あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのミーディアム 第一章 -21


突如現れルイズの危機を救ったフーケ。
かの悪名高き土くれを前にモット伯も驚きを隠せない様子。

だが、彼以上に驚きを隠せないのはルイズと水銀燈の方である。
自分達のせいで捕らえられ、投獄された筈のフーケが何故ここに?
そしてその原因となったルイズを何故助けたのか?

疑問は尽きないと、驚愕の表情を浮かべる二人にフーケが笑みを向ける。
「私の獲物を出し抜くなんざどんな酔狂者かと思ってたが……。変な所で会うわね。元気してたかしら?」
彼女の愉快そうに細められた瞳と視線に、使い魔とそのミーディアムは体をドキリとのけぞらせた。

「え?ど、どこかでお会いしたかしら!?」
「ちぃ、ハルケギニアノコトバ、サッパリ」
この期に及んでしらを切るルイズと、
もはやキャラとしてのアイデンティティを歪ませる水銀燈にフーケは思わず苦笑する。

「フ…相変わらず面白いわ、あんた達。そう警戒しなくてもいいわよ。
別にお礼参りに来た訳じゃないんですもの。
それにそっちも色々と事情があるみたいだしね」
そして物陰に隠れているシエスタにチラリと目を向けた。

「……じゃあ、何しに来たのよ」
それでも緊張したままの水銀燈の言葉に、フーケの機嫌良さそうな笑みが、突如背筋の凍りつくような冷笑に変わった。
「決まってるわ。泥棒が貴族の邸宅に忍び込んでやる事なんて一つしかないじゃない?」

「土くれのフーケ…捕まった筈ではなかったのか!?」
トリステインの貴族たるモット伯もフーケの噂は嫌と言うほど耳にしている。
口には出さないが、いつ自分が狙われるかと恐れてさえいたのだ。
ようやくそれがお縄につき、やっと枕を高くして寝れると思ってたのだが…。

私の屋敷はいつから賊の見本市になったのだ!と、モット伯は苦虫を噛み潰した顔となった。

「ふん…まあよかろう。この私がまとめてここで一網打尽にしてくれるわ」
ばっと手を振り上げ部下達をけしかける。
水銀燈とルイズ、そしてフーケの前に杖を構えたメイジや武器を持った衛士が立ちはだかった。

「大きく出た割に、相手をさせるのは部下だけじゃないか。情けない伯爵様だこと」
「ほぉんと。自分は後ろから高みの見物とはねぇ。それとも何かしら?私達と直接戦うのが怖いのぉ?」
「それって最悪よね。貴族の癖して、とんでも無い臆病者じゃない。この人がなんでモテないのかわかった気がするわ」
フーケ以下、水銀燈とルイズは三人で「わっはっはっは!」と大笑いしてモット伯をボロクソに言った。

「貴様ら…どこまでもこの私を愚弄しおって……。貴族の尊厳を傷つけた罪、地獄で償わせてくれる!!」

「……貴族の尊厳ね…」
呆れたような口調でフーケは顔を下げ、人差し指で眼鏡を正した。
外灯の光が、眼鏡のレンズに反射しギラリと光る。
鋭い眼光は見えなくなったが、その様子は彼女が纏う重圧を一層際立たせた。

「いいわよ。やってみなさいな。
……あんたの言う尊厳とやらで、コイツをどうにかできるのならね!!」
フーケは腕をスッと天に伸ばし、パチンと指を弾く。
乾いた音が庭園に響くと同時に、ゴゴゴゴ……と大地が唸りだし、その背後ろから巨大な土が盛り上がりはじめる。


慌てふためくモット伯達を後目に、これにピンと来たのは水銀燈とルイズ。
「あーあ、やっちゃった。やっちゃったぁ」
「ほーんと。下手な事言っちゃったわね…。私、知ーらないっと」
フーケの言う、コイツとやらに随分と苦労させられた二人が、混乱の真っ只中で他人ごとのように呟いた。

そう、それは土のトライアングルたる彼女の真髄。
モット伯とその部下を覆い隠さんばかりに巨体を持ち上げ、現れたのは土くれゴーレム。
フーケは後ろを振り向き自分が作り出したヒトガタを見上げる。

「さっきのどさくさで作らせてもらったのさ。
あと、この屋敷あんまりいい土使ってないわね。何だかか形が決まってないわ」
出来に若干不満があるらしく。フーケは顎に手を当て首を傾げた。

