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ガリアのトランスファーマー

1匹の環形生物が、自身の体節に生えた、持ち前の頑丈な剛毛を駆使して、土の中を掘り進んでいる。
その生物の生きる上での糧となる、有機物や微生物をより多く食する為だ。
今日もまた、人間の、あいや地上の生物の目から遁れながら、
自分なりに懸命に生きている彼を、愛着を込めて仮に蚯蚓くんと呼ぶ事にする。

環形生物としては、常人には考えられないほどの、高い思考能力を持つ蚯蚓くんは、喜怒哀楽の感情をも有する。
蚯蚓くんには、土竜に食われたり、うっかり地上に迷い出て、そのまま干乾びて死んだり、
人間に捕まり、散々弄ばれた後に足で踏み潰されたり等で、無残な最後を辿った、幾多の仲間達がいた。
感情豊かな蚯蚓くんは、仲間の不幸を目の当たりにするたびに、嘆き、悲しみ、
そして、自分もいつか仲間達と同じ道を歩むのだろうか、と恐怖に脅えた。

元々短命の定めとは言え、この世に生を受けたからには、寿命の限り精一杯に生き抜きたいのが心境と言うもの。
少なくともこの蚯蚓くんは、安易に生涯への絶望を覚え、生きる意味を簡単に見失うような輩では無かった。
しかし、蚯蚓くんの種族に浴びせられる世論は、かくも厳しい物ばかりが羅列される。
外見が気持ち悪いだとか、所詮釣りの餌だとか、動物実験の格好の材料だとか。

土壌生物である蚯蚓くんが、何処でその世論を聞いたかは知らないが、彼は悔しかった。
そして、必ず汚名返上してやると、心に深く誓った。
そんな覇気を胸に刻みつつ、休む事も無く彼は、今日も微生物を捕食するために土を彫り続ける。
終わりは誰も知らない。

しかしこの日は、体内に得た獲物の数も頗る良好で、巨大な岩を始めとする障害にもぶつからない。
漆黒の無機物の宇宙空間を、蚯蚓くんは比較的優雅に泳いでいた。
今日はこのまま眠りについても文句は無かろうとまで思い、動きを止め、暫しの休息を過ごそうとした。
だが、その時であった。

突如として、光が蚯蚓くんを奇襲した。
地中という暗闇の世界に太陽の光が現れたという事は、それは何らかの形で土壌の表面が抉られ、
蚯蚓くんの活動域に微小の空気による空洞が発生した事を意味する。

蚯蚓くんは、その体に備え付けられた、人の肉眼では確認できない程の小さな眼で、光の襲来を感知し、
危険から逃れる為に、さらに深く潜ろうと身構えたが、
巨大な何かが、力強く、且つ内臓を潰さない程度の圧力で、蚯蚓くんの細い体躯を瞬時に掴み取った。
蚯蚓くんは、為す術無く地上に持ち上げられた。

突然のショックで一瞬気絶し、意識を取り戻した蚯蚓くんは、自分が何者かに片手で握られているのを推察した。
蚯蚓くんの視点から見た、己の自由を奪った者の外見的印象は、
先ずあまりにも巨大で、加え環形動物である自分とは対照的な、複雑な体の構造をしていて、そして、冷たい。
簡潔に結論を陳べれば、蚯蚓くんを捕まえたのは、大きさ約2.5メイル、橙色のガーゴイルであった。

太陽が煌煌と青い空を彩る下、赤く光る眼を持つ梟に酷似した頭部が、蚯蚓くんを睨みつける。
見るからに残忍そうな顔立ちである。
4本の鉄の爪で構成された無骨な右手が、一刻も早く危機から逃れたいがために必死にうねる蚯蚓くんを逃さない。
そしてガーゴイルは、蚯蚓くんを一瞥した後、低く唸った。
意外にも、それは動物的な唸り声であった。少なくとも、無機質さは感じられない。
だからと言って、この状況がどうとなる理由も無い。ガーゴイルは、蚯蚓くんを掴んだまま歩き始めた。

