あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの魔獣-24


慎一の脳裏に、苦い記憶が甦る。
地球での戦い。 十三使徒の生み出した津波に巻き込まれた仲間。
再び少女の下に辿り着いた時、彼女の死は免れられぬものであった・・・。

あの時に比べれば、今の事態にはまだ救いがあった。
裏切り者・ワルドの狙いが、ウェールズの持つ手紙ならば
『その時』が来るまで、使者であるルイズに危害を加える事は無いハズだ。

もちろん、予断を許す状況ではない。
その理屈で言うならば、十三使徒が捕らえようとしていた真理阿も、
あんなところで死ぬはずは無かったのだ。

―この時、慎一は焦っていた。
 魔獣の持つ目、耳、鼻。 その全ての感覚が、遥か遠くの一点のみを追いかけていた。
 それ故に、『敵』の仕掛けた最後の罠を、感知することが出来なかった・・・。



気が付いた時、慎一は、敵の間合いの只中にいた。

併走する雲の裏側に、突如、巨大な影が現れる。
水蒸気のカーテンを掻き分けながら、慎一を丸呑みにせんばかりの大顎が突っ込んでくる。

間一髪、竜の頭部をかわした慎一の背中に激痛が走る。
海上へと霧散していく鮮血の量が、ダメージの深さを物語る。
背後から慎一を切り裂いた物体が、今度は前方から突っ込んでくる。
守りを固めた慎一の両腕が、鋭い鉤爪で引き裂かれる。

―敵はグリフォン。 ワルドのそれと同種とは思えぬ程に、大きく、早く、獰猛である。

反撃に転じようとした慎一の眼前に、今度は鞭のようなものが飛び込んでくる。
咄嗟にのけぞりながら右手で受け止める。 大きな数珠を連ねたような、昆虫の尻尾。

(蠍-?)
思った瞬間、数珠の先端、ノズルのような巨大な針から緑色の液体が噴出し、慎一の右目を直撃する。
ドジュウウッ と蒸気が上がり、強酸をブチ撒けたかのように、右目の周辺が大きくただれる。

「ギャオオアァッ!!」
潰された片目を抑えつつ、左手を振るう慎一だが、平衡を失った一撃は大きく外れる。
獅子の頭部に蝙蝠の羽、蠍の尾を持った大型のマンティコア。

異常な巨体に血で染めたような真っ赤な瞳。
何より、三匹が三匹とも慎一をまったく恐れていない。

慎一は即座に理解した。
人間を魔獣へと変えるハードドラッグ、
目の前三匹は、その秘薬をありったけ投与された怪物であろう。

鷲頭と獅子頭が同時に突っ込んでくる。
かろうじて毒針を避けた慎一の体を、グリフォンのカギ爪が引き裂いていく。
よろめく慎一の背後から、竜の大顎が一呑みにする。

「グオオオオオオオ!!」
両手両足を踏ん張らせながら、自らを押し潰そうとする大顎を必死で押し返す。
筋肉の緊張で、刻まれた全身の傷口から血が噴出する。

疲労困憊した肉体に、自らを凌ぐ三匹の魔獣。
絶体絶命の窮地にありながら、慎一の闘志は一切揺らぐことが無い。
尤も、この程度の事で諦めるようなら、彼は十年以上も前に分解されて消え果ていただろうが。

―ふと、魔獣の隻眼が邪悪に瞬く。
今にも閉ざされんとする竜の大顎、その牙の隙間から巧みに手を伸ばし
目玉がありそうなところを思い切り突く。

悲鳴を上げる竜の口中から脱出し、慎一が上空へと飛び上がる。
逃げた餌を追いかけ、三匹が猛スピードで迫ってくる。

上空で向き直ると、手の平からゴールドを呼び出す。
攻撃のためではない。 相棒が咥えているサイコロ大の小瓶を、慎一は右手で掴む。
ガラス瓶の中に入っているのは透明の液体・・・ 件の注射器の中身である。
後でコルベールにでも分析を頼もうと思い。体内にしまっておいた物だった。

「・・・へっ こうなりゃ 死なば諸共よッ!!」

言いながら、慎一は右手で小瓶を握りつぶし、液体をガラスごと胸元に擦り込んでいく・・・・。

効果はすぐに現れた。
ドクンッ と、体内に心音が鳴り響き、慎一の体がビクンと震える。
視界が暗転し、血液が逆流を始め、脳みそがマグマの如く煮えたぎる。

体内の獣を縛る鎖が弾け飛び、獅子が、熊が、ゴリラが、鷹が
魔獣の細胞の一つ一つが、主に成り代わろうと暴走を始める。
肉体がバラバラに張り裂けんばかりに震え、全身を走る激痛がビートを刻む。

「ガァッ ラア ア ア アアオ オオ オオアアア ァアァッ!!!!」
魔獣が叫ぶ。

獲物を仕留めんと突撃する獅子の眼前に、魔獣が文字通り『目にも留まらぬ速さ』で出現し
大きく開いたその口中に、渾身のストレートを叩き込む。
音速を超えた拳は頭部を突き抜け、衝撃でマンティコアの全身が爆散する。

