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神の左手は黄金の腕-04


流星の如く飛来する『破壊の杖』を追っていたフーケの口元が吊り上がる。
その投擲速度と距離にこそ驚かされたが、方向はまるで見当違い。
左右に広がったギーシュとキュルケの中間を抜くような弾道。
駆けつけたゴーレムの巨体が二人のパスコースを完全に塞ぐ。
これで最悪、先に拾われたとしても相手に渡す事は出来ない。
下らないゲームもこれで終わりだ、と彼女は空を見上げた。

満天の星空に浮かぶ二つの月。
その星空を二つに切り裂く『破壊の杖』の軌跡。
そして、突如自分の真上に現れた大きな黒い影。

「え?」

フーケの驚く声を余所に、その影は『破壊の杖』と近付く。
その正体が風竜だと気付いた頃には手遅れだった。
風竜の背に乗った少女、タバサが『破壊の杖』を腕の中で受け止める。

「……キャッチ」

彼女が小さな声で自分の勝利を宣言する。
ゴーレムの腕に捕らわれぬ様に急上昇するシルフィ-ド。
もはや手の届かぬ場所へと遠ざかる『破壊の杖』。
目の前で掴んだ筈の勝利が逃げていく。
その事実に彼女は自分の足元が崩壊するような錯覚を覚えた。

否。それは錯覚などではなかった。
彼女が上へと気を取られた瞬間、ゴーレムが地面に飲み込まれる。
まるで大地という獣が顎を開いたかの如く、その巨体を巻き込んで地盤が崩壊する。
凄まじい轟音と砂煙が立ち上るのを遠くから眺め、ゴールドアームは作戦の成功を悟った。


「どうやら上手くいったみたいだね」
「それはいいけど……。もう少し何とか出来なかったの?
 髪も服も埃塗れになっちゃったじゃない」

ケホケホと咳をしながら二人は互いの無事を確かめる。
クレーター周辺に立ち込める一面の砂埃。
ようやく人影だけが認識出る視界の中でで顔を突き合せる。
普段から身嗜みに気を使う二人だけに、気分はあまり良くない。
しかし、それも生きていればこその贅沢と笑い合う。

“学院から引き離してヴェルダンデの掘った落とし穴に嵌める”
無謀ともいえるタバサの作戦はゴールドアームの指揮の下、成功下に終わった。
この作戦が成功したのは彼のおかげだ。
『破壊の杖』を奪ったキックやロングパスだけではない。
不安や仲間への不信が僅かでもあれば、ここまで上手くはいかなかった。
だけど、いつの間にか僕達の間にはスポーツを通じて固い絆が結ばれていた。
一人の力では成し得ぬ事も、共に戦う仲間がいれば出来る。
ゴールドアームは身を以ってそれを教えてくれた。
ギーシュが落とし穴のある方へと視線を向ける。
未だに視界が利かないので確認出来ないが決着は付いた筈だ。
あれだけの高さからの転倒だ。
肩に乗っていたフーケは大怪我を負ったか、レビテーションで脱出しただろう。
空を飛ぶ魔法と他の魔法は同時に行使できない。
自分が助かろうと思うならゴーレムは解除しなければならない。
つまり、どちらを選択しようともフーケは終わりだ。

シルフィードが彼等の頭上へと舞い降りる。
彼女の羽ばたきが強風を生み砂煙を蹴散らしていく。
直後。彼女等の目は驚愕に見開いた。
そこには下半身を埋めながらも健在を誇るゴーレムの姿。
その巨大な手が低空へと降りてきたシルフィードを捕らえる。

「さあ捕まえたよ! 握り潰されたくなかったらソイツを返しな!」

巨人の胸元近くに立つフーケの叫びが木霊する。
転倒する直前、彼女は地面を柔らかな砂へと変えた。
それがクッションとなり墜落の衝撃を吸収した。
そして、そのまま息を殺して待ち続けていたのだ。
『破壊の杖』を持ったタバサが手の届く所まで来る瞬間を…!

「きゅいきゅい!?」

ミシリと骨の軋む音が辺りに響く。
脅しではない。フーケは他人の命を奪うのに躊躇しない。
それでも一息に仕留めないのは『破壊の杖』が此処にあるからに他ならない。
全身に掛かる重圧にタバサの意識が急速に遠のく。
杖が手元にあろうとも振る事さえ叶わない。
このまま意識を失えば人質として使われるだろう。
それだけは出来ない。
私の所為で皆を危険に晒す訳にはいかない。
唇を噛み切りながら堪えるも視点が合わない。
ぼやける視界の中、彼女は大地を貫く雷を見た。


「ゴールドアーム!!」

叫びながらルイズは彼へと駆け寄った。

肩口から迸る電流。
立ち上る黒煙。
苦しげな呼吸と苦痛に歪んだ表情。

それは今までに見せた事のない彼の姿。
蒸気機関さえマトモにない世界で、
アイアンリーガーの体がどうなっているかなど、彼女には知る由もない。
しかし目の前の異常が彼女に危機を知らせる。

「来るんじゃねえッ!」

グローブを填めた手で彼女を遮りながらゴールドアームは構える。
セットポジションからワイルドアップへ。
手の内に握られたアイアンリーグ用の硬球が軋みを上げる。

今から走って行っても間に合わない。
たとえ駆けつけたとしても、あの巨体に成す術はない。
可能性があるとすれば唯一つ!
ここからゴーレムを打ち砕く一球を投じるのみ!

