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ゼロのミーディアム 第一章 -07


「貴族の食卓を荒らす訳にもいくまい。ヴェストリの広場で待っている」
そう言い残しギーシュは去っていった
シエスタがぶるぶる震え青ざめた表情で水銀燈を見つめている
「水銀燈…貴族をあんなに怒らせるなんて…おまけに決闘だなんて!」
「ふん…問題ないわよ。あんなボンボンのお坊ちゃんにこの私が遅れをとるとでも?」
そこに駆けつけてくるルイズ。どうやら事の一部始終を見ていたらしい
「ちょっとあんた!何してんのよ!」
「あら、お嬢様。ご機嫌いかが?」
「ご機嫌いかがじゃないわよ!決闘なんか勝手に受けちゃって!」
「あんな醜態をさらしたくせにおこがましくも薔薇を名乗るなんて気に入らないのよ。ましてやそれを私のせいにするなんて。それに…」
(それにあの人間はこの私の最も嫌う言葉を私に投げかけた。だから…許す訳にはいかない…!)
瞳を細め苦々しく心の内で呟く
『ジャンク』・『できそこない』水銀燈の最も嫌う…嫌悪すると言ってもいい言葉だ
前にも述べたがルイズに対するの『ゼロ』に匹敵する侮辱の言葉と言える
ギーシュは彼女の前では決して言ってはならぬ禁句を言ってしまった
この尋常ではない怒りは無論これによる物。今の彼女の心の中はそれ一色しかない
いや、水銀燈の中にはもう一つそれとは少し違う感情があった
あの時ギーシュの言った『できそこない』の対象は水銀燈だけではない。彼女のミーディアムたるルイズも含まれていた。彼女の仇名である『ゼロ』のオマケ付きで
そのことが何故か水銀燈はひどく気に入らなかった
無意識の内にルイズの境遇の中に自分を垣間見たのかもしれない
誰かのために戦うなど自分の性に合わないと思う
だからあくまで自分の名誉を守るついでにルイズの名誉を守ると理由付けて決闘を受けた
だがルイズは水銀燈の胸中など知る由もない
「謝っちゃいなさいよ」
「謝るですって?断るわね」
「悪いことは言わないから!あんたが少しは不思議な力が使えるとしても、メイジには絶対勝てないの!」
「何よ、貴女心配してくれてるの?」
「べ、別に心配なんか…いや、それは…あんた一応私の使い魔なんだし…」
一人で勝手にしどろもどろしているルイズをよそに水銀燈はギーシュの連れに決闘の場を問いただす
「ヴェストリの広場だったかしら?それってどこなのよ?」
「ああ、こっちだ」
恐怖に震えるシエスタとなんだが一人ブツブツ言っているルイズに背を向け貴族に連れられ水銀燈は決戦場へと向かう
「水銀燈…」
シエスタはそのまま立ち尽くしその場から動くことができなかった
そしてこちらははっと我に返ったルイズ
「ああ!待ちなさい!もう!使い魔のくせに勝手なことを~!」
小さくなっていく水銀燈の後姿をルイズは文句を言いながらを追いかけた


