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Mr.0の使い魔 第三十七話

 Mr.0の使い魔
  —エピソード・オブ・ハルケギニア—

     第三十七話


「ん」

 瞼越しにもわかるほどの強い光に、クロコダイルは薄目を開けた。天
高く昇った日の光が、窓の向こうから差し込んだのだ。起き抜けの頭が
じわじわ働くのを他人事のように感じながら、何とはなしにさっきまで
見ていた夢の内容を反芻する。
 一つだけの月に照らされた真夜中の砂漠で、悪魔の実の能力を振るう
自分。アラバスタで暴れていた頃の記憶だろうか、とも思ったが、違う。
夢の中には自分と敵、それともう一人誰かがいた。かつてのパートナー
に比べて随分小柄な人影。そいつに向かって、自分は何事か語っていた
ような——。

「旦那。起きて早々で悪いんだが、お客さんだぜ」
「……客だと?」

 デルフリンガーの言葉に、クロコダイルは眉間を揉む手を止める。
 直後、内装に見合う品格の扉が二度、荒っぽく叩かれた。蝶番が軋む
ほどの暴力的なノックに、自然と眉根が寄る。このままだと、扉をぶち
破ってでも入って来そうだ。

「うるせェぞ。誰だ」
「クロムウェルの部下さ」

 聞き覚えのない男の声に、クロコダイルの目つきが鋭くなった。早朝
からニューカッスルに出向いたクロムウェルが、留守の間に勝手な行動
をさせまいと監視をよこしたのだろう。声を聞く限りでは、アルビオン
で未だに顔を合わせた事のない人間のようだ。

(面倒だな)

 監視そのものも鬱陶しいが、何よりルイズを眠らせているこの部屋に
入れたくなかった。用事が顔合わせだけなら、適当な理由で追い返した
方がいい。後々動くにしても、終始付き纏われるのは願い下げだ。
 さて、では何と言って帰らせるか。

「そう警戒してくれるな。オレは単に挨拶に来ただけだ。用が済んだらすぐ出て行く」

 再度の男の声が、逡巡するクロコダイルの意識を切り替えさせた。
 考えを口に出すほど間抜けな真似はしていない。表情や気配の変化も
外までは伝わるまい。だと言うのに、外の男はクロコダイルが警戒心を
抱いている事に気づいた。
 単に憶測を述べ、それが偶然当たっただけ。そんな楽観ができるほど、
クロコダイルの人生は平穏ではなかった。何かしらの手段、おそらくは
魔法を使って、こちらの様態を読み取ったのだろう。厄介な奴をよこし
やがって、と心中でクロムウェルに毒づく。
 接触は避けられない。しかしながら、なおの事ルイズの存在は隠して
おくべきだ。姿を見られる可能性が高いというだけでなく、男がいる間
にルイズが起きてしまった場合、隠し事ができない彼女から情報がぼろ
ぼろと漏れ出す事請け合いなのだから。

「相方が寝てる。出て行くから少し待て」
「ワルド子爵の事か? 彼ならもう起きてるだろう」

 クロコダイルの目論みは、あっさりと男に潰されてしまった。
 廊下を警戒したままに、目だけでベッドを伺うと、嫌そうな顔をした
ワルドと視線がかち合う。寝起きで不機嫌なのではない事ぐらい、付き
合いの短いクロコダイルにもすぐにわかった。
 そのワルドが、何とも億劫そうに呼びかける。

「メンヌヴィル、急用でないなら後にしてくれないか。昨日の任務で疲れてるんだ」
「そう邪険にするな、子爵。そこにいるお友達二人を紹介してくれてもいいだろう」

 二人、つまり布団の中のルイズにも気づいているのだ。これでは追い
払うだけ無駄。クロコダイルは舌打ちし、顎でワルドを促した。

「……わかったよ。今開ける」

 【アン・ロック】の魔法に合わせて、鍵が開く軽快な音。満を持して
登場したのは、大きなメイスを携えた白髪の大男だった。

「初めまして、ミスタ・ゼロ。『白炎』のメンヌヴィルだ、よろしく」

 濁った片目をぎょろりと蠢かせ、笑う。その不気味な笑顔のままで、
メンヌヴィルは首をかしげた。

「うん? ミスタ・ゼロはソファの方か。慣れない枕じゃ安眠できなかったかね」
「向こうはおれのペットだ。遠出でひどく疲れてたんでな」

 一応、布団の中のルイズが人間である事は伏せておく。メンヌヴィル
の物言いがもしハッタリだとしたら、余計な情報を与えてしまうからだ。
用心するにこした事はない。

「ペットだと? 犬猫にしちゃあ随分と大きいが……人間のガキみてえだぞ」
「ああ、ワニだ」

 咄嗟に口をついて出たのは、前の世界で飼っていた巨大爬虫類だった。
生態や特徴を言及されてもボロが出ない生き物で、かつ犬や猫といった
よくあるペットを除いた時、クロコダイルの頭に残った候補があれしか
なかったのである。

