あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの独立愚連隊-05


 破壊の杖奪還の報告を終えて身支度を終えたルイズ、キュルケ、タバサの3人が舞踏会の会場に入ると、拍手と歓声が起こった。
 壇上にコルベールが上がり今回の顛末を語る―――無論、ロングビルがフーケであったことは伏せてあったが。宝物庫を襲ったのは噂のフーケであったことをコルベールは認めると生徒達からは大きなざわめきが起こったが、ルイズら学院の生徒達の手で盗まれた破壊の杖が取り戻されたことに生徒達からは再度大きな歓声が上がった。
 コルベールによる開会の挨拶が終わり楽団による演奏が始まると、ルイズたちの周囲に何人もの生徒達が集まりダンスの誘いを次々と申し込んでくる。
 ルイズは感慨深く今までの苦労をかみ締めながら男子たちのダンスの誘いを受けていた。ようやく周囲に自分に貴族として力があることを示し、認めさせることが出来たと実感したのだ。
 着飾ったルイズの姿に多くの男子生徒達が感嘆のため息を漏らし、音楽に合わせてステップを踏む様を追っていた。
 こんなに美しくなるとは、さすが公爵家の令嬢、聞こえてくる噂話に心を弾ませながらその生徒達を視界の端に捕らえつつ踊るルイズ。
 何曲踊っただろうか、ふと時計を見ればもう舞踏会も終わりの時間に近い。踊ってばかりでなく食事も楽しもうと思い続く誘いを断りテーブルに向かうと、女子生徒と友人に囲まれたギーシュが得意そうに事の成り行きを語っている。
 身振り手振りを交えて巨大なゴーレムとどう戦ったかを大いに誇張しながら語るギーシュに、周囲の生徒からはたびたび笑い声が上がる。作り話と分かっていながらもそれを楽しんでいるのだろう、そんな彼の姿も一緒に笑われていると気付かずにギーシュは得意げに話を続けている。
 話し疲れたのかグラスを取ってワインを含んだギーシュが、視界に入ったルイズに手を振って声を掛ける。
「やあヴァリエール!今彼女たちに今日の事を話してあげているんだ。君からも話してあげたらどうだい、僕らの活躍をさ」
 そのギーシュの言葉に周囲から笑い声が上がる。
 笑い声が上がった理由が分からず不思議そうな顔で周りの生徒達の顔を見るギーシュと心底おかしそうに笑う周囲の生徒を見てルイズは嘆息する。
「今日のことねえ、ミスタ・グラモン。私たちで破壊の杖を取り戻したこと?それとも私と貴方でフーケのゴーレムと戦ったこと?」
「僕たちでフーケのゴーレムをやっつけてやったことに決まっているじゃないか、ミス・ヴァリエール」
 ワイングラス越しにウインクを飛ばしながら楽しげに言うギーシュと反対に、周囲からはさらに笑い声が上がる。その笑い声にギーシュは、今の笑うようなところだった?と再び不思議そうに周囲を見回している。
 ルイズにもなぜこのタイミングで笑いが起こるのかわからないが、まあ周囲の生徒達もワインが進んでいるようだし理由など無いのだろう。そんな酔いの混じった騒々しい様にはさすがに付き合いきれないと思ったルイズは、軽く手を振って離れる。テーブルに着くと、すかさずメイドがワインと料理を持ってくる――見覚えのある顔だ。
「あら、シエスタだったかしら?」
「はい、ヴァリエール様。メイド風情の名前を覚えていただけるとは光栄です」
「ま、まあそんなに気にすることはないわ。前のことだって貴族として当然のことだし、その、半分は八つ当たりみたいで……当たり前のことだから気にしないで」
 正面からこぼれるような満面の笑みを浮かべるシエスタ、その明け透けな好意にルイズは少々気圧される。以前のギーシュの一件以来、このメイドは恩を感じているのかやたらルイズとサモンジに世話を焼こうとしてくるのだ。
「気にしなくて良いわ。ところで、やっぱりもう料理は無いのかしら?さっきまで踊ってばかりで何も食べていないのだけれど……もう遅いしほとんど残っていないみたいね」
 ほとんどの皿が空になっているテーブルの前で嘆息するルイズ。そのルイズに再度シエスタは満面の笑みを浮かべる。
「はい、存じております。こんなこともあろうかとヴァリエール様が好まれそうなものを取っておいてありますわ」
「あら、気が利くじゃない」
 シエスタは押していたワゴンの扉を開くとルイズが好む料理を取り分けておいた皿を取り出しテーブルに並べる。
「それとクックベリーパイも冷めないように置いてありますわ。軽く暖めてお持ちしますので少々お待ち下さい」
 てきぱきと動くシエスタに改めて礼を言うルイズ。サモンジも学院長との話など後で良いから来ればよかったのに、と思う。
 後でシエスタにサモンジの分の食事を部屋に持ってこさせよう、などと考えながら会場の中央に目をやる。
 舞踏会の終わるその時まで楽しもうと騒ぐ生徒たち。
 明日からは私もあのように友人で輪になって集い、その中で尊敬の視線を浴びて………そんな、楽しい明日からの学院生活に想いを馳せていた。

