あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

眠りの地龍-01


過ちを繰り返したくはない。と、白髪交じりの髪を生やす若い男は言った。

男の言葉に対し、王座に踏ん反り返るガリア王は鼻で笑った。
そんな見てくれだけ御大層な信念なぞ主張した処で、
傍から聞けば所詮戯言としか受け取れないんだがね、と。

ガリア王の言葉に対し、男は落ち着いた表情で、それでいて感情を込めて言った。
戯言だろうが愚考だろうが、どう捉えてくれても構わない。
ただ俺は、何度でも言うが過ちを繰り返したくない。
だから俺は、過ちを阻止するべく行動を起こすその日まで、此処に身を置きたいんだ。
そして来るべき瞬間に、俺の邪魔をしない事を約束して欲しい、と。

男の庶幾に対し、ガリア王は幾分考え込み、そして口を開いた。
よかろう。貴様も俺の阻害をしでかさない限り、堅い事は言わん。
せいぜい為すべき事を成し遂げるまで、今まで通りゆっくり此処で寛ぐがいい、と。

ガリア王の認許に対し、男は礼を言った。
感謝する、ジョゼフ、と。

ガリア王はどこか含みのある微笑を浮べ、男を指差して言った。
なぁに、俺と貴様の仲だからこそ成立するのさ、と。



 眠りの地龍  第1話  「龍の居所」




「ゴムア?」

「違う。ゴモラ」

「ゴモラ?」

「そう。ゴモラ」

トリステイン魔法学院敷地内の図書室。

時刻は日もやや傾いた夕暮れ時、窓から差し込む橙色の日射が多くの書籍を照らす中、
室内に備え付けられた読書用の机に集う2人の少女の姿がある。

1人は、蒼い短い髪を垂らし、椅子に座りながら、机の上に置かれた少々大き目のサイズの書物を広げるタバサ。
そしてもう1人は、そのタバサの横で、椅子は使わず、床に立ったまま体を屈折させ机に肘付くルイズ。
タバサは広げたページに書かれたある項目を指差し、ルイズにそれを示している。

思えば、このルイズとタバサという組み合わせはわりに珍しい。
ほんの数日前まで、彼女達はクラスメイトでありながら、面識は殆ど無かった。
その原因として、ルイズの宿敵でありタバサの無二の親友、キュルケが関与していたのはまず間違いなかろう。
そんなキュルケと言う壁を乗り越え、こうして2人きりで図書室でやり取りをする仲になった経緯は、
5日前の召喚の儀式にまで遡れば解る事であるが、今ここで語るほどでもあるまい。

「なんて書いてあるの?」
「読んで」
「えーっと」


 ゴモラ。
 幻獣界脊椎動物亜門地龍上目双弓類綱ゴモラサウルス科眷属。
 身長約40メイル。
 主に地底を住処とする。
 頭部に3本の角が生えている。
 体色は土色。


「あれ、これだけ?」

ルイズは、今しがた自分が読み上げた解説項目の短さに、軽く面食らった。
異常に分厚く、値段も庶民が3ヶ月は衣食住に苦労しない金額に相当する何とも尊大な書物でありながら、
知りたい事について書かれていたのは、ほんの申し訳程度でしかなかったのだから無理も無い。
そもそも、この『地龍から見取る現代的幻獣学論』という本は、
地龍についての解説も少なく、やたら回りくどい文章で学会への批判を書き綴っているのが目立つ。
資料用の挿絵も一切無く、正直、悪書だと言える。
何故そんな書物を、わざわざ図書室の奥から引っ張り出して調べものをしているのか。
それは、2人の会話から推察できる。

「地龍に関しての生物学的記録は少ない。あっても大概は信用出来ない」
「でもこれじゃ、あの子の正体が何時まで経っても判らないじゃない」

40メイルの巨体、頭部に3本の角、そして土色の体。
確かにそれらの点は、ルイズが召喚した幻獣の特徴と合致する。
しかし、未知の生物を詳しく知りたくば、やはり絵図はどうしても必要不可欠である。
絶滅種と呼ばれる地龍となれば尚更だ。

