あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第十話 Purify, and by blood without dirt.


分からない。あの時、学院長室で彼らが話していた事が。
――人を殺す為のクローンとはの。難儀なものじゃ。
殺す? 人を? あの人が?
扉に近づいて、耳を側立てればもう少しはっきり聞こえたかもしれない。
本当は、そうすべきだったのかもしれないけれど、でも、その時は出来なかった。これ以上、あの人を汚す様なまねは。
――決闘の時も、直ぐに殺せたのか?
決闘、と言う言葉で、脳裏に彼がこの学院に来て、直ぐの出来事が浮かぶ。
――先日、貴族が、不審な死に方をしました。
多分、この声はコルベール先生だろう。酷く声が震えている。
最近、一度だけ身近になった貴族が死んだ。事故死で片付けられたけれども、あれは、よくよく考えてみれば奇妙な死に方だった。
まさか、あれも……?
信じられない、信じたくない。そう言い聞かせる様に首を振る。
魔法を使えない、平民だと思っていた。そして、その通りで、でも貴族相手でも毅然とした態度を取れる。憧れだった。その彼が、人殺し?
自分が、今、此処にいられるのは、彼が、人殺しだから?
頭が痛くなってくる。脳の、ずっと奥の方から。
授業終了を知らせる鐘が遠くで鳴った。肩が震え、目眩を起こす。
扉の向こう側から、こちらに近づいてくる足音が聞こえた。話を終えた、彼が、向かっているのだ。寸での所で歩き出す。幸い、生徒や、教師にまぎれる事が出来た。
扉から出て来た彼が、少しこちらを見た様な気がしたが、決して振り向かず、歩く。
今、振り返ったら、きっと青ざめた表情を見られてしまうだろう。



※※※



厨房で、47は何時もの様に朝食をとる。
来るのが、何時もより遅い事にマルトーは少しだけ驚いたようだったが、直ぐに用意してくれた。バターをのせたパン。スクランブルエッグにチーズ。皆、貴族の朝食の残り物だ
ワインも勧めてくれたが、朝から酒は、と丁重に断る。既に昼食の準備を始めているのか、キッチンでマルトーは何か調理をしていた。
47は自身の食事を終えて、彼の背中を見る。それから、空いた食器を重ねて流し台へと運び、洗い始めた。
「何だ、別にそのままにしておいたって構いやしないのに」
「忙しそうだからな。手伝える事は、手伝いたい」
マルトーの強張った顔が、和らいだ。
手際よく食器を洗う47の姿を目の当たりにして、満足げに頷く。それから、マルトーは食材の搬入を手伝ってほしいと頼み、47もまたこれを受け入れた。
食材は既に学院内に運び込まれて、厨房の直ぐ外にあるらしい。教えられた場所に行くと、結構な量の木箱が積み上げられていた。
持ち上げてみると、ずしりとくる。成る程これを運び込むのは結構な労力だ。マルトー程の大柄な人間でも大変な作業だろう。
幸いな事に、47は「重たいもの」を運ぶ事には慣れている。今までも、「重たいもの」を箱の中に隠したり、崖から落としたりしてきた。だから、今目の前にある重たいものを運ぶのも苦ではない。
小一時間程かけて木箱を運び入れると、マルトーはオムレツをご馳走した。助かった。何時もは俺一人でやっているんだが、お陰で貴族様の昼食造りが忙しくなってしまうんだ。そう大きく笑い声を上げながら。