学院内の『風』と『火』の塔の間にあるヴェストリの広場。大きく場所の開けた中庭はまさに決戦場としては最適だと言える
この短時間にどう聞きつけたか分からないがすでに広場では見物人が溢れかえっていた
「来たぞ!ルイズの使い魔だ!」
生徒達の一角から声が上がる
「――来たか」
腕組みした手に薔薇を模した杖を持ち静かに呟くギーシュ。一見冷静だが内心腸が煮えくりかえっていることだろう
その視線の先に――
漆黒の翼をはためかせ広場に入ってくる黒衣の少女
「――待たせたわね」
紫色の鋭い双眸でギーシュを睨みつける少女…水銀燈
広場の中央、険しい面持ちで対峙する両者。共に自分の信念とも言える物をを侮辱され、平和的解決などは有り得ない
「ちゃんと逃げずに来たようだね」
「貴方ごときに何故逃げる必要があるのかしら?」
ギーシュは水銀燈の挑発を聞き不機嫌にぴくりと眉を動かす。
「その減らず口がいつまでも叩けるか見ものだな」
そしてギーシュは杖を掲げ高らかに名乗りをあげた
「我が名はギーシュ!人呼んで『青銅』のギーシュ!我が前に立ちはだかりしルイズの使い魔よ、名乗られよ!」
そして頭上に掲げた薔薇を決闘相手に向けた
何処からともなく水銀燈の手に羽が集まり黒い薔薇を作り上げる
そして水銀燈も薔薇を横に振り名乗りを上げた
「私は誇り高きローゼンメイデンの長女。第1ドール、水銀燈…!」
「ローゼンメイデン…薔薇乙女とは言ったものだな。ならばどちらが薔薇の名に相応しいかこの決闘で決めようじゃないか!」
「誇り高き薔薇の名…貴方にはすぎたものだわ」
そして水銀燈は手にした薔薇を放り投げる。決闘開始の合図はその薔薇が地についた瞬間
誰が決めた訳でもない。だが二人にはすでにそう言う認識だった。
文字通り暗黙の了解と言うものなのだろう
両者は薔薇がゆっくりとスローモーションのように落ちるよう感じた。
そしてそれがが地についた瞬間…!
ギーシュは薔薇の杖を振り下ろし、水銀燈は背の翼を大きく広げる


――決戦の火蓋は切って落とされた


先手必勝と言わんばかりに水銀燈の翼から無数の羽が発射される
まるでダーツを思わせるように発射されたそれは真っ直ぐにギーシュへと向かっていった。
しかしそれはギーシュに当たること無く彼の前方に現れた『何か』に阻まれた
「これは…!」
ギーシュの前に現れ羽の鏃(やじり)を阻んだのは甲冑を纏った女性型の騎士
ギーシュの薔薇…薔薇の形をした杖から放たれた一枚の花びらが変わったものだ
「言っておくが僕はメイジだ。だから魔法で戦う。故に…君の相手は僕の生み出した青銅のゴーレム、『ワルキューレ』がお相手しよう!」
「ちいっ!」
舌打ちしなおも漆黒の鏃を放つ水銀燈
だがそのゴーレム、ワルキューレは気にもかけずこちらへ突進をかける

黒い嵐を平然と突破し右拳を突き出すワルキューレ
金属的に強度の低い青銅と言えど金属には違いない
当たれば並みの戦士でも卒倒しかねない一撃、
ましてや水銀燈は人間よりも非力な人形。当たればそれだけで致命的である
「くっ…」
それでも水銀燈は翼をたたみ紙一重で横に避ける
流石はアリスゲームを生き残るだけのことはあると言えるだろう
ローゼンメイデンとして姉妹で戦う宿命に生まれた彼女は戦闘経験も決して少なく無い
だがワルキューレはなめらかな動作で水銀燈の向き直ると追い込むように左右の拳を連続で拳を突き出す
そこまでの速さでは無い。冷静に見切れば避けきることも可能。だが…
「どうしたんだい?逃げているだけでは僕には勝てないぞ!」

その通りだ。どんなに攻撃を避けようともこちらから攻撃に転じなければ水銀燈の勝利は無い
しかし相手は青銅の塊。彼女の持つ攻撃手段による破壊は限られている。
攻撃に転ずるならら彼女最大の攻撃をぶつけるしかない
「ならば…!」
翼を広げ後方へと飛びワルキューレと距離を大きく離す水銀燈。これにはワルキューレの追撃は間に合わないらしい
素早さはこの戦いで水銀燈の数少ないアドバンテージと言えた