果たして今の自分に出来るのか…?
いや、出来たとしても二度とマウンドに立つ事は叶わない。
限界を超えた力を引き出されたボディは完全に破壊されるだろう。
だが躊躇している余裕はない。
この最後の一球に己の全てを込めて投じるだけだ。

「止めなさいゴールドアーム!
 今の体でそんな無茶したらアンタ…!」

覚悟を決めた彼の背にルイズの声が掛けられる。
彼女もゴールドアームが命を賭しているのを感じ取ったのだ。
しかし今の彼を誰が止められるというのか。
“投手をマウンドから降ろせるのは投手自身だけだ”
彼ならば、いつもみたいにそう言っただろう。

自分の身を案ずるルイズの心がグローブの下の左手から伝わってくる。
そうだ。お前は間違っていない。
いくら腕が立とうと仲間の事を軽んずる奴はアイアンリーガーじゃない。
だからこそ、この肩を犠牲にしてでも助けようとしているんだ。
それが僅かの間だったとして彼女達は共に戦った仲間だ。
肩が砕けようが腕が千切れようとも構わない。
心さえ折れなければ俺はアイアンリーガーだ…!

ワイルドアップの体勢を取った彼の体を稲妻が駆け巡る。
蝋燭が燃え尽きる間際に眩い光を放つかの如く、彼の体を流れるオイルが滾る。
組み込まれた回路が焼け付くような高熱を発する。
彼は確信した。この一球こそ選手としての生涯を締め括るに相応しいと。

「これが俺の、魂の一球だァァァーー!!」

大気を切り裂いて振り下ろされる右腕。
それはアイアンリーガーとしての自分に別れを告げる球。
その指先が白球から離れる瞬間、彼は有り得ない声を聞いた。
“本当にそれでいいのか”と、その声の主は言う。
メモリーに焼き付いた、その音声を忘れる筈がない。
かつて共にシルバーキャッスルに挑み、フィールドに散ったリーガー。
今でも奴が間際に言った言葉を覚えている。
宿敵を前にしながら、戦う意思さえ失っていた俺達を奴は命を捨てて目覚めさせた。

“決着も付けずに終わっていいのか”
問いかける声に返す言葉など無い。
無念は胸の内に刻まれたまま癒える事はないだろう。
だが整備もままならぬ体で限界以上の力を出せば助かる筈がない。
機械である以上、それは決して逃げられぬ法則。
それでもアイツは真っ向から否定した。
真のアイアンリーガーの力はそんなものじゃない、と。


背後で輝く光にフーケは振り返った。
そこには間際に迫る衝撃波を伴った鋼鉄の球。
一直線にゴーレムの頭部へと飛来するそれを巨大な掌が遮る。
その刹那。まるで意思を持つかの如く白球が激しい雷を帯びた。
激突の瞬間、ボールの放つ高熱が飴のようにゴーレムの腕を溶かす。
『44ソニック・オン・サンダー』
鋼鉄で出来たバットをも熔かす彼の持つ最大にして最高の球。
そして、それは腕に留まらずゴーレムの頭さえも穿ち貫通した。
その余波が崩れかかった土塊の巨体を残らず吹き飛ばしていく。
舞い上がる風にフードが脱げたのも気付かず、フーケは立ち尽くす。
一陣の風が吹き抜けた跡には何も残されてはいない。

「ミ……ミス・ロングビル!?」

不意にギーシュが上げた声にフーケは我に立ち返った。
すぐさまフードを再び目深く被り、その場を離れようとした瞬間。
ずしりと彼女の背に重たい物が圧し掛かる。
見れば、自分に手を乗せる風竜がそこにはいた。

(たっちだうん、げーむせっとなのねー)

きゅいきゅいと楽しげに鳴く風竜。
先程の仕返しなのか、背骨がやたらと痛い。
何でこんな連中に…と口惜しげに睨んでもどうにもならない。
運がなかったと潔く諦め、彼女は動かない腕から杖を手放した。

自分の投げた球の軌跡を見据えたまま彼は立ち尽くす。
機能停止寸前の体で投げたそれはハルケギニアに来てから最高の一球だった。
崩壊すると思われた体は依然変わらずゴールドアームの意思の下にある。
マシンの性能の限界を、彼は己の意思で凌駕した。
それはかつてシルバーキャッスルの連中が起こした奇跡。

「ウオォォォォオーーー!!」

ゴールドアームが吼える。
それが何から来るものなのか、彼には理解できなかった。
ただ回路の熱に身を委ねて彼は雄叫びを上げる。
全身を巡るオイルが沸騰しながら叫ぶ。
“マグナムエースとの決着なしに生きる事は出来ない”

たった一球。
だが、その一球が彼の迷いを断ち切った。
それは選手生命にではなくハルケギニアに別れを告げる球となった…。


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