あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの夢幻竜-27


『女神の杵』は、ラ・ロシェールにある宿の中では一番上等な宿である。
アルビオンに渡る貴族達のみならず、他国からフネを利用してやってくる裕福な商人達にとっても、旅の疲れを癒すにはもってこいの場所だと呼ばれている。
ルイズ達一行はそこに泊まる事になった。
ただし、ルイズ、ワルド、そしてラティアスはキュルケ達をそこにおいて別の方向に向かう。
それはアルビオン行きのフネが出るという大木の桟橋だ。
ラティアスが下を行くルイズ達を見つめながら前に進んでいると、目の前に少々小高い丘が現れる。
そしてその上には……異常なまでに巨大な樹があった。
太い幹、四方に伸ばした長大な枝を見る限り、樹齢にして数千年は生きていたのではないかと思わせるほどのものだ。
高さにしても、先の方は夜空に吸い込まれるように消えているので一体どれくらいの高さなのか見当がつかない。
またそれぞれの枝には木の実の様に大小さまざまなフネがひっついている。
昼間なら面白く見えそうな光景ではあるが、今は沈み行く太陽の光の残滓を受けておどろおどろしい雰囲気を醸し出していた。
すると、ルイズとワルドが木の根元へと消えていく。
いや、正確には木の内部へと入って行ったという事になるが。
ラティアスも高度をぐっと下げて木の内部に入った。
中に入ってラティアスはまたも驚かされてしまう。
木の内部は完全な空洞になっていて、外から見た際、彼方此方に伸びていた枝には階段が繋がっていたからだ。
そしてよく見ると、階段の始点とも言える場所にはトリステインの公用語が書かれた鉄板が貼り付けられている。
この世界に来てそこそこの日数が経つが、未だにラティアスは使われている言語を知らない(と言うよりは読めない)ので、鉄板に刻まれた文字が何なのかが分からなかった。
見物をするように辺りを見回していると、いきなり頭上からお呼ばれがかかった。

「ラティアス!こっちよ!」

見るとルイズはとうに木の階段を昇り終えたらしく、桟橋である枝の付け根辺りからこちらに向かって手招きをしていた。
ラティアスは直ぐにそこに向かって馳せ参じる。
そこから外に出ると、先ず目についたのは一艘の木造船だった。
大きさは100から150メイルほどはある。
マストがあって、畳まれている帆を見受ける限りは普通の帆船を想起させるものだ。
だが空中に浮かぶ為か、両舷から鳥の翼を思わせるような羽が出ている事より、それが飛行用の船だと改めて思いしらされる。
ただ、今は上に伸びている枝から伸びたロープによって吊るされている。
また、少し歩くと昇降用のタラップが甲板に伸びていた。
時折吹き付ける強烈な風の冷たさは彼女達に、自分達がいる場所は位置的にかなり高い場所である事を自覚させた。
眼下ではラ・ロシェールの町の灯が、蛍の光の様に淡く輝いている。
それを気に止めるでも無く、ルイズとワルドは船の甲板へと上がった。
出航するのがまだ先になるためか、甲板では船員が一人呑気に毛布に包まって寝込んでいるだけであった。
だが客が来たために、彼はのっそりとした動作でその応対をする。

「なんだなんだ?ウチのフネに用かい?」

酔っているためか何ともぶっきらぼうな対応だったが、ワルドは表情一つ変える事無く質問する。

「このフネはいつアルビオンに向けて出航する?」
「あさっての朝でさあ。アルビオンがここラ・ロシェールに一番接近する『スヴェル』の月夜が明日なんでね。」

話はそれで終いとばかりに、船員は「寒い寒い」と呟きながら再び毛布に潜り込む。
ワルドはその答えに対して残念そうな表情をした。

「困ったわね……急ぎの用なのに……」

ルイズは不安そうにフネの全景を眺めながら呟く。
今ここで自分達が貴族だという事を明かして無理に出発させたとしても、風石が足りなくなってしまえばお話にもならない。
あっという間に地面に向かって真っ逆さまになるのは目に見えていた。
かと言って、明後日まで待つなどと悠長に構えていれば、それだけアルビオンの情勢が不味くなるのも分かってはいる。
どうすれば良いか考えていると、一つの解決策が浮かんだ。