「ま、あんたらの相手には十分でしょう。……で、貴族の尊厳がなんだって?」

少し意地悪な表情でフーケが杖をモット伯達に向ける。ズン!と一歩、ゴーレムの足が踏み出され、地面を大きく揺るがした。

「ひ、ひぃぃぃーーーーっ!!」
とたんに悲鳴をあげ、杖を捨て、武器を捨て、蜘蛛の子を散らすように逃げていくメイジと衛士達。
反抗する素振りすら微塵にも見せず、一目散に駆け出して行く。

「ま、待て!お前達!!」
モット伯は逃げていく部下や護衛達に唾を飛ばしながら怒鳴りつけ、引き留めようとした。
「冗談じゃねぇ!あんなのが相手じゃ命がいくつ会ってもたりねぇよ!」
「貴様ら!雇い主の私を置いて逃げると言うのか!」
「あんなはした金で命を売れるか!」

そう言い捨て外に出て行く衛士を呆然と彼は見送るしかなかった。

「モット様!短い間でしたがお世話になりましたーーーー!!」
こっちは、そう言いながら脱兎の如く逃げ出すモット伯の懐刀達。
杖を投げ捨てたメイジ達も、門をくぐり抜け全速力で走り去ってしまった。
『短い間』と言う単語が、彼の人望の無さを痛いほどに物語る。
所詮は金と権力に者を言わせた護衛達。
ご覧の通り、反発はあったとしても忠誠心など芽生える筈もない。

逃げ去った部下達の方を、へたり込んで未練がましく見ているモット伯。哀愁すら漂うその後ろ姿にフーケも思わず憐れみの言葉が漏れた。
「寂しい人間ね……あなた」

そして、あまりにも心無いその言葉に、モット伯が本日一番のキレっぷりを見せる。
「黙れ!黙れ!黙れぇ!かくなる上はこの私自ら成敗してくれるわぁぁぁぁぁ!!!」
ヤケクソ極みに達したのか、杖を構え巨大なゴーレムとその術者に突きつける。
悲しみを怒りに変えて立てよ国民!!

(まだ諦めてないのね…この人)
(しつこい性格よねぇ…。そう言う性格、ますます嫌われちゃうのに……)
(ホント、こんなしつこい人間嫌よね~)
(私も嫌ぁい)
「うるさい!聞こえてるぞ!貴様らもだ!!我が胸に宿りし貴族の誇り、薄汚い賊どもに今こそ見せつけてくれるわ!!」
後ろから聞こえてくるひそひそ話を耳にし、さらに怒りのボルテージを引き上げた。

「トリステインの貴族らしいわね。この状況でまだ戦意を喪失しないなんて」
彫像に座ったまま、ほんの少しだけの関心を込めてフーケが言った。
モット伯はこの前門の盗人、後門の怪傑さん二人。と言うピンチ。
と言うか奇妙な状況で、まだまだやる気を見せている。

「なら、その誇りってのを見せてもらおうか」
そうしてフーケが水銀燈を見やる。何かを企むその視線に、水銀燈は訝しげな表情を浮かべた
「そこの黒いの。こいつと決闘してやってくれないかしら?」

フーケの言う『黒いの』とは、その視線の先にある、黒い翼の紙袋被ったメイドさんのことである。
「はあ?いきなり何言い出すのよぉ?」
突然話を振られたと思ったら今度は決闘しろ等と、水銀燈は覆面の中で頬を膨らませた。
「あんたとそこのロクデナシで、白黒つけてもらおうって事よ。
もとより事の発端はそこのメイドの子を巡っての事なんでしょ?
だったら当事者二人の一騎打ちで決めるのが筋ってもんさ」

「ふざけるな!何故私が貴様の言う事に従わねばならん!!」
モット伯もまたフーケの提案に顔を真っ赤にして反発する。

フーケはそれに瞳を険しく、声低く忠告した。
「言葉に気をつけるのね……。やろうと思えば全員であんたを袋にする事だってできるんだ。
それをあんたの言う貴族の誇りとやらに免じて、こんな形で終わらせてやろうって言うのに」

モット伯はそれに気圧され何も反論出来なかった。
「……もっとも、ここまでして勝てないようなら、あんたの誇りとやらもその程度って事になるけどね」
ニヤリとしながらフーケは言葉を続けた。モット伯を挑発しているのだ。

「よかろう……受けて立ってやる。私とて水のトライアングル。盗人ごときに遅れはとらん!!」
不承不承で水銀燈に向き直り杖を掲げた。
「さあ、来るがいい!私に決闘を挑んだ事、地獄で悔やませてくれるわ!!」