「ワニってえと……確か、火を吹かないサラマンダーだったな。
 こんな小さいもんなのか? 5メイル超えはざらだと聞いた覚えがあるが」

 メンヌヴィルは、そもそも実物を見た事がないらしい。これならボロ
が出る心配はないだろう。思い返せばキュルケの使役するフレイムも、
炎と体色を除けばワニと言い張れるかもしれない。ワニの顎は前に長く
飛び出しているのが主流だが、一部には寸詰まりの、トカゲに近い形を
した種類もいるのだから。

「まだ子供だからな。もう十年もすれば、今言ったぐらいに育つ」
「そこまで育てるのは大変だろう。竜並みに獰猛で大食いらしいじゃねえか」
「前は20メイル近いのを飼っていた。心配はいらん」
「そいつはすごい……おっと、起こしてしまったか」

 クロコダイルはぎょっとした。
 起こした——何を? 決まっている、ベッドの中身だ。
 振り向くと、布団から顔だけ出したルイズ。焦点の定まらない鳶色の
瞳が、ぼんやりとクロコダイルを向いている。会話を聞いていた訳では
ないようで、特に怒ったり喚いたりといった反応はない、が。
 問題はルイズの機嫌ではなく、その姿をメンヌヴィルに見られた事だ。
さっきの嘘をただの冗談と受け取るか、それとも悪意ある詐称と見るか。
彼の判断次第では、この場で一戦交えるはめになりかねない。

「うるさくしてすまんな、ワニ君。せいぜいうまい肉を喰わせてもらえよ」
「あ……?」

 クロコダイルの心配は杞憂に終わったが、別の問題が発生した。当の
メンヌヴィルが、ルイズを『ワニ』として捉えたのだ。しかも冗談だと
解釈しているのではなく、本心からワニだと思っている。
 二の句が継げないクロコダイルをよそに、メンヌヴィルは悠々と踵を
返した。

「邪魔したな、ミスタ・ゼロ。戦場で会ったら、その時はよろしく頼むぜ」


 扉が閉まって数秒間、部屋の中はひたすら静かだった。

「おい、子爵」

 口火を切ったのは、クロコダイルである。

「あのメンヌヴィルってのは、どういう奴だ」
「歴戦の傭兵ですよ。火のスクウェアで、眼前の何もかも焼き尽くす、と」
「そうじゃねェ。おれが聞いてるのは、どうしてルイズを見過ごしたかって事だ」
「それは僕にも……」

 言いよどむワルド。実際に会ったのは片手で数えるほどで、彼の事を
それほど知っている訳ではない。
 だいいちメンヌヴィルを招き入れたのは、ルイズの存在に気づかれた
からなのだ。無理に追い返して懐疑心を抱かれるより、ここで誤摩化す
方がマシだっただけの事。ルイズは布団を被って熟睡中、姿さえ見られ
なければ何とか取り繕える。
 そう、思っていた。

「まさか姿を見ても気づかないとは」
「視力が弱いとか、見えてないとかって可能性は?」
「奴の戦果は事実です。僕も何度か現場を見ましたが、しっかりと敵の位置を見定めてました」

 以前、ワルド(の【遍在】)は壁の裏側の空賊に魔法を命中させたが、
あれは空気の流れが少なく、かつ距離が近かったからこそできたのだ。
熟達した火のメイジには、肌で感じる温度の微妙な変化で相手との距離
がわかると豪語する者もいるが、それにしたって限度があろう。
 さて、件のメンヌヴィルはというと、数々の戦功を打ち立てた実力者
である。しかも戦場は千差万別で、一定の条件に縛られる事もない。時
には昼の草原で敵部隊を焼き払ったり、かと思えば真夜中に砦を丸ごと
炎に包んだり。
 いずれの戦場でも、王党派は老若男女貴賤の区別なく炭にされていた。
メイジか平民か、銃士か剣士かに関係なく皆殺しなのだ。皮膚感覚のみ
で同じ事ができるかと問われれば、誰もが首を横に振るに違いない。
 意見を聞いてもまだ納得がいかないのか、クロコダイルが舌打ちする。

「どうもすっきりしねェが……これ以上は情報不足か」
「調査は後からでも大丈夫でしょう。ひとまずは乗り切れたのですし」

 もっとも、ワニなんて言うとは思いませんでしたが。
 その一言を、ワルドは寸前で押し止めた。せっかく窮地を凌いだのに、
ここでルイズの癇癪を爆発させては大騒ぎになってしまう。
 クロコダイルも同じ事を思ったらしく、二人そろってルイズの様子を
伺った。すると。