間髪入れずワルキューレが迫ってくるが水銀燈はそれすら無視し力を背中の片翼へと集中させる。
――イメージは…全てを噛み砕く黒竜のアギト

そしてワルキューレが彼女の間合いに入った瞬間一気に力を爆発させた!
その片翼が大きく逆立つと、拳を振り上げ殴りかからんとするワルキューレに食らいつく!
「なんだと…!」
突然水銀燈の背から現れた漆黒の竜にギーシュも目を見張る
黒竜のアギトと化した翼はワルキューレを噛み砕くことは出来なかったものの、それに食らいついたまま広場にある木に激しく叩きつけた
大木を揺るがし広場に大きく響く激突の轟音
さすがのワルキューレもその青銅の身体がひしゃげ、動かなくなると光の粒子となって消滅した


(やったわ…)
息切れをおこしながら水銀燈は内心で安堵した
消耗が激しく連発は出来ない上に、足を止め力を撃たねばならねリスクの高い彼女最大の武器
だがその一撃は見事青銅のワルキューレを撃退したのだ
周りの貴族も大騒ぎだ
「やりやがった!」
「やるもんだな!ギーシュのあれを破るとは!」
しかし当のギーシュは全く持って余裕の表情
「フッ…見事だよ。僕のワルキューレを破るとはね」
「…おとなしく降参なさい。そんな玩具じゃ私は倒せないわ」
強気の発言だが先程の攻撃による水銀燈の消耗は決して少なくない。苦しげに語る様がそれを証明している
「フ…馬鹿を言っちゃいけないな」
ギーシュはあくまで余裕の態度を崩さない
その自信に水銀燈に嫌な予感がよぎる…
「いやいや、すまなかった。考えてみれば麗しきレディとは言え我が決闘相手には違いない。手加減等するのは失礼だったな」
「手加減…なんですって?」
ギーシュが再度杖を振り、花びらが七枚地に落ちた
「言い忘れたが僕が錬金できるワルキューレは一体だけでは無いのだよ」
彼の言葉通り七枚の花びらが光を放ち人型のシルエットとなる
しかも…今度のワルキューレは各々の手に多数の武器を持っていた

これには流石の水銀燈も絶句するしかなかった
(厄介な事になってきたわね…!)
「本気で行かせてもらうとしよう。かかれッ!ワルキューレ!」
ギーシュは薔薇を水銀燈に向けワルキューレをけしかける
突撃用のランスを突き出し迫り来るワルキューレが二体。長剣を携え後に続くワルキューレが三体
そしてギーシュの前方に立ち塞がり長剣と大盾を構えたワルキューレが二体
先頭のワルキューレが加速を付けその槍先で水銀燈を貫こうとする
辛くも一体目の突撃を身をひねりそれを避けた。その横を勢いも殺さず駆け抜けるワルキューレに水銀燈も背筋が凍る
しかしすかさず二体目のランスが追撃をかける
「くっ!」
一体目を回避し態勢の崩れた水銀燈に迫り来る二本目の槍先。翼を大きく反対に振り重心を移動させ回避を試みる
先程まで自分がいた場所に槍が突き出され空を切った。こんな物を食らってしまえばひとたまりもない
どうにか槍は避けられたもののワルキューレの猛烈な突進が水銀燈をかすめた
だが…かすっただけなのに彼女の体に凄まじい衝撃が走る
「ぐうっ…」と呻き痛みに堪えるも肩を押さえ屈み込んでしまう水銀燈
だが敵は待ってくれない。この隙を逃さず頭上に剣を振り上げた三体目のワルキューレが切り込んだ。その剣が振り下ろされようとしている
水銀燈はとっさに羽を右手に集め自分の右手に剣を形成させる。ワルキューレの斬撃を受けとめるためだ
だがいかせん分が悪い。非力な人形たる彼女ではワルキューレの重い一撃は受けきれないだろう
彼女は状況判断を誤った。しかし今の彼女にできる抵抗はこれいしかなかったのも事実
(しまっ…!)
しまった!と言い終える前にワルキューレの剣が無情にも振り下ろされた

決闘を止めようと人混みをかき分けやっとのことで二人の決闘の見える位置まできたルイズ
だがその目に写るのは今まさにワルキューレの刃が水銀燈に振り下ろされると瞬間
ルイズは思わず目を覆ってしまった

ガキィィィィン!

