものわがままを聞くのは、大人の役割だからな。」
そう言い切る耕介の表情に不安は見当たらなかった。

湯浴みを終え、部屋に戻って布団に包まり妙に暖かな気持ちのまま眠ろうとして…イザベラははたと気づいた。
「あれ…あたし…あいつらの前で凄い醜態ばっかり…見せてなかった…?」
風呂上りで火照っていた顔から一気に血の気が引き青くなって、再び羞恥により先ほどよりもさらに赤くなる。
「うぁ…うあぁぁぁ…このイザベラ様ともあろうものが…うああああああ…!」
掛け布団に包まりながらベッド上を転げ回るイザベラの奇行は、惜しくも誰にも気づかれることはなかった。


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