動きを止めた慎一の前に、竜の大顎が再び迫る。
慎一はゆっくりと振り向き、大きく両手を広げ、爪を伸ばす。
その体勢のまま、竜の口中へと超スピードで突っ込み、喉、胃袋、背骨と一気に突き抜ける。
断末魔の叫び声を上げ、巨大な翼竜が、上顎と下顎で二枚に下ろされる。

たちどころに仲間が肉隗と化す所を目の当たりにし、グリフォンの動きが止まる。
薬、信念、信仰、狂気・・・あらゆる手段を持ってしても消し去ることの出来ない恐怖。
極めて原始的な畏怖の前に、グリフォンは一声鳴いて背を向ける。

その背面に、慎一が思い切りぶちかます。 背骨の砕ける音がして、鷲頭が苦悶の悲鳴を上げる。
その両翼を引きちぎりながら、尚も魔獣が加速する。 驚異的なスピードで海面が迫る―。

ド ワ オ 

機雷でも炸裂したかのように水柱が吹き上がり、
コンクリートと化した海面に叩き付けられ、グリフォンがミンチとなる。
勢いのまま、慎一も又海中へと沈んでいった―。


― 慎一が海中に没してから、一日目の夜。

アルビオン王国首都、ニューカッスル城内の一室で、今度はルイズが月を見ていた。

「どしたい? ずいぶん浮かない顔してるじゃあねえか?」

「そんなこと無いわよ・・・ ただ いろんな事がありすぎて困惑してるだけよ」

確かに、頭の中を整理するには、一日という時間は短すぎた。

―アルビオン王国皇太子 プリンス・オブ・ウェールズは、
 手紙の返還を求めるアンリエッタの頼みに快く応じてくれた。
 ルイズの任務も、ひとまずは成功したと言えるだろう。

だが、アルビオン王国は革命軍『レコン・キスタ』の大群の前に滅亡寸前であり
ウェールズは既に、城を枕に討ち死にする覚悟であった・・・。

おそらくは、主君の思い人であろう王子を見捨て、城を後にする・・・。
いかに当人が望んだ事とはいえ、それはあまりにもやりきれないものがあった。

(そして・・・)
ルイズが膝元の、純白のドレスへと目を移す。

ワルドからの突然の求婚―。
皇太子の勇気に打たれたワルドが、彼を仲人に式を挙げた事を一生の誉れにしたい、と提案したのだ。
挙式の日は明日であった。

「ねえ・・・デルフ あんたはこの結婚についてどう思う?」

「重要な選択を迫られているのは娘っ子だろ?
 使い魔のシンイチにも その持ち物の俺にも お前さんの未来を決める資格は無いね」

「そんなの当たり前よ! ・・・ただ 気楽な立場にいるアンタの意見が知りたいのよ・・・」

「・・・俺もシンイチと同意見だ」

「なぜ?」

慎一の時のような反発からでは無い。
ルイズは純粋に、デルフリンガーが慎一を支持する理由が知りたかった。
あれ程までに何度も衝突していながら、
離れてみると、ルイズには慎一が、何か大切な事を言おうとしていたように思えてならなかった。

「なぜ あんたはアイツの事を信じるの?
 アイツは周りのことも考えず 好き勝手に暴れてばっかりだし
 あたしや姫様の気持ちを省みようともしない
 あんただって アイツと出会ってからロクな目に遭ってないじゃない?」

「・・・確かに シンイチは本物の魔獣だよ  一旦血を見ると もう止まらねえ
 ―だが そんな奴でもひとつだけ信じてみたい事実がある」

「それは・・・?」

「マリアだ
 アイツはマリアの細胞を守り抜いてこの世界までやってきた
 戦うことしか知らないはずの魔獣がだ」

「・・・・・・・・」

「これまでのアイツの戦いは 無茶苦茶なものばかりだったが
 その結果 俺たちは絶体絶命の危機を幾度と無く乗り越えてきた・・・

 もっとも これまでの事は全て偶然で 単に俺が信じたいだけなのかも知れないがね・・・」

「・・・ううん あんたの考えはよく分かったわ ・・・ありがと」

―先日の『夢』を、ルイズは思い出す。

森林に響き渡る魔獣の慟哭。
プライドの全てを喪失してしまったかのような、慎一の顔。
あの底知れぬ悲しみこそが、慎一の闘争心の源流なのではないのか―?