 翌朝、ルイズの期待は壊れた。
 学院の本塔の前の広場、連絡事項などを掲示する板の前に人だかりが出来ていた。
 サモンジをお供に歩くルイズはその光景に満足そうな笑みを浮かべながら人ごみの中に入っていく。
 この人だかりはあの掲示板のせいだろう。ゼロのルイズを含む一団が破壊の杖を取り戻し土くれのフーケを倒した、という学院の発表。
 私はそんなの気にしてないわ、と言う様なすまし顔で本塔に入ろうとするルイズだったが、聞き捨てなら無い言葉に思わず足を止めた。

「おいおい、昨日の舞踏会で言ってたアレ。学院長の名前付きで表彰してあるぜ」
「マジかよ……舞踏会の余興でドッキリ仕掛けてるのかとおもったんだけどな。
 まあ、実際学院の不祥事だし破壊の杖を取り戻した衛士隊を買収したって線もあるだろ」
「まあ多少の信憑性はあるんじゃない?ほら、ツェプルストーともう一人……誰かトライアングルがいたでしょ。
 トライアングル2人がかりならなんとかなったんじゃないかしら」
「そんなもんかな。まあ、ゼロとギーシュはお荷物だったんだろうけどな」
「にしても上手いことやったよな、この2人。トライアングルについて行っただけでお手柄なんてさ」
「でも……ここにミス・ヴァリエールとミスタ・グラモン両名がフーケのゴーレムを破壊したってあるわよ?」
「ははは、嘘だよ嘘。公爵家と元帥の家の子だから何もしてませんとは学院も書けなかったんだろ」

 うわぁ、と声を漏らしながらルイズの様子を窺ったサモンジだが、なだめる暇なくルイズは怒髪天を突かんばかりに激怒している。
 ぎりり、とその場の全員を睨みつけながら大声で叫ぶ。
「貴方たち!ヴァリエールはここにいるわ、何か言いたいことがあるならはっきり言いなさい!」
 その声に一瞬広場が静まり返る。そして続くように後ろからもう一つ声が上がる。
「その通りだ、グラモンもここにいるぞ!誰だ、僕たちが何もしていないなどと言ったのは!嘘吐きだと言ったのは誰だい!?」
 サモンジ達が振り向くと、そこには同じく怒りで顔を赤く染めているギーシュがいた。彼もあの生徒達の噂話に我慢できなかったのだろう。杖は抜いていないが、怒りのあまり表情がこわばり普段のへらへらとした様子は全く無い。
 公然と侮辱されることに怒りを露にする2人に、沈黙が続いていた人だかりの中からいくつか声が上がる。