金属同士のぶつかり合う音が響く
(え…?)
水銀燈は何が起こったのかわからなかった
…振り下ろされた剣はなんと自分の両手の細腕に握られた剣で止められていたのだ。自分自身も信じられなかった
それだけでは無い。
体の奥底から力がわいてくるような不思議な感覚
水銀燈の剣を持った右手には契約時に刻まれたルーンがまばゆく輝いていた


ワルキューレの重い剣を自らの剣で受け止めた水銀燈
彼女の細腕にはそれ程までの力は無い筈だ
変わったことと言えば左手に輝くルーン。とっさに剣を握った瞬間に光り出したものだ
どうにか一命はとりとめた
疑問は尽きないところだが今は目の前のワルキューレに集中する
鍔迫り合いの形となり、力は均衡し両者とも剣は動かない
水銀燈は急に力を抜きワルキューレの側面に回り込む。
突然の脱力により勢いを止められず前に崩れるワルキューレ
水銀燈はその勢いを剣に乗せ体を回転させつつ遠心力をのせた斬撃をワルキューレの右手に叩き込んだ
宙に舞う剣を持ったワルキューレの腕。すかさずそのまま脳天から叩き斬ろうとするが…
水銀燈の背後に感じる殺気、ルーンにより感覚も研ぎ澄まされているらしい。後ろも振り返らずに宙返りし、背後から襲いかかってきた四体目のワルキューレの頭を飛び越える
水銀燈を狙ったはずの横薙に薙払われた四体目の斬撃が右手を飛ばされた三体目のワルキューレに襲いかかった
青銅同士のかち合う耳障りな音とともに刃は三体目を切り裂きそれを消滅させた
その隙に四体目の頭上背後に回り込んだ水銀燈も天高く剣をかかげその脳天に振り下ろす

再び鳴り響く金属のかち合う音
しかし…水銀燈の渾身の一撃を食らったはずのワルキューレの頭は少し頭を切り裂かれただけ
「そんな…!」
水銀燈は驚愕の表情を浮かべる
ワルキューレの剣を受け止め、青銅の塊であるその腕を切り裂いた彼女の剣はそれで限界が来ていたのだ。ルーンの強化は武器にまでは及ばなかったらしい

宙を舞う金属の破片…水銀燈の持つ剣が…澄んだ音と共に砕け散った…
水銀燈の意識が折れた剣に奪われた時間は一秒にも満たない。が、ワルキューレが体勢を立て直すには十分だった
振り向き様に放たれるワルキューレの袈裟懸けの刃。意識をそちらに向けた時にはもう遅い
とっさに翼前面に展開し盾にするが…それでも大きく吹き飛ばされ地面に叩きつけられる水銀燈。それも頭から落下する危険な落ち方だ
「ぐうっっ!」
苦しそうに呻く水銀燈を目の当たりにし、ルイズが駆け出した
「もういいじゃない!メイジ相手にあんたは十分やったわ!だからもうやめて!」
「断るわ…!例えこの身が朽ちようとも…あの人間を許す訳に行かない…
この私を…そして『貴女』を『できそこない』なんて…言わせない…!」
「え…?」
「邪魔よ!どきなさい!」
水銀燈はフラフラと立ち上がり駆け寄ったルイズの手を振り切りギーシュへと向かっていく
たった一撃食らっただけ。それなのに彼女の受けたダメージは深刻だった
(あの娘が決闘を受けた理由…まさか私の為に…?)
水銀燈の背を見つめルイズは思う
そう問えば水銀燈は頑なに否定するに違いない。
だが決闘の半分の理由はまさしくそれだった。今の『貴女を』と言う言葉は無意識に漏れたものだ
水銀燈は…自分自身とルイズの誇りの為に戦っている
左手のルーンの輝きも失せ、体は満身創痍。それでも彼女は戦うことを止めない
水銀燈はワルキューレを無視しその操手たるギーシュ本人を狙うが…
その行く手を阻むランスと剣を持ったワルキューレが二体ずつ
「破れかぶれで僕自身を狙うつもりかい?無駄なことを!」
仮にこれを凌げてもギーシュの前には盾を構えたワルキューレが二体。勝つのはもはや絶望的だ
そして決闘開始時の水銀燈の素早さは見る影もない
ギーシュは四体のワルキューレで水銀燈を囲んだ
「最後のチャンスだ。もし君が今僕に謝罪すればこれで手打ちにしよう!続けるならそれ相応の覚悟をしてもらうがね!」
武器を構えジリジリとワルキューレが迫る
「謝罪ですって…?」
「そうさ!『私のせいで2人のレディの名誉を汚してしまい申し訳ありませんでした。薔薇の名は貴方にこそ相応しい!』そう言えば君を許そうじゃないか!」


