あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのロリカード-07


「ぎぃやぁぁぁあああああああああああああ」

 先の本屋とは違い、乱雑に並べ立てられた武器の数々。手入れされているのかも疑わしい品々。
店内の明かりの少なさもそれを目立たなくする為なのか、かなり薄暗い。
そんな武具屋に一人の男の慟哭が響き渡った。

「なんだ、折れてしまったではないか」
小柄な体躯にキリッと鋭い紅い瞳、黒い髪を腰より長く伸ばした少女は悪びれず言い放った。
その手には大剣があった。宝石に彩られ装飾された黄金色の大剣、誰の目から見ても高そうなシロモノである。
尤も、真っ二つに折れているので武器としては当然もう扱えない。

「なんてことしてくれやがんだ、このガキッ!」
悲鳴を上げていた店主の親父は、一転して少女アーカードを怒鳴りつけた。
もう一人の少女ルイズはその光景に呆れた表情で眺めていた。

「この剣の代金はきっちり頂くからなッ!」
店主はルイズに向かって叫んだ。目の前の平民で使い魔である少女に支払能力があるとは思えない。
ルイズは見た目も貴族でアーカードの主人である。供の不始末は主であるルイズが負うべき責任として訴えたのだ。


「待て、親父。それはおかしいだろう」
「ああ?」
店主は青筋を立てながらアーカードの方へ向き睨めつける。
己は当然の主張をしていると言うのに、目の前の少女は一体何を言い出すのか。

「貴様は先程なんと言った?この剣は鉄をも斬れると言ったのだぞ?」
「だからどうした!」
店主は頭に血が上っている所為かいちいち語調が荒い。
こんな単純な事もわからないのかと、アーカードはうんざりしつつも言葉を付け加える。

「だのに、こんな簡単に折れる筈はなかろう?」
「なっ・・・・・・」
その言葉に頭に上っていた血が少しずつ下っていく。

 アーカードはそのまま店主を威圧しつつ言葉を続ける。
「鉄をも斬れるという剣が、私のような華奢な少女が触れただけで折れるとは摩訶不思議だのう?」
「ぐっ・・・・・・」
店主は言葉に詰まった、よくよく考えれば確かにそうだ。
魔法で折ったとかならいざ知らず、屈強な男が折ろうったって折れるモノではないはずだ。
それを少女が軽々とやったなんて本来ならば有り得るわけがない。魔法を使うにしたって詠唱がいる筈である。
折られた瞬間は目の前で見ていた、つまり魔法が使われてないという証人は自分自身であった。

「つまりこの剣は紛い物、さらに言えば貴様はそれを売りつけようとした詐欺師というわけだ」
悪魔のような笑みを浮かべ、アーカードはカウンター越しに店主へとにじり寄った。
「貴族様を騙して金を毟り取ろうなどとするとは・・・・・・のう?」


 そんな気はさらさらなかった、だが結果的にそうなった。
今更ながら事の重大さに気付き、店主の親父は冷や汗がとめどもなく溢れ出す。
貴族を謀り陥れようとするなど、下手をすればその場で私刑にされても文句は言えない。
親父はすぐに弁解すべく口を開いた。

「も、申し訳ありませんでした!そんなつもりはなかったんです。折れちまったのも本当にたまたまで・・・・・・」
「がはは、いい気味だな」

 あらぬ方向から聞こえた突然の声に、アーカードとルイズは声の出所を探す為振り向く。
「今取り込み中だから黙ってろ、デル公」
店主は乱雑な店内の、さらに乱雑に置かれた方へと向き、声高に言った。
「けっ、おめえがでけー声を出すから起きちまったんだよ!」
その方向からレスポンスがあるが、アーカードにはわからない。
しかし知識のあるルイズは、すぐに発声者にあたりをつけた。
「・・・・・・随分とうるさいインテリジェンスソードね」

 アーカードにもようやく状況が掴める。人間ではなく、"剣"が言葉を発していた。
意思を持ち喋る剣。アーカードのいた元の世界には存在しない、自己意識を持った武器。
剣が喋るなどと、魔法の世界ならではなその存在にアーカードは多分に興味を引かれる。
否、正確には思い返せば昔、夢の中で妙なモノが出てきたような記憶もあったが・・・・・・それは無視することにした。