ルイズは、地龍に関しての資料の圧倒的少なさに、溜息をついて椅子に座った。
少しばかり沈黙の時が流れた後、ずっと例の悪書に目を通していたタバサが、ふと口を開いた。

「確かに、これでは知るべき智識は手に入らない。でも」
「でも?」
「あれが地龍なのは、恐らく間違いない」

『地龍(ちりゅう)』とは、主に地底や火山地帯を住処とする、翼を持たない桁違いに巨大な龍の事を指す。
生態特徴として、知能は低く、縄張り争いや餌の奪い合いで、
本能に従い同種族同士が随時死闘を交わす、野蛮な獣であると後世に語り継がれており、
先住魔法を操る知能を持ち、且つ空を自在に翔ける翼を具える『韻竜』とは極めて対照的な存在にある
(『火竜』との接点なら幾つかあるのだが、体の大きさに明瞭な違いがある)。

故に、この地龍と言う種族は、ハルケギニアの多くの英雄譚等で悪役として描かれる事が多く、
ポピュラーな所では、『イーヴァルディの勇者』の冒頭、
主人公イーヴァルディの住む村を群れを成して襲撃するモグネズンなどが挙げられる。

だが、平均身長が40メイル越えという異常な体たらくが、生態系の秩序を乱す存在として神に嫌われたのか、
或いは種族同士の戦いの末に自滅への道を辿ったのか、現在ではその殆どが死滅したとされている。
ある意味、同じく絶滅したとされる韻竜との唯一の共通点だとも言える。

現代、地龍の生き様を語る事が出来るのは、
まだ地龍がハルケギニアの地上を闊歩していた時代の人々が残した、幾つかの記録文献のみなのだ
(因みに、先に述べた『イーヴァルディの勇者』に登場するモグネズン等は、その殆どが架空描写で描かれている)。
しかし地龍の存在そのものは根滅してはいない、という説を唱える学者も多く、
さらに、翼を持たない小山ほどの超巨大な龍の目撃例が、今も尚各地で確認されているのが現状だ。

とは言え、漠然とした生態記録や、英雄譚の中での過剰とも言える悪役ぶりが原因となってか、
地龍の存在を架空の産物だと勘違いしている者も多い。
ルイズが例の使い魔を召喚した当初、騒がれこそはしたが「地龍を召喚した」と認識した者は、
召喚の儀式に教員として立ち合ったコルベールを含め、誰1人としていなかった。
絶滅した古代の龍、もしくは空想の龍を召喚するというのは、あまりにも非現実的すぎるからだ。

だが、40メイルを越える龍が召喚されたのは紛れも無い事実。
あの日から数日が経過し、徐々に龍の正体に疑問を抱く者が現れ始めた。

召喚した張本人であるルイズに、地龍とはまた別の、絶滅したとされる韻竜を召喚したタバサ。
トリステイン魔法学院長オールド・オスマンとコルベールも、それに当て嵌る。
勉強熱心な他の何人かの学院生徒も、何れ図書室に足を運び、古代生物に関しての資料を探し始めるであろう。