蚯蚓くんは、これから身に降りかかるであろう、あまりにも残酷な情景を想像し、吐き気を催した。
自らを掴んでいるこの鉄の鍵爪で、体躯を抉った挙句、内臓を外部に曝すつもりなのだろうか。
或いは、明らかに腕よりも短い脚で、踏み潰す可能性も大いにあり得る。
何れにせよ、未来への道は、硬く閉ざされてしまった。そこに待つのは、死あるのみに違いない。
覚悟を決めた蚯蚓くんは、比喩的な意味で瞼を閉じ、短かった今生に永久の別れを告げた。

だが、蚯蚓くんが次に身に感じたのは、土の柔らかい感触であった。
先程居た地面とは違う、程よく冷たく、さらさらとした土の上である。
あのガーゴイルが、蚯蚓くんをその場所に落としたのだ。
蚯蚓くんは、暫し警戒していたが、危険が無い事を察知すると、素早く土の中へと消えた。


蚯蚓くんの行く末を見届けたガーゴイルは、ふん、と鼻を鳴らした様な音を発して、
自身の足元に開いた、蚯蚓くんが掘った小さな穴を見つめ、土で穴を埋めた。
再びガーゴイルは音を発し、頭を太陽へと向ける。
雲ひとつ無い、良い天気である。

ガーゴイルの佇んでいる場所は、4メイル四方のレンガで囲まれた、茶色い敷地の中央。
そこは、まだ何も生えていない、造作真っ最中の花壇であった。
別の場所で蚯蚓を採取して、ここに放ったのは、花の栽培に適したより良い土をこさえる為。
蚯蚓の糞は、良い土を作るのに適しているのだ。

今日までに此処に集められた蚯蚓の数は、先程の蚯蚓くんの加わりで約30匹となる。
存外骨の折れた蚯蚓採取も、これで十分であろう。
そう認識したガーゴイルは、一端そこから離れ、花壇から外に出た。
小さな花壇の北の方角に、敷地を囲む壁が建立しているのが見える。
ここが、ガリアの王都リュティスの東端、ヴェルサルテイル宮殿のさらに北に位置する、
プチ・トロワと名付けられた、ガリアの王女が住まう宮殿敷地内の最北端であるからだ。

先程も記したが、このガーゴイルは此処で何をしているかと言えば、何故か花壇をせっせと造っているらしい。
既存の花壇は、一応あるにはある。リュティス自体、森を切り開いて造られた荘園であるし、
そもそも王女の住む宮殿の庭園なのだから、寧ろ大なり小なりあって当然なのだが、
その王女の性格が、言ってしまえば捻くれているためか、殆ど手入れを命じてない故、
花壇と言うよりは廃墟と表現した方が相応しい。
特に敷地隅っこともなれば、宮殿敷地内であるにも関わらず、えらく辺鄙な場所にも見受けられてしまう。
そんな場所にて、ガーゴイルは新たな花壇を作ろうとしていた。
意図は、彼のみぞ知る。

「此処におられましたか、ボーンクラッシャー。……様」

花壇の土をじっと眺めていたガーゴイルの名を、背後から呼ぶ人間の声。
振り返ることも無く、ガーゴイル――ボーンクラッシャーは、野生の狼のソレに近い唸り声で、短く誰何した。

「はっ。某、東薔薇騎士団、バッソ・カステルモールであります」

慇懃でありつつ、それがし、とえらく古風な語録を使って返答する男、カステルモール。
名乗の通り、ここ北薔薇騎士団ではなく東薔薇騎士団所属であるため、普段は姿を見せないのだが、
職務の関係で、時折この宮殿に訪れる事も少なくない。

