あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

T-0 17


 朝、ルイズは目が覚めるとまったく疲れが取れていないことに気づいた。
 桃色の髪は左右にはね、顔もいささかやつれている。

「……うなされていた」

 ターミネーターの低い声がした。
 それはそうだ、あれだけの悪夢をまた見たのだから。
 肉体的な窶れより、むしろ精神的にきつい。

「……あのね、ターミネーター。
 あんたって人と機械の戦争してるとこから来たんだよね……?」
「そうだ」
「やっぱり……」

 ああ、とつぶやいて、ルイズは納得した。

「最近、変な夢見るのよ。
 なんていうか……この世の地獄がそのまま表現されたような、ひどい戦場の夢」
「…………」
「あんたと似た男がたくさん、ボロボロになって歩いてるの。気持ち悪いったらないわ」

 ターミネーターは何も答えない。
 だが、普段は変わりない表情が歪んでいるような気がした。
 ルイズは諦めにも似た深いため息をついて、口を開く。

「主人と使い魔って言うものはね、本来お互いを通して理解できるものなの。
 視覚や聴覚を共有したり、感覚的なものをね……」
「そんな感覚はない」
「だよね……」 

 あの夢は、もしかしてその副産物的なものかもしれない。
 だとしたらいい迷惑。もとい、ありがた迷惑というか…… 
 気づけば、ターミネーターは下着と制服を手に、目の前に立っていた。
 時間の確認を取る必要はない。彼は必ず同じ時間にこの行動をするから。

 それらをターミネーターの手から剥ぎ取ると、ルイズはさっさと着替えて教室へ向かった。
 ターミネーターは彼女の後を、前と同じように歩幅をあわせて歩いていった。



              T-0 17話



 ルイズが何気なしに食堂に入ると、その瞬間から空気が凍りついた。
 正確に言うと、それまで賑やかだった雰囲気が、台風の通り後よろしく
 いきなり静まり返った。

(ふふん……)

 ルイズはそれを気にしない。鼻を鳴らして揚々と席に着く。
 恐れを孕んだ視線からは、今まで決して味わうことが出来なかった感触が
 感じられる。それらを全身に浴びていることが、意外と気持ちがよかった。 

「あの……」

 祈りの唱和後、食事を取る寸前話しかけられた。どこかで聞いた声だ。
 音源に振り返ると、そこにはギーシュと決闘する前に、
 ターミネーターのそばで見かけたメイドが、恥ずかしそうに視線を流して立っていた。

「あ、確か」
「はい、わたしは皆様の給仕をやらせてもらっています、シエスタといいます。
 ミス・ヴァリエール。あの、今日はその、貴女とターミネーターさんに、謝りたくて……」
「は?」
「…………」

 ルイズは首をかしげた。
 ターミネーターは無言だった。

「あの時、わたしが一言声を掛けていたらターミネーターさんは貴族と
 決闘なんかせず、ミス・ヴァリエールもこんな奇異の目を向けられることもなかったと思いまし……」

 シエスタの言葉は弱弱しくなると、途中で完全に切れた。
 ルイズが肩を急に掴んで、力を込めたからである。 

「あのね、何か勘違いしてない? 決闘は、元はバカギーシュが二股掛けてた
 のが悪いんだし、結局勝ったのはコイツなのよ。
 それにね、わたしはヴァリエール家の娘よ。そんじょそこらの成金貴族とは
 精神力が違うの。このぐらいの視線、受け止められないわけないでしょ?」

 言葉に出来ない気迫に押され、シエスタはくっと表情を硬くした。
 やっぱり、余計なお世話だったのかな……と心の中で思った。

「でもね……」

 ルイズは微笑んだ。花の様な、かわいくて思わず目を留める顔だった。

「わたし、嬉しいわ。あんたみたいに思ってくれる子がいて。うん、多分……すごく嬉しいと思ってる。
 まぁ、これからもコイツのことでいろいろ面倒が起こると思うけど、そのときはよろしくね。
 えーと……シエスタ……だったわよね」

 じわっ、とシエスタの目じりに涙が溜まった。
 しかし、彼女はそれを零す事はせず、ルイズにも負けないくらい明るくて暖かい、
 太陽のような笑顔を見せた。

 食事を終え、教室に着いたはいいが、まだ教師はきていない。それどころか、
 生徒もまばらにしかいなかった。
 少し早くきすぎたかな、とルイズは思った。
 ふと視線をずらせば、珍しく席にいるキュルケが、寒そうに肩を震わせていた。

 ターミネーターがルイズの隣に立つと、体の影にキュルケは隠れる。
 時を同じくして席に座ったルイズは、思い出したように目を開いた。

「ねぇ、あんたさ。その手に持ってるもの……物騒だから
 部屋に置いてきなさいよ」

 妙に人間くさく、ターミネーターは首を振った。
 布で覆っているショットガンを掲げ、表面を撫でる。

「それはできない」
「なんでよ?」
「君を守る為にも、武器は必要だ」

 ルイズは「は」と口をあけた、頬にほんのりと熱が篭る。
 それが自分で理解できて、激しく戸惑う。ターミネーターを
 手招きでしゃがませ、その偽の耳に小声で激を打つ。

