あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ナイトメイジ-06


ルイズの乗る馬車ががたりと揺れた。
この辺りの道は舗装なんかされていないので、時折車輪が壊れるんじゃないかと心配になるくらい大きく揺れる。
と言っても、はまり込んでしまうほど深い凸凹がないところを見ると一応の整備はされているらしい。
馬車にはルイズの他に2人乗っていた。
1人はルイズの使い魔のベール・ゼファー。
肩や膝にとまる小鳥と戯れるルイズの向かいに座った少女は今なら汚れ無き乙女のようにも見えるが、ベルの本性が汚れ無きと言う言葉とは全く無縁であることを知るルイズにはその誰もが微笑ましく思える様子に嘘くささしか感じなかった。
「ねえ、ベル」
「なに?」
「さっきのフジンキシャの格好はもう止めたの?」
「ええ。もうあの格好はいいのよ。役にたちそうにないし」
やたら大きいため息をついて、ベルは肩をすくめる。
──ああ、なんて残念なの
とでも言いたげなのだが、それもどこまで本気なのかはわかったものじゃない。
すぐに指先に小鳥を止まらせて一緒にお気楽な歌を歌い出したからだ。
「ねえ、ベル。私達これから大変な仕事をするのよ。もうちょっと、こう、緊張感ってモノを持ったらどうなの?」
思えばなんでこんな大変な事になってしまったのか。
ルイズはせめて、それだけでも突き止めようとミス・ロングビルが宝物庫に入ってきてからのことを思い出していた。


遅れて宝物庫にやってきたミス・ロングビルが報告したのは、土くれのフーケのアジトと思われる場所についてだった。
ミス・ロングビルが近在の農民に聞き込んだ結果、学院から徒歩で半日、馬でだいたい四時間の位置にある廃屋でフーケを見たという証言を得たのだ。
早速その場所に誰かを送ろうと言うことになった時、真っ先に名乗りを上げたのがベール・ゼファーである。
「このままにしておくものですか!」
だそうだ。
たぶん引っ込みが着かなくなったのだろう。たぶんでなく、確実にのような気がするが。
本来このような仕事は衛士にやらせるか、さもなくば学院の教師達がすることになる。
生徒の使い魔がやるなどと言うことはあり得ない。
しかし、オールドオスマンはそれを許可した。
理由の1つには、ベルの持っているオールドオスマンすら知らない犯罪捜査の知識に期待したというのもあるかも知れない。
また学院の教師達がことごとく尻込みをしていたというのもあったかもしれない。
が、それ以上の理由があったのも確かだ。
オールドオスマンは理解していたのだ。
もう一回ベール・ゼファーに宙づりにされて振り回されたら確実に寿命が今日になる、と。
とは言っても、ルイズとしてはこんな危険な任務を使い魔だけにやらせるわけにはいかない。
止めようと怒鳴り込んではみたのだが、いつの間にかルイズもフーケ捜索隊に編入されていた。
不思議不思議。