断れば即座にワルキューレの武器が水銀燈を貫くことだろう
この上なく危機的状況。それでも彼女は退かない
「死んでも…嫌…!!」
苦しい表情に不敵な笑みを浮かべ言った
「ならば…望み通り死なせてやろう!やれ!ワルキューレ」
ギーシュの命により剣が、ランスが、一糸乱れずに振り下ろされる
「くっ!」
痛む体に鞭打って翼を羽ばたかせ上空へと逃れる水銀燈。四方を囲まれた今逃げ道は上方のみ
しかしそれはギーシュの思考の予測範囲
「なかなか頑張るじゃないか!だが甘い!」
ギーシュはワルキューレを下がらせると短くルーンを唱え、大地に向けた杖を振り上げた
次の瞬間、水銀燈が立っていた地面が隆起し槍の先のような岩がまるで高射砲のように放たれる
ワルキューレの猛攻を凌ぎ多少安堵していた水銀燈に襲いかかる対空放火
「く…ああっ!」
何発もの岩の穂先に突き上げられ再び墜落し地面に叩きつけられた
そしてベキッ!と言う何かが折れるよな嫌な音
彼女の象徴にして戦いの生命線たる黒い片翼があらぬ方向に曲がっていた…

勝敗はついたも同然と言える。しかしギーシュは決闘を止める気はないらしい
「降参しろと言っても無駄なのだろうね?すぐに楽にしてやろう!」

かろうじて水銀燈は意識を保っているがもはや体は死に体、それでも立ち上がろうとする
そこに割り込んでくる人影
ワルキューレから水銀燈を庇うように両手を広げ立ちふさがったのは鳶色の瞳を潤ませたルイズ
「何のつもりだい?ルイズ。神聖な決闘に割って入るとは!」
泣き出しそうなのを我慢してルイズは言った
「もう勝敗は決したわ。だからお願い、この子を、水銀燈を許して」
「断る。君の使い魔から受けた数々の無礼、許し難い。彼女から謝罪の言葉でもでれば別だがね」
ルイズは瞳を閉じ少し間をあけるとギーシュに悔しげに告げた
「わかったわ…この子が謝らないなら…つ、使い魔の主人たる私が…しゃ、謝罪するわよ…」
「ルイズッ!止めなさい!!」
水銀燈が声を荒げる
「あんたは黙ってなさい!水銀燈!」
ルイズも俯き声を荒げた。地面には彼女の涙がポタポタと落ちている
それでも水銀燈は言った
「いいえ!言わせてもらうわね!ルイズ、貴女がやろうとしていることは私、そして他ならぬ貴女自身を侮辱していることも同然!」
「で、でも!」
「貴女は認めるの…?自分が『できそこない』だと、自分が『ゼロ』だと!」
「そ、それは…」
(自分だってそんなこと認めたくない。だがここで止めなければ水銀燈が…)
「認めたくないのね?そう、それでいいのよ。仕方がない?そうしなきゃ私が助からない?そんな理由で頭を下げる必要など無いわ!
貴女は誇り高き私のミーディアム、自分自身の誇りを裏切る真似等許さないわ!」
本当は止めなきゃいけないのに…不本意でも謝らなければならないのに…
ルイズはそう思いつつも水銀燈の強い眼差しを受け何も言えなくなった
それを見ていたギーシュは苛立ちながら告げた
「下がりたまえルイズ!もはや君にできることなど何もないのだからな!」
ルイズの心に突き刺さる心無い言葉
しかし水銀燈はふと何かを思い出したように言った
「いや…あるわ…!ルイズ。貴女にできることが…」
「わ…私にできること…?」
「覚えてるかしら…?契約した夜に言ったことを。貴女のミーディアムとしての力、使わせてもらうわ!」


