あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ナイトメイジ-07


森の中の空き地に建てられた廃屋の中で、1人の女性が疲れた体を休めていた。
普段は人が通らないような獣道を突き抜けてここまで来た彼女の服のあちこちには小枝が突き刺さり、マントにはかぎ裂きがいくつもできていた。
「な、な、なんでこんなことに」
息をきらせながら呟く彼女は、こう人々から呼ばれていた。
土くれのフーケ、と。
ここまで来るのにだいたい半日。
この場所にフーケがいることを知るものはいないだろうが、それでもぐずぐずはしていられない。
フーケの正体はすでに知られてしまっているのだ。
ただし、その知られた正体は仮の物だ。
経歴や過去は全て嘘っぱち。
ひとまずどこかに身を隠し、ほとぼりが冷めた頃に動き出せば誰にも見つからない。
なんならトリステインから離れてもいい。
なんにしても今はとにかく学院から一歩でも離れた方がいい。
足の疲れが引いてきたフーケは、壁に立てかけてあった破壊の杖を抱えて立ち上げる。
かなり立て付けの悪い廃屋の扉を開き、そして足を止めた。
誰も使うことなく荒れるままになっていた廃屋の中と違い。外にはきれいな景色が広がっている。
青い空の下には白い雲、そして広場を囲む森の木々。
その中にいるはずのない2人がいた。


森の中の空き地に建てられた廃屋から出た1人の女性を見たルイズは、使い魔のベール・ゼファーの横で目を見開いていた。
まさかという想い。
「ミス・ロングビル……なんで?」
やはりという想い。
「ルイズ、わからないふりは止めなさい。どういう事かはもう言うまでもないわよね」
その二つの想いがぶつかり合い、混じり合う。
「じゃあ、やっぱり……ミス・ロングビルが土くれのフーケ」
廃屋から出てきたのは破壊の杖を抱えたロングビル。
いや、土くれのフーケが眼鏡の奥から2人を睨みつけた。
「最初からわかっていたって言うのかい?」
「そうでもないわよ」
ルイズの横に立つベルが全てをあざ笑い、小馬鹿にするような笑みをその顔に浮かべ、一歩だけ進み出る。
「最初は怪しいとは思ったけど、確証は持てなかったわ。ねえ、ルイズ。ミス・ロングビル……いいえ、もうフーケと言った方がいいかしら?彼女が学院の宝物庫でフーケはどこにいるかって言ったか覚えてる?」
うなずくルイズは口元に手を当て、思い出しながら答えた。
「徒歩で半日、馬で4時間の場所にある森の中の廃屋でフーケを見たって話を近在の農民から聞いたって……」
「そう。そこから逆算してごらんなさい。私達が宝物庫で話を聞いたのは朝。
ロングビルの調査時間を考えなくても、その4時間前にフーケはその廃屋にいたって事になるわ。
もちろんフーケを目撃した農民も。朝の4時間前と言ったら真夜中じゃない。
フーケならそんな時間にそんな場所にいても不思議はないわ。でも、その農民はそんな所で何をしていたのかしら?」
「それで私が犯人だと気づいたのかい?」
鼻で笑うベルが首をゆっくり左右に振った。
フーケの表情はますます険しくなる。
「いいえ。それだけではまだ不十分ね。野草でも取りに行って道に迷って、朝まで戻れなくなっていたって可能性も無いわけじゃないわ。でも、とても不審な話。そんな事を言う農民は果たして何者なのか。もっと言えば、存在するのかどうか。だから確かめることにしたのよ。その話の信憑性をね」
「だったら、農民に話を聞きに行くって言ったのは!」
「テスト、だったのよ。フーケを見た農民が本当にいるのなら、その話をもう一度聞くのはそれだけで価値があるわ。でも、もしロングビルがフーケだったら……偽の証言する農民や存在しない農民に会わせろと言ったら必ず何か行動を起こす、そう思ったわけ。そしたら案の定」
「うまくひっかかっちまったわけかい。だったら、ついでに教えな。なんでこの場所がわかったんだい?」
言いながらフーケはローブの中に隠した杖にそっと手を伸ばす。
目の前の2人に気づかれないように静かに、音を立てず。
「あら、それなら簡単よ。今のあなたの居場所なら、例え世界の裏側に隠れていてもすぐに見つけることができるわ」
「どういう事だよ」
「そうね。どう言ったらいいかしら……あなたの知らない不思議な魔法を使った、とでも言っておけばいいかしら」
わけのわからないという表情するフーケの前でベルはさらに続けた。
「居場所がわかるから、つけるのは簡単だったわ。村の入り口で一時間ほど待ってたけど、私達は馬を使えた。それにあなたは苦労して獣道を走っていたみたいだし。余裕を持って追いつけたわ」
その言葉を聞いたフーケは凶悪な笑みを口元に浮かべる。
次の言葉には殺気すら含んでいた。
「へえ、だったらあんた達は誰にも知らせずここに来たわけだ」
「そういうことになるわ」
もはやフーケは笑いを隠さない。
勝利を確信した大笑が森に響き、廃屋をも揺らす。
「あははははははははは。少しはやるようだけど、やっぱりまだ子供だね。ここであんた達を始末してしまえばまだやりようはあるじゃないか!」
揺れる廃屋は、ついにはきしみを上げて倒壊する。
その下からはフーケを肩に乗せたゴーレムが見上げるほどの大きさに成長し、その影をルイズ達の上に落とした。