ルイズはいつしか、半ば本気でそう夢想していた。

「・・・わたしも わたしもシンイチの事を信じたい・・・」


― 翌朝。

人気の無い礼拝堂の中央では、仲人役のウェールズが、主役の登場を待ち侘びていた。

やがて、古めかしい木製の扉を押し分けながら、新郎新婦が入場する。
婚儀の参列者は、入り口に立てかけられた一振りの剣のみ。

―ルイズには、結局この婚礼の是非について結論を出すことが出来なかった。
 彼女が決める事が出来たのは、たった一つの決意のみ。

 彼女は全ての選択を、ワルドへと委ねる事にした・・・。



「― 新郎 子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
 汝は始祖ブリミルの名において この者を敬い 愛し そして妻とする事を誓いますか?」

「誓います」

「・・・では 新婦 ラ・ヴァリエール公爵三女 
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
 汝は始祖ブリミルの名において この者を敬い 愛し そして夫とする事を誓いますか?」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・新婦?」

「・・・宣誓の前に、ひとつだけ答えて欲しい事があるの ワルド」

「なんだい? ルイズ・・・」

ルイズ始めて顔を上げ、運命を分かつであろう一言を口にした。

「シンイチの事
 私はあなたの妻となっても 彼を 私の使い魔を手放さないわ
 それでもあなたは 私の事を愛して下さる?」

「そんなことは・・・」

当たり前だ、と言おうとして、ワルドが言い淀む。
心の底まで見透かされてしまいそうな、澄んだ瞳。
思わずワルドは話題を逸らす。

「この間も言っただろうルイズ
 彼は漂泊者に過ぎない 時期が来れば 彼はいずれは故郷へと帰る」

「でも 今はまだその時ではないわ

 彼は 私の求めに応じ そして 私の庇護を求めてこの世界に来た
 不器用ではあっても 彼なりのやり方で 私を守ろうとしてくれている・・・
 だから 私も私なりのやり方で 主の務めを果たすわ

 何故なら シンイチは私の使い魔で かけがえの無い私の友人だから」

ルイズの宣言に、ワルドの瞳から光が消え去る。
やがて、どこか陰惨な響きのある声色で彼が言った

「・・・残念だが 君の使い魔は もうこの世の者では無いよ」

「なぜ・・・ そう思うの?」

「だってそうだろう? あの高さから地面に叩き付けられたんだ
 しかも あれだけの敵に囲まれて・・・
 あの場は君を脱出させるためにああ言ったが あれで生きていると思う方がどうかしている」

「・・・あなたはそれでいいの?」

「・・・えっ?」

慎一に対するワルドの反応から、ルイズの中の疑惑は、確信に変わりつつあった。
最後にルイズは、確認となる一言を放った。

「ラ・ロシェールでの決闘で、あなたは彼に二度敗北した
 その雪辱を果たさずに 卑劣な罠で彼を屠って
 それであなたは満足なの? ワルド・・・」

いい終わるや否や、ワルドの鋭い平手が跳んでくる。
ルイズが悲鳴を上げ、礼拝堂の床を大きく転がる。

「何をする!」
花婿の突然の暴挙に、ウェールズが声を荒げる。
その瞬間、ワルドの両眼が怪しく瞬く。

「ワルドは獣だ」 慎一の言葉が、ルイズの頭の中に響く。

「駄目ッ!? ウェールズさま!! そいつはッ!」

ルイズが声を張り上げたのと、ワルドの杖がウェールズを貫いたのは、ほぼ同時であった・・・。

胸元を赤く染めながら地面に突っ伏すウェールズを目の当たりにし、ルイズが激昂する。

「ワルドオオオ!」
叫びながら起き上がり、ガーターに差した杖を引き抜き、詠唱を始める。
刹那―、 見えない空気の塊がその胸元に浴びせられ、ルイズは石壁へと叩き付けられる。

衝撃で息がつまり、直後の激痛で全身が痺れ、指先ひとつ動かせなくなる。
桃色の髪が埃にまみれ、純白のドレスがボロ布と化す。

「残念だよルイズ まさか 完全に出し抜いたと思った使い魔に足元を掬われるとはね
 君の力は 僕の『夢』の為に 是が非でも必要な物だったと言うのに・・・」

―何故、今まで気づかなかったのか? 目の前の男の瞳は、完全に狼のそれだった。
 今なら慎一の、彼の狂ったような戦いぶりの理由もよく分かる。
 ルイズの全身に、ドス黒い魔獣の本能が流れ込んでいた。

「最後にもう一度聞こう 僕の妻となる気はないか? かわいいルイズ・・・」

「・・・八つ裂きにしてやる」

ワルドは下卑た笑いを浮かべながら杖を突き出し、詠唱を開始する。
それに呼応し、痙攣する腕先を持ち上げながら、ルイズが杖を構える。
自分は死ぬであろう。 だが、最後まで諦めるつもりは無い。
ここにいるのが彼女の使い魔だったなら、跳ね飛ばされた首で、尚も相手の喉笛を噛み千切るハズだ。

―直後

激しい轟音と共に木扉が大破し、何物かが礼拝堂に飛び込んでくる。
ルイズの、ワルドの、そして、命の火が消えつつあったウェールズの時間までもが止まる。
立ち込める砂煙の中、魔獣の燃え盛る隻眼が瞬く。

煙の中から現れたのは、本物の魔獣・来留間慎一・・・。

「・・・シン イ チ・・・」
視界が大きく揺らぐ中、ルイズがかろうじて呟く。

ボロ雑巾の如く汚れた主、中央で倒れている若者、そして、最悪な目をしたワルド・・・。
慎一は、一瞥して状況を把握した。

「テメエは処刑第二号だアアアァァァアアアァッ!!!! ワルドオオオォォオオ!!!」

魔獣の咆哮を聞いたのを最後に、ルイズの意識は途切れた―。


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