あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

もう一人の『左手』-18


「アルビオン……だと?」

「ええ、いま言った通りよ」
「本気で言ってるのか、ヴァリエール?」
 風見は、普段ルイズの部屋ではなく、コルベールの部屋に居候している。
 だから、今では、ハルケギニアの世情に、少しは詳しくなっている。そして、彼の知識によると、いまアルビオンは確か……。
「当たり前でしょう! こんな名誉ある任務をお断りするバカがどこにいるの!?」
 ルイズが、えへんと胸を張る。

 まあ、その気持ちは、風見にも分からないではない。
 幼馴染みとはいえ、王家の象徴たる姫殿下が、自分を頼ってくれた事が、ルイズにとっては誇らしくてたまらないのだろう。
 だから、コルベールを通じて、自分を呼び出したルイズが、嬉々として、王女に個人的な任務を命じられたことを話されたとき、風見は純粋にルイズのために喜んでやった。
……ルイズが、その“任務”の内容について話し出すまでは。

「気に入らんな」
 風見の態度に腹を立てたのだろう。ルイズの傍らにいた、美髯の貴族が、切り込むように言った。
 ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵。
 メイジの花形である王宮魔法衛士隊の一つ、グリフォン隊の隊長。アンリエッタが一行の護衛にと、直々に命を下した“風”のスクウェア・メイジであり、そしてルイズ・ラ・ヴァリエールの許婚者……。
「君は、使い魔のくせに、主が名誉の任務を与えられた事に不服なのか?」

 しかし風見は、そんなワルドの想像を絶した返答を、こともなげに返す。
「当たり前だ。お前らの名誉など、俺には関係ない」
「なっ……!?」
 自分を真っ直ぐ見つめて、そう言い返す『平民』に、ワルドは呆気にとられ、思わずルイズを見る。
 見られた彼女は、非常に済まなさそうな表情で、小さくワルドに謝る。

――そんな二人の貴族の様子が、壁にもたれて座り込んだ才人には、非常に、気に食わなかった。

 さっきまで才人は、ルイズと二人、とてもいい雰囲気だったのだ。
 オーケストラも照明効果も無い、寒夜の校庭だったが、才人とルイズにとっては、何にも勝るロマンチックなダンスパーティ。
 そして、部屋に帰ってからも、そのムードが続けば、――いかに不器用な才人であっても――行けるとこまで行けちゃうかも知れない。
 そんな淡い期待もあったのだが……その夢は、あっさり潰えた。
 それはもう、見事なまでに。
 部屋で彼らを待っていたお姫様――アンリエッタが、彼女に持ち込んだ依頼。
 それを聞いたルイズは、もはや才人の事など忘れたかのごとく、舞い上がってしまったのだ。

――まあ、それはいい。
『ゼロ』と呼ばれて久しいルイズが、いかに“名誉”に飢えているか、才人は知ってしまっている。
 だが、気に入らないのは、お姫様が連れてきた――ワルドとかいう男だった。
 一目で分かるモテ男オーラを発散する、精悍な美男子。
 彼を見た瞬間、ルイズが目を潤ませて頬を染め、声を上ずらせて眩しそうに視線を逸らし、つまり今まで才人に全く見せた事のない表情をしたのだ。
 いくら彼が、二次元の女性しか知らない鈍感でも、ここまで露骨だったらバカでも分かる。


 これは、恋する少女の表情だ。
 しかも、ただの恋ではない。好意と憧憬が組み合わさった、第三者には、ほぼ介入の余地が無い恋愛感情。
 名門に生まれ、他人を無意識に見下す少女が、『見上げる』形で表現する愛情表現。――いうなれば“恋慕”というべき感情。


 そして――その青年が、ルイズの許婚者であると聞いた時、才人は、足元がガラガラと崩れていくのを感じた。
 無論、崩壊したのは地面や床ではない。
 これまでルイズとの間に築いてきたはずの、絆のようなものが、である。
 しかも、その貴族が、将来を嘱望されるエリート・メイジだと聞いた日には。


