あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの御使い1

 アネメア・グレンデルは、二年の時が過ぎた今でも、その時の事を克明に思い出せる。
 かつて人間が、ある生まれたばかりの種族を滅ぼした、その時の事を……。

『喜べ、そなたらの成し遂げた偉業を。
 大地に君臨したアルク・シャールが、今、滅ぶ』

 かつて彼女が手にかけた、知恵あるイブリースの王……彼が最後に残したものは、呪詛でも無念でもなく、自分を殺した少女に向けた寿ぎの言葉だった。
 アルク・シャールが死んだ時、知恵あるイブリースと言う種族の死は確定する。
 個体としての、一人一人の知恵あるイブリースには、生き残るものも居るかもしれない。
 これから新しく、知恵あるイブリースが生まれてくることもあるだろう。
 だが、それらの者達は、あくまでもイブリースの亜種であり、それを一つの、知恵あるイブリースと言う種族として定着させる夢は、あの時断たれた。
 なのにアルク・シャールは、どうして生き残った人間達を祝福したのだろう?
 アネメア・グレンデルは、それがずっと不思議だった……。



「……今日も、いい天気ですね」

 たった一人で住んでいる森の中の大きな塔の、入り口の扉を開けて、全身に太陽を受ける。
 昔と少しも変わらない、ふわふわと柔らかな、風に靡く長い金髪……。
 二年たって少し大人びた顔立ちと、女性らしく成熟を始めた体は、先の戦いで死んだ六つ柱のアルナーダに良く似て来たと、彼女達を知る者に良く言われるようになった。
 そんな彼女がその華奢な手に下げている物も、以前持っていた金色のわっかではなく、大きな赤メアから削りだされ、幾つかの色メアで装飾された頑丈そうな短杖へと移り変わっている。
 そんな姿になったアネメアは、天を仰いで大きく伸びを一つ……大きな鞄を肩にかけると、周囲を囲む森を、ぐるり見渡した。

「今日は、シーツでも洗って、干してみましょうか?」

 覗く一面の青空に、かすかな微笑を浮かべる。
 幸い、暇な時間はたっぷりあるし――すっかり独り言が多くなった少女は、そんな事を呟くと、森の中に続く小道を一人歩み始めた。
 森の小道のそこかしこに設置されている、盾核と呼ばれる結晶体が嵌め込まれた柱を確認し、壊れているものを修復する。
 それが、少女に課せられた日常業務の殆どだ。
 少女の職業は、塔の主。
 大地の魔力(メア)が凝って発生する、あらゆる生き物の天敵とも言える魔物……イブリース。
 それから人々の生活を守る為、その発生率の高い場所に塔を構え、その周辺からイブリースが出て行かないように、張った結界を維持する魔法使いである。
 彼女の済むフェイヤンと言う国で、最も困難且つ、尊敬される職業であるそれは、言ってしまえば、体のいい生贄のようなものだった。
 そもそも、イブリースの発生率が高い場所に人はすまない。

 実際彼女の住むメネクトの森から半径十数キロの範囲に住んでいる人間はたったの三人――皆、彼女と同じ塔の主だ――だけだった。
 金銭には不自由しない為、馬車などは簡単に借りられるし、職業柄人々も快く手伝ってはくれるものの、流石に荷物を運びにイブリースが徘徊する森の中まで付いてきてはくれない。
 最も彼女の場合、親友のシエラとその兄弟ジンとレノが住むマネ山が、メネクトの森からそう遠くはない居場所にある為、
しょっちゅう互いに行き来していたりするし、彼女の祖父やら彼女自身の立てた功績やらの関連で、望まぬ客が訪れる事なども他の塔の主と比してかなり多いのだけれど、
そんな事情があっても尚、彼女が他の人間の顔を全く見ない日もざらにある。

「……ふぅ」

 そして、一人の時間の多い生活は、元々内省的な少女に、多くの思索の時間を与えた。
 アルク・シャールと、彼が残したもの。
 少女はふとした瞬間に、それを思い出し、考える。
 輝く球体を手の上に乗せて、自分に『彼の遺産(これ)』を受け入れる資格があるのかと……。