額に多少浮かんだ汗を拭い、47は何時も朝食を食べている席について、オムレツを口に運ぶ。
甘い、とろける様な卵の感触が舌の上で踊る。手短に作ったとは、到底思えない様な絶品だ。元いた世界では決して味わう事の出来ないオムレツを、ゆっくり、味覚に刻み込む様に食べる。
悪くないな。柄にも無く、47はそんな事を思う。彼とて、暗殺者として生まれた訳だが、その生き様は何時でもそれに倣うものではなかった。
たった一度だけ、これまで、彼は贖罪の意味を込めて教会で働いていた事があった。暗殺とは全く無縁の生活。
其処の神父は、自分を親友だと認め、それは47も同じだった。毎日決まった時間に起きて、雑事をこなす。そしてミサには出席して夜は眠る。その日々が続いた。
だが、それはある日唐突に壊されてしまった。47の本質、暗殺者としての力を求めた者が、神父を拉致したのだ。
47は、彼を助ける為、暗殺者として裏世界に身を投じる事を選ばざるを得なかった。
果たして、今はどうだろうか。この世界には、ICAも、フランチャイズもない。少なくとも、今は違う。暗殺者としてではなく、ルイズの使い魔として、生活する事が出来る。
思えば、彼が使い魔というのを認めたのは、そんな過去が脳裏を過ったからなのかもしれない。
不意に、厨房に皿の割れる音が木霊した。47は、手を止めて音のした方に目を向ける。
どうやら、シエスタが手を滑らし、皿を床に落としてしまったらしい。数日前、彼女の部屋を訪れた時に比べ、随分顔色は良くなっていたが、その表情は苦悶に歪んでいた。
「珍しいもんだな」
マルトーは頭をかきながら、それでも調理の手を休めない。暫くして、シエスタは箒を持ってくると、飛び散った破片を集め始めた。
「手伝おう」
最後の一口を胃の中におさめて、47はシエスタへと歩み寄る。
「い、いえ。……一人で、大丈夫ですから」
だが、シエスタは目もあわせないまま、やや語尾を強めてそれを拒んだ。その間にも、彼女は細かい破片を手で拾い集める。
「……っ」
言葉にならない悲鳴が、上がった。シエスタの、右手の指先から、微かに血が伝う。慌ててもう片方の手で押さえるシエスタだったが、47は真っ先に彼女の怪我に気づく。
そして、代わりに残った破片を拾おうと、手を伸ばした。
「だから、大丈夫です……!」
今度は、明確に怒気の混じった声で、シェスタが叫んだ。これには遠くから見ていたマルトーも驚き、顔を出す。47が手を止め、彼女の表情を覗く。
シエスタは顔を伏せていたが、肩が大きく震えている。
直後、彼女は一瞬だけ顔を上げた。その瞳は、深く、黒く沈んでおり、何時もの彼女の面影は殆ど失われていた。47は何も言えず、ただ彼女の姿をじっと見据える。
ややあって、彼女は急いで破片をかき集める。途中、何度も破片で指を切った。それでも、その手を止めずに。
全てを集め終えた彼女は、最後に深々と47に頭を下げて厨房から出て行ってしまった。突然の行動に、マルトーも47も言葉をかけられない
「珍しいもんだな」
ついさっきと全く同じ事を口にしたマルトーだったが、その理由は皆目見当もつきそうになかった。



※※※



馬鹿な事をしたと、シエスタは集めた破片を集積箱に投げ入れてため息をついた。
なんで、あんなに強く反発してしまったのか。彼が、暗殺者だからなのか。誰かを殺す為に造られた人間だからなのか。
傷ついた指先を、側にあった水汲み場で清める。微かに血が、水に混じる。彼は、これ以上に溢れ帰る血を、ずっと見て来たのだろうか。
「死んで良い人間はいない。……それは、運命だ」
あの時、彼はそういった。だから、彼女は立ち上がれた。今では、それが嘘の様に聞こえて仕方が無い。
「あら、どうしたの。酷い怪我じゃない」
急に、息が詰まる感覚を覚えた。声のした方には、諸手に粉々になった木屑を抱えたルイズがいた。数日前に見かけたときと同じ様に、やはりマントがぼろぼろになっている。
「あ、いえ。お皿を割ってしまって……」
また、魔法で失敗して、ものを壊したのだろう。理解はしているが、決してシエスタは口にしない。
ルイズも慣れた手つきで集積箱に破片を押し込むと、軽くマントをはたいて埃を落とす。
「そう?なら気をつけてね」
そして、少しだけ首をかしげてからルイズは踵を返した。
待ってください。シエスタの口から、無意識に言葉が漏れる。シエスタ自身が反応するよりも早く、驚いた様にルイズが振り返った。
「あ、その……ミスタ47の事、どう思っていますか」
ルイズと真っすぐ向かい合い、シエスタは声を絞り出す。戸惑いを隠しきれていないその言葉に、ルイズははにかむ。
「もしかして、彼の事が気になるの?」
「そういう訳ではありませんが……」
「でもね、あんまりお勧めしないわよ。彼、部屋にいる時殆ど喋らないんだから。まあ、ちゃんと使い魔としての役割を果たしてるから別に良いんだけどね」
シエスタ相手だから、こんなにもルイズは気さくな態度で返せた。
仮に、この質問の相手がキュルケだったら、また噛み付いていた事だろう。シエスタ自身、その事を良く理解している。
しかし、彼女の問うた事に関しては、強ち間違いでもなかった。彼女は、己が魔法を未だ使えない、平民に近い立場である事を知っている為か、厨房の人間ともまあ仲がいい。余り貴族を好まないマルトーも、ルイズの事を気にかけはする。
だが、真意を、今此処で彼女に伝えるべきか。シエスタは躊躇う。彼女は、恐らく47の事を驚くぐらいに何も知らない。彼も、何も語っていないのだろう。果たして、それを伝えて何になるというのか。
ルイズは、何も気づかない。目の前にいる少女が思案を巡らせ、狼狽している事など。そして、その原因が自身の使い魔である事など。
だから、次の授業の開始が近づいている事に気づくと、足早に其処から立ち去ってしまった。



新着情報

取得中です。