――だが結局、ルイズ達の調査はそこで難航、及び終了を余儀なくされた。
知識を主食とする本の虫、と呼ばれるタバサでさえ、半ばお手上げ状態なのだから。

「今日も手伝わせちゃってごめんね、タバサ」
「……胡散臭い地龍の本は、もう見たくない」

本を元の場所に戻し、長い詮索から開放された2人は、お互い空腹感を覚え、揃って食堂へと向かった。



翌日。


「アホみたいに馬鹿でかいサラマンダー、じゃ誤魔化せないかの」
「無理があるでしょうに。生徒達の中にも、すでに地龍との関連性を見出した者が数名いるようですし」

トリステイン魔法学院学院長室で、学院長であるオスマンと教員のコルベールが、
なにかと馬が合うのだろうか、個人的に会話を交わす姿は珍しくなく、この日もそんな光景が見られた。
オスマンが椅子に座って鼻毛を弄り、彼の使い魔の任務「パンツの色を探る」の報告を待つのもいつもの光景。
コルベールが「また使い魔にくだらん事させてからに」と内心思いつつも、オスマンに話題を振るのも普段の光景。
秘書のロングビルが、棚の整理をしつつ、2人の会話に聞き耳を立てているのも、これまた変わらぬ光景。
そして、彼女の足元に、白い鼠、つまりオスマンの使い魔モートソグニルが、こっそりいるのも以下略。

「で、あれが土龍だと」
「お言葉ですが、土龍でなく地龍です。土龍ではモグラです」
「ややこしいのぉ。で、あのミス・ヴァリエールが召喚した幻獣の正体が、太古に絶滅した筈の地龍で、
 それもゴモラという特定種であるという君の意見の確証は?」
「説明するまでも無く。これを読めば明確ですぞ」

変わらぬ光景、と何度か記したが、この日、実は差異の要素もあった。
コルベールが手袋をはめ、何やら黒い表紙の書物を大切そうに抱えているのである。

『地龍録』。

至ってシンプル、それでいて判り易い、ただ書き留めている内容を示しただけの書籍名。
著者の名すら記されていない。
普段は学院図書室内の、さらに一部の教員以外は立ち入り禁止の場所にて厳重に保管されている、
庶民はおろか並みの貴族ですら手の触れる機会が訪れないであろう、貴重な本である。
希少価値で言えば、宝物庫に蔵わられても諧謔ではない代物だ。

地龍に関して豊富に、それもまだ地龍が絶滅する直前に書かれた重要なデータが記録され、
さらに詳細な挿絵まで描かれており、事実上最も地龍について詳しく、且つ信頼できる文献だと言われている。
余談だが、昨日ルイズ達が図書室で目にしていた『地龍から見取る現代的幻獣学論』の様な悪書が
世に出回った最大の理由に、『地龍録』等の、過去の遺産が殆ど現存してない事が挙げられる。

「地龍と言うネタはあまり使われてないし、物珍しさで売れるかもしれん」
と、馬鹿、あいや考えの浅はかな売れない作家や学者達が
何処から沸いたのか、続々と現れ始めたのは近年の事。
だが、名前だけが正確に知れ渡っている地龍の数はほんの僅か。それらの名を載せるだけでは本にはならない。
たとえ新たに地龍に関する本を発行するべく奮起するにしても、
現存する生態記録や情報の絶対数の少なさ故に、結局は挫折してしまうのだ。
良識を備え持つ者であれば、そこで潔く地龍の本を書くのは諦めるであろう。
しかし、食べて暮らしていく為に、なんとしてでも変り種の本を出して1発当てなければ、
と言う思念が幾人かの脳を支配してしまった。
結果、生まれたのが数多の「パチモノ地龍」。適当なでっちあげ地龍でページを埋めていく作家や学者達。
その出来損ないの地龍図鑑の数々を発行し、ハルケギニア中に販売する、出版社や本屋。
そして、それらを読んで間違った知識を植えてしまう人々。

こうした経由の末、多くの『パチモノ地龍本』がハルケギニア中に蔓延ってしまったのだ。
ある種、無駄に頭脳が発達した人間ならではの愚の骨頂、では無かろうか。
『地龍から見取る現代的幻獣学論』に、ちゃんと実在したゴモラが載っていたのは、ある意味奇跡とすら言える。
こんな文学世情では、タバサの呆れる顔も安易に想像できよう。