「ほほ~ぅ、これは・・・・・・」
アーカードはツカツカと歩み寄り、そのインテリジェンスソードを手に取る。
「なんだあ?嬢ちゃん」
「おお!本当に喋っているのだな」


 インテリジェンスソードの言葉に、素直に感情を露にするその姿は見た目相応なただの少女に見えた。
五百年強ほども生きたらしいアーカードにとっても、やはり異世界には未知が溢れている。

「己が意思で話す無機物とは面白い」
「おうおう、無機物たあ言ってくれるねえ。このデルフリンガー様をなめんなよ」
「デルフリンガーか、私の名はアーカードだ」
自己紹介をしつつデルフリンガーをアーカードは手に取る。
手入れもされていないその刀身は汚く、この上なくみすぼらしい。
「・・・・・・なんかおめえ、見た目の割りに随分と風格があんなあ」
「はっはっは、見た目よりは長生きしているからな」

 談笑をし始めるアーカードとデルフリンガーを尻目に、店主の親父は一息つく。
詐欺の言及が止まったことに。駄剣が少女の気を引いてくれたことに。
投売り品なものの一向に売れず、しかもうるさくて迷惑だった剣に初めて感謝をする。
そこで親父は閃く、先の詐欺容疑を許してもらいつつ厄介払いも可能かもしれない一石二鳥のアイデアを。


「アーカード、それ買ってあげようか?」
アーカードの様子を微笑ましげに見ていたルイズが口を開いた。

「おおそりゃ名案だ貴族の娘っ子。アーカード、俺を買え」
「ふむ、そうだな」
「なんといってもおめえさんは『使い手』だ、俺が使われるのは後にも先にもガンダ――――――」
「ッッッ!?ちょっと待ったァ!」

 自分が考えた案が台無しになるような気がして、親父は反射的に叫ぶ。
「うるさい」
「うるさいわね」
「うるせーな」
三者三様のうるさいの一言に、店主は一瞬たじろぐものの続けた。

「し・・・・・・失礼しました。実はですねそちらのデルフリンガーのことで、その・・・・・・ご購入して頂かなくとも無償でお譲りしようと思いまして」
「ふむ?」
「本来ならば新金貨で300ほどですが、先ほどのお詫びということで無料で差し上げます!ですのでどうかご容赦願えないでしょうか」

 値引きして売りつけようなどと、欲目は出さない。
しかし新金貨300というのはデタラメであった。実際はその半分以下、否1/3以下の値段で売っても良いもの。
むしろやかましいので、捨てても良かったくらいだったモノだ。
倍値以上を言ったのは商人の性であり、なにより相手に印象づける為の方便。
安物ではぐらかされたと思われては困る、しかし乱雑に置かれていた以上余り大きな値はつけられない。
そのギリギリのラインで、店主は先刻の詐欺の嫌疑を清算しようと考えた。

 アーカードは少し思案したが、すぐに決断する。
そも折れた責任の一端はアーカードのパワーの所為でもあるので、本気で言及し賠償を求めるつもりもなかった。
ついつい芽生えた嗜虐心ですこ~し精神的に追い詰めてやろうと思っただけなのだから。
とはいえ、貰えるものは貰っておく。

「んむ、まぁいいだろう。私もこれが気に入った、さきの無礼は許そうじゃあないか」
「ケッ俺様に感謝しろよ」
デルフリンガーの言葉に青筋が増えるものの我慢する。ここで怒っては全てが水の泡になりかねない。
店主は後ろ手に握りこぶしを作りつつも必死に堪えた。


「さて、最早見るべきものも・・・・・・ないな」
軽く店内を見渡す。一段落ついたところで、依然として乱雑な店内に長居しても仕方がない。
「それじゃ出ましょうか」
ルイズが告げる。デルフリンガーを鞘に入れ、紐を肩にかけて背負うとアーカードは頷いた。