その瞬間、ルイズの右手にした薔薇の指輪が熱を帯び眩く輝き出し水銀燈の体から光が溢れる。
あまりの眩しさにギーシュが、見物人達が目を覆う
その光がおさまり中から現れた水銀燈は土にまみれていたドレスは埃一つなく折れた翼も修復され、傷や失った体力も完全に回復されていた
そして凛とした態度でギーシュ、ワルキューレを見据える
「――刮目なさい。ローゼンメイデンの…真の力を!」
完全に復活をなし遂げた水銀燈が高らかに告げた
「何度やっても無駄だ!」
ギーシュは剣を持ったワルキューレをけしかけた
水銀燈は修復された黒き翼を広げそこから再び無数の羽を飛ばす
「今更そんな物を!そんな物が僕のワルキューレに効くものか」
しかしギーシュは即その認識を改めることになる
脆弱な筈の彼女の羽、それがワルキューレをいとも簡単に射抜いた
「え?」
予想外の事態に唖然とするギーシュ
ワルキューレは漆黒の矢…否、漆黒の弾丸と化し羽による黒い嵐に蹂躙され為す術もなく破壊されていく
文字通り蜂の巣となった二体のワルキューレはガタッと膝をつき前のめりに倒れた
「くっ…!ひ、怯むな!かかれぇ!」
ギーシュは今度はランスを携えた二体を向かわせる
迎え撃つ水銀燈。彼女の右手に再び羽が集約し剣を形成。そしてルーンもまた輝き出す
一列に並んで突進してくるワルキューレ。しかしそれが加速に入る前に一瞬でその間合いに踏み込んだ
体が羽のように…いや風のように錯覚した。そして腰だめに構えた剣をすれ違い様に一閃!
突進を始めた筈のワルキューレがピタリと止る。剣を振り抜いた水銀燈はギーシュの方を見やりその剣を彼に突きつける
「闘いは…これからよ!」
水銀燈の背後でズッ…という音と共にワルキューレの上半身がずれて地面に落ちた


突然凄まじいまでの力を発揮しゴーレムを一瞬で蹂躙した水銀燈にギーシュはパニックをおこす
「うわあああ!行け!お前達も行くんだよ!!」
自分の守りに付けていた二体を外し、けしかける
盾を掲げ分厚い防御を維持したまま突進してくるワルキューレに水銀燈は一瞬で接近し一体を斬りつけた
堅固な盾を物ともせず肩から胴まで刃を切り込ませる
が、そこで刃が止まった。切り裂かれたワルキューレが水銀燈の手をがっちりと固定し体をはって動きを封じる
「かかったな!そっちはフェイクだ!本命は後ろさ!ワルキューレごと切り裂いてやる!」
パニックを起こしても考えてるところは考えてるらしい
その言葉通り押さえられた水銀燈の背後からワルキューレの片割れが襲いかかった
しかし、水銀燈は「フッ…」と笑みを浮かべ翼の片方を逆立てる
再び彼女の背に現れる翼の黒竜。だがそれは一瞬で形成され背後のワルキューレにそのアギトを開いた
ガチン!と言う音と共に顎が閉じワルキューレの上半身をかっ攫う
半身を食いちぎられたそれ下半身だけで力無く後ずさりし、バタリと倒れ動かなくなった
水銀燈は押さえつけていたワルキューレも力任せに真っ二つに切り捨てると服についた埃をパンパンと払った
「ばかな…僕のワルキューレが…ぜ、全滅!?」
ギーシュは目を大きく見開き恐怖にうち震える
「――貴方自慢の手駒は葬り去ったわ。…さあ、覚悟はよろしいかしら?」
水銀燈が冷たく言い放つ
ギーシュは震えながらも、も杖を手離さなかった。貴族としての意地か、恐怖で離せないだけか
ゴーレムの錬金は間に合わない。ワルキューレが錬成されている間にギーシュは一瞬で水銀燈に真っ二つにされるだろう。
自分だけの力でこの化け物と戦わなければならない…ダラダラと冷や汗を流しギーシュは思った。それでも――
「今更あとに退けるかぁぁぁぁぁ!」
絶叫しルーンを唱え大地を隆起させるとそこから岩石を水銀燈に打ち出した
岩石は水銀燈を射抜き…いや射抜いたと思った瞬間に彼女の体が霧散した
「残念、残像なの」
ギーシュの足元からする声。水銀燈は地面すれすれにギーシュに切り込み翼で足を払う
ギーシュは転倒しつつも杖を離さず水銀燈に杖を向け魔法を放とうとするが…
彼の闘志もそこまでだった。水銀燈は杖を斬り払うと返す刀をギーシュの喉元に突きつける
「チェックメイト…!」
ギーシュの見上げた先には冷たい笑みを浮かべ自分を見下ろす水銀燈の顔
「ま…参った!」
ギーシュは顔を青ざめさせそう言うことしかできなかった


