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ゼロHiME~嬌嫣の使い魔~ 第十話


 フリッグの舞踏会から一週間ほど経ったある夜。ルイズは自分のベッドで子供の頃の夢を見ていた。
 夢の中で幼いルイズは生まれ故郷ラ・ヴァリエールの領地にある屋敷の中庭を逃げ回っていた。

 「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの? ルイズ! まだお説教は終わっていませんよ!」
 「ルイズお嬢様は難儀だねえ」
 「まったくだ、上の二人のお嬢様は魔法があんなにおできになるっていうのに」

 二人の姉と比べて出来の悪いルイズを説教しようとする母の怒鳴り声と、母に命ぜられてルイズを探す召使い達の陰口から逃げるようにルイズは、いつもの場所に向った。
 彼女が『秘密の場所』と呼んでいる中庭の池に浮かぶ小さな島。普段だれも近寄ることのないその場所には小船放置されていて、ルイズは悲しいことがあるたびにその中へと逃げ込んでいた。
 そして、いつものように小船に入り込んで、用意してあった毛布をかぶって泣いていると、そこに陽炎のように揺らめきながら一人のマントを羽織った若い貴族が現れる。

 「泣いているのかい、ルイズ」

 声をかけてきたのはルイズより10歳ぐらい年上の貴族の青年だった。彼は若くして領地を相続したばかりの子爵で、ルイズにとって憧れの君だった。

 「子爵様、いらしてたの?」
 「今日は君のお父上に呼ばれたのさ。あの話のことでね」
 「まあ!」

 それを聞いてルイズは頬を赤く染めうつむく。

 「ルイズ。ぼくの小さなルイズ。きみはぼくのことが嫌いかい?」
 「いえ、そんなことはありませんわ。でも……わたし、まだ小さいし、よくわかりませんわ」

 自らの問いにはにかんで答えるルイズに、子爵はにっこり微笑んで手を差し伸べる。

 「ミ・レィディ。手を貸してあげよう。ほら、つかまって。もうじき晩餐会が始まるよ」
 「子爵様、でも……」
 「また怒られたんだね? 安心しなさい。ぼくからお父上にとりなしてあげよう」

 ルイズが差し伸べられた子爵の手を握ろうとした瞬間、一陣の突風と共に周囲の風景が掻き消える。 

 (……どこよ、ここ?)

 気がつくとルイズは見知らぬ場所に立っていた。
 夕暮れの中、目の前には開かれた大きな門があり、そこから真っ直ぐな並木道が続いていて奥には広場と講堂のような建物、更にその後ろに長方形の建物が並んでいる。

 (まあ、いいか……どうせ、夢だし)
 しばし悩んだ後、そう考えたルイズは門をくぐって、講堂のような建物の方へと向かった。
 ルイズが建物の前につくと、正面の扉が開き、静留を先頭に、眼鏡をかけた男性と使い魔らしき金属の犬(?)を連れた長い黒髪を持つ少女が現れる。

 「……シズル!」

 ルイズは静留達に駆け寄るが、彼らはルイズの身体をすり抜けて、そのまま広場へと移動していく。

 「ちょっと、まちなさいよ!」

 慌てて追いかけながら、声をかけるものの何の反応もない。どうやらこの夢ではルイズの存在は彼らには知覚されない様だった。
 やっと追いつくと、静留が男性と少女の目の前で複頭の大きな水蛇を呼び出した。

 (なにあれ、静留の使い魔? それにあの二人……もしかして、シズルが言ってた『先生』と『ナツキ』?)

 ルイズは状況からそう判断すると、彼らの会話が聞こえる距離まで近づいた。

 「……邪魔せんといてください、先生。なつきを連れてきたいうだけでも、もう余計なことをしてくれはったというのに」

 近寄ろうとする男性――『先生』を牽制しながら、静留が酷く冷めた目つきで言い放つ。

 「静留……こいつは大丈夫だ、我々の仲間だ。どうしたんだ、静留。何をしようとしている!?」
 「高村先生はなつきの仲間いうても、うちの敵どす。と、いうたかて……始まらへんことやけど。全部……始まる前から終わってたんや」

 自分に呼びかける髪の長い少女――『なつき』に向かって小さく首を横に振ってそう答えると、静留は酷く辛そうな表情を浮かべて言葉を続ける。 

 「なつき、お母さんのこと……死なせてしもうて、ほんまにごめんな。うちまったく気ぃつかんくて……許してなんて、なつきの目的知ってたさかい……ほんま、いえた義理や無いんやけど……ごめんな、なつき……」

 (それって……シズルは好きな相手の母親を殺してしまったってこと?)
 木陰に潜んで話を聞いていたルイズは、静留の言葉に衝撃を受けるが、それにはお構いなしに話は続いていく。

 「大丈夫だ、私は静留を許している! 心配は要らない、すれちがいだ。悲しいけど、でも、大丈夫……」
 「そう……よかったわ。ほんまに、それだけが気がかりやったから……」

