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虚無のメイジと、吸血鬼-01


 燦々と日が照る日中は、吸血鬼にとっては至極暮らしにくい時間である。
 しかし、今この場に存在する吸血鬼――名をフィオナ・アイスハイムと言う――にとっては、
苦痛を呼び起こす物では、ありえなかった。『尊き三種』の一つであるラインゴルト氏族の直系、
アイスハイムを束ねる”蒼姫”は対吸血鬼属性の殆どを克服していたのだから。
 彼女にとっての日の光は、人間たちにとっての夜と同じ様に、眠気を誘う物でしかない。
 紅色の瞳に、空色の長い髪。縁のない眼鏡のレンズの奥には、面白いものを見つけた時のような、
光が宿っている。しかし、その視線の先には、何もない。
 その様子は、日の光に照らされたまま、虚空を見詰めている――と、凡百の人間には見えるだろう。
 しかし、常人ならざる感覚を持つ者にとっては、虚空に開いた穴を眺めている、と見える。

 ―――世界孔、という物がある。人の空想が異世界の法則と符合した時に生まれる、小さな孔。世界と
世界を繋ぐ孔。世界の境界を曖昧にして、世界の法則を混ぜ合わせてしまう孔だ。
 仮に、科学法則が支配する世界と、魔術法則――住民全てが魔法を使えるような世界が存在するとしよう。
 その二つを世界孔が繋げれば、魔術と言う新しい理論体系が科学世界に染み入り、世界法則を侵し始める。
 世界孔から踏み入ってきた魔術世界の住人たち。彼らは、魔術法則に基づいて生きてきたが故に、彼ら自身が
魔術世界の世界法則を体現している存在。彼らの魔術法則に基づいた認知枠は、世界を魔術法則に則った物
として捉えている。それが、科学世界への侵食を加速させる。
 ―――認識は、力なり。認識するが故に、世界は存在している。
 科学世界を、魔術世界の法則で捉える。それは認識と言う力を通し、魔術法則の因果を科学世界に構築して
いく。世界の法則は混ざり合い、一つになり――新たな完成を迎える。それが齎すのは破滅か、繁栄か、誰にも
判りはしない。そんなリスクを秘めた、世界の渡し舟。

 ただ、そんな事態は滅多に起こらない。
 先も記したが、認識は力なり。一つの世界には、その世界の法則を体現する者がいる。小さな歪は、そこで
暮らす彼らの認識によって修正され、消滅する。
 幾人かの空想の認識が開けた穴は、その世界で暮らす多数の人間の膨大な認識によって塞がれてしまうのだ。
 だから、開かない。何か特別な要因がない限りはすぐに閉じてしまう、小さな扉。それが世界孔。

 今彼女が眺めているのが、その世界孔だ。
 どこにでもあって、普通の人の、普通の認識で修復されてすぐに閉じてしまう儚い孔。
 それ自体は、何ら珍しいものではない。そこら中で見つけられる、ありふれたものだ。
 飽きるほどに目にしてきたはずのそれを、彼女は楽しそうに見詰めている。

 その世界孔は、虚無だった。触れた世界を飲み込み、少しずつ膨らんでいく虚無の力。
 そんな虚無の属性を持った孔を、彼女は見た事がない。何を目的として、この世界孔は開いたのだろう?
 そう思うと、その世界孔に対して好奇心が湧いた。
 世界孔をしっかりと認識する、それだけで孔は確固とした”強さ”を持った。後は、少し手助けを
してやるだけだ。己の確固たる認識を以て世界孔を補強し、押し広げていく。
 虚無の孔が、高さ2m、幅1m程になったときであろうか。漆黒のそれが、不意に銀色の鏡へと変わった。
 少しの驚きを顔に出して、吸血鬼は鏡の表面を注意深くなぞりながら、呟いた。

「……誰かを呼んでいる、のでしょうか」

 これを閉じるというのならば、簡単だ。先と逆の事をすればいい。己の認識を以て、握りつぶしてしまえば
それで終わり。この世界に何の痕跡も残さずに、この孔は消滅する。しかし、この鏡に何か惹かれる物を
感じるのもまた確か。
 帰れなくなるかもしれない、と言う予感はある。しかし、それでも構わなかった。領地を任せられる
人材も、既にいる。宿敵とは、最近はじゃれ合いになってきた。特に心配するべき事柄は見当たらない。
 考えていたのは数秒だけだった。ここ最近の退屈を、吹き飛ばしてくれるかもしれない。久しく感じて
いなかったそんな感覚を得た吸血鬼は、迷いなく鏡の中へと足を踏み入れていく。
 流れた空色の髪の最後の一筋が鏡に飲まれた瞬間、ひっそりと虚穴の変じた鏡は消え失せた。
 何の痕跡も、残さなかった。

