あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

風林火山-10


―――――朝もやの中、勘助達は馬へと乗った。
秘密裏に、学院を出発しようというのだ。

―――ザッ

後ろから、近づいてくる足音があった。

「誰だ?」

警戒しながら勘助が、問う。
もしかしたら、アンリエッタの話が漏れてしまったのかもしれない。
ギーシュが見つからなかったくらいなのだから、あり得ない話では無い。

「僕は敵では無い。トリステイン一国がかかっているんだ。やはり、君たちだけで行かせるわけにはいかないだろう。とは言っても、隠密行動だ。一部隊つけるわけにもいかなくてね。僕が指名されたのさ」

若い、男の声だった。
見れば、長身の、羽帽子をかぶった貴族である。

「女王陛下直属の部隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」

ワルドは、帽子を取ると一礼した。

「ワルドさま・・・」

ルイズは、頬染めていった。

「ルイズ!僕のルイズ!久しぶりだね!」

勘助は、それを茫然と見つめた。
人懐っこい笑顔で、ルイズを抱きかかえる。

「彼らを、紹介してくれたまえ」

「グラモン家のギーシュと、使い魔の勘助ですわ」

二人りは、ワルドに一礼した。

「君がルイズの使い魔かい?人とは思わなかったな」

「僕の婚約者がお世話になっているよ。」

今度こそ、勘助は驚いた。

(姫様の、婚約者!)

だが、あり得ない話では無い。
ヴァリエール家は、トリステイン有数の貴族である。
ならば、予め婚約者が決められていてもおかしくは無い。
それに、ルイズはどうやらワルドにあこがれているらしい。
ワルドも、態度からルイズを悪くは思っていないようだ。
ならば、これは祝福すべきことなのだろうか。
(まだ、わからん)

本当に、ルイズに・・・姫様にとって、ふさわしい相手なのかどうか、見極めなければならない。
今の段階では、まだ判断はできないだろう。
旅の途中で、見極めるしかないようだ。

「おいで、ルイズ」

と、ワルドはルイズを自分のグリフォンへと招いた。
ルイズは、少しもじもじとしていたが、やがてワルドの元へと駆け寄った。
ワルドはそれを抱えると、高らかに宣言した。

「さぁ、諸君!出発だ!」


―――――学院を出発して、半日近くが経っていた。
ギーシュは疲れを見せていたが、それでも何とか食らいついてきている。

「ミスタ・カンスケ」

突然、ギーシュが語りかけてきた。

「何だ」

「・・・僕は、貴方との決闘に敗れた」

真剣な表情をしていた。
ギーシュは、勘助の方を見ずに、言っている。

「僕は思うんだ。もし、僕がスクウェアクラスであっても、君には勝てなかったんじゃないだろうか、と。それは、君が強いからじゃ、決してない。単純な実力では、僕は君に勝っていると思っている」

勘助は、何も言わずに聞いている。

「あの時、僕はなぜ負けたか。ずっと考えていたんだ。貴方は、真剣だった。命のやり取りをするという、実感があったのかもしれない。けれど、僕にはそれが無かった。平民に負けるわけがない、という思いから、油断をしていた」

パカ、パカ、と馬が走る音が聞こえる。
へとへとになりながらも、必死に馬を操り、語り続ける。

「だから、僕は考えている。あの時、油断しなければ勝てたのだろうか、と。否、勝てなかったと僕は思う。奇襲を予め予想しても、何故だか、貴方はそれを上まわって来るような気がしてならない」

そして、ギーシュはしっかりと、勘助を見やった。

「ミスタ・カンスケ。貴方の知恵を、僕に教えてほしい。僕を、貴方の弟子として欲しい。貴方は、以前東方の大国の、軍師をしていたという。僕に、その知識を、教えてくれないだろうか」

ほう、と勘助はうなった。

(軽薄で、まともな考えを持たない小僧だとばかり思っていたが・・・)

