あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの使い魔人-06


朝の洗濯で使った水汲み場に立ち寄り、掃除で付いた汗と汚れを洗い流した龍麻は、
幾分さっぱりとした足取りと表情で食堂へと向かっていた。
扉を押し開け、室内へと足を踏み入れる。
既に生徒らの大半は食事を終えてる様で、朝に知り合ったシエスタを始めとするメイド達がデザートを配っている。
テーブルの一角では、金髪の少年――ギーシュと呼ばれていた彼を囲んで出来た人垣からの、何やら囃立てる様な声を余所に
龍麻は、人目を引く桃色がかったブロンドの髪の持ち主の元に向かい、声を掛ける。
「部屋の後始末は終わったぞ」
「そう。随分とモタついたようだけど、まあいいわ。アンタの言う通り、ご飯は外に置いてるから。
食べ終えたら、呼ぶまで外で待ってなさい」
「解った」
ルイズの声に簡潔に応えて、踵を返す。
先程の雑談の輪の側を龍麻が通り掛かる直前。
ギーシュのポケットから何かが落ち、テーブルの下に転がるのが視界の隅に映った。
何かの液体が詰まった小壜である。無視しても良かったが一応、龍麻は床を指して声を掛ける。
「おい。今、ポケットから壜が落ちたぞ」
距離的に十分聞こえた筈だが、当の落とし主はそっぽを向いて応えない。
動こうとしないギーシュに代わり、龍麻は床に転がった小壜を拾い上げ、
「ほら、落とし物だ。気が付かなかったのか?」
目の前に置いてやる。
…が。その返答は剣呑な視線に続いての、
「これは僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」
という不機嫌な声である。
そして、その壜を見た同級生らが口々に騒ぎ出す。
「お? その香水は、もしや、モンモランシーの香水じゃないのか?」
「そうだ! その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分の為だけに調合してる香水だぞ!」
――そこからの流れは、急激かつ波乱含みの…一言で言えば、修羅場であった。
まず、後ろのテーブルに腰掛けていた小柄な栗色の髪の少女がギーシュの前で泣き始める。
そのケティなる少女は、ギーシュの言い訳に耳も貸さず平手打ちを見舞い、食堂から走り去る。
更にはテーブルの向こうにいた、豪勢な巻き髪の少女が足音も高くギーシュへと歩み寄る。
「モンモランシー。誤解だ。彼女とは只、一緒にラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで……」
等と手を振り、首を振り話掛けるギーシュであったが、当のモンモランシーなる少女は
それを一顧だにせず、掴んだワインの瓶の中身を
ギーシュの頭にぶちまけた後、
「嘘付き!」
の一言をぶつけ、やはりギーシュの前から足早に立ち去っていった。
微妙な沈黙が室内を満たす中、男女問わず複数の視線がギーシュへと集中し……。
「あのレディ達は、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」
なぞと、ハンカチで顔を拭いつつ宣うと、食堂中に脱力感に似た空気が充満する。
(……。天然か真性か。どっちにしても、関わりたくは無いな)
長居は無用と、龍麻が一歩を踏み出した時。
「君、待ちたまえ」
背後からの声に、顔を半分向けて応じる。
「なんだ?」
「君が軽率に、香水の壜なんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷付いた。どうしてくれるんだね」
等と、龍麻の予想もしない台詞を言い立てる。
「あのな。そもそも、あの二人に責められるだけの事をやったのは、
お前であって俺じゃない。他人に責任を問える事か?」
言い掛かりも大概にしろ…とのニュアンスを言外に含め、即座に言い返す龍麻。
「その通りだギーシュ! お前が悪い!」
誰かがそう言うや、取り巻く生徒らが一斉に笑い出す一方、ギーシュの顔色が急変する。
「いいかね君? 僕は君が香水の壜をテーブルに置いた時、知らないフリをしたじゃないか。
話を合わせるぐらいの機転があってもよいだろう?」
「そうやって他人を難詰する前に、まずあの二人に謝りに行くのが、
人としての誠意や常識じゃないのか? 傷付けたって自覚があるんならな」
得手勝手な詭弁には正論で返すが、ギーシュはそれに動じるどころか露骨に見下した態度で鼻を鳴らす。
「ああ、君は……確か、あのゼロのルイズが呼び出した、平民だったな。
平民に貴族の機転を期待した僕が間違っていた。行きたまえ」
「貴族だ平民だの関係あるか。そんな風に自分の非を認めず、外面を取り繕う事しかしないから、
その有様なんだろう。お前の様に自分が可愛いだけの人間が、真に他人の心を惹いたり、掴めるもんか」
龍麻とて子供相手に大人気ない…と思わないでも無いが、ギーシュの言動に対する不快感が先に立つ。
自然と口調は厳しくなり、ギーシュを含めた周りの人間からの射込む様な視線が龍麻へと飛ぶ。
「…どうやら、君は貴族に対する礼を知らない様だな」
「礼を払って貰える様な事をした覚えがあるのか? 責任転嫁や自己正当化も度が過ぎるとみっともないし、笑えないぞ」
完全な、売り言葉に買い言葉。
「――よかろう。君に礼儀を教えてやろう。丁度いい腹ごなしだ」
と、ギーシュは外套を翻し、自信たっぷりな表情で立ち上がる。
「脛齧りの孺子が他人に礼儀を教える? 俺の前にお前こそが、人間関係やら節度って物の意味を学ぶべきじゃないのか?」
睨み合い、一言ごとに毒気と敵意が両者の間で濃度を上げていく。
「ヴェストリの広場で待っている。準備が出来たら、来たまえ。……その無礼に相応しい報いを与えよう」
ギーシュの他、半ダース程の人間が悠然と食堂から出ていき、一人はその場に残った。
室内を満たすざわめきがいや増す一方で、嘲笑、侮蔑、呆れ等を存分に込めた
貴族達の視線が、龍麻の全身に降り注ぐ中。
「あ、あなた、殺されちゃう……。貴族を本気で怒らせたら……」
シエスタがおののき、怯えた顔で呟きながら、龍麻から後ずさって離れるのと入れ違いに。
「アンタ! 何してんのよ!見てたわよ! なに勝手に決闘なんか約束してんのよ!」
人垣を掻き分け、ルイズが龍麻の前に立つ。
「別に。単に、互いに持つ見解や良識に責任の所在の相違だよ」
平然と返す龍麻に、ルイズはやれやれと肩をすくめつつ、溜息をついてみせる。
「謝っちゃいなさいよ」
「どうしてだ?」
表情一つ変えず答える。
「怪我したくなかったら、謝ってきなさい。今なら許してくれるかも知れないわ」
「両成敗なら兎も角、俺が一方的に諂らわなきゃならん道理は無いね。それ以上に…此所で
悪くも無い頭を下げて、自分は正しい、何でも思う通りになる等と、野郎の増長と勘違いを認める方が間違いだ」
「いいから」
と、ルイズは口調を強め、龍麻を見上げる。
「真っ平御免だ」
「わからずやね……。あのね、絶対に勝てないし、あんたは怪我するわ。いや、怪我で済んだら運がいいわよ!」
「そうかい。けど、考えるのと事実と結果は必ずしも、同じじゃないぞ」
「聞きなさい! メイジに平民は絶対に勝てないの!」
「絶対、ね。例えどんな異能を持とうと、使うのは人間だ。
自ずと隙や限界も生まれるって物だ。……で、ヴェストリの広場ってのはどこだ?」
「こっちだ。平民」
龍麻の声に、見張りに残ったらしい生徒が顎をしゃくる。
「ああもう! 本当に! 使い魔の癖に勝手な事ばっかりするんだから!」
ルイズの怒声を背後に聞きながら、龍麻は食堂を出た。