仕方無く決闘を承諾した筈なのに、えらくやる気になったモット伯を見て水銀燈げんなり。
「ねえ、ルイズ。貴女の大切なドールが決闘させられそうなのよ?
止めてくれないの?」

「え?別にいいんじゃない?」
ご立腹な使い魔に対しミーディアムはあっさりと賛成の言葉を口にする。
「フーケも言ってたけど元々はあんたが首突っ込んだ事でしょ?」
「……ギーシュの時は血相変えて止めに入ったくせに」
ギーシュの件でのルイズ必死の形相を思い出し、今の、のほほんとした彼女のギャップに水銀燈は顔をしかめた。

「あんたの実力を知った今じゃ、止める理由なんか無いわ」
「それは私の勝利を信じてると受け止めて良いのかしら?」
紙袋の奥から覗くジト目に対し、ルイズは蝶々の仮面から見える瞳を笑わせて答えた。
「そんなとこよ」

「ふう……。それじゃ仕方ないわね」
軽く笑いかけながら言うミーディアムにお人形さんも、一つため息をつき、不機嫌な表情を崩した。
「なら、ここは一つ、期待に添えるとしましょうか」

「水銀燈、大丈夫なんですか…?」
隠れていたシエスタが出てきて、覆面のメイドの肩に心配そうに手をかける。
「大丈夫よ。絶対に貴女を連れて帰ってあげるわ」
「違います!私はあなたの事が!!」
水銀燈の身を案じて声を荒げるシエスタに、彼女は覆面の奥で笑いかけた。

「大丈夫よ」
たった一言返事をし、水銀燈はモット伯に向き直った。
彼女の闇色の翼の生えた背中を見つめ、シエスタは友人の無事を願う。
(水銀燈、無理はしないで……)


「来なさいな、モテない伯爵様。
……生まれてきた事を後悔させてあげるわぁ!!」
「モテないと言うなぁぁぁぁぁぁッ!!」

その言葉が皮切りとなり決闘の火蓋が切って落とされる!!

本日のカード

『乙女の味方・アリスSOS』水銀燈VS『永遠の独身貴族』ジュール・ド・モット伯

先手を打ったのはモット伯。
「我が二つ名は『波濤』!人呼んで波濤のモット!この意味、その体に刻みこむがいい!!」

モット伯が噴水に向けて杖を振ると同時に、水柱が渦巻くように吹き上がり、うねりを上げて黒翼のメイドに迫る。

「ふん…トライアングルのメイジね。少しはできるようだけど……」
まるで獲物に襲いかかる蛇の如く迫り来る水の螺旋を、水銀燈は舞踏でステップでも踏むかのように身を翻して避けた。

「当たらなければどうという事はなくてよ」
水の鞭をやり過ごした水銀燈は術者本人に狙いを定める。

「受けなさい、ローゼン・コール!!」
決闘に入っても必殺技を叫ぶのは健在のようだ。
『ローゼンコール』、一見、彼女のお父様や他のドールズを召喚して戦ってもらう魔法か何かのような名前だが、何のことはない。

これが意味するのはドイツ語で『キャベツ』
実際、お父様や妹達が駆けつけてくる事がある筈も無く、水銀燈が直接モット伯をぶん殴った。

「ぐほぁっ!?」
それでも威力は十分。勢いののった右ストレートを顔面に受け、モット伯は錐揉み状にふっ飛ぶ。
「おのれ…二度までも私の顔を……!父上にもぶたれた事が無いものを!!」
寝室でのローリングソバット、『クーゲルシュライバー』(訳:ボールペン)に続き顔面に手痛い一撃を受けたモット伯。
腫れた頬を押さえ睨みを効かせた怒りの視線を水銀燈に向けた。

水銀燈はと言うとそれを涼しげに受け流し小馬鹿にするような視線で返す。
「殴られもせずに一人前になった人間がどこにいるのよ、お馬鹿さぁん……。
ああ、だからアナタこんな人間になっちゃったのね」

彼女の、この地に来てあまり見せる事の無かったサディスティックな側面が次第に露わになり始める。
水銀燈は切れ長の紫紺の瞳を細め、その口の両端を釣り上げた侮蔑の笑みを浮かべた。