これはこれで、真剣に考えているらしい。

「僕は、グラモン家の息子だ。グラモン家は、多くの有能な軍人を輩出してきた。僕も、行く行くは軍人となる。決して、貴方から得た知識は無駄にしない。それ相応の礼も、します」

「それは、本気か?」

聞くまでもないだろう、と勘助は思った。

「始祖ブリミルの名、そして貴族としての誇りをかけて、本気であると誓えます」

満足な答えが返ってきた。
これを無碍に断るようでは、男がすたる。

「良かろう。だが、俺は平民だ。平民に教えを請うとは、聞こえが悪いと思うが?」

「枢機卿も平民出身だと聞きます。何より、能あるものに、貴族も平民も無いと、実感しました―――先の、ご無礼をお許しください。どうか、その知を私にくださるよう」

ふ、と勘助は笑うと、唐突に馬の速度を上げた。

「小僧、遅れるな!あれに置いてかれるぞ」

そして、ギーシュは弟子と認められた。

―――――何度か馬を替え、ひたすらに走ってきた勘助達は、その人うちにラ・ロシェールの港町の入り口に到着した。
なんとか喰らいついてきたギーシュだが、すでに体力は限界で、息も絶え絶えだった。
なんとか一息つけるという安心からか、安堵の笑みを浮かべている。
その時である。

―――ヒュン

と、一本の矢が飛んできた。
と思うと、2本、3本とどんどんと矢は飛んでくる。
見れば、崖上には松明を持った影があった。

「奇襲だ!」

ギーシュが叫んだ。
松明が投げ落とされ、馬が悲鳴を上げた。
矢の一つが馬の尻にささり、暴れまわった。
無数の矢は、勘助とギーシュだけをめがけて飛んでくる。
デルヒリンガーを手に、勘助は矢を切り落とす。

「ワルキューレを出せ!盾にしろ!」

ギーシュへ怒鳴る。
慌ててギーシュがワルキューレを出し、とりあえず矢を防ぐ。

「大丈夫か!」

ワルドが、勘助達の元へと走ってきた。

「山賊の類か?」

ワルドが呟く。

「万が一とは思うが、アルビオンの者である可能性もある。捉えねばならぬ」

そのとき・・・
ばっさばっさという音が聞こえた。
聞き覚えのある、羽音である。
それは、タバサのシルフィードであった。
崖の上の人間は、残らず蹴散らされていた。

「おまたせ」

ピョン、とキュルケがその背から飛び降りた。
ルイズは、グリフォンから飛び降り、キュルケに怒鳴った。

「おまたせじゃないわよ!なにしに来たの!」

「助けに来てあげたんじゃないの。朝方、見かけたから後をつけてきたの。」

「キュルケ。あのねぇ、これはお忍びなのよ。」

「あら、それだったらそういえば良いじゃない。言わなきゃわからないわ。それに、貴方達を襲った連中を捕まえたんだから。感謝して貰わなきゃ、割に合わないわ」

言うと、勘助の腕へと抱きついてきた。

「ダーリン。心配してたのよ?まぁ、あんなのダーリンなら何でもなかったでしょうけれどね」

勘助は、その腕を振り解く。

「礼を言う。ギーシュ、それを尋問するぞ」

それきり、キュルケには目をやらずに、山賊の尋問を開始する。
はたして、山賊達はただの物盗りだとわかった。
その表情に、どこかぎこちなさはあるものの、捕まって尋問を受けているということを考えれば、特におかしいという訳はない。
相手によっては、全員の首が、胴から離れてもおかしくないからである。
山賊達が持っていた、僅かな金貨と銀貨を懐に納め、勘助達は町の宿へと向かった。


―――――ラ・ロシェールで最も高い宿に、女神の杵へと勘助達は宿泊した。
馬に乗ってくたくたになっていたギーシュは、すでに部屋へと入っていた。
キュルケとタバサも、恐らくは戻っているだろう。
勘助は、桟橋へ交渉へ行っていた二人を、一人で待っていた。