ギーシュの敗北宣言を聞き周りから歓声があがる
しかし…水銀燈はギーシュの喉元から剣を動かさない。冷や汗をかきつつギーシュが不穏に思っていると水銀燈が口を開いた
「貴方…黒薔薇の花言葉をご存知かしら?」
突然の意味の分からぬ質問。何も言わないギーシュに構わず水銀燈は続ける
「黒薔薇の花言葉に決まったものは無いの…でも、私が知ってるのはこの二つね」
そしてその顔に狂気とも言える笑みを浮かべ言い放つ
「『あなたを一生許さない』・『彼の者に永遠の死を』」
「あ…あ…」
ギーシュの膝がガクガクと笑い腰が抜ける
(殺される…嫌だ…死にたくない!)そうは思っても体が動かない
自分の使い魔の勝利に安堵していたものの、水銀燈の物騒な物言いにルイズがすかさず待ったをかける
「水銀燈!駄目よ!殺しちゃ駄目!」
止めに入ったルイズのまだ涙に濡れた瞳を水銀燈は剣をギーシュから離さず見据える。そして一つため息をついた
「ふぅ…冗談よ。命まではとらないわ」
ギーシュからようやく安堵の吐息が漏れた
「ただし、決闘のけじめとして私の言うことを聞いてもらうわよ」
「あ、ああ…勿論だよ…」
ギーシュはどんな無理難題を言われるか分からないが殺されるよりマシだと結論づけて承諾した

「さっき言った『できそこない』と言うのを訂正なさい」
「…はい?」
ギーシュは彼女の言ってることがイマイチ理解出来なかった
「そ、そんな事でいいのかい…?」
「そんな事って何よ、私にとっては大きな問題よ」
ギロリとにらむ水銀燈に慌ててギーシュは要求をのんだ
「あ、ああ!申し訳ない!先程の『できそこない』と言う言葉は訂正させてもらうよ!君こそが気高い薔薇として相応しい!!」
「一言余計だけどまあいいわ…でももう一人忘れてないかしら?」
ルイズに目配せして言う水銀燈
「ル、ルイズ!少々気が立ってたんだ!思わず君を『できそこない』呼ばわりしてすまなかった!今後二度と『ゼロ』等とも呼ばないよ!」
「あ、いや、私は別にそんなには…」
少々ばつが悪そうにルイズは呟いた
だが水銀燈はこれで満足したらしい
「結構。あと、これはお節介だけど貴方を離れた二人にも謝罪するのね。貴方のせいであの二人の面目も丸つぶれよ」
「あ、ああ…冷静に考えれば僕の方が悪いね…」
今更だがギーシュは反省しだす
「自らの非を認めるのも紳士の勤めよ。薔薇を名乗るならもっと精進なさい」
水銀燈は踵を返す
「行きましょ、ルイズ」
そして広場を去っていった
「あ!水銀燈!待ちなさいよ!」
慌ててルイズは後を追った