「むしろ感謝してほしいわね。私のおかげでようやく見れる顔になったってとこかしらぁ?
これで少しは女の子が寄ってくるかもねぇ?アハハハハハハ!!」
「どこまでもコケにしおってぇぇぇぇぇ!!」
再び噴水から渦巻く水柱を形成し水銀燈にけしかけた。
今度は巻きついて捕縛するように飛来する水の鞭。

「ふん、芸が無いわね」
だが、彼女は焦る事無く呆れたように言い、軽くやり過ごす。
「フ…それはどうかな?」
不適な意を込めたモット伯の言葉、続けてルーンを刻み杖を振った。
水銀燈を囲んだ鞭が突如飛沫と散るやいなや、瞬時に凍てつき氷の矢と化する。


「へえ、腐っても水のトライアングル。なかなか面白い事するじゃないの」
何時の間にか戦いを見ていたルイズとシエスタの横にフーケ腕組みしながら立っていた。

「ミス・ロングビル!何でそんなに落ち着いてられるんですか!」
決闘を面白そうに観戦するフーケにシエスタが激しくまくし立てる。

「そっちの名前で呼ばれるのは久しぶり…。
……じゃなくて、アイツの事は心配ないさ」
フーケは無言で戦いを見守るルイズの方を見て言った。
「それに見なさいな。あの子の御主人様だって落ち着いてるじゃないの」
「そうよ。あの子は負けないわ!」
「ミス・ヴァリエール……」
そうは言われてもやはり不安は隠せないシエスタ。
だが、それは致し方無い事だ。
彼女にとって水銀燈は、ルイズの御世話係で茶のみ友達の様な物、戦っている姿等見たことが無いのだ。想像すら出来ない。

故にシエスタは、あの翼の生えた友人がどれほどの力を持っているのか、その目に焼き付ける事になる。

「油断したな!串刺しになるがいい!!」
モット伯は水銀燈の周囲に張り巡らした氷の矢を一斉にけしかけた。

これが他の系統に見られぬ水独自の、適応力と言う利点。
フーケも言ったが性根腐ってもモット伯は水のトライアングル。
状況に応じ、水の形態を変化させる事で、火や風に劣る攻撃力を補うのだ。

「ちいっ!」
水銀燈は舌打ちする。さしもの彼女もこれは予想していなかったらしく、殺到する凍てついた矢を避ける事は不可能。

彼女は翼をはためかせ自らの体を無数の羽で覆った。
「ゲシュマイディッヒパンツァー!!」(訳:エネルギー偏向装甲)

そう叫び水銀燈は漆黒の繭のような羽の盾を作り出す。

ああ、何て事だ……。このピンチについにバリアまで飛び出した!
お父様こと、ローゼンはガンダムの小型化に成功したのでしょうか?
いやいや、彼女は可憐な薔薇乙女です。

掌部からビームなんか撃てませんし、でっかいビーム砲も担いでません。
アロンダイトもといデルフリンガーは部屋に置いてきました。

でも次に来るとすれば光の翼だろうか?
漆黒の壁に阻まれた水銀燈を数多の氷の矢が襲う。
文字通り雨霰と降り注ぐそれは羽の盾にどんどん食い込んでいき……。遂にはそれを貫いてしまった。

「あ、れ…?」
「そんな……」
絶望に打ちひしがれるルイズとシエスタ。
氷の矢は駄目押しと言わんばかりに降り注いでいる。

だがフーケは平然としてそれを見ていた。
「なあ…あんたら、もうちょっとあの子の事信じてやったらどうなのよ?」

ズタズタになった漆黒の繭が外側から崩れ始め、庭園に剥がれた黒塗の羽がひらひらと落ちる。
しかし、出て来た物を見てモット伯は驚愕した。
いや、むしろ出て来たと言うより何も出てこなかったと言うべきだろう。
氷の矢に貫かれ無惨な姿となった水銀燈が出て来る事は無かった。

「なんだと…!?」
確かな手応えを感じたモット伯が背中に冷たい汗を垂らす。

「悪くは無かったけど。そんなヤワな攻めじゃあ、私を逝かせることはできないわね……」
突然囁かれた妖艶な少女の声に、モット伯はゾクリと悪寒を走らせた。

氷の矢に貫かれたと思われた水銀燈が、モット伯の背後で彼に囁いたのだ。

「水銀燈!よかった!」
「無事だったんですね!」
先ほどの沈んだ顔が嘘のように、ルイズとシエスタは歓声を上げた。
「だから言ったじゃないのよ。私を捕まえた奴がこんな事で負けてもらっちゃ困るわ」
フーケもまた満足そうに頷きながら呟いた。