ルイズはゴーレムの大きさに息をのむがそれも一瞬のこと。
未だ薄い笑いを絶やさないベルの横に並ぶと、呪文をめちゃくちゃに唱え始めた。
練金、アイシクルランス、ファイヤーボール。
どれがあんなゴーレムに効き目があるのかなんてわからない。
それに、どんな魔法を唱えても同じだ。
起こるのは失敗魔法の爆発だけ。
それでも、どれかの失敗魔法の爆発なら効き目があると信じて、いや信じるふりをしてルイズは魔法をまた唱える。
だが、それ1つとして効きはしない。
ゴーレムの表面で起こる爆発は、砂粒をいくつか落とすだけだ。
「ほら、どうしたんだい。それだけかい?ゆっくりそっちに行ってやるから好きなだけやったらいいよ」
フーケの言うとおり、ゴーレムはゆっくりルイズに歩み寄る。
──悔しい悔しい悔しい悔しい
いくら爆発を起こしてもゴーレムの歩みは全く止まらない。肩に乗るフーケには届かない。
つまり、効き目は全くない。
「無駄よ、ルイズ。逃げた方がいいんじゃない?」
ベルはこんな状況なのに何が楽しいのか笑顔のままルイズとゴーレムを見比べている。
その笑顔もまた、ルイズの悔しさを増幅させる。
噛んだ唇から血がしたたり落ちた。
「いやよ!あいつを捕まえれば、誰ももう、私をゼロのルイズとは呼ばないでしょ!」
──あんただって、私をそんな風に笑わない
「死ぬかもしれないのよ。こんなところで。それでもいいの?」
「よくないわよ。でも、でも、ここで逃げたらゼロのルイズだから逃げたって言われるじゃない!ベル!あなたも大公って言うんならわかるでしょ?魔法を使えるものを貴族と呼ぶんじゃないわ」
杖を握る手は白くなり、大きな目から落ちる涙は靴をぬらす。
「敵に後ろを見せないものを、貴族と呼ぶのよ」
ついにゴーレムはルイズの目の前まで来る。
巨大な泥を集めてできた足を持ち上げ、その質量を見せつけるようにルイズ達の頭上に下ろそうとしていた。

「そういうことね。それがあなたの……」

もはやゴーレムの足からは逃れることはできない。
例え逃げても、確実にルイズ達を踏みつぶす。
だけどルイズはかなわなくても逃げたくはなかった。
だから最後まで両足で立っていようと決めた。
目を離さないとも決めていた。
でも、それはどうにもならなかった。目をふさがずにはいられなかった。
「しょうがないわね。今回は私が動いてあげる。でもね、次からはルイズが主として命令をしなさい」
まぶたの裏にある暗闇の中で聞こえたのはいつもと同じように楽しむベルの声。
故にルイズは隣に作られた地上の太陽を見ることはなかった。
「ジャジメント・レイ」


足を下ろせば終わる。
ゴーレムの肩に乗るフーケが勝利を確信した瞬間にそれは起こった。
地上にできた光──魔法によるものに違いない──それは瞬時に太陽と等しい程にふくれあがり、打ち出される。
ただの光ではない。
触れるものを全てを燃やし尽くし、塵と化す破壊の光。
ゴーレムの足も体もその光に抵抗する術はなく瞬時にそれを失った。
フーケもまた光に包まれる。
そのとき、フーケは確かに自らの体が光に焼き尽くされる激痛というのも生ぬるい痛みを感じ、自分の消滅を確信した。
断末魔の叫びすら出ない。彼女の喉はすでに無くなっていたのだから。
土くれのフーケは死んだ。


「はい、おわり」
広場にゴーレムと言えるものはすで無い跡形もない。
かわりに広場にできた赤熱した溶岩と、すでに冷えた泥の山を満足そうに見たベルは得意げにルイズに言った。
「どう?ルイズ、終わったわよ」
だが、ルイズの返事はいっこうに返ってこない。
それもそのはず。ベルが右を見ても左を見てもルイズはいないのだ。
「あ……ちょっと、やりすぎたわね」
頬を指先で掻くベルの足下で、地面に転がるルイズが白目を剥いていた。