「そうだ!ねえ、ラティアス!お願いがあるんだけど……」
「?何でしょうか?御主人様。」
「ここからアルビオンまで私を乗せて飛べる?」
「ええっ?!」

それはラティアスにとって全くの不意打ちとも言える質問だった。
ラティアス自身も、てっきり今日はラ・ロシェールで一泊するものだと思い込んでいたからだ。
それが今になって全部フイになったのである。
おまけにここからアルビオンまで最大航行速度で飛んだとしても、時間にしてどれだけかかるか分からない。
だがしかし……主人であるルイズの期待は裏切りたくなかった。
これしきの願いもきけない使い魔とも思われたくない。
考えてみれば、自分は風竜よりも、グリフォンよりも速く飛ぶ事が出来る竜だ。
ルイズが王女アンリエッタから、真っ先にこの任務を受けた第一人者であるという事も加味すれば、自分がルイズだけを乗せて先にアルビオンに行ってもおかしくはない。
仲間と離れる分、戦力に一抹の不安も覚えるが、こなさなければならない任務の優先順位を秤にかければ、間違い無く皿は任務の方に傾くだろう。
だが、ラティアスのそんな決心に水を差す様にワルドが口を挟んでくる。

「ルイズ。今からアルビオンへ向けて出発したのでは、幾らその竜が僕のグリフォンより速くても到着は深夜になってしまうよ。
それに、仮にアルビオンに着いたとしても、無事に王党派のいるニューカッスルまで行けるかどうか怪しいものだ。ここまでの道程が平坦な物ではなかった事ぐらい分かっているだろう?」

分かっている事をいちいち確認するようでイラッと来るものだが、ワルドの言っている事は事実だ。
だがラティアスとて、それを聞いたところで大人しく引き下がる訳にもいかない。

「私は御主人様の使い魔です。御主人様を必ず守ってみせます。私だって飛ぶしか能が無いわけじゃないんですから。」

そう言うとラティアスは手をしまい、翼の角度を地面と平行にする。いつもの高速航行姿勢だ。
ルイズは少々後ろ髪を引かれる思いを抱きながらも、ラティアスの背中に乗る。
それを見たワルドが、しょうがないなといった感じで溜め息を吐いたので、ルイズは慌てて弁解した。

「あのね、ワルド!あなたと一緒に行きたくないという訳ではないの。勿論、衛士隊にいるあなたは頼もしいわ。ただ……私、婚約者としてあなたに釣り合う様なメイジになりたいから……少しでもあなたに認めてもらいたいから……だから……!」

その後は上手く言えない。
心の奥底から迫る感情が、口から出ようとする言葉を引っ込めさせようとするからだ。
暫しの間、静寂がその場を包みこむ。
先に口を開いたのはワルドの方だった。

「分かった。それ以上は言わなくても良いよ、僕の小さなルイズ。多少不安は残るが、僕も君の仲間を連れて直ぐにアルビオンまで向かうよ。それと、使い魔君?」
「はい、何でしょうか?」
「道中はくれぐれも気をつける事だ。僕の婚約者を頼むよ。」
「分かりました!」