「そうよね。騒ぎにならなくてよかったと思わなきゃ」

 予想に反して、ルイズは随分と冷静だった。起きて間がなく頭が充分
働いていないとしても、普段の彼女からはあり得ない反応だ。
 思わずクロコダイルが尋ねてしまったのも、ある意味仕方なかろう。

「……てめェ、本当にルイズか?」
「何よ、突然」
「いつもなら爆発の二つ三つ、平気でぶっ放すだろう」
「失礼ね。わたしだって、怒って大丈夫な時とそうじゃない時ぐらいわかるわ」

 その分別ができていないから聞いているのだ、というクロコダイルの
視線を無視して、ルイズは懐から書簡を取り出した。

「わたしの事、見られちゃまずいんでしょう。
 ここで大人しくしてるから、二人は手紙を受け取って来て」
「……ああ、うん。それなんだがね、ルイズ」

 気まずそうに頬を掻くワルド。何とも妙な感じだが、それよりも先に
用件が終わっている事を伝えるべきだろう。メンヌヴィルを含め、これ
以上注目を集める前にルイズをトリステインに戻さなければ。
 ただ、どうやって穏便に説明するかが問題である。自分の与り知らぬ
ところで任務が済んだとルイズが知ったらどうなるか。

「何? もしかして、もう取り返したの?」
「え!? あ、まあ、その……」
「だったら長居は無用ね。早くトリステインに帰りましょう」

 考えあぐねていたワルドが狼狽えるのもどこ吹く風で、ルイズは淡々
と話を進めた。
 本気で怒ると口数が減る者はいるが、ルイズはその正反対のタイプだ。
ワニに例えられ、あまつさえ蚊帳の外に置かれていたという蔑ろぶりを
鑑みれば、爆発が三桁に及んでも納得がいく。しかしながら、現実には
ただの一度すら杖を振らない。間違いなく異常である。

「おい、ルイズ。何があった?」
「別に。夢見がよかっただけ」

 なんという事もないルイズの返答。だが、聞いたクロコダイルは目を
見開いていた。心当たりでもあるのだろうか、と考えたワルドは、ある
可能性に思い当たる。
 メイジと使い魔は、趣味や嗜好が似通ってくる事がままある。これは
両者の間に精神的な繋がりができ、互いの心を触れ合わせた結果である、
というのが定説だ。本来言葉の通じない使い魔との相互理解、さらには
感覚共有なども、全てこの繋がりを介して行われる。
 ただ、この繋がりは、特定の方向性を持たない単なる筒のようなもの。
川の水が頂から麓へ向けて流れるように、上位にある者の影響を下位の
者に与えるのである。基本的にメイジが上、使い魔が下の立場なのだが、
強力なドラゴンなどと契約した場合、逆に使い魔に強く影響を受ける事
があるらしい。過去の文献には、菜食主義だったメイジが老齢の火竜と
契約後に肉を好みだした、ミノタウロスを従えて以後は性格が一変して
暴虐になったメイジがいる、などの逸話がある。
 今回のルイズの変化も、ひょっとするとクロコダイルの影響を受けた
結果ではないだろうか。クロコダイルの精神を、ルイズが『夢』として
垣間見たのだとすれば——。

「あ、そうだ。ワルド、【サイレント】お願い」
「え……あ、わかった」

 不意に呼びかけられて、ワルドは言われるままに杖を振った。いつも
のように、発動した【サイレント】が部屋を包み込む。これでどれほど
大声で叫んでも、外に聞こえる心配はなくなった。

「できたよ」
「ありがと。ねぇ、クロコダイル」
「何だ」

 気を落ち着けようとしていたのだろう、葉巻を片手にクロコダイルが
顔を上げる。向かい合ったルイズは、にっこりと笑った。

「女の子を猛獣扱いするのは、流石に頂けないわね」
「あ?」
「【錬金】」

 口元まで引き寄せていた葉巻が破裂し、クロコダイルの顔に飛び散る。
 この後の展開がだいたい予想できたワルドは、【サイレント】を強化
しながら部屋の隅に退避した。次第に濃くなる砂塵と、連続して煌めく
閃光を横目に見ながら思う。両方が丸くなるまで、当分放っておくべき
かもしれない、と。

「【砂嵐】」
「【エア・ハンマー】」
「だから俺を巻き込むんじゃねー!!」

 淡々と繰り返される攻撃も、相殺して響き渡る轟音も、巻き込まれた
インテリジェンスソードの痛切な悲鳴も、ワルド渾身の【サイレント】
によって外に漏れる心配はない。
 だが、【固定化】も何もない内装は、無防備なまま応酬の余波を受け
続けている。二人が飽きるまでの数分間、ワルドは荒れ果てた部屋の後
始末をどうするかで頭を悩ませていた。


   ...TO BE CONTINUED

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