「アルビオンへの船は、明後日にならないと出ないそうだ」

交渉から帰ってきた二人は、勘助に、そう告げた。
こればかりは、どうしようも無いと、それぞれは部屋へと戻った。
ギーシュと勘助は、相部屋であった。

(小僧、すでに寝ているかな)

思い、部屋のドアを開いた。
だが、ギーシュは起きていた。
正座をし、師たる勘助を待っていた。

「ほう、起きていたか」

「弟子に入ったその日に、師の事を忘れて眠る程、肝は据わってません」

「ふむ」

殊勝である。
だが、勘助もこんな日に起きていろというほど、酷では無い。

「今日はご苦労だった。何、アルビオンに行くまで日もある。今日は、疲れをとっておけ」

しかし、ギーシュは首を縦には振らない。

「私は、学ぶために弟子入りしました。時間があるのであれば、少しでも多くの事を吸収したいのです。どうか、戦について教えて頂きたいのです」

(ほう・・・意外と、器かもしれん)

まだ何も教えたという訳ではないが、姿勢は素晴らしいものがある。
あるいは、大した器なのかもしれない。
だが―――

「師と仰ぐなら、その言葉に従わなくてはいかんな・・・今日は、おとなしく休んでおけ」

言葉を受け、ようやく首を縦に振った。

「・・・それでは、御先に失礼します」

言うと、バタリ、と倒れてしまった。
よほど、疲れていたのかもしれない。
ランプの炎を消し、勘助も目を閉じた。


―――――翌日。
勘助は、ノックの音で目を覚ました。
ギーシュは、死んだように眠っている。
体を起こし、ノックの主を向かいいれる。

「おはよう。使い魔君」

羽帽子をかぶった、ワルドであった。
勘助より、背が頭一つ分は高い。

「おはようございます。しかし、出発は明日のはずでは?」

ワルドは、にっこりと笑って言った。

「君は、伝説の使い魔『ガンダールヴ』なんだろう?」

「む」

ワルドは、ごまかすように言った。

「土くれのフーケの話を聞いてね。少し、興味を持って君を調べてみたんだ。・・・率直に言おう。あの『土くれ』を捕まえた、君の腕を知りたい。ちょっと、手合わせして貰えないか?」