しかし、いくら稀有な存在とは言え『地龍録』も現代に残ってはいるのだから、
業者にそれを託し、複写させるのも決して不可能な話ではない。
だが、基本的に『地龍録』ほど貴重な書物だと、世に曝すより寧ろ大切に手元に置きたいのが性と言うもので、
本の収集家ジュール・ド・モットも『地龍録』を所有しているそうだが、宝石を扱うが如く保管している模様。
尤も、オールド・オスマン自身は、この本はもっと有効利用すべきだと考えてはいるのだが、
如何せん貴族としての世間体がそれを妨げているらしい。

さて、オスマンはコルベールからその本を受け取り、予め栞で示されていた頁を開いた。
コルベールが、どうです、その絵に見覚えがあるでしょう、と得意げに語る。
そこには確かに、6日前にルイズが召喚した龍と酷似した、地龍の記録図が描かれていた。
頁の隅には、拙い文字ではあるが間違いなく『ゴモラ』と記されている。

「この6日間、ありとあらゆる資料や図鑑を漁った結果、その書物に辿り着きました」
「なるほど。では、やはりあれはゴモラと視て間違い無いようじゃな」

オスマンは、食入るようにゴモラの絵図と解説項目を黙読する。
ややあって、本を丁寧に閉じ、耳掻きを手に取りそれで耳を穿りながら言う。

「現代に蘇りし地龍、ゴモラ、か。やれやれ、アカデミーの連中が五月蝿そうじゃの」
「この事は出来れば暫く内密にしたいですが、噂と言う物は必ず外部に漏れますからね。
 研究員達が挙ってここに雪崩れ込むのも、時間の問題やもしれません」

大きい声では言えんが、なんでもかんでも研究材料にしようとするアカデミーは好かん。
とオスマンは愚痴る。同意です、とコルベール。

「どれ。散歩がてら、噂のゴモラを拝みに行くとするかのぅ」
早速、この目で確かめに行きたくなったのだろう。
オスマンは、任務を終え足元に佇んでいたモートソグニルを肩に乗せ、席を立ち、
秘書のロングビルに留守番を命じ、コルベールを引き連れて学院長室を後にしようとしたが、
それをロングビルが声をかけ止めた。

「なんじゃね」
「あの、その本ですが」
「あぁ、読みたいのかね? わしらが戻って来るまでなら構わんよ。但し、丁重に扱うのじゃぞ」

礼を言ったロングビルに、オスマンはウインクで愛想を送ると、コルベールと共にそのまま部屋を後にした。
ロングビルは机の上に放置された『地龍録』に手を伸ばし、そっと胸元に運び、頁を開く。
彼女の本性は怪盗だが、今回これを盗むつもりは皆目無い。只、彼女には知りたい事があった。

あの子の使い魔も地龍とやらなのであれば、この本に載っているかもしれない、と。

静寂の時が流れる院長室の空間に、ページをゆっくりと捲る音だけが響いた。

広場の面積の半分以上を、土色の巨大な物体が占領していた。
その物体から、例えば洞窟の中を風が通る様な、重い音が律動的に放たれている。
広場の中央を丁度取り囲むように、ぐるりと左回りに円を描いて体を曲げ、
うつ伏せになって鼾を鳴らすそれは、よく見れば手足が生えている。
そして、重い音の正体は、生命の呼吸である。それは、間違いなく1匹の生物であった。
三日月の様に屈折した2本の角が生えた頭部を持ち、
一枚岩、もしくは地面の様な、ごつごつとした皮膚が体を覆っている。
首と胴体はほぼ一体化しており、お世辞にもスタイルが良いとは言えない。敢て寸胴、と表現すべきか。
手足は短いが、尻尾は長く、目を瞑った頭の2メイル程前に、尻尾の先端がある。