「でもさぁ、ゼロのルイズと口先だけのギーシュだぜ」
「そうだよ。お前らに何ができたっていうのさ」
 名乗りも上げずに人だかりの中からこそこそと言い返す声。その態度に2人はさらに頭に血を上らせる。
「誰!?今言ったのは誰よ、前に出てきなさい!」
「その通りだ、僕たちは名乗りを上げたぞ!貴族として恥ずかしくないのか!」
 怒りの声を上げてさらに激昂する2人だが、そこに予鈴が鳴り始めた。
 誰も名乗りをあげようとしない人だかりに叫び続けるルイズとギーシュを置いて、生徒達はぞろぞろと教室へと向いだした。
 最後の一人が塔の中に消えてようやくルイズとギーシュは叫ぶのをやめた。
 散々叫んだ疲れから息を乱しながらも、ぐっと手を握り締めて歯を食いしばる。
 自分たちは貴族の誇りを掛けてフーケを追い、命がけで巨大なゴーレムと戦った。
 しかし………あいつらは一体何だ!?
 学院が襲撃されたことについてただ騒ぎ立てるだけで何もしなかった連中。
 その日に行われた舞踏会についても、本来なら学院が襲われたに日にパーティーを開こうなどとはありえないことではないのか?
ルイズの内でやり場の無い怒りが渦を巻く。
(そうだ、舞踏会でも皆が私を誉めそやしたのは外見だけだったじゃない。結局あいつらは最初から私は何もできない奴と決め付けて、私が破壊の杖を取り戻す一団に居たと言う学院の発表を面白い冗談としか思っていなかったの?あんな連中に、あんな貴族の誇りもなくその日を遊び暮らすことしか知らない退廃した連中に………私は賞賛されることを期待していたというの、あいつらと同じメイジとして、友人としてやっていけるなんてことを期待していたの!?)
 ギーシュも同じように立ち尽くしたまま震えているが、今の彼の感情はルイズと違い悲哀が多くを占めていた。彼は見てしまったのだ。
 彼らをあざ笑う人ごみの中にいた友人と、彼が恋人と思っていた少女を。
(モンモランシー、マリコヌル、レイナール、君たちまで僕を嘘吐きと笑っていたなんて……僕たちは、友達じゃなかったのかい?友達のふりをしてドットメイジの僕を笑っていたのかい?メイジとして最低クラスの僕が傍に居れば自分たちが少しはマシに見えると……)
 予鈴のことも忘れて立ち尽くしたまま怒りに震える2人の肩をサモンジが叩く。
「……ほら、2人とも授業が始まるよ。教室にまで引きずったら先生たちに怒られるし、ひとまず切り替えて後で考えようか」
 そう言ってルイズの隣に並び、半ば背中を押すようにしながら教室へと連れて行く。
 ふと本塔の入り口で後ろを振り返ると、どこに行ったのかギーシュの姿は既に無い。彼は授業をサボるつもりなのだろうか。
 ため息を漏らしそうになったが、気が高ぶっている今のルイズは刺激しない方が良いと思い何とかこらえてそのまま教室に向かうことにする。
 サモンジが押しているルイズの背からは怒りによる震えが伝わり、唇もまた怒りにわなないている。ひとまずサモンジに従って歩いてはくれているようで、なんとが爆発は抑えられているようだが。
 ルイズちゃんも大変だな、とサモンジは胸のうちでこぼす。

 恐らくは、いや間違いなく期待していたであろう、周囲からの賞賛……
 それが無いどころか、相変わらずゼロと蔑まれ嘘吐きのレッテルまで貼られ………
 それでも慰めや同情を嫌うルイズのこと、うかつなことをするわけにもいかない。
 どうしてあげるのがいいか、かけるべき言葉も浮かばずサモンジは無言のまま教室までルイズを連れて行くことしか出来なかった。

 授業の開始直前に何とか間に合い、いつもの席に座るルイズ。サモンジもいつものように教室の後ろに立ち教室の様子を見回す。
 ……見回すまでも無く教室のあちこち、サモンジの目の前の生徒までがこそこそと先程の噂話をしている。

「傑作だよな、あれ」「ヴァリエール必死すぎwww」「ゼロとドットが切れたところで怖くねーよ」
「何を本気で怒っているのかしらね」「あんな嘘すぐにばれるって思わなかったのかしら」

 サモンジが咳払いをしながらライフルで床を叩くが、一旦は驚いて振り返った生徒たちもサモンジを一瞥すると鼻で笑ってルイズとギーシュを嘲る噂話に戻る。
 ルイズから離れてようやく感情を表に出せるようになったサモンジは、苦虫を噛み潰したような表情を露にする。
 結局、サモンジは大人の視点でしかルイズのことを見てやれていなかったのだ。
 考えが甘かったとサモンジは後悔から大きなため息をつく。
 子供の内から立派な貴族になる必要は無いというサモンジなりの考え方は確かにルイズに一定の落ち着きを与え、彼女の心に余裕を持たせたように思えた。
 しかし、大人になった時に立派な大人になればいいという、子供の内は子供のままでいいというサモンジ考えは、大人の世界に近い子供か、子供の世界の中にあって不幸でない子供にしか当てはまらない。
 未だ子供の世界の中での悩みを抱えるルイズがどんなに未来を見ようとも、他の生徒がフライの魔法で教室を移動するのを見るたびに、あるいは周囲の生徒たちの心無い言葉が彼女の中のコンプレックスを乱暴に抉り出してしまう。
 未来において幸福を掴めばいいという、ある意味楽天的なサモンジののんびりとした大人の答えでは、今の子供の世界の中での軋轢に苦しむルイズは救えない。
 子供の世界の中の何かが必要なのだ。
(ああ全く、世のお父さんが娘のことで悩むのがよく解るよ……子供の気持ちって、子供の世界って難しいもんだねぇ)
 苦々しく騒ぎ立てる子供たちを見ながら、貴族と平民、子供と大人という世界の隔たりを前に何もできずただ見守るだけの自分がサモンジには歯がゆかった。