その言葉に、勘助は目を光らせる。

「フーケを捕まえた、腕を見たいと?」

「あぁ。そこの中庭は、昔の砦の、修練場があったはずだ。そこまで、お願いできるかな?」

「ふむ・・・少し、用意をしてからで構わないのであれば」

ルイズにふさわしい相手か、これだけで決めるのには無理がある。
だが、腕前や知恵の一端を見る事は出来るだろう。
そう思い、勘助は戦いの『準備』を始めた。


―――――勘助とワルドは、中庭の修練場へとやってきた。

「立会には、それなりの作法というものがある。介添え人がいなくてはね」

と、ルイズが姿を現した。
二人の姿を見たルイズは、はっとした顔になった。

「ワルド、来いって言ったから来てみれば、一体何をする気なの?」

「貴族というのは、厄介でね・・・強いか弱いか、それが気になるとどうにもならなくなるのさ・・・ルイズ、ここで見届けてくれ」

ルイズは、勘助を見た。

「やめなさい!これは命令よ!」

「・・・姫様、申し訳ありませぬ」

それに、ワルドは笑い、言った。

「さぁ、介添人も来たことだし、はじめようか」

ワルドが、さ、と構える。
しかし。

「待った」

勘助は、それを止めた。
ワルドは、面を食らったように勘助を見た。

「こちらにも、介添人という訳ではないが、これを見せたい者がいる」

と、ギーシュがやってきた。

「あれは、先日某の弟子となった。師の戦いを、その眼で見せなくては勿体無いだろう」

「ふ、いいだろう。それについては、こちらが止める事は無いよ。・・・それにしても、貴族が平民の弟子となるか。いや、悪く言ってるんじゃないよ」

ワルドは、ギーシュを見て言った。

「さぁ、今度こそ大丈夫かな?はじめよう」

「御意」

今度こそ、二人は構えた。
勘助は、背中に背負ったデルフリンガーに手をやり、ワルドは杖を構えた。

―――ザッ

ワルドが、一足に勘助の目の前へと迫った。
杖を、レイピアのように構え、目にも止まらぬ突きを繰り出してくる。
それを、何とか剣で受け流しながら、勘助は後退する。

「どうした、使い魔君!守っているだけでは、何もできないぞ!」

言いながらも、決して手は緩めない
勘助は、デルフリンガーで杖を押し返した。

「――ハァッ!」

ワルドは、わずかにたたらを踏み、後退した。
その隙を突き、勘助はデルフリンガーを大振りに振る。
しかし、ワルドはそれを、難なくかわした。

「さすがに、強いな!元軍人だというのも、本当だろう!」

大振りをかわされた隙を突かれ、勘助は腰を地面に打ち付けた。

「並のメイジが相手なら、そうそう負ける事は無いだろう!」

その途端にバネのように飛び起き、距離をとった。
しかし、ワルドはすぐに距離を詰める。

「だが、相手が悪かった・・・僕は、魔法衛士隊の隊長だ・・・並のメイジとは違う!」

突きの速度が上がっていく。

―――デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ・・・

突きながら、呟くように呪文を唱えている。

「クッ」

「相棒!いけねぇ、魔法が来るぜ!」

バッと後ろへと飛んだ。
しかし、ワルドの操る、巨大な空気のハンマーは、横殴りに勘助を吹き飛ばした。
勘助は、樽に体を打ちつけた。
その拍子に、剣を落とした。

「勝負ありだ!」

ワルドは、デルフリンガーに足を乗せ、宣言した。

「わかったろう、ルイズ。彼では君を守れない」

そう言い、顔をルイズへと向けた。

「小僧!」

勘助が叫ぶ。

「なっ!」

デルフリンガーを中心にして、地面が泥と化した。
意識をルイズに向けていたワルドの脚は、すでに膝まで埋まっている。

「くっ・・・これは!」

そして、勘助は腰から下げていた、日本刀を抜いた。

「油断したな、ワルド子爵」

刀はワルドの首に、ピタ、とついた。

「こ、降参だ・・・」

額に汗を浮かべながら、ワルドは言った。


―――――ルイズは、困惑したように勘助を見つめていた。

「どうか、致しましたか?姫様」

聞かれて、意を決したようにルイズは言った。

「その・・・今の、卑怯じゃないの?結局、勘助とギーシュ二人がかりでワルドと戦ったんだから」

その言葉に答えたのは、勘助では無かった。

「いいや。これは、まぎれもなく僕の負けだよ。なんたって、僕は『フーケを捕まえた腕前を見せてくれ』といったのだからね」

え?とルイズが首をかしげた。

「某は、自らの腕っ節でフーケを捕まえられるとは、思ってはおりません。そもそも、教師達を呼ばなければ、フーケを捕まえる事は成らなかったでしょう。全ては、策によるもの。ならば、その腕前を見せろ、と言われたのであれば―――」

「当然、何らかの策を持って挑む。そう、僕が迂闊だったのさ。勝ったと思って、気を抜いてしまった、僕のミスだ」

ワルドは、潔く自らの負けを認めた。

「まぁ、敗者はおとなしく部屋に戻るとするよ。それでは、また後で」

そのまま、部屋へと戻ってしまった。
勘助達も、つられる形で、部屋へと帰還した。


―――――夜。
勘助達は、最後の晩餐とばかりに酒場にいた。
いよいよ、明日は生死をかけた、敵地での任務である。
この酒場で出せる、最高の料理と酒がふるまわれていた。
ルイズは、ワルドと二人で何事か話していた。
だが、キュルケが勘助に近づくと、キッ、っと睨むことは忘れなかった。
その度に、勘助は背中に汗をかきながら、キュルケを振り払っていた。
と、勘助は、外の様子に何か違和感を覚えた

(・・・なんだ?)