「……ごめんなさいね。
 私がこんなだから、貴方も宙ぶらりんで……」

 少女はそう呟くと光球を鞄に戻し……そして、顔を俯けたまま、いつの間にか目の前にあった銀の鏡に気付かず踏み込んでいた。



 ゼロの御使い



「……あれっ、平民、か?」

「違うだろ、ありゃあどう見たってメイジだ」

「これって、もしかして相当やばいんじゃない?」

 ざわざわと、周囲の少年少女がさざめく。

「……え?」

 それに気付き、ようやく顔を上げたアネメアは、目の前の光景に絶句した。
 広がる一面の草原と、遠くに覗く大きな城、彼女を遠巻きに眺め、何か深刻そうな顔で話し合う少年少女……。

 メネクトの森の……いや、フェイヤンのどんな場所にもありはしないだろう光景に、アネメアの目が大きく見開かれる。

『……ここは、どこなのでしょう』

 念の為に、と、御使いの一体を展開状態に……周囲を見回したアネメアは、彼女の傍らで、目を丸くしてペタンと座り込む、桃色髪の少女に初めて気付いた。
 恐らくは、突然現れた自分に驚いたのだろう――アネメアはそう解釈して、その顔に笑みを浮かべると、桃色髪の少女へと手を差し伸べる。

「あのはじめまして……わたくし、メネクトの塔の主、アネメア・グレンデルと申します。
 すいませんが、ここは何処なのか教えていただけませんでしょうか?」

「……あ、ありがとう」

 桃色髪の少女は、アネメアの体の周りに突然現れた空飛ぶ光球――彼女が展開状態にした御使い――に目を奪われていたようだが、すぐに硬い表情でそう答え、差し出された手を掴んだ。


 意外に力強い手に引き上げられた体を、ちょっとだけあわあわと泳がしながら立ち上がり、その顔の前辺りにあるアネメアの豊かな隆起に少しだけ眉を吊り上げ……と、豊かな感情を全身で表しながら、桃色髪の少女はアネメアへと向き直って、一礼……。

「私は、ルイズ。
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラヴァリエール」

 そう名乗った少女に、アネメアは胸の前で両掌を合わせるような仕草を見せると、ふんわりとした笑みをその顔に浮かべた

「まあ、これはご丁寧に……」

 そして、そう優雅な仕草でお辞儀をするアネメアに、ルイズも少しだけその表情を緩める。

『……なんだか、ちぃねえさまに似てる』

 そして、少しだけそんな事を考えながら、ルイズは再び頭を下げた。

「……ごめんなさい。
 ここはトリステインの、トリステイン魔法学院。
 その、私が春の使い魔召喚の儀式に失敗して、貴方を呼び出しちゃったの」

 彼女にしては珍しくルイズが素直に頭を下げたのは、目の前に立つアネメアの持つ雰囲気が、どこか彼女の憬れる姉のそれに似通っていたからだろう。

「お、おいあのルイズが……」

「ゼロのルイズが素直に謝ってる」

 そして、何故か慄然としたどよめきに包まれる少年少女たち……。

「トリステイン……予想はしていましたけど、ここはフェイヤンではないのですね」

 どよめく周囲に鋭い視線を飛ばしまくるルイズを追いかけるように、アネメアも周囲に視線を投げかけ、少年少女たちの間に混じる、無数の奇妙な動物達の姿に気が付いた。

『あれは、イブリース、なのでしょうか?
 随分見慣れない姿をしたものばかりですけど……。
 春の使い魔召喚……ここでは、イブリースを捕まえて使役しているのかしら?』

 アネメアの管理する塔があるメネクトの森は、メア濃度・メア結晶再生率が共に高く、イブリースが発生しやすい危険な地域である。
 フェイヤンから遥遠いだろうこの土地から、どうやってメネクトの森のイブリースを呼び出しているのかは判らないが、そう考えれば、アネメアが間違えて呼び出された理由も納得できた。