「もう一度、状況を整理するぞヴァリエール」

「好きになさいよ」
 ルイズは、そっぽを向く。
“名誉”を解さぬ使い魔が、婚約者の前で自分に恥をかかせた事が、少女を苛立たせるのだろうが、風見は無論、彼女のそんな自尊心など意にも介さない。

「王女の命令とやらを平たく言えば、こうなる」

「内戦の真っ只中にあるアルビオンに出向き、レコン・キスタと名乗る反乱軍に包囲された篭城中の城に忍び込み――」

「侵入者である自分たちを信用させ、国交断絶を一方的に宣告した上で、手紙の返還を交渉し――」

「そして、再び包囲軍を突破し、制空権を支配された浮遊大陸から、無事に手紙を持ち帰る――」

「しかも、王女の個人的な極秘任務のため、国からの正式な紹介状は勿論、必要経費すら与えられず、王宮からの援軍は、このワルド子爵ただ一人のみ――」

「以上で間違いはないか?」



 才人は、あんぐりと口を開けていた。
 なんだそりゃ……!?
 アンリエッタが喋っている時は、ワルドとルイズに対する妙な絶望感で、ほとんど話を聞いていなかったが、――こうやって聞くと、身の毛もよだつ話だ。
 そんな任務を――いかに信用できる幼馴染みだからとはいえ――魔法学院の劣等生に命令するオヒメサマとやらに、才人は恐怖さえ覚えた。
 そして、それを“名誉”だと言ってはばからないルイズにも。
 そう思い、ちらりとルイズを見た才人は、さらに唖然とする。

 ルイズは――真っ青になっていた。
 風見に、無理やり話を“整理”され、自分が安請け合いした任務が、いかに困難に満ちたものかを、ようやく自覚したらしい。
(……ってか、分かってなかったのかよ、お前!!)
 才人は、そんなルイズの性格にも、かなりドン引きだったが、同時に安心もした。
 ルイズが、その任務の困難さを全て理解した上で、嬉々として命令を受けたのだったら、彼女の価値観は、あまりにも才人と異質すぎる事になる。
 彼は、自分が惹かれつつある少女の、そんな理解を絶した一面を見たくは無かった。

「きゃはははは!! コイツぁひで~や! おい、貴族の娘っ子!! オメエ実は、お姫様に恨まれてるって事はねえかぁ!?」
 やぶれかぶれな笑い声を上げるデルフリンガーに、ルイズがぎょっとしたような反応を見せる。
「なっ、なに言い出だすのよ、この錆び刀!!」
「だってよぉ、オレにはこの仕事、オメエに『死ね』っつってるようにしか聞こえねえぜ?」

「やめろデルフ!!」
 才人は、あわてて剣を無理やり鞘に収めたが、もはや場の空気は収拾しようが無い。
 彼はもはや、ルイズがどんな表情をしているか、確認する勇気さえなかった。
 なにせ、この剣が言った事は、この場にいる全員が等しく思っているはずのことだからだ。
 いや、全員……?

「そうだ。それが我らの任務だ」
 ワルドが、――彼だけは全く動じた様子も見せず、そう応えた。
 そうなのだ。
 この貴族だけは、任務の内容も何もかも承知の上で、ここにいるはずなのだ。
 にもかかわらず、何故そんな顔が出来るのだろう。
 格好つけてるだけ、じゃ、ない、のか……?
「大丈夫だルイズ、心配するには及ばない。君のことはぼくが守る。たとえ命に代えてもだ」
「子爵様……!!」

 ルイズが、そう言われて頬を再度赤らめた時、才人は無性に腹が立った。
 なぁ~にが『ぼくが守る』だ! 無責任なこと言いやがって!!
 守りきる前に、肝心のお前が殺されちまうケースを考えないのかよ!?
 戦場で、ルイズが独り、取り残されちまったら、どうする気なんだ!?