ふと、席を立ち、外をみやる。

「な・・・!」

一瞬、言葉を失った。
以前、倒した筈の、巨大なゴーレムが、そこにいた。
それだけではない。
数は、決して多くはないが、傭兵達が並んでいる。
そして、後ろでキュルケも、ゴーレムの姿に気づいた。

「フーケ!」

その言葉に、全員が反応した。
慌てて席を立ち、それを見る。

「感激だわ。覚えててくれたのね」

マントで全身で隠してはいるが、まぎれもなくフーケの声である。

「牢屋に入っていたんじゃ・・・」

キュルケが、苦い顔でつぶやく。

「親切な人がいてね。私みたいな人間は、世の為に働かなくては、と出してくれたのよ」

フーケのゴーレムのすぐそばに、黒マントに仮面を羽織った人間らしき影があった。
あれが、フーケを脱獄させたのだろうか。

「何しにきたの?」

キュルケが、言った。

「素敵なバカンスをありがとう、ってお礼を言いに来たんじゃないの!」

ゴーレムの拳が、酒場の壁を破壊した。
そこから、ワッと傭兵達が入ってくる。
ワルドが、魔法で応戦した。
何人かは、風で飛ばされるが、不利を悟るとすぐに引き返す。
そして、魔法の射程外から矢を射ってきた。

「く」

さすがに、ワルドもお手上げらしい。
とりあえず、テーブルを壁として、持ち応える。

「十中八九、アルビオンに、ばれたんだろうね」

ワルドが言った。

「奴ら、私たちの精神力が尽きるまで待つつもりね・・・どうする?」

そこで、勘助が提言する。

「ここで、全員で戦えば、何人かが犠牲になろう。全員で逃げても、同じだ。だが、腕の立つ半数が囮となり足止めし、残る半分が、先に退く」

妥当なところだろう。

「まぁ、それしかないでしょうね。ってことで、ルイズ。あんた、先に行きなさい」

「ちょ、それって私が腕のない方だって言ってるの!?」

「それもあるけど、どっちみち私とタバサじゃ一緒に行っても何するか分からないわよ。あんたとワルド、勘助が行くしかないじゃ無い」

「うむ。後は、任せた」

その言葉に、キュルケは目を細めて頷く。

「勿論、安心していいわ」

勘助は、ギーシュに目をやった。

「小僧。さっきワルドにしたことを、忘れるなよ。あれは、相手が巨大であればあるほど効果が増す。お前にとって、フーケは決して相性が悪くはない」

ギーシュが、頷く。

「お任せください。安心して、お行きください。師よ」

そのまま、勘助達は酒場を脱出した。
裏口から出ると、中で派手な爆発音がした。

「始まったみたいね・・・」

ワルドは、壁にぴたりと張り付き、ドアの向こうの様子を探った。

「誰もいないようだ」

ドアを開け、街の中へと躍り出る。
ワルドが先頭をゆき、殿は勘助である。
月夜の中、三つの人影は、『桟橋』へと、走って行った。


―――――裏口から、勘助達が出たことを確認してから、キュルケはギーシュに命令した。

「奥に、油の入った鍋があるでしょ」

「揚げ物の鍋かい?なるほど、わかった」

ワルキューレは、矢でその身を打たれながらも、何とか油を手に戻ってきた。

「それを、入口に向かって投げて」

ギーシュは、ゴーレムを操り、油を入口へと、投げた。
それに向かい、キュルケが杖を振る。
炎が現れ、そして鍋の油に引火した。

―――ドン、

と爆発を起こす。
入口付近の炎は、突入をしようとしていた傭兵達も巻き込み、激しく燃え盛る。
さらに、キュルケは色気を含む、優雅なしぐさで杖を振るう。
そのたびに、炎は操られ、名も知らぬ傭兵達を優しく包んだ。
キュルケめがけて、矢が何本も飛んでくるが、タバサはそれをすべて風で逸らした。

