あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

もう一人の『左手』-16


<フリッグの舞踏会、PM9:15>

「――あのばか犬……!!」
 ルイズは、一人呟いた。

 ドレスに着飾り、普段あまり熱を入れない化粧にも時間をかけ、持ち前の高飛車オーラを、普段余り見せない淑やかさでカバーした彼女は、確かに美しかった。いつもの彼女を知らない者たちには、――神々しい、とさえ見えるほどに。

 それまで彼女を、ただの劣等生としか見ていなかった、この学院の男子生徒たちが色めきたったのも、むべなるかな。彼らは、この少女・ルイズ・ラ・ヴァリエールが、元来、校内屈指の美少女であった事実を、ようやく思い出したのだ。
 当然、紳士たちによるダンスの誘いが殺到したが、ルイズは、それらの甘い言葉を、普段はまるで垣間見せぬ優雅な振る舞いで、――拒絶し、壁の花に甘んじた。

「ちっ、なんだい。『ゼロ』のくせに、お高く止まりやがって」
 少年たちは、この美少女が――物腰こそ典雅ではあっても――自分たちなどまるで眼中にない事に気付くと、次第に彼女を敬遠し、距離を取って毒づいた。
 そして女の子たちも、自分たちの恋人・彼氏の視線を、一時ではあっても独占した彼女を、当然のごとく冷たい目で見た。
「ふん、何よアレ、『ゼロのルイズ』のくせに」

 しかし、ルイズはもとより、そんな視線など気にもしていなかった。

 いや、それはこの場だけの話ではない。今では以前ほど、彼らに『ゼロ』と呼ばれる事が気にならなくなってきている。それは確かだ。
『ゼロ』呼ばわりされる事に慣れたわけではない。
 ただ、彼ら同級生たちに何を言われ、笑われても、ムキになって感情を爆発させるのが、バカバカしくなってきただけだ。

「ねえねえ、『ゼロ』のルイズって、たしか今日の品評会の、あの……?」
「おお、あれあれ、――メイジを知りたきゃ使い魔を見ろって言うけど、あそこまでアレだったら、むしろ哀れすぎて言葉も出ねえよ」
「姫殿下の御前で、あそこまで使い魔に恥をかかされたら……わたしだったら、殺してしまうかも知れないわ……!!」
「姫様、ウケてたけどな」
「むしろ、ウケてたの、姫様だけだったじゃねえか」


 級友たちが、才人の話をしている。
 まあ、今日の品評会で、あのバカがやった事を思い出したら、その程度の噂は当然だったが、……それでも、あんな奴らに才人を悪し様に言われる筋合いは無い。その怒りは、むしろ自分が『ゼロ』呼ばわりされた時よりも深いものだった。
 だが、それと同時に、こうも思う。
(しょせん、あいつらにサイトの価値は分からない)
 そう思うことで、彼女は僅かながらに、溜飲を下ろした。

――確かにルイズは変わったかも知れない。

 これまでルイズは、彼ら級友たちの輪に、なんとかして入りたいと思っていた。
『ゼロ』と呼ばれ、馬鹿にされ、親しい友人すら作れず、それでもルイズは、彼らに認められることを望んだのだ。彼ら同級生たちはイヤな奴らであったが、それでも、彼らは貴族――自分と同じ世界の住人だったからだ。

 逆に言えば、これまでの彼女にとって、貴族たちのいない風景は、『世界』ではなかった。
 だから、たとえ自分と同じく魔法が使えない者たち――平民たちと交遊するという選択肢は、完全にルイズの発想の外だった。何故なら『平民』たちは、彼女の世界の住人ではなかったからだ。

 だが、ここ最近、彼女の思考回路は、確実に変わりつつあった。
 たとえ、どれほど名門の貴族であっても、優秀なメイジであっても、人間の価値は、そこにはない。才人や風見を身近で見るにつけ、彼女は無意識の内に気付いてしまったからかもしれない。

 現に、ついさっきまで、自分を『ゼロ』と白眼視していながら、ちょっと着飾って現れれば、それだけで掌を返したように、次から次へとダンスを申し込んでくる、軽薄な男たち。
 そして断られれば、その傷付けられた、ちっぽけなプライドを癒すために、いとも簡単に、返した掌を再度ひっくり返すことに、何の躊躇も恥じらいも持たぬ者たち。
 彼らはまぎれも無い貴族――自分が所属し、それを認めてもらう事を切に願った者たち――なのだ。
 そんな連中の視線に、いちいち反応する事に何の意味がある? 
 ルイズは、級友たちへの失望とともに、いつしか、そう考えるようになっていた。