 そう思った瞬間、才人はふと、一つの疑問が頭をもたげるのを感じた。
「なあ、ルイズ」
「――え?」
 ワルドと見つめ合って頬を染めていたルイズは、弾かれたように、その照れた顔を才人に向ける。
――そんな彼女の様子が、ますます才人の癇に障る。だから必要以上に声に毒が込もった。

「なんでお前が行かなきゃならないんだ?」

「なによそれ、どういう意味よ……!!」
 ルイズの額に険が走る。
 返答次第じゃ、許さないと言いたげな目の色だ。
 だが、それ以上にイラついていた才人は、言葉を選ばなかった。

「だから――わざわざ、お前が行かなきゃならない理由が分からねえって言ってるのさ。そっちの護衛役の貴族サマが一人で行った方が、よっぽど成功率は高いだろう?」
「なっ……なんですってぇ!?」

 やばい!! やばいやばいやばいやばい!!
 脳が、ボリュームを最大にして、警報を鳴らす。
 これ以上は喋るな。これ以上喋ると、地雷に触れる!! 絶対に触れちゃあいけない核地雷に!!
 しかし、彼の理性はすでに、引っ込みのつかない嫉妬で破壊されてしまっていた。


「魔法が使えないお前が一緒に行っても、ぶっちゃけ、邪魔になるだけじゃねえか。そうだろ?」


 その瞬間、才人の身体は吹き飛んでいた。
 魔法で喰らったダメージとは全く違う、骨の髄までずしんと響く一撃。
 その一発のおかげで意識が飛び、壁に叩きつけられたおかげで、その意識が回復する。
 あとに残されたのは、切れた唇に折れた歯。
 才人は、自分が殴られたことに気付いた。
 殴ったのは、無論ルイズではない。ワルドとかいう彼女の婚約者だ。

「平民、貴様は言ってはならぬ事を言った。――もう一度同じ事をほざいてみろ!! 二度と、まともな口が利けない身体にしてやるぞっ!!」


 怒ってるよ、この大将。
 まあ、当然か? 確かに、こいつの言う通り、一番言っちゃあならねえトコロを言っちまったからなぁ……。
 フィアンセとしちゃあ、一発くらいブン殴りたくもなるよなあ。

 そう思った瞬間、才人は自分のコンディションを思い出した。
 全身数箇所に負った火傷と、度重なる無理な運動で、限界が近付きつつあったことを。
 その瞬間、痛みがぶり返した。
 しかし、この場で苦悶のうめきを上げることは、嫉妬によって歪まされた、彼の矜持が許さなかった。
 そこにワルドがいたから。
 そして、ワルドのさらに後ろに、ルイズが見えたから。
 才人は、……立ち上がった。

「なんだその目は? いまの暴言を取り消すつもりは無いとでも言いたげだな?」
 そう言いながらワルドが、つかつかと才人に近付く。
「待って、子爵様!」
 ルイズが才人とワルドとの間に、割って入る。しかし、彼女が才人の身体に僅かに触れた瞬間、少年の全身に電撃を浴びたような激痛が走った。

「~~~~~~~~~っっっ!!!!」

 思わずうずくまる才人。
「サイト……!? 大丈夫サイト!!」
「うるせえ触るなっ!!」
 ルイズは、痛みに悶える才人に手を差し伸べようとしたに過ぎない。だが彼は、そんな少女を突き飛ばし、思わず、そう叫んでしまったのだ。

 それは反射行為だった。傷口に触れようとする他者に対し、無意識が命じた防衛本能。
――だが、“絵”としては、これ以上ないほどに象徴的だった。
 少女に対する、少年の峻厳なまでの『拒絶』。
 当然、才人は次の瞬間に、自分の行動がとった意味を理解し、何かを言わんとする。
 いまのは違う。いまの言動に意味はない。おれに、お前を拒絶する意思はない、と。
 が、その瞬間、部屋に響いたワルドの声が、その声を掻き消した。

「平民、やはり貴様もルイズを侮るのか」

 愕然とワルドを振り返る才人。だが、そこにいたルイズの婚約者は、むしろ沈鬱な声で、才人に止めを刺す。
「貴様も使い魔の端くれならば、主が『ゼロ』という蔑称に、どれだけ心痛めているか、百も承知であろう。にもかかわらず、貴様は……!!」