これこそ、現代に蘇った――否、今の今まで人間が「絶滅した」を謳い文句に、
勝手に健在を否定していた地龍の紛れも無い生き残り、ゴモラである。

この眠りの体勢は、6日前の召喚の儀式当初となんら変わっていない。

6日前。ルイズが周りから罵声を浴びつつも、
サモン・サーヴァントの呪文を詠唱した際、現れたのは眩く光る浮遊物体であった。
コルベールがその発光物体を慎重に調べようとする余地すら与えず、
光は突如として膨張し、ルイズを含む広場にいた者は全員広場の隅に退避した。
そして、大きく膨らんだ光が音も無く消滅した時、そこにあったのは土色の小山であった。
もし、光から逃れなかったら、危くその小山に押し潰されていた処であろう。
最初、それが生物であると気付いた者は少なかった。生物としては、常識を軽く超えた大きさだからだ。
だが、冷静に小山を観察してみると、それが音を立てて呼吸しているのが判明した。
程無く、それがとてつもなく大きな眠る龍であると知れ渡ると、学院中が騒然となった。
野次馬が広場に殺到し、広場に入りきれない者は本塔に登って窓からその光景を見下ろしたりと、
貴族の通う学院らしかぬ押すな押すなの騒ぎであった。
あのゼロのルイズがエライものを召喚した、と興味本位で駆け付けた者が多くを占めたが、
得体の知れない恐怖感を覚え、杖を構えたり一時学院から退避しようとした者も少なくは無かった。

尊敬の眼差しと言うべきか、服従の構えと言うべきか、なにせ動物的本能で、
使い魔達はゴモラの雄姿を見つめていた。例えそれが眠っているにしても、だ。
いや、寧ろ堂々と眠っている様が、より王者の風格を引き立てているのやもしれない。

そう、繰返すが、この龍は熟睡している。
この事実が、話を余計にややこしくしていた。
召喚相手が眠ったまま儀式を執り行う例は過去に無く、
目を覚ました後に儀式を始めた方が良いのでは、と広場に集まった教員達は話し合った。
(そもそも、仮に何処かしらで寝ていたであろうゴモラが、どうやってサーヴァントの鏡に入ったのだろうか。
 鏡の出現場所とゴモラのいた位置がたまたま重なったのか、或いは召喚されたと同時に眠ったのか。
 疑問は残るが、召喚されてしまったものは仕様が無いので、その辺の考証は保留とした)

だが、ルイズはコントラクト・サーヴァントの実行を強く要望した。
一刻も早く、このある種神秘的な存在に触れたかったのだろうか。
しかし考えてみれば、もし眠った状態であっても儀式に成功すれば、
コントラクト・サーヴァントのシステムの新たな事実が解明できる。
仮に成功しなかったにせよ、お互いに悪影響を及ぼす事は無いであろう、と教員達は判断。
言い方は少々悪いが、実験を兼ねて儀式決行の許可を下ろした。

歓喜したルイズは、背伸びをし、ゴモラとキスをした。

だが、コントラクト・サーヴァントが成功したのか否かは、実は6日目の今日に到ってもまだ明白では無い。
儀式成功の証として、接吻をした者の左手にルーンが刻まれるのは周知の事実で、
その判断は誰でも出来るはずだった。だが、今回は少し事情が違った。

ゴモラはうつ伏せになって眠っている。つまり、胴体を横にして腹を地面にどっしりと乗せている姿勢だ。
右腕は、体の横で地面にちょこんと手の平を乗せているが、一方左腕は、胴体の下に埋もれている。
つまり、腹と地面の間に左手が挟まり、左手の甲が肉眼ではとても確認できないのだ。
魔法を使って腕を引っ張り出す試みは失敗した。体長もそうだが、ゴモラは想定外に重かった。
ディテクト・マジックで調べようにも、ルーンの有無はやはり直接目で見なければ確実ではない。
手っ取り早い手段としては、やはり起床だろうか。

だが、火炎魔法攻撃なり水流魔法責めなりなんなりで、眠りから叩き起こす術は幾らでもあるにはあるが、
睡眠から無理矢理引き剥がされても上機嫌でいれる生物、益してや龍など想像もでない
(仮にコントラクト・サーヴァントが成功しており、ルイズを慕っているとしても、だ)。