ラティアスはしっかりと返事をし、出発の体勢に移る。
ルイズはラティアスの首に腕を回し、振り落とされないようにしっかりと交差させた。

「御主人様、進行方向をお願いします!」
「方向は……フネの船首が向いているのと同じ方向よ。細かい方向は後から指示するわ。全速力でお願いね!」
「了解です!」

そう言うや否やラティアスは急発進をする。
そしてその姿は迫り来る夜闇の中に、点のようになって消えていった。

残されたワルドは踵を返し、桟橋を後にする。
地上に向かう木の階段を下りながら、彼は思考を張り巡らせた。
思い返してみれば、様々な事が彼の想定の範囲外で起きていた。
最初の誤算は自分の今密かにいる陣営……アルビオンの貴族派の仲間にしようと当てにしていた『土くれ』ことフーケの元を訪れた時に起こった。
てっきりチェルノボーグの牢獄にいると思われた彼女だが、そこに彼女の姿は無かった。
方々を探してやっと見つけた彼女の居場所は厳重な管理がなされた診療所。
ルイズ達の手によって捕まった時に負った怪我が相当重傷だったらしく、水系統メイジが色々と手を尽くしても数週間はまともに体を動かしてはいけないと聞かされた。
縛り首は避けられないというのに、今更治療して何になるのかと診療所の衛兵が呟いていたのは彼の記憶に新しいところだ。
とにかく、これで考えていた策の一つは無しになった。
また、ルイズが竜を召喚していた事より、彼女単独だけでもアルビオン行きが早まってしまった事も想定していなかった事と言える。
もっと自分が集団行動と、一応婚約者である自分の存在の大切さを説いて、しっかり引き止めれば良かったかもしれない。
だが、あの世代はとかく自分の力を誇示しようと、自分をもっと良く見てもらおうと、無理な事を無理と思わないくらい必死に背伸びをしたがるものだ。
ましてや小さい頃から、親によって出来の良い二人の姉達と比べられてばかりだった彼女なら、人一倍そんな感情が強くてもおかしくはない。
まあ、斥候として行かせた説明すれば、残された同級生達にも多少は言い訳がたつという物だが。
その代わり、連中は邪魔になればいつでも切り捨てるか、或いは気付かれないようにひっそりと始末すればいい。
彼等は危険を承知で付いて来たというのだから、何があっても文句は言えまい。
死人に口無しでもある。
そして最後の誤算は、ラティアスと名乗った竜そのものにあった。
風竜、そして自らの駆るグリフォンよりも速く、そして長く飛び、杖も呪文も要らない不思議な技を使い、挙句人間と口を介さぬ意思疎通、ルイズ曰く精神感応を行う。
脅威だ。実力の底が見えないだけに、今自分が与している陣営にとっては底知れぬ脅威だ。
今になれば、無理にでも軽く手合わせをやって実力を測っていれば良かったと考えてしまう。
そうして実力の差を見せ付けておき、自分に全幅の信頼を置かせてから足並みを合わせさせていれば、幾らでもその後起こりうる計算違いへの対処方法はあったかもしれない。
もしあの竜が王や皇太子に丸め込まれて王党派と結託し、王女から与えられた任務序でに貴族派を蹴散らす事となったら……考えただけでも不快極まりない。
階段を降り切ったワルドは、彼方此方に散らした自分の『偏在』に指令を出す。
次から次へと自分が立てた作戦に変化を要求されるこの状況に、彼は徐々に焦りを覚えていた。

下に見えるは双月の光に照らされた海ばかり。
上に見えるはやはり双月に照らされた紺碧の夜空。
空気はからっと乾いており、風らしい風も無いので高速で飛ぶのには申し分ない環境だ。
そんな中ラティアスは、以前トリスタニアに向けて飛んだ時の倍近い速度でアルビオンに向かっていた。
ただ……時折ルイズと会話でもしていないと気が持たない。
夜もとうに更けているために、襲ってくる眠気が半端ではないのだ。
夕方に飛び始めたので、今でかれこれ3時間は経っているだろうか。
飛び続けるだけの体力の事を考えれば、このままだともってあと4時間というところだろう。

「御主人様、方向はこれで合っていますか?」
「ええ。合ってるわよ。」

定期的に方向確認をするラティアス。
暇潰しに学院の事を始めとするこの世界の事について散々話してはいたが、数十分ずっとこのやりとりしかしていない。

「ラ・ロシェールの皆さんは大丈夫でしょうか?」
「心配無いわ。だってワルド様がいらっしゃるんだもの。言い忘れてたけどワルド様は風のスクウェアメイジなのよ。」

ラティアスにとってそれは初耳だった。
だがスクウェアクラスのメイジならば問題は無いだろう。
また、それより実力はやや劣るが、学院生徒組にはトライアングルクラスのキュルケやタバサもいる事だ。
よっぽどの事が無い限り、アルビオンまで来れないという事は無いと考えておきたい。
そこまで来てラティアスは肝心な事を訊いていない事に気がついた。

