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されど罪人は零と踊る-01


1 心の在りしところ。


理解出来ない事実は罪悪とはなり得ない。
しかし無知という愚行は災厄となり得る。
しかし、その事実を知ってはならない。
何故なら凡庸であるという事は、幸せの概念その物なのだから。

ジグムント・ヴァーレンハイト著「弊害詞」皇歴四八九年


荘厳な作りの宮殿。絢爛な内装の中、人の波は騒がしく、そして慌ただしく動き回る。
その中で幼い少女とその父親であろう男はゆっくりと優雅に歩く。
二人に壮年の男が近づき、声を掛けた。

「これはこれは、サウスゴータ財務監督官殿、お久しぶりでございます」

サウスゴータ財務監督官殿と呼ばれた少女の父親は微笑み、片手を挙げ挨拶を返す。

「やあ、久しぶりだね」

男は父親の手を握る少女を見つめる。

「そちらはご息女様でいらっしゃいますか?」

父親は頷く、そして傍らにいる少女を見ると。
「ああ。マチルダ、挨拶は出来るかい?」
「はい、お父様」

少女は父親に返答を返すと、男にくるりと向き直り言った。



「マチルダ・オブ・サウスゴータと申します。以後お見知り置きを」

少女は礼式通りに頭を垂らしスカートの両端を掴み膝をたわめる。

「おやおや、可愛らしいお姫様ですな」

男は目を細め微笑む。その時男を呼ぶ声がした。すると男は頭を下げる。

「おや、ではまた後程」
「うむ。後程」

男がまた慌ただしく去って行くのを見送ると。父親は少女の頭を撫でる。

「良く挨拶出来たね」
「はい。もう子供じゃないんですよ」
「はは。そうだね」

父親は少女の前で片膝を着き手を差し出す。

「では、私の小さなお姫様。私めにお手を拝借願えませんか」

「うむ、よろしい」

少女はまるでおとぎ話の姫様のように澄ました表情を作る。
そして形々しく背筋を伸ばし、父親の大きく優しい手に自分の手を重ねた。
それが、少しだけ嬉しくて。
少しだけ照れ臭くて。
姫様役の、澄ました表情が笑みに崩れた。
そして、二人はゆっくりと歩む。
ゆっくりと。



「あんた誰?」

透き通るような青空の中。俺の胃に水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムが合成され、その制酸効果で胃痛が多少軽減される。
というか、ギギナが半径一メルトル以内に存在しないのに、胃から胃酸が絶えず排出される理由はなんでだろうね。結論、全部ギギナが悪い。
そして我知らず自己分析。転位の心理的影響からか若干の機能障害、及び記憶障害、戦闘には影響無し。


右手には断罪者ヨルガ、そして左手には糞重い咒弾の箱、腰の補助用魔杖剣<贖罪者マグナス>も確認。俺は嘆息をつく。
自分自身の肉体までも分子の部品のように分析してしまうのが俺のような化学錬成咒式士の悪癖である。俺は周囲を見渡した。
周囲には三十人程の子供と数人の大人。全員が似通った衣装に身を包んでいる。何より異様なのは、大昔の糞ったれたお伽噺の魔法使いのように木の杖を持っていることだ。
そして眼前に立ち、俺を見下ろしていたのは。例にもれず白いシャツと黒いスカートを、黒い外套で身を包んだ少女だった。
桃金といえる長い髪は、腰の辺りまで伸ばされ緩やかな風に流されている。小さな顔は白陶器の白色肌。
そして可愛らしい鼻筋と、物凄く不愉快そうな口元は人体構造上の限界迄引き結ばれ、愛らしい鳶色の瞳は遠くの空に見えるケムトレイルに映えていた。
補足しておくと、俺の顔はそれ以上壮絶に嫌な顔をしているだろう。さっき見た鏡で確認したから、まぁ、こんなものだろう。
俺は例外なく自分取り巻く絶望的な運の悪さに軽く涙目になるのを感じる。そして少女は先程無視した質問を、再び俺に投げ掛けた。