森の中は静寂に包まれていた。
先程起こった閃光と轟音。おそらくは、それに怯えた動物たちが一斉に逃げたための静けさだろう。
だが、そんなことは地面に横たわる土くれのフーケには関係のないことだった。
体中が熱く痛む。
火傷、裂傷、そして骨折。それらの痛みが一斉に襲ってきたのだ。
指一本すら動かせない。動かせばそれは激しい痛みとなって帰ってくる。
動けるわけがない。
だが、フーケは一刻も早く動きたかった。
痛みをおしてなお、彼女には動かねばならない理由があった。
それは恐怖。
フーケは考える。
──私は確かに死んだはずだ
足下にいたベルと呼ばれる使い魔が作り出した光。
それに包まれ神経がえぐられた感触、肉が焼かれた感触、体中がバラバラに砕け散った感触。
そして、自分という存在が光の中に消えていった感触。
全てはっきりと、克明に覚えていた。
確実に土くれのフーケは死んだはず。
にもかかわらずフーケは生きていた。
それが彼女の中で恐怖を呼んでいた。
フーケのぼやけた視界に影が差した。
その影は彼女の上にかがみ込むと、小さく呟いた。
「フリップ・フラップ」
フーケの中、奥の奥、手が届きようもないほどの奥で何かが倒れた。
倒れたとたんに体の痛みが全て何かが切り替わったように無くなる。
その変化にとまどい、引き起こした体を手のひらで叩いた。
どこにも怪我はない。火傷も、骨折もない。それどころか服には焼けたあとも破けたあともない。
「これって……魔法……なのかい?」
「ええ。そうよ。怪我をしたという事象をゆがめその事実を無かったことにしてしまう魔法。それをあなたに使ったの」
彼女の耳元でそっと声が答えた。
「事象をゆがめる?そんなのどんな系統を使ってもできるわけ無いじゃない!」
「あら、できるわよ。これは虚の属性の魔法だから」
「虚?それこそ馬鹿なことだよ!伝説の系統に簡単にお目にかかれてたまるものかい!」
フーケは隣にしゃがみ込む少女、ベール・ゼファーを睨みつけた。
少女との実力差は明白になっていたが、気構えをも負けてしまってはどうにもならなくなる。
「伝説の系統?まあ、いいわ」
「そうだね。そんなのどうでもいいことだわ。だから早く用件を言いな」
「あら、察しが早いわね」
「当然だね。死ぬ寸前だったあたしを得体の知れない魔法で治した理由が他にあるわけ無いだろ。聞くだけは聞いてやるよ。だけどね、あたしがあんたの言うことを聞くとは限らないよ」
ベール・ゼファーは口元を押さえてクスリと笑うと、手の指を三本だけ立てた。
「あなたは私に3つの借りがあるわ」
「3つの借り?」
「ええ、一つめは今の治療。二つめはこれからあなたを官憲の手に渡さずここから逃がす。そして3つ目は」
ベール・ゼファーは二本指を握りこみ、人差し指だけを立てそれをフーケの目の前でゆっくり揺らした。
「死んだあなたを蘇らせた」
「なっ……死?」
それが本当なら、あの感触はまさしく錯覚などではないことになる。
「あなたもうすうすは気づいているんでしょ?あなたは一度死んだ。それなのにこうして生きている。何故だと思う?」
フーケは呆然と首を振った。
そんなことわかるわけがない。死者を蘇らせる手段など伝説やおとぎ話以外に聞いたこともない。
「私があげたお守り、まだ持っているでしょ?出してみて」
玩具じみた蝿の人形だ。
それは、とりあえず服のポケットに入れたままになっている。
フーケはポケットの中の人形を指先で探ると、指にふれた人形は粉々に砕け散った。
あわててフーケが取り出したのは、かつて人形だった砂粒一握り。
「それはね。本当の名前を悪魔の蝿と言うの。たった一度だけ、あなたを如何なる死からも守ってくれる無限生命のかけらという力を持っているのよ。だからこそあなたの命は助かった。だからこれも借り」
「あんたがあたしを殺したんじゃないか」
「ゴーレムなんかで踏みつぶそうとしなかったら、こんなことしやしなかったわ。あなたが私にやられたのは、あなたのミスよ」
「く……」
フーケは言葉を詰まらせる。
ベール・ゼファーの言葉が正しいのなら、蝿の人形はとてつもないマジックアイテムと言うことになる。
そんな途方もないマジックアイテムの話など普通なら信用などしないが、フーケの体に残る感触がベール・ゼファーの言葉を裏付けていた。
「もし、この借りを返さ無いというのなら……仕方ないわ」
目の前で揺らされ続けていたベール・ゼファーの指先に甲高い音を立てて光が集まり、光球となっていく。
その光は紛れもなく、ゴーレムを破壊しフーケを殺害したものと同質のものだ。
「あなたにはもう一度死んでもらうわ」
フーケは奥歯をかみしめベール・ゼファーに視線を叩きつけたが、それはその少女がそれくらいでは全く動じないことを確認するだけに終わった。
「さあ、好きな方を選びなさい。生か死か。どちらでも速やかに与えてあげるわ」
選びようのない二つの選択肢。
今更人に使われるのら、いっそのこととも思う。
だが、彼女には死ねない理由があった。
故郷に家族のため、まだ死ねるはずもなかった。
「いいさ。使われてやるよ。それで、何をすればいいんだい?」
「そんなに難しい事じゃないわ。この世界の情勢を調べて教えて欲しいの。そのあとは、この世界で一番動乱を起こしそうなところに潜り込んでそこのことを逐一教えて欲しいってわけ」
「そんなことでいいのかい?」
「ええ。土くれのフーケには簡単すぎるかしら」
そういうわけではないが、フーケは心の中で快哉をあげた。
──やっぱり子供だね
そんな仕事ならいつでも逃げることができる。
それなら、この力はあっても馬鹿な少女を騙してこの場をしのぐだけだ。
「いいさ。やってやるよ」
「そう。だったらこれは前金代わりよ」
ベール・ゼファーの手の中から悪魔の蝿が飛びだち、フーケの肩に止まる。
「こ、これって自分で動けるのかい?」
「そうよ。だって、蝿ですもの」
「じゃあ、生きてるのかい?」
「そうよ」
「蝿を口に入れられて……あの娘もかわいそうに」
「大丈夫よ。ルイズですもの」
少し離れた場所で草の上で倒れている少女が哀れに思えてきたが、フーケには彼女を助けてやる義理も余裕もない。
「これをまた私に渡すって事は少しは私の命を心配してくれているって思っていいのかい?」
「そうね。この世界での貴重な情報源ですもの。ああ、それと悪魔の蝿のことだけど」
フーケの肩で悪魔の蝿はじっとして微動だにしない。
こうしていると、その生き物離れした形もあってアクセサリーに見えなくもない。
「あなたの行動を私に教えてくれるわ。どんなに離れていてもね」
「なんだって……じゃあ、私をつけて来られたたのは」
「悪魔の蝿のおかげ。そうそう、私にいろんな事を知られるからと言って捨てないでね。結構高いんだから。もし捨てたら……必ず探し出して殺すわ。それを覚悟する事ね」
「……!!」
「さあ、行きなさい。ルイズが起きたらあなたを捕まえなきゃならなくなるわ」
「わかってるさ!」
マントについたフードをかぶりなおし、フーケは広場から出る道を走った。
傷を治してくれたことを考えても、あの少女の姿をした使い魔はやばすぎる。
今は一刻でも早く、1メイルでも遠くベール・ゼファーから離れたかった。


