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ゼロの魔獣-23


慎一の中の『目のいいヤツ』は、ようやく桟橋を行く二人の姿を捉えていた。
船は海を行くもの・・・という先入観が、目標の発見を遅らせたのだ。

「こんな夜更けに木登りとはオツじゃねえか
 ―船が飛ぶっつーのは先に言っとけ」

「? 船が飛ぶのは当たり前でしょ! こんな峡谷に海があると思う?」

「・・・こっちにも心の準備があるんだよ」

確かに目の前の巨大樹、その枝先には、船のような物がぶら下がっている。
慎一にとっては、地球での戦いを思い出させる、まったく気に入らないデザインである。

「こっちだ!」
吹き抜けになった巨大樹の内部、目当ての階段を見つけたワルドが叫ぶ。

「先行する」
慎一は短く言うと、階段を風のごとく駆け上っていく。
階段の先に、フーケを脱獄させたであろう『黒幕』が罠を張っている可能性は十分に考えられた。

やはり、と言うべきか。
階段の中腹、その踊り場の中央に、慎一は『敵』を発見した。
この真夜中、人気の無いホームで仮面に黒マント、『敵』と断じて間違いなかった。

『敵』は既に杖を構え、詠唱を開始していた。
近づいている余裕は無い。慎一は腰を落とし、左右に飛び退ける体勢を作る。

「シンイチー!」
後方から主の声がする。ルイズを抱えたワルドが、『フライ』の魔法ですぐ背後まで迫っていた・・・。
慎一の中で、回避という選択肢が消える。 一呼吸して覚悟を決めると、ゴリラ化した両腕を眼前でクロスさせた。

直後、仮面の杖先から稲光が生じ、慎一の肉体を雷電が貫く。
稲妻の放熱で両碗の皮膚がただれ、猿人の剛毛をちりぢりに焦がす。

「グオオオオオオオオオッ!!」
マトモに浴び続ければ意識が持たない。
眩い閃光の中、慎一が吹き抜けとなった大樹の中央へ飛び退る。

直ちに翼を開き、体勢を立て直そうとした慎一の上に、突如巨大な何かかがのしかかってくる。
突然の衝撃に加え、強い力で両翼を抑えられてバランスを失う。

空中で揉み合いながら、慎一は謎の物体の正体を確認する。

男だ! それも一人ではない。

とても生身とは思えぬ筋肉ダルマの一群が、大樹の最上段から次々と飛び降りてくる。
直ちに慎一の周囲は巨大なミートボールとなり、その重力を受け、視界から天井が一気に遠のく。
さしもの慎一も、これほど凶悪な『罠』は想定していなかった。
自らのダメージも省みず、慎一ひとりを潰しにかかる狂人の集団など・・・。

(―ッ!! 薬かッ!!)
その発想に至った次の瞬間、慎一の体は地面に激しく叩き付けられた―。

真っ白になった慎一の視界に、徐々に周囲の光景が戻ってくる。
大樹内部で枝分かれした階段が、不快なダンスを踊っている。

「・・・・・・・ッ!   ・・・・・・イチィ!!」

彼方からの甲高い喚き声が、目覚めを一層最悪なものとする。
視界の片隅、その遥か上空に、歪んだピンク頭が飛び込んできた。

「シンイチッ!! しっかりしてッ! シンイチ!!」

「今はこの場を離れるのが先だッ!!
 彼なら大丈夫! 自分の使い魔を信じるんだ!」

その会話を聞き、バカになっていた慎一の頭が急速に覚醒していく・・・。

頭上で繰り広げられているのは、一見すれば、任務の為に心を鬼にして仲間を見捨てる人情劇である。
だが、あの踊り場を塞いでいた『仮面』は何処に消えたのか・・・。
何故、この狂人達は、本来の標的ではなく慎一ばかりを狙うのか・・・?