ジャイアントモールの力を借り、地面を掘って、左手のある場所にだけ空間を作る方法も無い事は無いが、
そこまでしなくとも、儀式の成功を立証する事柄がすでに存在した。
ルイズがゴモラの口、と言うよりは鼻の先端にキスをした際、
ゴモラの腹部が光ったのを見た、と話す生徒が何人かいたのだ。
その証言から、恐らく埋もれた左手が発光し、洩れた光が腹部ごしに見えたのだろう、
とコルベールは判断した。つまり、ルーンが刻まれた、という証左に一応はなる。
その後何時間もの間、教員達が学院長室での会議で論議を交わした結果、
儀式は若干疑わしくも成功したと認められ、こうしてめでたくルイズは進級する事ができたのだった。

そして僅かながら日々は流れ。
眠れるゴモラの文字通り小山の如くの巨体は、何時しか生徒達に憩いの場所を提供する身となっていた。
授業が終わり次第真っ直ぐ広場へ直行し、俗に言う場所取りを我先にと行う生徒もいる程だ。
ゴモラの背中に登り、滑り台で遊ぶ様に滑り降りたり、尻尾の上に乗って寝転んで日向ぼっこをしたり、
広場の隅のベンチに座り、御菓子を頬張りながらその体躯を眺めたりと、多種多様である。
使い主であるルイズは、最初こそは一々それらに注意していたが、
考えてみれば、我が使い魔がこうして皆から親しまれるのも悪い心境ではない。
それに、魔法が不得意で「ゼロのルイズ」と馬鹿にされていた時と比べ、自身への風当りも緩くなった様な気もする。
彼女にとって、既にこのゴモラは、例え地龍であろうが眠ったままであろうが、誇り高き使い魔となっていた。
家族に、特に姉のカトレアにこの事を報告をするのが、今からとても楽しみだ。

「それにしても、何時までぐーすか寝てるつもりなのかしら。冬眠の時期だって過ぎてるんじゃない?」

巨大な尻尾の先端に腰を降ろしたキュルケが、彼女の膝に乗る使い魔であるフレイムを撫でながら、
彼女の眼の前にあるゴモラの巨大な顔に、優しく手を触れているルイズに言った。

「きっとねぼすけさんなのよ。ゆっくり眠らせてあげましょう」

ねぼすけさん、などと言うルイズに、キュルケはフレイムを撫でる手を止めた。
堅い性格では無いにしても、プライドの高いルイズが、よもや嘗ての天敵の前でそんな発言をするとは、と。
第一、召喚の契りが交わされているのなら、起きろと命令すれば目を覚ますかもしれないのに、
それを実行する姿は今の処無い。使い魔の為すがままにさせてあげたいのか、
若しくは使い魔の寝顔が可愛くて仕方が無いのだろうか。

「ねぼすけさん、ねぇ。それでヴァリエール。この眠れる使い魔の名前、決めたの?」

それを聞いたルイズは、ふっとキュルケの方に振り向いた。
名前。確かにこの数日間、この龍の正体を調べるのに気を取られて、
本来使い魔を操る者として、ある意味必要不可欠な「名付け」をしていなかったのを、ルイズは思い出した。

「んー。どうしよう」
ルイズは頭の中で名前の候補をリストアップする。
何と名付けようか。貴族の使い魔らしい由緒ある名か。もしくは覚えやすい名前の方が良いのかもしれない。

「雄か雌かは判らないけど、だったらどちらでも通じる素晴らしい名前を付けてあげなきゃ。
 待っててね!」

満面の笑みで、彼女はゴモラに触れたまま幸せそうに言った。
尤も当の使い魔は、相変わらず目覚める兆候は微塵も見て取れないが。
結局、悩みに悩んだが、これから場合によっては生涯付き添う事となるパートナーの名前を
そう早々と決めれる筈も無く、考えてる内に日も傾く。
ルイズ達が各々寮に戻る頃も尚、ゴモラの鼾が、淡々と眠りの旋律を奏でていた。


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