恐怖に凝り固まったモット伯の耳元で水銀燈は囁き続ける。
「……いくら権力やお金で人を集めても、今出て行ったあの人達と同じ。結局は皆アナタの元から逃げて行くわ……」

被った覆面で表情は読み取れないが、その中身はきっと身も凍るような冷たい笑みを浮かべている事だろう。

「ウフフ……アナタは永遠に独りぼっち」
そしてクスクスと妖しく含み笑いをした。
「何をーーーっ!!」
ハッと我に帰りモット伯は腕で黒翼の人形を振り払った。

ばさぁっと翼を打ち鳴らして、水銀燈は庭にある騎士の彫像の掲げた杖の上に一本足でとまる。
「ウフフフ……怒っちゃだめよ……。血圧上がっちゃうから……乳酸菌摂ってるぅ?」

そして彼女は、お決まりの台詞でさらに言葉の追い討ちをかけた。
「もはや貴様に対する憤りは言葉では表せぬわ……」

人形の嘲りの言葉にモット伯はわなわなと震え杖を叩きつけるように振り下ろした。
水柱を作り出していた噴水が轟音とともに砕け散り、夜空に向けて大量の水を噴き出す。
流れ出た水で、底の浅い川のようになった庭園の地面。そこにモット伯は手にした杖を突き立てる。

「今、私の望む事はただ一つ…」
唱えられたルーンが水に作用しモット伯の下へ、引き潮のように引き始めた。

「貴様の無惨な死に様だけよ!!!」
その叫びとともに引いた水が10数メートルにまで噴き上がり分厚い水の壁を作り出す。
そして大量の水を用いたその壁を津波の如くけしかけた。

「避けようと思えば避けれるけど……」
水銀燈は一本足で彫像に立ったまま、羽を集めて剣をもう一本作り出した。
「いいわ。付き合ってあげる……。
アナタのくだらないそのプライドもろとも……」

そして、両手に一本ずつ剣を持ち独楽のようにくるくると軸足で回転しだす。
「これでジャンクにしてあげるわ!!」

目に見えて、その回転数が羽を撒き散らしながら上がり始め、彼女の体は全てを切り裂く漆黒の竜巻と化した。

「シュツルム!ウント!ドランクゥゥゥゥーーーーッ!!」
もはや一部の人間には、あまりに有名すぎる必殺技の名前を叫び、水銀燈は迫り来る水流の巨壁へ突撃する!!

それが言葉が意味するは『疾風怒濤』
まさにその名の通り、周りの空気を巻き込み、切り裂き、うなりをあげて津波へとぶつかった!!
「ああっ!」
凶悪な水のアギトにぶつかり、飲み込まれてしまった水銀燈に、またもシエスタは悲痛な声を上げる。

だがルイズは左手の薬指を押さえながら、使い魔を屠った水の壁をキッと見つめいた。
「シエスタ、私はもう驚かないわ」
「えっ?」
「これが教えてくれるの」
ルイズの押さえている左手から光が漏れている。
かざした右手の下、左手の薬指に輝くのは、契約時に現れた薔薇の指輪だ。
どんどん増していくその煌めきを見つめ、ルイズは自分の堕天使の勝利を確信した。
「そうよ…あの子は私の使い魔なんだもの……。こんな事で負けたりしたら許さないんだから!!」
ルイズがそう言った直後。

押し寄せた津波を突き破り現れる漆黒の旋風!!

「はああああああああ!っ!」
「ば、馬鹿なぁぁぁぁぁぁ!!」
水銀燈は雄叫びにも似た声を上げ突っ込んで行く。
モット伯は自分を蹂躙せんと向かい来るそれを、ただ見ている事だけしか出来なかった。

そしてうなりをあげて吶喊してくる竜巻に。モット伯はつむじ風に巻き込まれた落ち葉の如く高々と宙を舞った。

「ぐああああああ!!」
「Das Ende!」(終わりよ!)
決めの台詞と共に激しい回転がピタリと止まり、両手の剣が漆黒の羽と舞い散る。
月の光にさらされ、鮮やかに冷たい輝きを放つ銀色の髪。
あの激しい運動量に耐えられなかったのだろう。不格好な覆面はすでに無くなっている。

「私の…勝ちよ!!」
水銀燈は空高く打ち上げられ落ちてくるモット伯をバックに、夜風に長い髪をなびかせ、高らかに勝利を宣言した。
ドサッと言う重い音と共に落ちてきたモット伯は、ぼろ雑巾と言ってもいいくらいの有り様だった。