「あら、ルイズは怖いの?」
「こ、怖いってわけじゃないわよ!」
「ま、それもそうね。フーケはあんなに大きなゴーレムを使うんだし、怖くても仕方ないわよね」
「だから怖いってわけじゃ……もぐぁっ」
全部言う前に何かを口の中につっこまれた。
結構大きな物のようで口の動きだけではどうにも吐き出せない。
「もぐぅあ、もご。もごごごご」
貴族にあるまじき下品さだが、ルイズは口の中に手を入れて取り出そうとするがなかなかうまくいかない。
ルイズが悪戦苦闘している最中に、ベルはフーケ捜索隊の最後のメンバーであるミス・ロングビルにも同じ物を渡していた。
「ミス・ロングビルにもどうぞ」
「は、はぁ……」
それでやっと、ルイズは自分の口の中に何が入っているかよく分かる。
「もぐぅうおおおお?」
ルイズが目を剥いて驚くのも無理はない。
ベルが渡したのは手のひらサイズのハエなのだ。
こんな物を口の中に入れられてはたまった物じゃない。
いや、はっきり言って気持ち悪い。
「ぶはぁっ」
手首まで口の中に入れてようやく蝿を取り出すことができた。
「あ、あんた。蝿なんかを私の口の中に入れたの?」
「本物じゃないわよ」
「え?」
よく見れば蝿にしてはやたらぽよぽよしていたり、羽に髑髏の模様があったりする。
悪趣味なんだか、可愛いんだかよく分からない蝿の人形だ。
「そうみたいだけど、蝿なんてあんまり気持ちよくないわよ」
「大事に持ってなさいよ。お守りなんだから」
「お守り?」
と言われてもお守りには絶対に見えない。
蝿という時点で子供向けなはずはないが、子供が遊ぶのに使う人形と言われた方がまだ納得がいく。
「それがルイズの命を守ってくれるわ」
「お守り……ねえ」
かなり疑わしい。と言うか、すでに信じがたいの域に入っている。
「本当に効くんでしょうね?」
「もちろんよ。そこらの教会で売っているインチキお守りとは比べものにならないわね」
と言われても、教会で売っているお守りと比べたらありがたみが全くない。
「ミス・ロングビルもしっかり持ってなさい」
「は、はあ……ところで、ここから本当にいいんですか?」
蝿のお守りをポケットの中に入れながら、ミス・ロングビルがいかにも不安げな言葉を口にする。
「そうよ、これでいいの?」
ルイズも同じ不安を抱えていた。
この道はフーケのアジトと思われる廃屋に続く道ではない。
ミス・ロングビルが話を聞いてきた農民の住む村に続く道なのだ。
「ええ。このまま行きましょう。それとも、さっき話したことを忘れた?」
「忘れちゃいないわよ」


出発直前のことだ。
そのときになってベルはいきなりこう言い出したのだ。
「フーケを見たという農民の話を聞きに行きましょう」
──なんで?
ルイズにはベルの考えていることがまるっきりわからなかった。
そんなことをしていては逃げられてしまうかも知れない。
一刻も早くフーケのアジトに行くべきなのだ。
「あのね、ルイズ。フーケを見たという農民が村に帰ってくるまでには最低でも4時間はかかっているわ。で、私達がフーケのアジトに行くまでに4時間。実際はミス・ロングビルが話を聞いてから学院に戻って、報告をして、さらに準備を整えるのに時間がかかっているわね。最低でも合計9時間ってところかしら。私達はすでにそれだけ出遅れているのよ」
「だったら、なおさら急がないと!」
「9時間もあれば、怪盗と言われるほどの盗賊ならすでにアジトを引き払っている可能性だって大ね。それなら、私達はフーケを見たという農民の話をもう一度聞いて、フーケの実態をより把握しておくべきなのよ。それでこそフーケを捕まえられるわ」
「そ、そうなの?」
「ルイズにはわからないかも知れないわね」
「わかるわよっ!」


と言うわけで、フーケを見た農民に会いに行くことになってしまった。
「今なら、まだそんなに時間が無駄にならずにフーケのアジトに行けますよ」
やはり不安なのだろう。ロングビルが念を押す。
「いいの。問題ないわ。村に行きましょう」
「それなら……わかりました」
ルイズはこういう時のやり方を全然知らない。
それは、ロングビルだって同じだろう。
2人とも自信ありげなベルに反論の余地はなかった。