 しかし、ルイズが、彼らを拒絶したのは、ただそれだけではない。
 彼女が心に決めた今宵のダンスパートナーは、彼らならぬ、ただ一人の少年だけだったからだ。その彼のためだけに、少女は一張羅のドレスを引っ張り出し、不慣れな化粧に時間を費やしたのだから。
 この頑固な少女は、その事実をあくまで認めたがらないであろうが。

 しかし、その少年――平賀才人は、いま、ここにはいない。



<フリッグの舞踏会から8時間前>

 晴天に恵まれた『使い魔品評会』も、いまや佳境を迎えていた。
 次から次へと登場する、種々様々な使い魔たち。
 そして、その使い魔たちの“芸”を誇らしげに見せつける、若きメイジの卵たち。
 しかし……にこやかな笑顔の下で、その実、アンリエッタの目は、ほとんど何も見ていない。
 アニエスだけが、それに気付いていた。

 アニエスは、アンリエッタの近侍として仕えるようになって、はや数年経つ。
 警護役――というわけではない。
 彼女が騎士に叙勲され、『銃士隊』を束ねるようになるには、さらに時を待たねばならないからだ。
 だが、それ以前から彼女は、アンリエッタの信頼深き侍従として、つねに女王の近くにあった。
 平民上がりではあるが、彼女の硬骨で頼りになる人柄や、つねに冷静で、機転が利く判断力が、王女は気に入っているのだろう。、

 毎年恒例のこの行事。
 アンリエッタの従者として、アニエスがこの品評会を鑑賞するのは、今年で5回目になる。
 だが彼女たちが、純粋に品評会を楽しめたのは、最初の二回までだった。

 学生たちが召喚した、色々な使い魔たちは、確かに興味をそそられて然るべきだ。
 だが、――彼らは、その使い魔に『何をさせるか』という一点において、ほぼ哀れむべきレベルで、発想が貧困だった。

 サラマンダーが炎を吐き、鉄塊を溶かす。
 バグベアードが、その巨大な瞳で、人に催眠をかける。
 バジリスクがその猛毒で、巨大な牛を噛み殺す。
 ジャイアントモールが地中を掘り進み、地面にバラ撒かれた宝石を、一粒残らず拾い集める。

 確かにスゴイ、と思う。
 本来なら、滅多にお目にかかれない生物が、その特性を生かして“芸”をしてみせる姿は、とても微笑ましいものがある。
 しかし、――しかし、だ。
 鳥が空を飛ぶのを見て、感動する者がいるだろうか?
 いるとすれば、それは鳥という生物を、生まれて初めて見た者だけだ。
 そして悲しい事に、毎年この品評会に招かれているアンリエッタたちには、もはやメイジの使い魔として召喚される生物の大半に見覚えがある。だから、その使い魔を見れば、どんな“芸”をするのか、できるのかが、大体予想がついてしまうのだ。
 なぜなら、品評会に参加するメイジのほとんどが、その使い魔が『出来る事』しか、やらせようとはしないからだ。


――もっと、いい意味でわたしを裏切ってくれる者は……やはり今年もいませんでしたね。


 そう言って、帰途の車中で寂しく笑うアンリエッタを、もうアニエスは見飽きている。
 その思いは、例年通り、今回もまったく変わらない。


 だか――それでもアンリエッタは、笑顔と拍手は欠かさない。
 アニエスと二人きりの状況ならば知らず、公の場での彼女は、見事なまでに王女のままだった。
 つまらない“芸”を、さも誇らしげに披露しながら去ってゆく学生たちに、いかにも感動したという態度を、何があっても崩さない。
 この場で“芸”を披露してくれている彼らの根幹にあるのは、王家と自分に対する忠誠心であると、アンリエッタは深く理解しているからだ。
 忠誠を捧げてくれる者に、礼を返すのは、王族たる者の義務である。そして、この場における礼とは、彼らに対する、いかにも感動したという“演技”に他ならない。
 それが、自分がここにいる意味だと、彼女は理解しているからだ。
 そんなアンリエッタを、アニエスは素直に誇りに思っていた。

 アニエスにとって、王女とともに出席を義務付けられている退屈なイベントなど、この品評会以外にも、掃いて捨てるほどある。
 だから、彼女にとって、退屈が不慣れだというのば、ほぼ嘘に近い。
 しかし、それを言うなら、自分以上にアンリエッタとて同じ事だったはずだ。
 彼女は王族だ。退屈を退屈として楽しむ術くらいは身に付けている。だから、本来ならば、毎年恒例の退屈なイベントも、それなりに楽しく過ごせていたはずだったのだ。
――去年までは。