「姫殿下が御呼びです。至急、宮殿にお戻り下さい」

姫殿下、の単語に、ボーンクラッシャーはぴくりと体を反応させる。
それまで不動だった彼は、打って変っていそいそと宮殿に帰る仕度を始めた。

「ボーンクラッシャー様、此処で何をなさっているのですか?」

黙りっぱなしでは場の空気も些か重いので、カステルモールは話題を振るが、何も返答は無い。
カステルモールは、溜息をついた。此処に来るまで散々歩き回った所為で足も若干重たい。
何処かで散歩でもしている、さっさと探して来い。となんとも御上品な口調にて、
王女から直々の捜索命令が下ったため、広いプチ・トロワの敷地内を何十分も巡り歩いていた次第である。
随分と時間を費やしてしまった。後で王女から文句を喰らうのを覚悟せねばならない。

しかし捜し求めた末が、敷地内庭園の最北端、
普段は誰も足を運ぼうともしない、朽果てた花壇の跡だとは思いもよらなかった。
しかも、此処で何かを造っているように見える。そこら中に、真新しいレンガ等が散乱しているからだ。
王女はこの事を知らないのだろうか。いや、場所が場所、知る由も無いだろう。

カステルモールは再び溜息をつくと、徐に目付きを鋭くし、ボーンクラッシャーを睨み付ける。
彼は以前より、屈辱に等しい想いを、目の前で背中を向けるこのガーゴイルに抱いていた。

――何故、この不細工で無粋極まる存在に、我々はわざわざ‘様’付けをせねばならないのだろうか。
プチ・トロワ内で、このガーゴイルは、王女に次いで、召使や兵を従う権力を所持している上に、
毎晩、平民の生活費1年分の費用を要する、豪勢な晩餐を食す王女の隣で、最高級のワインを啜る有様。
湯浴みと憚り事以外であれば、常に主君の傍らに身を置いている。
王女自身もそれを望んでいるらしく、溺愛してるとも言えよう。

例えばこのボーンクラッシャーとやらが、あの王女の使い魔であれば、まだこの扱いは理解し難くも無い。
しかし見た所、この化け物には、使い魔の証である左手のルーンは刻まれていない。
そう、こいつは、使い魔でもなんでもない、只の悪趣味造形なガーゴイルに過ぎない。

たかが護衛ガーゴイルの分際に、御誂えが殆ど叶う身分を与えるとは、王女の沙汰も常人の知れたものでは無い。
第一、何故魔法人形がワインなど摂取するのか。

気に食わない点はまだある。この輩は、王女以外の人間に対して極端に無愛想だ。
いや、ガーゴイルに愛想を求めるのも妙な話だが、しかし通常ガーゴイルは人間に尽す為に存在する。
故に、意思の疎通を難なくこなせる様に、人間の言葉を操れるように作られてる筈だが、こいつは物を言わない。
極端に無口なのか、それとも、製作者の魔法人形職人に、意図は不明だが口を訊けない様に造られたのか。
何にせよ、こいつは私に不快感を与える要素を、多く具えすぎている。

聞けば、背中から生えた奇妙な鍬状の尾で、
北花壇騎士タバサ――シャルロット様を脅すという愚行まで働いたらしい。
腸が煮え返る。それが、私の率直な感情だ。

隙を見て、鞘に納まれた私の剣を素早く抜き、彼奴の小さな頭を薙ぎ落とす覚悟は、あるにはある。
それに対する嗜虐王女の厳罰など、これまでのシャルロット様の苦渋を思えば、今さら恐れるに足らない。
私をここぞとばかりに精神的にも肉体的にも甚振り、高笑いする王女の姿がありありと脳内に映し出されるが、
知った事か。

だが、認めたくは無いが、今ここで奴の暗殺を決行した所で、返り討ちに遭うのが関の山。
以前、余興の狩りで、ピエルフォンの森の中を、見た目からは凡そ計り知れない、俊敏な動きで駆け巡り、
鹿を捕え、例の鍬の尾でその鹿の息の根を止め、返り血を浴びたボーンクラッシャーの姿は今でも覚えている。
その光景を目にし、珍しく嬉しそうに笑っている王女の横で、私は思わず冷汗を垂らした。