「あのう、御主人様。」
「なあに?」
「ワルドさんとは、その、もう結婚をするつもりなんですか?」
「今直ぐじゃないでしょうね。でも近い将来そうするかもしれないわ。」
「そうですか……ところで御主人様はワルドさんのどういう所が好きなんですか?」

何の気無しに投げられた質問ではあったが、その質問にルイズは頬を薄紅色に染めて答える。

「好きより……憧れって言った方がいいかしら。私、学院に入る前から魔法の訓練をしてたの。でもどんなに頑張っても成績は全然駄目。その頃から魔法が出来なかったの。
お母様はいつもそんな私を出来の良いお姉さま達と比べて、物覚えが悪いとか色々理由をつけて私を叱っていたわ。その内我慢出来なくなって途中でよく逃げ出してたのが恥ずかしいわ。
けど、そんな時はワルド様が私を慰めてくれたのよ。ワルド様の領地はヴァリエール家のすぐ近くだったから、よく家を訪ねる事があったの……」

昔を懐かしむようにルイズは目を閉じる。
ヴァリエール家には舟遊びが出来る程の大きさを持つ池のある中庭があり、ルイズは気分を害する事があると、直ぐそこにある小舟に引っ込んで拗ねていた。
と言うのは、中庭自体よりつく人間が殆どいなかったし、両親は家の事情で多忙な事、姉達も舟遊びをやるような年ではない事がルイズにとってそこを都合の良い隠れ場所にしていたからだった。
そんな彼女を偶然見つけ出し、折に触れて優しく慰めてくれたのがワルドだったのだ。
ルイズはそんな思い出を懐かしむ調子も含めて続ける。

「ワルド様、早くにお母様を亡くされてて、お父様も戦争で亡くなっていらしてたから、若くして立派な貴族になる為に、衛士隊に入ってから物凄い努力をされたって今日聞いたわ。
昔お会いした時も素敵だったけど、今はそれ以上なの。強くて、逞しくて、頼りがいがあってそれでいて紳士的で優しい方よ。」
「そうだったんですか……そういった方なら女性は誰でも憧れてしまいますね。」
「ええ。婚約ももう10年以上前に、両方の父親同士が勝手に決めた事だったから、てっきり反故になった物だと思っていたんだけど、きちんと覚えてくれていたのが凄く嬉しかった。
あれだけの地位にいらっしゃるから他の女性のお誘いは沢山あったはずなのに、今でも私だけを見ていてくれたんだと思うと、正直胸がどきどきするわ。」

うっとりとした語り口にラティアスは心なしか嬉しさを感じる。
主人であるルイズが幸せになってくれれば、仕えている身としてこれ以上の幸せは無いものだ。
と、ルイズがラティアスの背中に体をことんと預ける。
食事も取らずに長い事話をしていたので、流石に眠くなったのだろう。
しかし、肝心の案内役が眠ってしまっては道に迷う事になる。
首に絡んでいるルイズの腕の締まりが段々と緩む。
この速度で腕を放されたら、海に向かって真っ逆さまだ。
ラティアスは慌ててルイズを起こす。

「御主人様、起きて下さい。眠いのはよく分かりますけど、私が迷うわけにはいきませんから……」
「えっ……?あっ、そうね。ごめん。」

ルイズははっとしてラティアスの体から身を起こす。
未だ見えぬ『白の国』アルビオン。
果たして一体何が自分達を待ち受けているのだろうか?
ラティアスはそう思いつつも、勢いを失う事無く、夜闇を切り裂く様に飛び続けるのだった。


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