手にした杖も真っ二つに折られ、戦闘の継続など不可能。
峰打ちだったため致命的な怪我こそ負ってなくても、全身に回る激痛で身動き一つとれないといった状態だ。


「勝負あったよ!!」
フーケが皆に聞こえるよう大きな声を響かせる。
「くっ……」
直後、勝利者の水銀燈が呻き声をあげて膝をついた。
「「水銀燈!!」」
声を合わせて彼女に駆け寄るルイズとシエスタ。
「どこか痛めたんですか!?」
シエスタの心配そうな言葉に、水銀燈は青くなった顔を向けて力無く呟いた。
「目が…ま…わ、るぅ~」
そして頭をクラクラさせながら目を回し、焦点の定まらない瞳でシエスタを見つめる。

「まあ、あれだけ気持ちいいくらいに大回転すればね…」
ルイズは苦笑しながら使い魔の肩に手を掛けその体を支えてあげた。
「でも…無事でよかった」
シエスタもまた黒い翼の天使に微笑みかけてその手を握った。

「うう…気持ちいいどころか…むしろ、気持ち悪くなってきたんだけどぉ……」
安堵している二人をよそに、水銀燈は口元を押さえて屈み込む。

「ちょ、ちょっと!これは別の意味でまずいわ!!」
「どうしましょう!ミス・ヴァリエール!」
「水銀燈、と、とりあえず我慢なさい!」

ある意味決闘の時以上の水銀燈のピンチにルイズもシエスタも大慌てした。
この大団円の場面でリバース!なんてことになったらぶち壊しだ。正直シャレにならない。

「この技は……色んな意味で、危険すぎるわぁ……」
彼女はこの技を、自分の中に永久に封印する事を誓ったとさ。
そんな三人組を遠目に見ながらフーケはモット伯に歩み寄った。

「やれやれ。派手にやられたものねぇ」
「私が…何故こんな目に……。今日は、厄日だ……」
服はズタボロに破れ、杖は中央からポッキリと折れてしまった。
全身をしこたま痛めつけられたモット伯は苦々しく呟く。

「厄日?違うわね。むしろ幸運だったとさえ言えるわよ」
「幸運だと……この有り様でどこが幸運な物か!!…ぐぅっ!」
腰に手を当ておどけて言うフーケにモット伯は大声で怒鳴りつける。
だが痛めた体が重く軋み、思わず呻き声を上げた。

「ああ、幸運だよ。あの子の言葉じゃないが。
……このままだったらあんた永遠に独りぼっちになってたんじゃないの?」
「何…!?」
「財や権力で、無理矢理集めた人間に価値なんて無いわ。
あと、モテないとか言って怒ってたけどなんでモテないか考えた事ないでしょう?
……理由はどっちも同じなのよ」
「ぐっ……」

それを言われるとモット伯は何も言えなかった。
主を見捨てて逃げていく部下など持つ意味は無い。
忠臣と言う物は金や権力で得る事は出来ないのだ。

「それに気づけたんだ。高い授業料ではあったが、いい薬になったと思うけどね」
モット伯は押し黙る。ならば、どうすれば主に尽くす家来と言うものが出来るのだろうか?
どうすれば人に好かれるのだろうか?
彼は地面を見つめそんな事を考えていた。

「あとは自分で考えなさいな。ヒントは今のあの三人を見ればわかるんじゃない?
あと、授業料ついでにあのメイドはあの子達に返してやるんだね」
フーケはそう言ってモット伯に背を向け歩き出す。

「……貴様は何も盗っていかんのか」
その言葉にピタッと足をとめるフーケ。顔だけをモット伯に振り向かせた。

「あいつらに先に盗られちまったよ。……あんたのプライドとやらを奪ってやる筈だったんだけどね……」

そして再び前を向き、水銀燈達の元に歩き出した。
「ま、私はあんたのその惨めな姿を見れただけで十分よ。
……さようなら、ジュール・ド・モット伯爵殿」
モット伯はその後ろ姿を止める事無く無言で見送った。

館から出てくる影法師が四つ。月に照らされて長く伸びるそれらが、一体誰なのかは言うまでもないだろう。

ルイズが蝶々の仮面を外しながら一息ついた。
「あ~一時はどうなるかと思ったけど。シエスタも助けられたしよかった~」

「全然良くないわよぉ!黙って出て来たのに貴女なんで来ちゃうのよ!?
この人がいなかったらどうなってたか分かってるのぉ!?」
「あんたがそれを言うの!?あんたが!!」
フーケを指差して言った水銀燈にルイズが突っかかる。