また、不思議な変身能力も持っており、6メイルもの大きさを誇る、鉄の装甲車へと姿を変え、
宮殿から他の場所へ外交目的等で外出する際も、王女の乗る馬車を護衛している。
あの装甲車に圧し掛かられでもしたら、潰れた蛙の様に綺麗に熨されるだろう。
下手な喧嘩は売らない方が良い。悔しいが、そう意識している。

始祖とやらよ。
このボーンクラッシャーなる強靭な後ろ盾を、何故シャルロット様でなく、
あの苦労知らずの小娘に与えられたのか。
私は、今一度あなたを訝しもう。

それにしても、本当に不細工な面構えだ。

――という具合に、カステルモールの怨望は、当のボーンクラッシャーの知る事無く、
  しかし確実に、膨れ上がっていた。

背後で密かに膨張する恨みを察する事も無く、ボーンクラッシャーは、
予め用意していた水を汲んだバケツで、腕や脚部に付いた土を洗い落とし、
最後に一通りの点検を済ませ、軽快な足取り(といっても若干短足なので速度は箆棒に遅い)で、
カステルモールを引き連れ暢気に宮殿へと歩み始めた。

敢て正直に言って、機械生命体がせっせと農作業に勤しむ姿は、シュールを越えて、最早情けなくも見える。
悪のデストロンが花壇を作る必要性が、一体何処にあるというのだろうか。
物を造る、という‘ビルドロン部隊’だった頃の本能が蘇った可能性はあるが、確定は出来ない。

しかし、彼にとって、恩人のために物を製作するのは、決して苦では無く、寧ろ楽しい事であるらしい。
幾年の戦いの歴史を沿い、無駄な破壊と殺戮の繰り返しに疲れ、尚且つ嫌気がさし、
新しい主君の元、幸運に得た無聊の日々を貪る彼としては、格好の時間の有効利用でもあった。
似合わないからと言って、それを否定したり止めさせるのも酷な話であろう。


――明後日種を植え、巧く育てれれば、期間で言えば約3ヶ月弱で、寂れた花壇は賑やかに染まる。
春と夏の境目、人間が尤も快適に過ごせると言われるこの時期、種植えのタイミングとしては丁度良い。
宮殿の花壇としてはまだまだ小さいが、
他の薔薇花壇や、百合花壇に引けを取らない規模に拡張する計画も構想中である。

花壇の事は、実はまだ主人には内緒である。
彼の主人は、自身がガリアの王女でありながら、
与えられた役職が北花壇騎士団団長である事に、えらく憤慨してるのは周知の事実。

無理も無い。‘北花壇’とは名ばかりで、他の各花壇の様な、特定の花が咲いた花壇を所有してはいない。
花を持たない騎士団に下る使命など、ガリア王国が直接触れたくも無い汚れ仕事ばかりである。
廃棄物処理場の職務管理長に任命されて喜ぶ年頃の少女がいる理由も無い。

役割が変わる訳でも無かろうが、
せめてモチーフとする花は、欲しがっているに違いない(あくまでボーンクラッシャーの独断)。
が、花を植えさせてくださいと頼んだ所で、素直によろしいと許可してくれる性格でないのは重々承知している。

ならば、花ぐらい趣味の範囲として、勝手に植えてしまおうではないか。
王女の次に偉いのだから、少なくともこのプチ・トロワ敷地内で何をやろうとも、文句を言う輩もいるまい。
プチ・トロワの庭園に、ついに象徴となる花が百花繚乱すれば、
それを目にした主人の顔(所謂サプライズを予定している)は綻び、花を植えた者に頌詩を贈るに違いない。
そして、例え気休め程度だとしても、ガリア王女としての自信を得てくれるであろう。
因みに、何を植えるかは、既に決めている。このハルケギニアでは珍しい、夏を象徴する個性的な、あの花。


帰路を歩むボーンクラッシャーは、そのあまりにも完璧な筋書きに、密かに酔い痴れた。
心なしか、上機嫌にスキップでも披露しそうに見える。
そんな彼の音声判別装置に、後ろに付くカステルモールの

「この、ボンクラ野郎が……」

という怨恨の言葉、と言うより愚痴は、届かなかった。



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