 なつきの言葉に安堵の表情を浮かべると、静留は『先生』へと声をかける。

 「早まるなっ、藤乃ッ!」
 「先生、なつきのこと……お願いできるんはもう先生だけやがら……敵やけど、憎いけど、大嫌いやけど……せやけど――なつきのこと、おねがいします」

 制止の声を上げた『先生』に向かって静留は優雅に一礼すると、懐から小瓶を取り出して、その中身を一気にあおった。

 「え、な、何……どうしたんだ? 静留、今のは……?」

 なつきはよくわからないという風に、ふらふらと静留へと近づいていく。
 静留がガクリと膝を突き、それを抱きとめようと男が腕を伸ばすが、その手は跳ね除けられた。

 「いややわ……先生に抱えられて死ぬなんて絶対にいややわ」

 (当然よね……私が同じ境遇でも、恋敵の情けを受けるなんてご免だわ)

 成り行きを見守るルイズにも、その静留の気持ちは痛いほど理解出来た。

 「――かはぁッ」
 「静留……静留!?」

 静留が男の足元に崩れ落ち、異変に気づいたなつきが駆け寄って、その身を抱き上げる。静留の口から一筋の紅い血が流れ、彼女が何を嚥下したかを悟ったなつきが泣き叫ぶ。

 「どうしてっ……!? 静留! 吐け! 吐くんだ!!」
 「……ええんよ、なつき」

 静留は必死に身体を揺するなつきの手をそっと握る。

 「ああ、うちは今なつきに抱かれてるんやね……幸せやわ……これで、思い残すことなく逝ねるわ――かはっ、ごほっ!」
 「もういい、しゃべるな……」

 咳き込んだ静留の口から飛んだ血の飛沫を受けながら、なつきは静留の身体を強く抱きしめる。

 「いけずやね……最後なんやから言いたいこと言わせてもろたかて、ええやないの」

 静留はなつきに向かって愛おしさと慈愛に満ちた笑顔を浮かべる。

 「うちがどんだけあんたのこと思とったか……知らんやろね。一度だって、うち、なつきのことを友達やなんて思えへんかったわ――愛してたんやもん」
 「静留……」

 静留の告白とそれを呆然と受け止めるなつきの姿を、ルイズは居たたまれない気分で見ていた。
 多分、『星詠みの舞』さえなければ、静留は彼女の友人として十分に幸せに生きていけただろう。例え、その想いが伝わらなくても。

 (相手の幸せを守るために死ななきゃならないなんて、そんなのあんまりよ)

 彼女らにこんな理不尽な運命を課した者達にルイズは怒りを覚える。

 「せやのに、うちはHiMEになってしもうた……清姫が負けたらあんたも消えてしまう……そんなん嫌やったから、こうするしか無かったんや。うちはただ、あんたに、生きとって欲しかっただけ……ちゃんとデュランで清姫を倒すんよ。一番地の黒幕やった黎人さんを……鴇羽さんと美袋さんの触媒やったあの人を殺してきたさかいに……これで……あんたが、最後のHiMEや――」
 「死ぬな、静留! 死なないでくれ!!」
 「ああ、なつき……あんたは優しい子やな。鬼みたいなうちとは大違いや……」
 「馬鹿なことを言うな! 静留は優しい! 他の誰が違うといっても、私は静留は優しいと言うぞ!!」
 「ありがとうな、なつき……うちは……幸せ……や……」

 その囁きを最後に静留の瞼は閉じられ、二度と開かれることはなかった。


 「……っ!」

 意識が覚醒すると同時に、ルイズは思わず飛び起きる。夢とはいえ、人の死ぬ様を見たせいか呼気は乱れ、背中のあたりに嫌な汗をかいていた。

 「よお、どうしたよ、娘っ子? まだ起きるにゃ早くねえか?」

 薄暗い部屋の中、壁の棚に置かれていたデルフがルイズに声をかける。

 「別に大したことは……って、剣なんかに心配されたくないんだけど」
 「けっ、誰が心配なんぞするか。姐さんの主人じゃなきゃ、お前なんぞに声かけねえよ」
 「なんですって~~~」
 「うう~ん……」

 デルフと軽く言い合いになりかけたルイズが、自分の下半身のあたりから聞こえてきた声にぎょっとして視線を下げると、寝ぼけた静留がルイズの腰にしがみついていた。

 「むにゃむにゃ……もう放しまへんえ~」
 「ちょっと、何しがみついてんのよ。いい加減……」
 「なつき、堪忍な……」

 苦しそうな表情と共にこぼれた静留の寝言に、彼女を引き剥がそうとしていたルイズの動きが止まる。

 「まったく、もう……異世界に来てまで謝ってんじゃないわよ」

 ルイズは苦笑気味に微笑むと、静留が目覚めるまでその頭を優しく撫でつづけた。



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