たしかに何も考えずに突っ込んでった水銀燈がルイズを非難するのはどうかと思われるが……。
彼女の言う通りフーケのフォローがあればこそ、今回の騒動は解決したのだ。

「学院でも思ってたけどあんた達、本当に見てて飽きないわね」
取っ組み合いの喧嘩を始めた使い魔とミーディアムを見てフーケが柔和な笑みを浮かべる。

「あの、ミス・ロングビル…ありがとうございました!」
そこでシエスタがフーケに頭を下げてお礼を言った。
それに水銀燈とルイズの取っ組み合いがピタリと止まり、キョトンとシエスタの方を見た。

「あなたは私だけでなく、私の大切な人まで救ってくれました。感謝してもしきれませんわ!」

「そうね、今回ばかりはこの人に感謝しなきゃねぇ?」
「私達が捕まえた人にお礼言うのはなんか変な気もするけど……」

二人はシエスタに続いてフーケに向き直った。
「一応お礼しとくわ。……ありがと」
「ありがとう。フーケ」
そんな二人の様子にフーケは目を丸くしたかと思うとプッと吹き出し「あっはっは!」と大笑いする。

「失礼しちゃうわぁ」
「まったくよね」
頬を膨らませる水銀燈とルイズにフーケは腹を押さえながら言った。
「気に障ったなら謝るよ。でも、まさかあんたらから感謝の言葉を送られるとは夢にも思わなかったからさ!」

その笑いが収まり彼女は眼鏡の奥で遠い目を夜空に向けた。
「あんたらを見てると故郷に残して来た妹を思い出すよ……。
あの時のアルビオンにあんたらみたいな奴が少しでもいてくれれば……」
小声で何かを呟くフーケに三人は小首を傾げた。
「いや、なんでもないよ。……最後の最後でいい物貰えたわ」
フーケはスタスタと三人の前に歩み出て振り返る。

「縁があればまた会えるかもね?」
そして、双月輝く空へと飛び上がり夜闇の中へと溶けていった。
「やっぱりただの盗人って訳じゃないのね。あの人」
「みたいねぇ」
「じゃなきゃ、私達を助けてなんてくれませんもの」
三人はフーケの消えて行った空を見上げながら口々に呟いた。


しばらくの間ぼーっと天を仰いでいたシエスタがルイズへ口を開いた。
「ミス・ヴァリエール。ありがとうございました」
「へ?い、いや!私は元々この子を連れ戻そうとしただけで、成り行きであなたを助けたと言うか何と言うか、
別に私にお礼なんて言う必要無いみたいな!」
照れながらルイズは水銀燈の肩をペシペシと叩く。
「水銀燈も……」
「べ、別に私も誇り高い薔薇乙女として乙女の危機に黙ってられなかっただけで…」
もじもじしながら口を濁す水銀燈。でもやっぱり嬉しいのか、背の翼をぱたぱたと小さく動かしていた。

照れているのをごまかすかのごとく、ルイズは思い出したように言った。
「とにかく、私達も早く学院に帰りましょ!」
「夜更かしは美容の大敵ですものねぇ?」
そう言いながらルイズと水銀燈はシエスタに手を差し伸べる。

はにかむように伸ばされたルイズの手と、それを横目で小さく笑いながら伸ばす水銀燈の手。

気性はそっくりなのにどこか凸凹なこのコンビ。だけど、自分の為に危険を省みず助けに来てくれた水銀燈とルイズ。
そんな二人の手をシエスタは愛おしく見つめていた。

「どうかしたの?」
「ぼーっとしちゃってぇ」
疑問の視線を投げかける2つの眼差し。それにシエスタは顔を横に振ってニッコリと笑う。

「はい。帰りましょう!」
そして二人のその手を握り、満身の笑顔で返事をした。

明くる日、ここはトリステインの王宮前。門前には二頭の馬に繋がれた馬車が停まっている。
そして鞄を一つだけ持って現れる1人の男性。

貴族らしい出で立ちのその男の頭には包帯が巻かれ、胸の前に三角巾で痛めた腕を吊っている。

そう、あのジュール・ド・モット伯爵である。


「モット伯」
馬車に乗り込もうとするモット伯を透き通るような少女の声が呼び止めた。
振り返ったモット伯の先にいるのはすらりとした気品のある顔立ちをした、あどけなさの中に高貴な空気を纏った少女の姿。
「これはこれは、アンリエッタ様ではありませぬか」
「勅使の任を辞任し、地方の領主を志願なさったと聞きましたがもう発たれるのですか?」