 サモンジの視線の先、教卓に近い席で授業を受けるルイズの周りの席に座るものは無く、ひどく空いている。
 教室の後ろにサモンジを控えさせているためルイズは独りで座り、彼女から少し離れた場所からひそひそと声が聞こえる。
 その孤独感と不快な噂話が彼女の心をギリギリと削り続けている。
 ルイズは周囲からの言葉を必死で聞こていないと自分に言い聞かせながらノートを取っているが、時折こらえかねてうつむき震えながら怒りを堪える。
 そんなルイズを見て、全く空気を読めていないギトーは大きな声でルイズに注意する。
「ミス・ヴァリエール、顔を上げないか!
 昨日はお手柄だったようだが私の授業で居眠りするとはいささか調子に乗っているのではないかね」
「な……私は居眠りなんてしていません!」
 怒りのあまり立ちくらみを起こしそうになりながらも、慌てて立ち上がって机を叩いて抗弁するルイズに周囲から笑いが起こる。
「言い訳を聞く気は無いな。
 どれ廊下まで連れて行ってあげよう、目を覚ましているというのなら私の魔法に抗って見なさい」
 そういうとギトーは杖を振ってルイズにレビテーションをかけて強引に廊下へ荷物のように運び出そうとする。
 悲鳴を上げて空中でバタつくルイズに周囲からは大きな笑い声が起きる。
 丸々と太った生徒が醜い笑みを浮かべて「白とピンクのしましま模様!」と歓声を上げ、周囲からはより一層大きな笑い声が上がる。
 そのあまりの仕打ちに流石に頭にきたサモンジが声を張り上げようとするが、それよりも早くルイズが大声で荒々しく叫んだ。
「あ、あんたたちぃ!そんなに私の魔法が見たいって言うんなら、そんなに私がフーケのゴーレムを倒したことが信じられないって言うのなら………見せてやろうじゃないのっ!!」
 左手でスカートを押さえながらルイズが杖を構える。
 その様に危険を感じ取り反応できたのはタバサだけだった。タバサは即座にキュルケの腕を取って無詠唱でフライを発動させると、教室の入り口にいたサモンジを弾き飛ばしながら教室を飛び出す。

 直後、生徒達が今までに見たルイズの失敗魔法の中でも最大規模の爆発が、教室の中の何もかもをなぎ払った。

 授業中の轟音に驚いて駆けつけた教師たちは、間一髪逃げ出せたタバサとキュルケと入り口にいたため廊下にはじき出されて気絶していたサモンジから事情を聞くと呆れながらも人を集めて後始末を始める。
 駆けつけたコルベールらは教室の惨状に一瞬言葉を失う。
 机も椅子もめちゃめちゃに壊れ、窓どころか―――宝物庫ほど強力ではないものの固定化のかかった―――壁や床までも大きな亀裂が入っている。
 大きな怪我をしている生徒がいては学院の不祥事と、教師達は慌てて気絶した生徒達の手当てを始める。
 が、いざ診てみると不思議と生徒達に目立った外傷はほとんどなく、怪我をした者も吹き飛ばされた机の破片が頭に当たっただの、吹き飛ばされて他の生徒と衝突したといったものばかりで、教室の惨状にしては奇妙なくらい生徒たちの被害は無い。
 コルベールは他の教師たちに手当てを任せ、教室の中央で佇むルイズと気絶しているギトーの方に向かう。
「ミス・ヴァリエール。ミス・タバサたちから事情は聞いているが、君とギトー君からも事情を聞かないと不公平だからね、ちょっと来てもらおう。それにこの教室は危険だ、早く出よう」
 そう言って先導するコルベールの後をルイズは俯きながら着いて行く。
 気絶した生徒を運び出す教師たちから叱責を浴びながらも、ルイズは心の内で暗い喜びを感じていた。
(ざまあみろ。これで思い知ったか、私はトライアングルメイジのゴーレムを倒せるほどすごい魔法を使えるんだ。誰が嘘吐きだ。ざまあみろ、ざまあみろ、ざまあみろ………)」