「名も知らぬ傭兵の皆様方。貴方がたがどうして、私たちを襲うのか、全く存じませんけども」

降りしきる矢の中。
キュルケは、優雅に一礼した。

「この『微熱』のキュルケ。謹んで、お相手致しますわ」

炎に焼かれ、傭兵達は踊るようにして逃げ去る。

「おっほっほ!おほ!おっほっほ!」

キュルケは、勝ち誇り笑い声をあげる。

「見た?私の炎の威力を!やけどしたくなかったら、おうちへ帰りなさいよね!あっはっは!」

と、轟音とともに入口がなくなった。

「え?」

もうもうと立ち込める土埃の中、巨大なゴーレムが姿を現した。
炎に包まれる傭兵達を、指で弾いて飛ばす。

「忘れてたわ。あの、業突く張りのお姉さんがいたんだった」

「調子に乗るんじゃないよ!小娘どもが!」

フーケは、声を怒らせ、キュルケ達に叫んだ。
キュルケは、杖を上げ、呪文を唱えようとしてた。
だが。

―――ザッ

その前に、ギーシュが立ちはだかっていた。

「キュルケ、タバサ。君たちは、傭兵達を頼む」

背中で、ギーシュが語った。

「いやまぁ、それはいいけど・・・あんた、『ドット』でしょう?相手は、曲がりなりにも『トライアングル』よ?勝ち目、無いんじゃなくて?」

背中が震えた。
どうやら、笑ったようだ。

「そのくらいの実力差、大したものでは無いよ。戦い方次第では、『ドット』が『スクウェア』にだって勝てる。最も、これは僕の言葉では無いけれど・・・」

ギーシュは、薔薇の杖を掲げた。

「でも、今から見せてあげるよ。『ドット』が『トライアングル』を倒すところをね」

呪文を唱える。

「ふぅん。『ドット』ねぇ・・・随分と、舐められたもんじゃないか!」

フーケが怒鳴る。
語気も荒くなり、すでに地が出ているようだ。

「一つだけ、予言しよう。君が、そこを動いたら、その瞬間に・・・勝利は、僕のものだ」

それで、切れた。

「ふ―――ふざけるなぁッ!」

ゴーレムの手が鉄に変化した。
そして、恐るべき速度で襲いかかってきた。

―――ドロ

ゴーレムの足が、泥に埋まった。

「どうだい。そんなに大きければ、それだけでもう、身動きがとれないだろう」

ギーシュは、フーケに向かって、言った。

「確かに、大きいということはそれだけで強い。だが、大きいが故の弱点も又、あるんだよ。・・・ワルキューレ!」

ギーシュが、ワルキューレを一体作り出す。
身動きがとれない、フーケのゴーレムの腕に、軽いステップで飛び乗り、走る。
だが・・・
フーケの口が、歪んだ。

「ふ・・・あはははは!とんだ浅知恵だね!そんなんで、このあたしを倒したつもりかい!」

一瞬のうちに、ゴーレムが崩れた。

「あんたも土のメイジなら分るだろう・・・ゴーレムはねぇ!土と精神力さえあれば、何度でも作れるのさ!」

ゴーレムの崩落に、ワルキューレが巻き込まれる。
そして、泥沼のわずか前に、巨大なゴーレムが作り上げられ始めた。

「わかっているさ」

ポツリ、とギーシュはつぶやいた。

「そんなこと、言われるまでもない。いや・・・むしろ、それを忘れているのは君の方じゃないのかな?」

ギーシュが、杖を振るった。

「な・・・に!?」

フーケの顔が、驚愕に染まった。
フーケの目前、一体のワルキューレが現れたのである。

「ゴーレムは土と精神力さえあれば、何度でも作れる!そう・・・例えそれが、他人が作った、『ゴーレムだったもの』だとしても!」

高らかに、宣言する。

「君がゴーレムを壊したその瞬間に、ゴーレムの体はただの土となる!20メイル以上の、巨大なゴーレムだ・・・ワルキューレを作るには、十分すぎる材料さ!」

ワルキューレは、その剣でフーケの杖を両断した。

「ぐ・・・がはっ!」

レビテーションも唱えられず、20メートル近くからフーケは落下した。
そして、『土くれ』の名の通り、土にまみれたフーケの目前には、ワルキューレがあった。

「フーケ。僕は、出来る事なら女性を手に掛けたくはない。そのまま引くというのなら、追いはしない」

「ぐ・・・くぐ・・・く・・・」

フーケは、ただ呻いている。

(勝った・・・ドットであるこの僕が、フーケに・・・トライアングルに!)