「な、な、な、何言ってんのよ。あんた武器なしでも十分強いじゃない!」
「この世界には魔法がある」 
「で、でもね。ワイバーンを殺せるような武器、携帯してたら危ないわよ」

 ルイズは昨日、部屋に戻った手違いで銃口を突きつけられたことを思い出した。
 あの時は疲れやらで気分的にどうども思わなかったが、今考えると
 あれは相当恐ろしいことだった。先っぽについているのは小さい穴なのに、
 無情に命を奪い去るそれはどこまでも落ちていく奈落の穴を思わせる。
 ターミネーターの申し出は嬉しいのだが、あれは普段携帯するにはいささか危険が大きすぎる。

「ねぇ、あんた剣とか使えるの?」
「“斬る”という意味では使えない」
「……なにそれ? それじゃどう使うのよ?」
「振り回す」 

 がくっと頭が下がった。
 ワルキューレをやすやす破壊する彼の腕力では、それでも危なさ過ぎる。 
 しかし、背に腹は変えられない。このさいだ。

「あとで剣、買ったげるわ。それで我慢しなさい」

 ターミネーターは方眉を上げたあと、顔を頷けた。


 深夜――。
 青にも近い薄緑の髪を靡かせながら、ミス・ロングビルは
 学院本塔の五階の廊下を早足で歩いていた。
 その格好は実に不審極まりないものである。
 眼鏡をはずし、髪を解いてばらけさせ、背中には長剣をさげていた。

「よぉ、女主人。なーんか今日、やけにうれしそーだね」

 長剣がカタカタ揺れると、そこからやけに能天気な声を発した。
 ロングビルはにやりと不敵な笑みを浮かべ、今にもスキップしそうに跳ねる。

「ふっふーん。今日やーっとお宝が手に入ると考えたら、楽しくてね。
 ようやくあのエロジジイと手を切れると考えたら、嬉しくってね。
 ここを去って、浴びるように酒を飲んでるあたしを想像したらね、感極まってね。
 苦労した後に飲む一杯……もうコレがたまんなくおいしくって、フフフフ……」
「親父くさいなー女主人。だから嫁ぎ遅れっうわ! ちょっとやめて杖振らないで削れる、削れるって!」

 阿修羅のごとき殺気を長剣に送り込んでやると、首を振り向かせ
 ロングビルは足を止めた。目的の場所に着いたのだ。

「ふふふ……」

 ロングビルは首から提げていた紐を手繰り寄せ、
 胸の谷間に沈んでいた鉛色の無骨で大きな鍵を手に持った。
 それは先日の朝、ロングビルがオスマンの机から取り出した鍵と、
 外観は違えど形は同じだった。

「いやーしかし女主人。あんたは頭がいいねぇ。
 偽モンの鍵作るために、一回わざわざ盗ったフリするなんてなぁ」
「なんだいやぶから棒に、ほめたって何もでやしないよ」

 それを目の前にある錠前に差し込む。片手で『サイレント』をかけた後に
 反転させると、錠前は音を立てずにはずれて落ちた。

「ま、確かに。最近あたしはゴーレム使って壁ぶっ壊すことでしか盗めないみたいに
 思われてるからね。フーケさんのホントの力ってやつは“ここにあるんだよ”、って
 そろそろ世間にしめしとかないと、カッコつかないだろ?」

 人差し指で頭を突付きながら、ロングビルこと『土くれのフーケ』は
 小悪魔のように悪戯な笑みを浮かべた。
 重々しく扉が開く。しかし『サイレント』の効力ゆえ、音は立たない。

 フーケは宝物庫の暗がりを、まるで慣れ親しんだ場所のように平然と進んで行く。
 そして、最奥と思わしき壁の前で止まると、背負っていた長剣を苦もなく抜き放つ。

「おっ、出番かい!」
「そうさ、このためにわざわざアンタを持ってきたんだ。
 ここの壁は他と同じようにスクウェアの固定化がかかってるから『錬金』は
 通用しないさ。だけど壁自体は薄いから……」

 思いっきり振りかぶり、そして打ち落とした。
 形式も型もない、素人の振るうただの一振りだったが、

「アンタみたいに頑丈なモンからの物理的衝撃には、とことん弱いのさ」

 たったそれだけで、壁は粉々に打ち砕かれた。
 フーケは長剣を背負うと、現われた個室においてあるものを見て、
 ひゅうと口笛を吹いた。

「フフ……秘蔵品。【異世界のお宝】、確かに領収いたしました……土くれのフーケ」


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