 貴族とその従者。
二人の少女が店内から出て行くのをしかと見届けてから、店主である親父は肺に溜まっていた空気を深く吐き出した。
台風一過よろしく、傍若無人な少女達からの解放感と乗り切ったことへの達成感。
その二つにより親父の心の中は非常に晴れ渡っていた。


「鬼ね、アンタ」
「吸血"鬼"だしな」
「ああ?アーカードおめえ吸血鬼なのか?」
鞘に納められたデルフリンガーが顔にあたる部分らしきものを出す。
「なんだ、人間でないのは抵抗があるか?」

「へっ、俺は所詮使われるだけの"盾"だ。別におめえさんが何者だろうが興味はねえやな。
 貴族だろうが平民だろうがエルフだろうが吸血鬼だろうが、『使い手』には違えねェしな」

 本当に興味なさそうにデルフリンガーは言う。

「ちなみに秘密だぞ、知られると面倒だからな」
「おうよ」
デルフリンガーは間髪入れず答えた。
その返答に満足にアーカードは頷き、続いて質問をした。

「さて、店の中でも『使い手』と言っていたな。どういうことだ?何か言いかけてたようだったが」

「俺を昔振るっていた『使い手』は『ガンダールヴ』、おめえも『ガンダールヴ』。それだけのことさ。
 今も昔も俺はガンダールヴの"盾"。白兵戦を旨とするガンダールヴがその左手に持つ、"魔法を吸収する盾"なのさ」

「なるほど喃。魔法を吸収できるのか、それは便利だな」
とりあえず納得する。かつてのガンダールヴが使っていた剣。
何の因果か・・・・・・廻り巡って、今この手の中にあるとは。とてつもない確率だろう。

「おう。しかも吸った分だけガンダールヴの体を動かしたりも出来る、超便利な剣だ」
「ほほぅ、ますます興味深い」

「・・・・・・ガンダールヴ???」
会話を横で聞いていたルイズは、二重の驚嘆と猜疑心で呟く。
さっきから飛び交っている単語と光景が、自分の中で信じられない。

「あっ・・・・・・」
一応主には隠していたことだったので、不可抗力とは言えアーカードはしまったと思った。
しかしすぐに思い直した。まぁ別にいいか、と。


 一方ルイズは思考を巡らせていた。
中古品であるデルフリンガーの昔の『使い手』は"ガンダールヴ"。
"ガンダールヴ"とは、伝説の始祖ブリミルの使い魔の内の一人。
仮にそんな人物に使われていたのならば伝説級の剣である。
そして「おめえもガンダールヴ」とは、即ちアーカードがガンダールヴ?

「デルフリンガー、何故私がガンダールヴだとわかった?」
「ガンダールヴの剣がガンダールヴをわからないなんてあるわけねえやな」
アーカードは手を顎に当て少しだけ考える。
「ふむ、道理・・・・・・か?」
「そんなもんさね、相棒」

 アーカードがガンダールヴであると看破した以上、デルフリンガーが本物である確率は高い。
いやそもそもアーカードがガンダールヴ?でもアーカードは否定していない。
だとすれば目の前のたった今、伝説の使い魔のルーンが刻まれた吸血鬼と伝説級の剣が揃っていて、しかも談笑をしている。
信じられる筈もなかった。自分の知っている限りではガンダールヴを召喚した人なんて、始祖ブリミル以外に聞いたことが無い。
そんな伝説そのものを己が使役し、尚且つたまたま寄った武具屋にかつてガンダールヴが使った剣があってそれを手に入れた。
自他共に認める無能な自分、落ちこぼれの自分、劣等な自分、嘲笑や侮蔑の対象になってきた自分が一体・・・・・・何故?