アンリエッタと呼ばれた少女の言葉にモット伯は自嘲気味に笑って答えた。
「はい、善は急げといいますからな」
「一体なにがあったのです?」

アンリエッタもモット伯の下々の人間に対する横暴は耳にしている。だが、彼は王宮にとって有能な人間でもあった。
故に、少々度か過ぎている事を承知の上で王宮は口出しする事は無かったのだ。

だが彼は今日、朝一番に王宮に駆けつけ自らの行った所行を自白し、地方の領主への就任を希望したのだった。

モット伯は顔をうつむかせる。
「思い知らされたのですよ。私の弱さと言う物を」
「弱さ?」
意味が分からなとでも言うようにアンリエッタは首を傾げた。

「人の心を知るには、人を治めるのが早道と思いましてな」
モット伯は思い出す。ただのメイド1人のために自分に挑んできた、黒翼のメイドと仮面のメイジ。
貴族の邸宅に押し入るような危険を侵してまで友を救い出そうとした2人。
部下に逃げ出された自分とは対極をなすその様子こそが、自分自身の弱さの正体だと気づいた。

己の身一つしか考えてなかった彼が友を、忠臣を、人心を得るためにどうすればよいか考えた結果が、他人と言う物を知る事。

煌びやかな王宮を離れ、勅使のころのように好き勝手な事は出来なくなるだろう。
――だが後悔はしない。
これはあの三人の盗人に対する挑戦だった。

そう思いモット伯は険しい表情を浮かべる。
(見ているがいい。……必ずお前達に私を認めさせてやる!!)

ますます分からないといった困った顔のアンリエッタに別れを告げ、モット伯は不退転の決意で馬車に乗った。

ピシリと馬に鞭が打たれ馬車が出る。
トリステインの空は、雲一つ無く、鮮やかな蒼色に染まっていた。
その空の下、魔法学院では気持ちのよい澄み渡った天上とは裏腹にげんなりとした少女が二人。

「水銀燈……眠いわ」
「言われなくたってわかってるわよぉ……」
ルイズと水銀燈、双方元気無く背を丸めて腕をダラリとたらし、目尻には黒い隈。
まるでゾンビのようにふらふらと前に進んでいる。
学院に帰りついたのはいいが、その時刻は太陽が東からうっすらと顔を出す時刻。もう夜明け前のだったのだ。

「おまけに昨日の疲れも残ったまんまだし……。銀ちゃんあんたが勝手に飛び出してったから私もひどい目にあったアル」
「別に私頼んで無いわよ!貴女が勝手についてきたんじゃない!!」
「それが使い魔の危機に駆けつけたご主人様に対する言葉なの!!」

ルイズも水銀燈も寝不足でイライラ気味。ルイズにいたってはキャラとしての軸までぶれている。

もとより我の強いこの二人である。学院の広場を舞台に、昨日から続く取っ組み合いの第二ラウンドが始まった。
でも、昨日の騒ぎを考えれば可愛いものだろう。

「ミス・ヴァリエール!水銀燈~!」
そんな喧嘩してる使い魔とミーディアムに聞き慣れた声がかかった。
互いにの頬をつねって引っ張り合いながら。二人は声の方を向く。

目線の先にはシエスタがこちらを向いて元気に手を振っている姿があった。

それを見た後、無言で双方、頬をつねった相手を睨む。
「……まあ、いいか」
「シエスタも戻ってきたのだし……」
そして同時に手を離した。

「でもあんたもいいとこあるわね。シエスタの為にあんなに大暴れしちゃってさ!」
「女は義理堅いのよぉ。友達は大切にしなきゃ」
「あんたが言うにはなんか似合わないわ」
「心外ねぇ……」
「それにもう一人大切にしなきゃいけない人を忘れてないかしら?」
「あ~ら?誰の事ぉ?」
ルイズの言葉に水銀燈はフッと笑ってシエスタの方に飛び立つ。
「こらーっ!私の事忘れるなーっ!!」
ルイズもまた言葉とは裏腹に笑いながら水銀燈の後を追った。

お茶とカップを載せたトレイを片手にシエスタはよってくる二人をにこやかに迎える。

魔法学院は今日も平和だった。


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