「ところで、私は元の場所に帰れるのでしょうか?」

 そしてアネメアが続けて考え、口にした一言に、その場が一気に静まり返る。

「あの、まさか、帰す手段がないとかおっしゃるわけじゃ」

 だとしたら、手に負えないイブリースを呼び出してしまった時とかはどうするのだろう?
 硬い表情に戻って黙り込むルイズに少しおろおろと尋ねかけるアネメア……。

「ミス・グレンデル。
 それについては、私の方から説明させていただきましょう」

 大きな木の杖を手に、生徒の人垣を掻き分けながら、前頭部の禿げ上がった中年男がそうアネメアに声をかけた。

「………」

 しかし、そんな冴えない中年男の姿に、アネメアは手にした杖を握り締め、その表情をかすかに引き締める。
 どこか覚えのある、張り詰めた気配……アネメアは、目の前の中年男に、何故かあのアルク・シャール城で戦ったイブリースたちを思い出させる、覚悟のようなものを感じたのだ。

「ミスタ・コルベール」

 そんな二人の様子には気付かず、助かったと言うように、ルイズが呟く。

「ミス・ヴァリエール、君には後で言わなければならない事があるかもしれない。
 だが、今はとりあえず黙っていなさい」

 コルベールと呼ばれた男は、厳しい顔でそうルイズに言い放つと、アネメアに向かって深々と頭を下げた。

「私は当トリステイン魔法学院の教師で、炎蛇のコルベールと申します」

 そんな気配に反応したのか、アネメアの周りを漂う光球が、主をかばうように前に進み出る。
 だがアネメアは殊更にふんわりとした笑顔で光球を後ろに下げると、コルベールに向かって丁寧なお辞儀を返した。

「……これはこれはご丁寧に。
 私は、アネメア・グレンデル。メネクトの塔の主です」

 互いに頭を下げあう形になった二人の姿に、何故か生徒達の人垣は、ルイズ一人をその場に残して、一歩後に引く。
 ……本当の事を言えば、ルイズもそうしたかったのだが、流石に当事者なのでそれは出来なかったのだが。

「今回は、私の監督不行き届きで、ミス・グレンデルには多大なご迷惑をおかけいたしました」

 そんなアネメアの仕草と行動に、外見に似合わぬ場慣れした雰囲気を感じ、コルベールは背中一面に嫌な汗を溜めながら、もう一度深々とその頭を下げた。
 塔の主と言う聞きなれない称号からして、他国の貴族なのだろうアネメア・グレンデルを、自国の領内に誘拐した――コルベールたちを
取り巻く客観的な状況はそのようなものであり、それは、一歩足取りを間違えれば戦争に突入しかねない、危険な状況といえる。
 幸い、少女の口にした塔の主、フェイヤン、メネクト森と言った名前は、トリステインとその周辺の国では聞かない名前ではあったが、
仮に彼女の故郷が名も知れぬほど相当遠い国だったとしても使い魔召喚の儀式で魔法使いを呼び出してしまったと言う状況自体が非常にまずい物だった。

 例えば、自国の重要人物が、突然魔法で召喚されてしまったら?

 召喚された重要人物が、使い魔の儀式で従順な存在にされてしまったら?

 最悪、この事実がばれただけでも、トリステインは周辺国に攻め滅ぼされる可能性すらある。
 場合によっては炎蛇に戻り、目の前の少女を骨も残さず焼き尽くしてこの事件をなかったことにする――だからコルベールは、そんな悲壮を背にアネメアと正対し、その身から溢れる決意が、まだ幼い徒達の体を一歩後ろに下がらせた。

「いえ、それより今の状況を説明してはいただけませんか?」

 そして、対するアネメアの目には、そんなコルベールの決意が、かつて戦った知恵あるイブリースたちのそれと重なって見える。
 自分達とその種族の未来を信じ。背負って、勝てないだろう相手に果敢に挑んできた者達の姿が、コルベールの背中に連なって浮かび、その連想は穏やかな少女の顔に優しい微笑を浮かばせた。

 かつての悲劇と同じ事は、二度と繰り返さない。

 奇しくも同じ意思を胸に抱く二人は、こうして正対する。

 ……そう、どちらにとっても、一方の主役であったはずのルイズを、傍らに置き忘れて……。



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