――違う!! おれはそんなつもりはない!! おれはただ……!!
 だが、才人のその言葉も、ルイズの目を見た途端に、彼の咽頭で自壊してしまう。


「そう、――やっぱりそうだったのね……!!」


 彼女の目は、怒っていた。
 それは、短気なルイズが、これまで見せた事のないほどの深度の怒り。
 そんな目を見せられては、もう才人に吐ける言葉は、この世に存在しなかった。

「結局、なんだかんだ言って、――あんたもわたしのことをバカにしてたのね……? 貴族のくせに魔法も使えない『ゼロ』だって。何も出来ないくせに主ヅラした、鼻持ちならないチビだって。――そうなのね……!!」
「……ちがう……」
「あんたは……あんただけは違うって思ってたのに……、やっぱり他の奴らと同じだったのね!!」
「違うんだルイズ!! 聞いてくれ――」
「出て行って!! いますぐここから出て行って!! 二人とも、二度とわたしの前に顔を見せないでっ!!」

「わかったよ……」
 才人は、そう呟くと、うつむいたまま、扉の向こうに姿を消した。それこそ、主に見捨てられた犬のような表情をして。
 ルイズは、それこそ悪鬼のような表情で、才人を睨み付けていたが、彼の背が、そのまま部屋を出てゆくのを確認した途端、ベッドに突っ伏して泣き始めた。
 それはまさに、号泣と呼ぶに相応しい慟哭だった。


 風見は、そんな少年少女のドラマに、疲れたような溜め息をつくと、しばらく一人にさせてやろうという視線で、ワルドを誘い、廊下に出た。

「まったく――困った事をしてくれたな。おかげでぼくは、一晩中ルイズを慰めねばならなくなった。どうやら今宵は眠れそうもないよ」
 さっきまでの荘重な怒りはどこへやらといった風で、何事も無かったように軽口を叩いてくるワルドに、風見はやや戸惑いを覚える。
「あんたは、俺が気に入らないんじゃなかったのか?」
「はは……、そんな事はないさ。これでもぼくは、――さっきの少年はともかく――君らを買っているんだよ。あの『土くれのフーケ』を首尾よく捕らえたという、君たちルイズの使い魔をね」
「……」
「さっきの君の意見、あれはなかなか鋭い指摘だったよ。だからといっては何だが、おそらくフーケを捕らえる主軸となったのは、君なんだろう?」
「……いまは、そんな話をしている時ではないはずだ」
「ごもっとも。――で、何か話があったんじゃないのかい?」
「ああ。――あんたには、正直なところ、腹を割って話を聞きたいと思ってな」
「話?」
「今回のこの一件、成算はあるのか?」

「……ある」
 だが、――とワルドは付け加えた。
「その詳細を言うわけにはいかない。君たちは既に、ルイズによって一行から外されてしまった身だからね。策は密なるを以ってよしとする。“部外者”に、機密を洩らすわけにはいかないさ」
「“部外者”、か……」
 風見は、思わず苦笑する。
「ああ、気に障ったら許してくれ。――ともかく、ルイズはぼくが守る。なにしろ彼女は、我が愛しの婚約者だからね。君たちも、大船に乗った気分でいてくれたまえ」

 その笑顔には、確信があった。
 風見は、何故ワルドが、この危険な任務に、そこまで確信をもてるのか分からなかったが、……それでも、彼の言葉と表情は、風見から不安を奪った。
「本当に、俺たちがついていかなくていいんだな?」
 その言葉を聞いて、今度はワルドが苦笑する。
「いまさら、ルイズが君たちの同行を許すとは思えんよ。彼女を心配してくれるのは嬉しいが、――まあ、任せてくれたまえ」


 翌朝、払暁――ルイズは校庭に降り立った。
 ワルドの騎乗するグリフォンに乗って、出立するために。
 彼女は、その瞬間、何かを訴えるような目で、母校を見つめたが、――やがて、決意したように振り返り、ワルドに言った。

「行きましょう子爵様。アルビオンへ」

 だが、彼女の傍らに、その使い魔たちの姿はない。


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