――そんなゴタゴタが沸き起こる、その少し前……。

過日の『使い魔召喚儀式』の監督であった、コルベール教諭は多忙であった。
彼は、自身の教え子が召喚び出した、平民とおぼしき青年…厳密には、その左手に刻まれた
未見のルーンに興味を抱き、それに関する資料を求め、先人の知恵と記録が収められた学院内の図書館に
夜を徹して籠もっていたのだ。
……膨大な書籍の山と向き合った末、彼は長らく手に取られる事の無かった一冊の古書を探り当て、
その内容と手にした件のルーンを書き留めた紙片とを照らし合わせた直後、
ある種の興奮と動転が入り交じった顔で、上司の元へと馳せ参じたのだった。
――学院長室。
部屋の主にして、諸国に名を轟かせる偉大なる老メイジ…それが、オールド・オスマンである。
……が、その威厳や存在感も何処へやら。彼の一日は申し訳程度の書類処理とそれに倍する居眠り、
そして秘書官たるミス・ロングビルへのセクハラで潰れるのが殆どであった。
この日とて例外では無く、自分の使い魔による覗きと直接に撫で回す…という狼藉の末に、
ミス・ロングビルからの容赦無い折檻…もとい、「実力行使」を受けていたその時に、
息せききって飛び込んで来たのが、コルベール教諭である。
「大変な事なぞ、ある物か。全ては小事じゃ」
…等と、一分前迄の醜態を細片も見せない余裕を漂わせ、興奮するコルベール教諭を迎えたオスマン学院長であったが、
コルベール教諭が持参した文献……『始祖ブリミルと使い魔達』の名と、その内容を聞くや傍らに立つ秘書に退室を促すと、
それ迄の色ボケ爺的な表情と雰囲気は影を潜め、冷静な知性と重厚な為人がそれに取って変わる。
「……詳しく説明するんじゃ。ミスタ・コルベール」

―――ヴェストリの広場。
それは、学院内に聳え立つ『風』と『火』の塔の間にある広場の名称である。
本来、西向きで人が足を向ける事の少ない閑散とした場所だったが、この日ばかりは
予期せぬイベントの会場となった事から、黒山の人だかりであった。
「諸君! 決闘だ!」
薔薇の造花を手に、ギーシュは高々と声を張り上げると、無責任な喝采やら歓声が乱れ飛ぶ。
「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの平民だ!」
場の喧騒と興奮は、もう一方の当事者…龍麻の到着で更に高まる。
誰一人、互角の闘争になるなどとは思ってはおらず、場の興味と関心は一つしか無い……。