 だが、今年に限って言えば、アンリエッタにそんな余裕は感じられない。
 一見、その笑顔も眼差しも、いつもと何も変わらないように見える。
 だが、それでもアニエスには分かる。主の笑顔の下に隠された、焦りや苛立ちが。
 彼女に何があったのか――それは一介の従者でしかないアニエスには分からない。
 いまのアニエスに出来る事は、せめてこの退屈な品評会が早く終わり、主が自分に、その胸中を相談してくれる事を祈ることくらいなのだ。

(あと何人ガマンすればいいの……?)
 そんな思いを、顔に出さないように、懸命に努力しながら、参加者名簿をちらりと見る。
 その時、アンリエッタは初めて気付いた。
 自分が、ここに来た目的であるはずの彼女が、この品評会にエントリーしていない事を。
(おかしいわね……。何故ルイズの名前が無いのかしら)
 彼女はさり気なく、学生たちが座る客席に目を向けた。

 ルイズは、いた。
 彼女のピンク色の頭髪は、遠目にもよく目立っていたので、あまり視力のよくないアンリエッタにも、すぐに彼女は見つかった。
 しかし、……何故かルイズは席には座らず、後方の塔の壁にもたれて、ぼんやりとしていた。
 いや、その隣に、もう一人誰かいるようだった。
 青い髪をした、眼鏡をかけた少女が。


「ねえ、タバサ」
「なに?」
「あなた、なぜ品評会に参加しなかったの?」

――そう、今回の『使い魔品評会』にエントリーしていない生徒が、自分以外にもいたと聞いて、ルイズは驚きを禁じえなかったが、……それがタバサと聞いて、妙に納得してしまった。

「興味ない」
 まるで測ったように予想通りの答えが返ってくる。
 まあ、この子なら、そう言うだろうなと思いつつ、問いを重ねてみた。
「興味ないって……優勝すれば、姫様から直々にお言葉を頂戴できるのよ? それに賞金も入るし……第一、シルフィードなら普通に優勝を狙えるじゃない?」
「興味ない」
「それは、姫様のこと? それとも、賞金のこと?」
「両方」

「……あんまりそういう事、他人に言わない方がいいわよ」
 予想通りとは言え、さすがに何の躊躇もなく、そういう事を言われてしまうと、ルイズとしても、眉をひそめざるを得ない。
 アンリエッタ姫は、ルイズにとっても、かけがえのない“幼馴染み”であり、それ以上に、崇拝してやまない忠誠の対象だからだ。
 しかし、タバサはそう言われても、本から顔を上げようともしない。
 ルイズは、溜め息をついた。

 この子は、目立つのが嫌いらしいというのは、雰囲気で分かる。
 だから、この学院の一大イベントを、こともなげに欠席できる。
 自分と違って、アンリエッタ姫に、特に思い入れも無いようだ。
 そう思って、ルイズは思い出した。
 このタバサは、キュルケと並んで、自分たちの学年のたった二人のトライアングル・メイジであったことを。
 タバサほどの魔法の才があれば、誰かに認めてもらいたいなどと、切に願った事など無いのかも知れない。
 ルイズは、ぼんやりとそう思った。


 ふと舞台に目をやると、モンモランシーのカエルが、喉を鳴らして、曲を演奏しているようだったが、ルイズはすぐに見るのを止めた。
 モンモランシー自身ガチガチに緊張しているようだったし、何より曲自体、音もリズムもバラバラで、聞くだけで頭痛がするような、ひどいメロディだったからだ。
 確か、プログラムによると、彼女がトリだったはずだ。
 なら、ようやく、この品評会も終わりということか。

 結局、風見は見つからず、品評会への参加を命じる事は出来なかったが、まあ、彼への苦手意識が払拭できないルイズは、ある意味、風見に逆説教を受けなかっただけ、幸運かも知れないと、自分を慰めた。
 ルイズは、自分の席に戻るべく、壁際を離れた。
 タバサはまだ本を広げていたが、声をかける気にもならなかった。

 来賓席のアンリエッタをちらりと見る。
 彼女は舞台を一心不乱に見ているようだった。
 さすがに一国を背負う者は違う。あんな、見るも無残な芸であっても、真摯に聞く態度を崩さない。
 席についた頃、ようやくオールド・オスマンの終了の挨拶が始まったようだった。