 そこらの使い魔じゃ決して相手にならないであろう、恐ろしく強い吸血鬼であるアーカードを召喚できただけでも十分過ぎる。
その上アーカードがガンダールヴでさらに伝説の剣までついたなんて、一体なんの間違いなのか。
自身のこれまでの、そしてこれからの運を全て使ってもそんなことが有り得るのか。
何だかどんどん劣等感が膨れ上がってくる。プレッシャーが圧し掛かる。


「どうした?」
ポンポンッと頭に手を置かれルイズはアーカードを見る。
「なんら気にすることはないぞ」
今のルイズの不安定な精神状態を察して、アーカードは励ましてくれているのか。
人ならざる者でもやはり全幅の信頼を寄せられる相手なのだ、この吸血鬼は。

 アーカードはコホンと咳払いをし、ニヤリと顔を歪ませた。
「魔法成功率は限りなく0に近く、根拠のない無意味な自信で起こす爆破ミスはどこまでも果てしない。
 なにかにつけてプライドが高く、善良な生徒の生活を脅かすこと犯罪の如し。
 この前もこの前とて、円滑な授業の進行を徹底的に挫滅轢断。まさに人災権化。
 なにゆえ学院はこのような爆発女を生徒として扱っているのか、一般生徒と教師は悲痛に叫ぶ。平穏な学園生活を返せ!」

「かふっ」
ルイズは吐血し地面に倒れた。
反駁する隙間のない、的を射たあまりに容赦ない口撃に。
「ああ!血がもったいない」
アーカードは反射的についつい叫んでしまう。

「あ・・・・・・アンタねぇ・・・・・・」
ルイズは震えながらも立ち上がり、恨めしげにアーカードを睨みつけた。
アーカードは華麗にその視線を受け流し、悪びれた様子もなく手を伸ばした。
渋々その手を掴み立ち上がる、左手のルーンが目に入った。これがガンダールヴの印なのか。

「まぁさっきのは半分冗談として・・・・・・」
「うぅ・・・・・・半分は本当ってことね」
悪態をつきたくなる。
が、往来で恥を忍ばず罵倒するなど貴族のすることではないと自制する。
それに・・・・・・事実だ。

 アーカードはフフッと笑った後、大きく息を吸い、そして吐きだす。
その次の瞬間には先程とはうって変わり真剣な表情になっていた。
ゆっくりと口を開き、宣誓のようなその言葉を紡ぐ。

「仮に主自身が無能でも、私を使役しているのだ。主に降りかかる敵意はその悉く全てを露の如く払ってやろう。
 あらゆる災難災厄からでも主を守れる自負もある。主従の契約を交わした以上、私は主を絶対に裏切りはしない。
 我が主ルイズ、貴方は私にただ命令を下せばいい。仮に世界を滅ぼすことを願えば、黙ってそれに従おう。
 ただただふんぞり返っているだけでも、私は死ぬまで主に付き従いその望みを果たしてやろう」

 アーカードの紅い瞳がルイズの鳶色の瞳を真っ直ぐに見つめる。その奥には微塵にも嘘は感じられない。
その発した言は巫山戯でも冗談でも酔狂でもない、本気の、本当の、心の底からの言葉なのだとわかる。
アーカードは一呼吸を置いた後、さらに続けた。

「だが・・・・・・な、私は足掻く人間が好きだ。自己を磨き、研鑽し、努力し続ける者は例外なく美しい。
 絶望的状況の中でも決して諦めなかった者を、私は幾人も知っている。
 『あきらめ』が人を殺す。あきらめを拒絶した時、人間は人道を踏破する権利人となるのだ」


「さっすが相棒、含蓄のある言葉だねえ」
デルフリンガーが口を出す、ルイズはアーカードの言葉を心の中で反芻していた。
そしてその意図を理解する、なんだそんなことか。
「ふんっ!そんなこと改めて言われなくったって大丈夫よ」
「そうか、それでこそ私が仕えるべき主だ」

 アーカードは微笑んでまた手をルイズの頭の手に置いた。
子ども扱いされてるようだったが、不思議と気分は悪くなかった。
それもそうか、幾百年を生きてきたアーカードにとっては、ただの人間なぞ皆子供どころか赤ん坊のようなものである。

 その後も少女二人と喋る剣、妙な取り合わせで黄昏時になるまで街を歩き、帰路へとついた。
余談であるが、武具屋の親父は二人の少女が去った後、折られた大剣の損害に気付いて三日ほど涙で枕を濡らしたという。



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