「だから、あんた誰よ!?」
「名乗るほどの者ではございません」
「……誰よ、名乗りなさい!」
「オレ、コトバ、ワカラナイ」
「分かってるじゃない! 人の事、馬鹿にしてるの!」
「これで馬鹿にされてない、という人間が居たら見たいような見てるような」

とりあえずおちょくっておくのが吉。と、今朝の占いを忠実に実行する。嘘だが。
いくら可愛らしい少女だとしても、この少女が俺を拉致した犯人だという可能性が、小脳と大脳が欠落したような馬鹿、かっこギギナかっことじでも気付く程、高い可能性である事を忘れてはならない。
その上で主導権を俺に持ってくる為の心理戦を展開したつもりだが。少女の咒力が爆発的に膨張、杖に咒印組成式の光を煌めかせる。
嘘だろ!?
油断していた。近代以降の咒式使いは、咒式の展開を補助、支援する魔杖剣を持たずに咒式を発動するのは、ほぼ不可能である。


魔杖剣に装着された<法珠>と俗称される事象誘導演算機関は、人間の意識と咒力を仮想力場へ誘導後に位相変異現象を励起し、更に咒式発動を正確に制御する莫大な演算機能を持っている。
その魔杖剣を持たずに意識を虚数空間に接続し咒式を発動するのは、到達者たる十三階梯の俺でも不可能。
故に魔杖剣も持たずに杖でいきなり殺される事は無いだろう、とタカをくくっていたのだが。少女はその不可能を可能にしやがった。
知覚眼鏡はまるで俺の死を告げるように反応。少女の発動しようとした咒印を解析すると眼鏡の裏に組成式を写す。俺は戦慄した。
その恐るべき咒力で紡ごうとした咒式は。化学錬成系最高位第七階位の禁咒<重霊子殻獄瞋焔覇、パー・イー・モーン>だった。
それは水素に中性子が一つ余計に付いた重水素と二個余計に付いた三重水素に、ミューオン粒子を添加。
超高圧放電による超高温高圧をかけ洞穴効果を励起、電子を切り離した原子核を衝突させる最悪の核融合爆発咒式である。
俺は防御咒式を検索。しかし俺の演算速度では、最大数億度まで達する死の焔を防ぐ咒式を展開する事は出来ない。
やる事は一つしかない。俺はすぐに行動を開始する。

「悪かった、謝る、すいません! だから杖を降ろせ!」

プライド? 知るか。東方式の<ドゲザ>をしないだけマシだと自分を慰める。余りの情けなさに目から汗が出そうになるが気にしない。気にしない。……気にしない。
そして少女は杖を降ろし、紡いでいた莫大な咒力は、俺のあずかりしらぬ場所に離散した。

「で……あんたは何者なの?」
「俺はガユス。ガユス・レヴィナ・ソレル。攻性咒式士をやっている」


俺の返答を聞いた少女は首を僅かに傾ける。

「こうせいじゅしきし? 何よそれ?」

何だよ、この質問は?
各種咒式技術の発展によりもたらされた恩恵により、古来から地上を闊歩していた<竜>や<禍つ式>に対抗するための人類の盾たる攻性咒式士を知らないなんて事は……
そこまで考えて、恐るべき可能性に気付く。

「あー、その、少々聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
「ここは何処なのかな?」
「トリスティンよ! そしてここはかの有名なトリスティン魔法学院よ!」

魔法学院という十四歳位迄しか言ってはいけない素敵指数が高い言葉を聞いた気がするが、とりあえず無視。
そして俺はトリスティンという地名を知らない。

「あー、もうちょい大きめ視点で頼む。ここは何処かな?」
「大きめって、ハルケギニア大陸のトリスティン王国って事でいい?」

わぁお、思考停止したくなってきた。
鏡を通り此方へ、とは曖昧を三十ミリメルトルの等辺で統廃合したような冗談だ。
他にも可能性はあるが、ほぼ異世界。
俺は壮絶に崩れ落ちた。


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