慎一の瞳が、カッ!! と大きく開かれる。

(ワルドは 『 敵 』 だッ!!)
慎一の中で、予感が確信へと変わる。
泥酔状態の身体にハッパをかけ、頭を振るって慎一が立ち上がる。
その足に、男の一人が取りすがってくる。

「――ッ!! ジャマをすんじゃあねえええぇぇぇええッ!!!」

慎一が右足を振り上げ、大猿のそれへと変化させると、男の頭部を踏み潰す。
ゴギャッという乾いた音が内部に響く。
その音をゴングにしたかのように、周囲の男たちが立ち上がり、慎一に向かって一斉に飛び掛ってくる。

「うおおぉぉおおおオオオォォオオオ!!!!
 ワァルドオオオオオオオオ!!
 待ちやがれええええええええエエエェェッ!!!」

慎一が叫ぶ!!

熊の大顎が頭部を砕き、ライオンの牙が臓腑を喰い千切る!
大猿の右腕が掴んだ獲物を叩き伏せ、猛禽のカギ爪が縦一文字に敵を切り裂く!
体内を駆け巡るドス黒い唸りに身を任せ、慎一の野生が、大樹の中に地獄絵図を作り出す。

「ッガアアアアアァァァァァオオオアアァァァ!!!!」
野獣が吼える。 その全身で大気を震わせる。

かつて、十三使徒の一人を血祭りに上げた時以来の本気の怒り、
ハルケギニアの地に、本物の魔獣が光臨した。


一時間にも及ぶ、魔獣と狂人たちのパーティーが終幕を迎える。

悲鳴を上げる最後の男を握り潰し、踊り場から無造作に投げ捨て、
おぼつかない足取りで、一歩、また一歩と歩を進め、
ついに慎一が、目的の場所へと辿り着いた。

その視界に広がるのは、重なりつつある双つの月と、底知れぬ闇に包まれた空・・・。
無人のドッグ、予期していた事ではあったが、船は既に出港していた。

頭を振るい、大きく呼吸を整えながら、慎一が思考する。
ここは一旦出直し、ギーシュ達と合流するべきか・・・。

(いや・・・)

タバサにはシルフィードがいる。
仮に三人がフーケに敗れていたとしても、風竜の翼ならば逃げ切れるハズだ。
キュルケもタバサも、戦いに熱くなって引き際を誤るような手合いではない。

やはり、今心配すべきはルイズの事であった。

次の出航を待っていては、手遅れになる可能性が高い。
ここは無理を押してでも、魔獣の翼で追いかけるべき場面だった。

―だが、その為の標を、彼は既に失っていた。

アルビオンへの道筋を、慎一は知らない。
鷹の瞳も、獅子の鼻も、熊の耳も、主の行方を掴む事は出来なかった・・・。

「うおおおおおおおおお!!!!」

慎一が右拳を地面へと叩き付ける。
巨大な枯れ枝が、乾いた音を立てて大きく穿たれる。
あまりにも無意味な、魔獣の膂力。
こんな力があったところで、一体誰を救えるというのか・・・。



―あらためて、慎一は自らの拳を見つめる。

使い魔のルーン―契約の証。

慎一を主の下へと繋ぎ止めている『見えない鎖』。

今の慎一に、その細い鎖を辿る能力はない。
だが、その鎖に『強制力』をもたらしている、彼の同居人ならば・・・。

慎一はあらためて深呼吸し、右手を胸元へと持ってくる。
両目を閉じ、自らの深いところに語りかけるように、意識を集中する。

やがて、慎一の体がふわりと浮き上がる。

―いや、ふわりと体内を飛び出した、真理阿の意識と同調していた。

真理阿が飛ぶ。
最初は緩やかに―。
しかし、見えない力に引かれるように、徐々に、徐々にと加速していく。

いつしか真理阿が風を超える。
空気の壁が体内を吹きぬけ、息が詰まる。
視界が歪むほどの猛スピードの中、目の前に一艘の船が迫ってくる。

その甲板に見えるのは、儚げな表情をした、桃色髪の少女の横顔―。


「― そこかァッ!!」

慎一の両目が大きく瞠く。

真っ黒なブ厚い雲の彼方、そこで待つ少女の懐めがけて
魔獣が大きく翼を広げ、一直線に飛び立った。


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