太陽のような光と、耳をつんざく爆音で気を失ったルイズが目を覚ましたとき、広場にゴーレムと言えるものはすで無い跡形もなかった。
かわりに広場には粘土で作ったような固まった泥の山があるだけだ。
虫の声も、鳥の音もしないやけに静かな森にいささか不安になったルイズは自分の使い魔の名前を呼んだ。
「ベル、ベル!!ベール・ゼファー」
「ここにいるわよ。ここに。そんな大声出さないで」
泥の山の陰からベルが太い筒のようながらくたを引きずって姿を現す。
ほっとして笑顔が出そうになるのをあわてて顔に力を入れて止めた。
こいつにそんな顔を見せたらまずいような気が前からひしひしとしていたのだ。
「すぐに来なさいよ。それで、これってどういうこと?」
たぶんゴーレムなのだろうが、それでも一応確認してみる。
「ゴーレムのなれの果てね」
「それで、フーケは?」
「逃げちゃったわ」
「えっ!?だ、だったら、破壊の杖は?破壊の杖はどうなったの?まさかフーケが持って行ったの?」
フーケを逃がしたらまたゼロになってしまう。
あわてふためくルイズのにベルが太い歪んだ筒のがらくたを見せた。
「これ」
「え?」
「だから、これが破壊の杖」
「ええ?」
「ゴーレムがああやって熔けちゃったときに一緒にこうなっちゃったみたいよ」
「ええええええええーーーーーーーーっ」
黒く焦げて表面もでこぼこになった筒は、どうやっても学院の秘宝「破壊の杖」には見えなかった。


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