あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

神の左手は黄金の腕-05


そこは屋敷の庭じゃなかった。
自慢の池もボートもそこにはありはしない。

あるのは割れんばかりの拍手と喝采、大声援。
舞台を取り囲むように満員の入場者が彼等に注目する。
ステージがあるべき場所は視界が開ける程に広く、一面に緑色が広がる。
そこに集うのは十数人の鋼鉄の選手達。
その中に、見知った彼の姿があった。

……いや、違う。
こんなにも嬉しそうなゴールドアームの表情は知らない。
沸き立つオイルが体中を巡り、彼の全身に力が漲っていく。
向かい合う赤いユニフォームの選手に何事か叫びながら彼の脚が高々と上がる。
稲光にも似た閃光を放つ渾身の直球。
それは振り抜かれたバットさえも溶解させた。
キャッチャーのミットにボールが納まった瞬間、
観客からボールの熱にも負けぬ大歓声が上がった。
同様に私の心にも熱い何かが迸る。

……だけど素直に熱狂する事は出来なかった。

私は気付いてしまった。
ゴールドアームが居るべき場所はハルケギニアじゃない、
このスタジアムの、マウンドの上なんだと…。

そうして私は目を覚ました。
部屋の端にはいつものようにゴールドアームがいる。
その光景に安堵と共に罪悪感が沸いた。
寝起きの顔に手をやると、そこには温かい雫が溢れていた。


「ご苦労じゃったのう」

自慢の顎鬚を撫でながらオールド・オスマンが居並ぶ面々を労う。
秘書に裏切られたにも拘らず、平然を装う学院長の姿にゴールドアームは感心を覚えた。
飄々とした人物でありながらも、心の内に秘めるその芯は強い。
その彼の姿は、あのシルバーキャッスルの監督を思わせる。

学院長の机に置かれているのは『破壊の杖』を収めたケース。
しかし、それも度重なる衝撃で砕けて中身を露出させている。
ルイズ達は『破壊の杖』が何か判らなかったがゴールドアームには見覚えがあった。

アイアンソルジャーが扱う物にしてはサイズが小さいが、
この『破壊の杖』は間違いなく旧式のロケットランチャーだ。
軍事兵器が何故ここにあるのかは考えるまでもない。
自分と同じ様にあの場所へと呼ばれた物が流れ着いたのだろう。
しかし、オスマンの次の言葉が彼の予想を覆した。

「これは命の恩人の形見でなあ」
「……命の恩人だと?」

問い返すゴールドアームにオスマンは自分の過去を明かした。
若かりし頃、その恩人は危機に陥った彼を『破壊の杖』で救ったという。
その人物は怪我が元で既に亡くなったという事だったが、
ゴールドアームにとっては大きな発見があった。

“この世界に呼ばれるのは兵器だけではない”

尤も彼にとってはどうでもいい事だ。
アイアンリーガーとしての確信を取り戻した今となっては……。

「どうしたのよゴールドアーム?」
「なに、下らない事で悩んでたのがバカらしくてな」

珍しく笑みを浮かべる彼に、ルイズが不意に訊ねる。
その頭をポンポンとグラブで撫でながら何にもないように振舞う。
突然の子供扱いに、ルイズの顔がむくれる。
二人のやり取りにクスクスと笑いながらキュルケが口を挟む。

「ほら、機嫌直しなさいってば。今夜は『フリッグの舞踏会』があるのに、
 いつまでもそんな顔してたら誰も寄り付かないわよ」
「別に! 誰かさんみたいに男漁りとかしませんから!」

フンと鼻を鳴らすルイズと憤るキュルケ。
そんないつもの光景をタバサが眠そうな眼で見守り、
ギーシュがやれやれと肩を竦めている。

それは下らなくも楽しい時間だった。
多分『向こう』に帰った後もそう思えるだろう。
ゴールドアームが昼間の事を思い返す。
見上げた先には地球では考えられぬ二つの月。
ゴールドアームはルイズに全てを打ち明けるつもりでいた。
自分の過去、そして決着を付けなくてはならない相手の事を……。


舞踏会が中盤に差し掛かってもルイズが現れる気配はない。
女性の身支度には時間が掛かると聞いたがメンテナンスでも受けているのだろうか。
ふとそんな突拍子もない事を考えていると入り口の衛士が彼女の名を呼んだ。
振り返るとそこには豪奢なドレスに身を包んだルイズの姿があった。
平時の彼女の姿しか知らない者が見ればきっと驚いたに違いない。

「どう? 似合ってる?」
「ああ。馬子にも衣装ってヤツだな」
「何よソレ! ケンカ売ってるの!?」
「…悪ぃ。褒めたつもりだったんだが口が悪くてな」

がぁーと凄い剣幕で怒るルイズに、ゴールドアームもたじろぎを見せた。
彼に見せる為に精一杯おめかししたのに、この言われようである。
ルイズの怒りも尤もであった。
彼女の喧騒を余所に、演奏の終わった楽士達が次の音楽を奏で始める。
それを耳にし、ルイズも気を落ち着けながら彼に話し掛ける。

「……ゴールドアーム、一緒に踊ってくれる?」
「ああ。いいぜ」

ダンスなんてやった事もないが丁度良い機会だ。
ここで話を付けようと彼はルイズの手を取った。
ぎこちないステップを踏むゴールドアームをルイズがリードする。
野球の時とは全く逆の立場になった事に可笑しさが込み上げる。

「………なあ」
「判ってる。ここから出て行くんでしょ」

言葉の先を取られたゴールドアームの目が仰天に見開く。
何かしら悟られるような気配があったのだろうか。
それとも、これが使い魔と感覚を共有するという事か。
答えなど出る筈もなく彼はルイズの罵倒を覚悟し押し黙った。

しかしルイズは何も言わずにその体を抱き寄せた。
触れ合った彼女の体が僅かに震えていた。
気付けば目元の化粧が落ちて赤く腫れ上がっているのが見えた。
泣き腫らした跡を隠すのに時間が掛かったのだろう。
きっと彼女はこれが最後だと知っていた。
それでも最後まで主らしくあろうと振舞っている。

「本当に……大したガッツだぜ、お前さんはよ」

髪を纏めた彼女の頭を撫でる。
それに反論する声も振り払おうとする手も出ない。
ただ一心に彼の為すがままに身を任せる。

「だがな、別れる時は笑顔だ。俺達はいつも繋がってる、ここでな」
「……うん」

トントンと彼は自分の胸を親指で突付く。
自分の回路が他の誰かの回路と繋がる感覚を彼は覚えている。
彼女達の言う精神力が心の持つ力だというなら不思議ではない。
強く願えばどんなに離れていようと再会だって出来る。
決して帰って来れない戦場からアイツが戻ってきたように。

「今度会う時には俺の魔球を教えてやる。
 だからそれまでお前も自分を磨いておけ、約束だ」
「……うん」

それはかつて自分が交わした約束。
今度は俺が約束を果たす番だ。
何年掛かろうとも俺はもう一度ここに戻ってくる。
自分が受け取ったボールを彼女へと手渡す為に。

その時はまたキャッチボールでもやろうか……なあルイズ。


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