「やれやれ、彼女もフーケの一件でメイジとしての誇りと自覚が出来たと思っていたんですが………」
 やれやれ、と薄くなった頭を叩きながら疲れた声を漏らすコルベール。
 先程の大きな失敗魔法による爆発の件は学院施設そのものを破壊したために、学院長直々の裁決となり学院長室で処分を通達することとなったのだ。
 処分内容は、今日を含めて2日の謹慎。
 結局最大の原因はルイズに対する教室内の過剰な侮辱と、ギトーのルイズの居眠りに対する処分があまりに過剰だったということになったためである。
 また、停学ではないのは実家に連絡を入れる必要が無いようにという学院の保身という意図も含まれる。
 ルイズの魔法で怪我はなかったものの気絶するほど強烈な近距離の爆音で耳を傷めた上に、その治療費に加えて長期の減給と罰金―――事実上の学院施設修理費の一部負担―――を言い渡されたギトーは本気で泣いていた。
 まあ学院で預かっている公爵家の令嬢を公然と辱めるような真似をしたのだ。
 下手をすれば物理的に首を飛ばすとまでは行かなくても禁固を食らう可能性もある以上、まだ温情判決と言って良いだろう。
 しかし、コルベールの呆れたような、大したことの無いことだった―――被害は大きいが生徒の起こした不始末でしかなく学院の醜聞ではないという意味で―――ということに安心しきった言葉に、オスマンは重々しく口を開く。
「そんな問題ではないぞ、コッパゲール君。確かにヴァリエール嬢の行動も淑女として相応しくないものだったじゃろう。
 じゃが、他の生徒の下種な言葉が無ければ………いや、それよりも明後日からの彼女の生活が心配じゃよ」

 その言葉に不思議そうにするコルベール。オスマンはこれからのルイズの学院生活を思い、大きななため息をついた。

 ルイズの自室の中。ベッドの上で不機嫌そう、というよりは拗ねているルイズに向かい合うようにサモンジが椅子に腰を下ろしている。
「あんたも私にお小言?サモンジ」
 目も合わせずに言うルイズにサモンジはすまなさそうな顔で答える。
「そんな訳無いだろルイズちゃん。むしろ、あそこは大人の私が先に怒ってあげる所だった。悪かったね」
 文句の一つでも出るかと思っていたルイズは拍子抜けした顔で振り向くが、サモンジと目が合うとすぐにそっぽを向いてしまう。
「そう……解ってるならいいわ、ちゃんと反省しなさいよね!じゃあもう寝るわよっ」
 そう言ってベッドの中でもぞもぞと服を脱いでベッドの脇のカゴに放り込むと、そのままシーツを被ってしまう。
 そんないつもと変わらぬ様子を見て僅かにサモンジも表情を緩めるが、やはり明日以降のことを考えると気が重い。
 ランプの明かりを消し窓を閉めているとベッドの中のルイズが小さな声で呟いた。

「サモンジ………私、強いわよね?
 あんな………自分たちこそ口先だけのエセ貴族なんかよりずっと強い、私の方が貴族らしいわよね?」

 その言葉に暗い感情を感じてぎょっとするサモンジ。
 思わず振り向くが、ランプを消したばかりの星明りの下で目も慣れていない今はルイズの表情は分からない。
 慎重に言葉を選ぶ必要がある、そう直感して声が震えるのを抑えながらゆっくりと返す。
「……今は、ゆっくり眠りなさいなルイズちゃん。君は確かに強いよ………でも、いや、それでいいか。また明日ね」
 今はとにかくルイズを眠らせておこう、そう思いルイズの言葉を否定するのは控える。
 明日は一日休み、日中は学院を回って様子を見てからルイズちゃんと話し合おう、そう考えてサモンジは障りのある言葉を避けることにした。
 ルイズも一度怒りを爆発させたおかげで目が冴えて眠れないということは無いようだ。
 サモンジの返事に、そう、とだけ返すとそのまま無言が続き、やがて寝息が聞こえてきた。
 ルイズ眠りに就いたのを確認すると、サモンジは大きく息を吐いて寝床に腰を下ろす。
 寝床といっても、余り物のシーツを袋状にして藁束を詰め込んだ簡素な藁ベッドだが。
(ルイズちゃん、やっぱりつらそうだな。ギトー先生の件はともかく、今日一日よく我慢してくれたよ………どうにかしてあげないとな)
 サモンジが思い出すのは昨日の夜、学院長室でこの星における自分の地位の低さと味方の少なさを改めて思い知って失意に沈んでこの部屋に戻った夜のこと。
 改めて互いに使い魔の契約を承諾したあの時……「よろしく頼むわ、サモンジ」そう言ったルイズの表情が、心のどこかに焼きついてしまっている。
 ようやく味方が見つかった、そう言うかのように安らいだ声。これからの生活に自信を取り戻した目。
 それを、曇らせたくないと心のどこかが訴える。
 周囲の蔑みの目と自分のコンプレックスから心に壁を築いていたルイズ……今日の一件で、周囲からも壁を作られるかもしれない。

 左手の甲、使い魔のルーンに手を当ててその熱を感じながらサモンジも眠りに就く。
 改めて子供のいる父親の気持ちが解るよ、などと思いながら。


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