――即ち。生意気な平民が散々に叩きのめされた末、慈悲を乞い縋る醜態を見る為に集まったと断言していい。
手を上げ、笑みを振り撒き、観客に応えていたギーシュが、初めて龍麻を見る。
「取り敢えず、逃げずに来た事だけは、褒めてやろうじゃないか」
「もう少し、気の利いた事を言ってくれ。正直、その台詞は聞き飽きてんだ」
歌うかのような口調のギーシュの挑発に、龍麻もやり返す。
「ふん……。では、始めようか」
「その前に確認するが。ルールはあるんだろうな?」
「勿論さ。君が前非を悔い、僕に詫びるか、あるいはどちらかが動けなくなるか…。
そして、僕がこの薔薇を地に落とすか……。だよ」
余裕の笑みを浮かべて言い放つギーシュ。
「そうかい。判りやすくて助かるよ。…手加減は下手だからな」
龍麻も又、ゆっくりと構えを取る。
もう何百、何千回と繰り返した挙動。己が血肉となった、その《力》を呼び醒ます。
――奇しくも状況は、六年前の春に似ていた。
あの、忘れられぬ一年を過ごした学校への転校初日。ならず者達に絡まれ、人気の少ない
体育館裏に連れ込まれて、立ち回りを演じた事を思い出し、龍麻は内心苦笑する。
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね」
ギーシュが手にした薔薇の花を振ると、舞い飛んだ一枚の花弁が
一瞬にして形とサイズを変え、ヒトの形を取るとギーシュと龍麻の間に立った。
――それは鈍色に輝く肌を持つ、甲冑を纏った女性を象った彫像。
「こいつは……式神か!?」
初めて目にする眼前の“それ”に、龍麻は過去の経験と知識から最も近いと思われる物を当て嵌める。

「言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。
従って青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手しよう」――それが、開戦の号砲となった。
構えを崩さぬまま、相手との間合いを慎重に推し量る龍麻に、戦乙女の名を与えられた戦士が襲い掛かる――。
それとほぼ、同時刻。
「…始祖ブリミルが使い魔『ガンダールヴ』に行き着いた、という訳じゃな?」
学院長室にて、コルベール教諭の説明を受けたオスマン学院長は、例のルーンが書かれた紙と文献を交互に眺める。
「そうです! あの青年の左手に刻まれたルーンは、伝説の使い魔『ガンダールヴ』に刻まれたモノと全く同じであります!」
「で、君の結論は?」
「あの青年はガンダールヴです! これが大事でなくて、なんなんですか! オールド・オスマン!」
口角唾を飛ばして力説するコルベール教諭に同調せず、オスマン学院長は腕を組み、思慮深げに息を吐く。
「確かに、ルーンが同じじゃ。ルーンが同じという事は、只の平民だったその青年は、『ガンダールヴ』になった……。
と、いう事になるんじゃろうな」
「どうしましょう」
「始祖ブリミルの記録を疑う訳ではないが……。如何にルーンが同じだといえど、
そう決め付けるのはちと、早計に過ぎはせんかね?」
「それも…そうですな」
教師二人の会話が途切れたその時、足音に続きドアがノックされる。
「誰じゃ?」
扉越しに、先程退室した秘書官の声が届く。
「私です。オールド・オスマン」
「なんじゃ?」
「ヴェストリの広場にて、生徒による決闘が行われ、大きな騒ぎになっています。
止めに入った教師もいましたが、生徒達に邪魔されて、止められずにいます」
澱み無い報告を聞き、オスマン学院長はうんざり顔で頭を振る。
「……全く。暇を持て余した貴族程、性質の悪い生き物はおらんわい。で、誰が暴れておるのだね?」
「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」
「ああ、グラモンとこのバカ息子か。親父も色の道では剛の者じゃったが、息子も輪を掛けて女好きと来た。
大方、女の子の取り合いじゃろうて。相手は誰じゃ?」
「……それが、メイジではありません。ミス・ヴァリエールの使い魔の青年です」
想像外、しかも先程迄話し込んでいた人物の名が出た事に、両者は期せずして困惑と驚きの表情を互いの顔に見出だす。
「教師達は、決闘を止める為に『眠りの鐘』の使用許可を求めておりますが」
それを聞いたオスマン学院長は、片方の眉を跳ね上げると憮然たる声を出す。
「アホか。たかが喧嘩一つ止めるのに、秘宝を持ち出す者がおるかね。放っておきなさい。
…まあ、結果如何によっては、当事者への処分も考えるがのう」
「わかりました」
秘書官の足音と気配が去ったのを確かめ、コルベールは上司に向き直る。
「オールド・オスマン」
「うむ」
頷くが早いが、呪の詠唱と杖が振られる。
壁に掛けられた大鏡が輝きを放つと、そこにヴェストリ広場の現況が映し出された。


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