 その時だった。


「ちょっと待ったぁっ!!」


――どこかで聞いたことのある声だった。
 ふと舞台に向き直った瞬間、ルイズは驚きのあまり、のけぞり返りそうになった。
 彼女のよく知る少年が、何より、ここにはいないはずの少年が、舞台に上がりこもうとしていたのである。

「サイト……あの、ばか……なんでここに……!!?」

 ルイズは知っている。
 彼のパーカーに覆われた包帯の下は、再び開いた火傷の傷痕からの出血と化膿で、ぐずぐずになっており、決して無理が出来るコンディションではないということを。

 才人は、抜き身のままのデルフリンガーを片手に持ち、舞台の中央に陣取ると、そこにデルフを突き立てた。
 そして、そのまま来賓席に向き直り、呆気にとられているアンリエッタに、
「お初にお目にかかります、お姫様。おれはヒラガサイト。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ラ・ド・ヴァリエールの使い魔でございます」
 そう言うと、深々と一礼する。

(間違えてるし! アイツ御主人様のフルネーム、間違えてるし!!)
 何をする気だ、あのバカは!?
 ルイズの拳は震えていた。


 <フリッグの舞踏会終了から2時間後>

「お隣、空いておられますか?」
 そう言って、ボックス席の差し向かいに座ってきた青年に、男は、いぶかしげな目を向けた。

 ここは、トリステインの城下町――トリスタニアにある、とある大衆酒場。
 男は店の隅にある、一番おんぼろなテーブルに陣取り、酒を飲んでいた。

『酒神(バッカス)の盃亭』と名付けられた酒場の主人は、男の人間離れした怪力を見て、二つ返事で彼を用心棒に雇ったが、すぐにこの契約が失敗であった事を悟った。
 なにせ男は何もしない。トコトンなまでに何もしない。
 眼前で、客が喧嘩を始めても、酔った貴族が、店付きの娼婦にからんでも、ただ黙々とまずそうに酒盃を嘗めるだけだ。
 その凄まじい怪力を、目の当たりにしているだけに、主人は今更クビだとは言えない。
 解雇を直接宣告するには、男が不気味すぎるという点がある。
 また、それ以上に、まだ雇って二日しか経っていないという事実もある。もう少し様子を見よう。――主人は、そう妥協した。

 そんな晩だった。
 その、得体の知れない用心棒の前に、青年が現れたのは。

 青年――たしかに、若い男だ。
 羽帽子を目深にかぶっているが、その隙間から見える眼光は、鷹のように鋭く、顎まで伸びた見事なヒゲは、まるで『三国志』の関羽のようだ。そして、その動きのしなやかさは、体術にも、相当な心得があるように感じられた。

「席なら、向こうにいくらでも空いてるだろ。消えな」
「いえ、わたしはここに座りたいのです。――と言うより、貴方と一緒に酒を酌み交わしたいのです。いかがです?」
 しかし、男は、青年の馴れ馴れしい発言の裏にある、かつて嗅ぎ慣れた匂いを思い出した。
「おめえ、メイジか?」

 間違いない。マントこそ羽織っていないが、他人に命令する事に慣れた声音――貴族独特の傲慢な空気が匂ってくる。
 どこかに杖を隠し持っているのだろうが、――まあ、どっちでもよかった。
 男にとっては、眼前の青年が、たとえスクウェア・クラスであっても、全く怖くはない。
 ただ、怖くは無いが、気に入らないのも間違いない。そして男は、自分が気に入らない者と、酒を飲む習慣は無かった。
「失せな。俺はメイジが嫌いだ」

 男がそう言うと、青年は静かに微笑んだ。
「確かにわたしはメイジです。しかし、貴方ほどのお方が、一介のメイジを嫌う理由は無いでしょう? 仮にも、伝説の魔獣として、一国を滅亡の淵まで追い込んだお方には」

 男はピクリと眉を潜めた。
 が、青年は意にも介さず、男の、空になったグラスに酒を注ぐ。
「貴方の、そのお力をわたしたちに、今一度お貸し願いたいのですよ、魔獣殿。――いや、『破壊の杖』の悪魔殿、と呼んだ方が宜しいですかな?」

 男は、無言で目を細めた。。
 眠っていた獅子が、むくりと起き上がったかのような、凄絶なまでの迫力があった。


「自殺しに来たのかい、坊や」


 しかし青年は、眼前の男――改造人間カメバズーカこと、平田拓馬の炎のような“気”を受けて、顔色一つ変えない。




新着情報

取得中です。