「見たかね?ミスタ・コルベール」
「ええ…」
オスマン氏とコルベールで「遠見の鏡」により決闘の一部始終を見ていた
「よもや『ガンダールヴ』に関する報告を聞いた矢先にその力を見ることになろうとはな…」
「ええ…しかしもう一つ、あの後さらにあの人形から不思議な力が…」
「ふむ、あの使い魔、謎が多すぎるのう…あの人形何者なのじゃろうか?」
「『ディテクト・マジック』の反応ではUnknownとしか出ませんでしたが…」
「『誰とも知れぬ者』か…ますます分からんもんじゃな…ミスタ・コルベール。この一件はわしが全て預かる。無論王室にも他言は無用じゃ」
「こんな人形を耳にすれば王室はのどから手がでる程欲しがることでしょうな…かしこまりました」


部屋への帰り道にルイズは水銀燈に聞いた
「ねぇ…なんであんなにボロボロになるまで戦えるのよ?」
「決まってるじゃないの。誰だって心の内に一つくらい絶対に譲れないことがあるのよ」
「それがあの『できそこない』扱いされたこと?それって命までかけるようなことなの?」
「だから絶対に譲れないってことなのよ、命を賭けてでも自分の誇りは偽らない。それが私が薔薇乙女として生まれた定めよ」
ルイズは誇らしげに言う水銀燈に本当の貴族としてのあり方を見た気がした
「あんた言ったわよね…?私の誇りの為にも戦ってるって、あの戦いは私のためでもあったの?」
「!!そ、それは…」
水銀燈は口ごもった
あの時思わず漏れてしまった言葉
「それは、つ、ついでよ!私の誇りを守る為のほんの気まぐれよぉ!」
水銀燈は本当は本心で漏らしたことだがそうだとは言えなかった
「んな…!」
ついで扱いされてちょっと腹が立つルイズ
「貴方こそ、私の危機に泣きながら謝ろうとしたわよねぇ?何?そんなに私のことが気になったのかしらぁ?」
いつもの調子を取り戻し水銀燈が茶化す
「か…勘違いしないでよね!べ、別にあんたがどうなろうと知らないけど。世話係が居なくなるとふ、不便になるじゃないのよ!」
こちらも純粋に水銀燈の身を案じて謝罪しようとしたのに思わず憎まれ口を叩くルイズ
「何よそれぇ!私を使用人扱いにしかてないってことぉ?」
水銀燈もその物言いに不平を漏らす
「そ、そうに決まってるわよ!あんたなんか私にとってそんな認識なんだから!…で、でも今日の活躍に免じてご飯抜きは撤回してあげなくもないわ!」
「ふ…ふん結構よぉ!こっちだってあんな傲慢知己な貴族なんかに囲まれて食事するなんて御免よ!またあんな事に巻き込まれるかもしれないし!
でも…でも貴女がどうしてもと言うならついて行ってあげなくもないわぁ!」
…このツンデレどもが

ああだこうだ言い合いを繰り返す二人。息が続かなくなるまでその応酬が続いた。双方息をぜぇぜぇさせて言葉が続かなくなる

そしてルイズが突然真面目に告げた
「でも約束して…もう二度とこんな無茶な決闘は受けないって」
「何よ。唐突に」
「黒薔薇の花言葉、私も一つだけ知ってるわ…」
「…聞かせてもらおうかしら」
「それはね…『貴女はずっと私のもの…』…勝手にどっか行っちゃったりしたら許さないんだから…」
ルイズは恥ずかしそうに言った
水銀燈は並んで歩くルイズを追い越し、彼女に顔だけ振り向けて言った
「ま、善処してあげるわ」
その顔は裏表の無い純粋な微笑みを浮かべていた

今更だが…決闘中に初めて互いの名前を呼びあった二人の少女
これはほんの少しだが二人の距離が近づいた証なのかもしれない


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