ギーシュの中は、喜びで満ちていた。
だが。

「ぐ・・く、くふ。くふ、くふ、くふふ・・・くははははははは!」

突然笑い始めたフーケ。
そして・・・その姿が、みるみる変質していく。

「そんな・・・」

そこには、30メイルは越えようかという、巨大なゴーレムの姿があった。

「おかしいったらありゃしないね!『ドット』が『トライアングル』を倒せるなんて、本当に思ってたのかい!」

ゴーレムより、100メイルは離れていよう、草の陰から、フーケは姿を現わした。

「ゴーレムを扱っているメイジは、無防備になる・・・姿を隠すのは、当り前のことさ!」

そう、それは当たり前だった。
『ドット』であるギーシュは、ゴーレムを遠距離から操るということは、難しい。
だが、フーケ程の使い手であれば、自分そっくりのゴーレムを作ることだって、あの巨大なゴーレムを、遠くから操ることだって、出来るに違いない。

「そう・・・だから、この前の時よりも小さかったのね」

キュルケが、呟いた。
さすがに、二体のゴーレムを操れば、ゴーレムの大きさにも限界ができるのだろう。

「さて。このゴーレムは、さっきのより随分大きいね。すると、さっきの『錬金』はより効果的になるわけだ・・・もう一度、やってみるかい?」

「う・・・」

ギーシュがたじろいだ。
当然だ。
不意を突かねば、簡単に『錬金』など防がれてしまう。
単純に、ギーシュの『錬金』の力よりも、フーケの『錬金』の力の方が上なのだ。

「ふふ。さて、それじゃあ・・・舐めて貰ったお礼でもしてやろうかねぇ!」

ゴーレムの拳が、振るわれる。

「ひ・・・」

逃げよう、と思った。
でも、足が動かなかった。

「この・・・馬鹿!」

キュルケが、力任せにギーシュを吹っ飛ばした。

「うわぁっ!」

あられもない声を上げ、ギーシュが吹っ飛ばされる。
キュルケの『ファイアーボール』と、ゴーレムの拳が真正面からぶつかった。
しかし、ゴーレムの拳は、炎を物ともせずに向かってくる。
それに、タバサの『エア・ハンマー』が横からぶつかった。
軌道が僅かに逸れ、キュルケはそこから逃げだした。

「無理」

ぼそりと、タバサが呟く。
同時に、モクモク、と煙が上がった。

「ち・・・目くらましか!」

フーケが叫んだ。
ゴーレムが、拳をぶんぶんと振りまわす。
それだけで、分厚い煙幕は薄まっていく。

「あのゴーレム相手じゃ、ちょっと戦力不足だわ・・・退くわよ!時間も稼いだし、多分、大丈夫よ!」

バサリ、とシルフィードがやってくる。
2人は、それに乗った。

「ちょ、ギーシュ!なにしてるの!早く来なさい!」

(わ、わかってる、んだけど、ね・・・)

だが、動けない。
体が、言うことを聞かないのだ。

「ご、ごめ・・・足、が」

「あぁもう!あんだけ大口叩いておいて、結局それじゃない!」

がくがく、と体が震えていた。
これが、初めての実戦だからだろうか。

(これが・・・命をかけた、戦い・・・)

自分の力が、通用しなかった。
危うく、殺されるところだった。
それを実感して、初めて体が竦んだ。
股間が、濡れた。

「全く・・・初めは、格好良かったのに」

「無様」

「あはは・・・このことは、師匠・・・勘助には言わないでくれよ。格好悪いからね・・・」

散々に言われてしまった。
でも、仕方無い。

(次こそは・・・)

師によれば、最強の系統である『土』、その使い手なのだ。
同じ無様は、もう許されない。


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