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは確かな手応えを感じていた。
 繰り返された爆発、数えること数十回。最初のうちは囃し立てていた他の生徒も流石に飽きたのか、
今となっては欠伸を漏らすだけ。少し大きな爆発が起きました、だから何ですか、といった風情である。
 しかし、爆発を起こした当の本人は今までとは全く違った感覚を感じていた。それ故に、濛々と立った
煙の中を見詰める目も期待に輝いている。

 徐々に晴れ行く煙の中、姿を現したのは一人の女性だった。

 背は、高い。膝まである長い空色の髪は、長さはともかくとして色はタバサに似ている。ルビーの瞳は、
気に入らない事にキュルケに似ていた。違いといえば、縁なしの眼鏡の奥で理知的な光を放っている事だろうか。
 キュルケの瞳は情熱の赤――この少女は色ボケと主張する――だが、目の前の女性の瞳は色にそぐわず、
氷の様な印象を抱かせる。

 「……あなた、誰?」

 周囲では、ここぞとばかりにからかう声が響いている。
 曰く、流石はゼロのルイズ、平民を召喚したぞ。
 曰く、流石はルイズ、俺たちに出来ないことを平然とやってのける。
 何十分の一かは人間が召喚された事に対する驚きや、綺麗な人だ等と言う感嘆の言葉だったりもするが、
それらはルイズの耳には入らない。普通の人間とは少し違う雰囲気に飲まれて、言葉が零れていた。誰、と。
 ポツリと零された言葉が届くには少し遠い距離だというのに、その女性は自分の方を向いて微笑みかける。
 その事に驚く間もなく、彼女が口を開いた。

「その問いに答えましょう。私は、フィオナ・アイスハイム・イストラッド。あなた方の知る生物で言えば――」

 からかう声の中でも良く通る、声。鈴が鳴るようでいながら、不思議と力強く聞こえる。
 そして、続けての内容に、周囲でざわめいていた生徒たちが、一瞬にして静まり返った。

「――吸血鬼、と表される存在です」


 何を言われたか分からない、と言った様子の生徒たちを気にした様子もなく、フィオナは自分に最も近い、
桃色の髪をした少女に向かって唇を小さく広げ、にっこりと微笑んだ。あたかも、牙を誇示する様に。
 フィオナの知覚は、意味知覚。その知りえる所は、来歴、行動原理、そして、機能。全てを知ると言った
ほどではないにしろ、存在を知覚しただけで人より多くの情報を得る事が出来るのは間違いない。
 少なくとも、隠し事など出来ないほどには――とは彼女本人の弁だ。
 それだから、何も言われない内から目の前の少女が自分を召喚したのだと言う事を知り、あの見た事もない
世界孔を開いた当人なのだと推測する事も可能だった。当然、何を目的としていたかも。

「あなたの名を、お聞かせ願えますか?名前には意味があり、言葉は名付け、意味は力。すなわち、名前は力。
 自らの本質を表し、時には偽装するそれを名乗り合うのは、互いを知る第一歩。お互いの存在を認定しあう、
 大切な儀式です」

 さあ――と促す言葉に、少女が口を開いた。周囲は未だ、沈黙に包まれている。
 その静寂を切り裂いて響き渡る少女の名乗りが、虚無の使い手と吸血鬼の、契約の判となる。
 漸く、周囲がどよめき始めた。吸血鬼と言う、最悪の妖魔の存在に。

「私は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。あなたを召喚した、メイジよ」

 吸血鬼と言う存在がこの世界で何を意味するのか、意味知覚によって知っていたフィオナは、僅かに驚いた。
 己の告げた種族の名にも恐れを見せない、毅然とした態度。少しの驚きの後にやってきたのは、己を使い魔と
為す相手の持つ矜持への満足感。
 これならば、使い魔になってみてもいいだろう。人の一生など、自分たちにとっては瞬きの間に過ぎない。
 微笑みながら少女の名を口の中で一度転がし、頷いたフィオナは、次を促す言葉を紡いだ。

 吸血鬼。ハルケギニアにおいて、最悪の妖魔。
 そんな危険な存在が目の前にいると言うのに、ルイズは不思議と落ち着いていた。
 ミスタ・コルベールが自分の目の前の吸血鬼に向かって、杖を構えたのが見える。
 当然だ、目の前にいるのは吸血鬼なのだから。
 しかし、彼女はそれに構わない。微笑んで、自分に向けて問いを投げつけてきた。

「良い名です。あなたは、私を使い魔とする事を望みますか?」

 反射的に、こくりと頷いていた。
 彼女は、きっと私を導いてくれる。そんな不思議な予感がする。
 これが錯覚じゃない保証は何処にもないけれど――

「受け入れましょう。では、契約を」

 信じてみよう、この予感を。そう思った時には、口が自然と呪文を紡いでいた。

「我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。
 この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」

 固唾を飲んで見守る観衆の中、唇が触れ合う。元の世界において当代最強を誇った吸血鬼が、
”ゼロ”と呼ばれるおちこぼれのメイジと契約を交わした瞬間だった。


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