学院を出てから数十分で村の入り口が見えてきた。
このあたりの村は周囲を獣よけの柵でぐるりと囲んでいる。
竜やオーク鬼には全く役にたたないが、それでも村に欠かせない物であることには変わりない。
その柵に扉を取り付けたところが村の入り口であり、馬車がようやくすれ違えるような道が村の中に続いている。
ルイズは馬車がそのまま村の中に入ると思っていたが、少し遠すぎるくらいのところでロングビルは手綱を降り、馬車を止めた。
「あの、よろしいでしょうか?」
御者台に座ったロングビルが後ろに座るルイズを見た。
「なに?」
「この先の村に私が話を聞いた農民がいるんですけど、まず私が行った方がいいと思うんです」
「どうして?3人で行けばいいじゃない」
「それが……村によそ者が行くのはやっぱり嫌がられるんです。それに、メイジが行くと村の人たちも怯えて話を聞くのが難しくなるなるかも知れないんです」
「でも、ミス・ロングビルは1回その人に話を聞いたんでしょ?」
「はい。ですから、私が先に行って話をつけてからがいいと思うんです」
「そうね……」
ルイズはこういう事は初めてなのでよくわからない。
何かいい方法はないか考えているうちにベルが先に答えてしまった。
「いいわ。じゃあ、そうしてちょうだい」
「ちょっと、ベル!勝手に話を進めないでよ」
「だったら他にいい考えでもあるの?そのまま考え続けている方が時間の無駄よ」
「うっ……」
「では、行ってきます。ここで待っていてください」
馬車から降りたロングビルは小走りで村の入り口に走っていく。
彼女の姿が村の小さな小屋に隠れて見えなくなるまで、そんなに時間はかからなかった。


さらに時間は経ち1時間後。
ルイズは馬車の荷台に寝そべって空を流れる雲を数えていた。
「5、6、7」
ロングビルはいっこうに戻ってこない。
話がうまく着かないのか、それとも話を聞く農民と行き違いになったのか。
「8、9、10」
どっちにしても今のルイズにはさしてすることも無ければできることもなく、空の雲を数えるくらいしかできることはなかった。
「11、12、13……」
がたり。
いきなり空の雲がぶれる。
おかげでどれが数えた雲かさっぱりわからなくなってしまった。
「ベル!」
上半身だけを起こして御者台を見ると、思った通りベルが手綱を握って馬車を村に進めていた。
「何してるのよ!せっかく数えてたのに……」
「数えてたって何を?」
「な、何でもいいでしょ!」
なんかすごい暇人だと言われそうで雲を数えていたとは隠した。
「それよりどこに行くのよ。ミス・ロングビルをここで待つんじゃないの?」
「それなら、もう意味がないわよ」
「どういう事よ」
「これからそれをルイズでもわかるように確かめに行くところ」
「何よそれ」
こうなってしまってはベルはもう何も教えてくれない。
ルイズは馬ののんびりした足音を聞きながら、少しずつ大きくなっていく柵に何本の木が使われているのかを数え始めた。


「どういう事よこれ!!」
大声に驚いた村人はルイズの持つ杖とマントを見ると、あっという間に顔色を変えて走って逃げてしまった。
それはそれでいい。
ほんとはあんまりよくないけど、それよりもっと重大なことがあった。
村に入ってから、ベルは通りがかる村人に片っ端からロングビルの居場所、それから朝ここにロングビルが着たかを聞き始めたのだ。
最初は無駄なことをしていると思ったルイズだったが、ベルが5人目の村人に聞いたあたりからさすがにおかしさに気づいた。
村人の誰もロングビルの居場所を知らないのだ。
それだけではない。朝にロングビルを見たという村人が1人もいないのである。
なら、ロングビルが朝、聞き込みをした村人はどこにいったのか。
フーケの居場所を知る村人はどこにいるのか。
さらに聞き込みを続け、あらかた村人に聞いて回っても、それは全くわからなかった。
「どういう事よこれ!!!」
ルイズはもう一度叫ぶ。
どういう事かさっぱりわからない。
おまけにロングビルまで行方不明になっている。
「ま、こういう事。予想通りってとこかしら」
「予想って、どういう予想よ」
「じっくり考えなさい。ご主人様。」
ベルがいきなりご主人様などと言う殊勝な言葉を使ってくる。
こう言うときにはベルがからかいに来ていることはルイズもだいたいわかってきた。
「これはゲームよ。次の場所に行くから着くまでじっくり考えてなさい」
「次の場所って?」
「もちろん、フーケのアジトよ」
ベルが隠しきれない微笑みを見せる。
──この顔って……
昔、そうルイズが小さかった頃だ。
屋敷の使用人に悪戯をしようとしている時にのこみ上げてくる笑い。
今のベルの笑いはそれと同じもののような気がした。


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