宝物庫に集まった教師達を見て学院長のオールドオスマンは軽く頭痛に襲われていた。
学院の宝物庫が破壊され、あまつさえ秘宝「破壊の杖」が奪われるという非常事態において、彼らが何をしているかと言えば責任の追及である。
責任という意味においてはオールドオスマンも同じだが、このまま不毛な言い争いを続けるままにしておいても問題の解決にはまったくつながらない。
オールドオスマンがため息をついて、渇を入れるために杖で床を叩こうとしたとき、教師達の後ろのから言い争いとは別のざわめきが起こった。
「はいはい。ちょっとどいてくださいね」
教師達の間をかき分けかき分け、も一つかき分けて出てきた、おそらくは外国人であろう見たことのない女性は宝物庫の中を見ると、誰もが耳を押さえたくなるような大きな声で叫んだ。
「な、な、な、何ですか!!!これは!」
叫んだ後は、キっとオールドオスマンを睨みつけ、足音を立ててやってくる。
その妙な勢いに誰も止めることができない。
彼女はおもむろに、わけのわからない迫力に圧倒されているオールドオスマンの襟元を掴み、いきなり前後左右にこれでもかというほどぶん回した。
「現場保存もしないってどういう事ですか!?いえ、その前にちゃんと調査しましたよね?足跡は?指紋は?遺留品は?」
「あう?おお?や、やめ?うおおおう」
齢百を超えるオールドオスマンの体はそんな強烈なシェイクに耐えられるほど丈夫ではない。
オールドオスマンの目にはだんだんお花畑が見えてくる。
体から魂が完全に離れてしまう前に高い声が謎の女性を止めたのは、お花畑に片足がかかってしまいそうな時だった。
「ちょっと!ベル、止めなさいよ。学院長気絶しかけているじゃない!」
「でも、ルイズ。これは大変なことなんですよ」
「何をするかはわからないけど、その前に学院長の息の根を止めてしまったら大問題でしょうが」
どうにか解放されたオールドオスマンは杖に寄っかかって立とうとするが、ダンスでも踊るように足下がしっかりしない。
ふらふらふらふら、あっちにふらつき、こっちにふらつき、どうにも立てずに目の前にある何かに寄っかかってしまった。
「な・に・し・て・る・ん・で・す・か?」
足下と一緒にふらふらしていた意識がようやくはっきりすると、寄っかかっていたものが何かやっとわかる。
謎の女性の胸だった。
「お、おおお?こりゃすまん!!」
あわてるオールドオスマンは風の速さで飛び退く。
謎の女性の右手はすでに肩の高さまで上げられ、オールドオスマンの左頬めがけて突進するために、これ以上ないほどに力んでいたからだ。
肝を冷やすオールドオスマンの顔は冷や汗でびっしょりになった。
「で、じゃ。お前さんは一体誰じゃな?この学院では見ない顔だと思うんじゃが……はて?」
謎の女性の怒りをとりあえず逸らしたいがためではあるが、その至極もっともな質問に答えたのは、オールドオスマンが天に召されるのを防いだ女生徒だった。
「あ、それは私の使い魔のベール・ゼファーです。オールドオスマン、本当に失礼なことをしました」
頭をぺこぺこと何回も下げる桃色ブロンドの女生徒のことは、使い魔召喚の儀式以来、一段と有名になったルイズ・フランソワーズだとオールドオスマンもよく知っている。
人間の使い魔を呼び出したという話ではあるが、オールドオスマンはその人間の使い魔に会うのは今日が初めてだった。
「はて?」
一歩、ベール・ゼファーの前に進み出たコルベールがしきりに頭をかしげ、顔には疑問符を二桁くらい浮かべる。
「私が以前会ったときには、もっと年の若い……そう、ミス・ヴァリエールくらいの少女だったような気がするのですが」
ベール・ゼファーという女性はだいたい二十代くらいに見えるので、コルベールの話とは違う。
だが、その質問にオールドオスマンを深く深くため息をつく。
こいつは全然わかってない、と言うわけである。
「のう、ミスタ・コルベール。お前さんは、女性とあまりつきあった事が無いじゃろう」
「は、はあ……それは……」
「女性はな、化ける物じゃ。魔法など使わなくても、見た目の年齢くらいいくらでも化粧で変える事ができるのじゃよ」
「そんな物なのですか」
「うむ。ゲルマニアの魔法学校の学院長など、150才は超えておるのにこの前会ったときには100才にしか見えた無かったわい」
「なるほど」
学院の宝物庫が破壊され、あまつさえ秘宝「破壊の杖」が奪われるという非常事態において、彼らが何をしているかと言えば責任の追及である。
責任という意味においてはオールドオスマンも同じだが、このまま不毛な言い争いを続けるままにしておいても問題の解決にはまったくつながらない。
オールドオスマンがため息をついて、渇を入れるために杖で床を叩こうとしたとき、教師達の後ろのから言い争いとは別のざわめきが起こった。
「はいはい。ちょっとどいてくださいね」
教師達の間をかき分けかき分け、も一つかき分けて出てきた、おそらくは外国人であろう見たことのない女性は宝物庫の中を見ると、誰もが耳を押さえたくなるような大きな声で叫んだ。
「な、な、な、何ですか!!!これは!」
叫んだ後は、キっとオールドオスマンを睨みつけ、足音を立ててやってくる。
その妙な勢いに誰も止めることができない。
彼女はおもむろに、わけのわからない迫力に圧倒されているオールドオスマンの襟元を掴み、いきなり前後左右にこれでもかというほどぶん回した。
「現場保存もしないってどういう事ですか!?いえ、その前にちゃんと調査しましたよね?足跡は?指紋は?遺留品は?」
「あう?おお?や、やめ?うおおおう」
齢百を超えるオールドオスマンの体はそんな強烈なシェイクに耐えられるほど丈夫ではない。
オールドオスマンの目にはだんだんお花畑が見えてくる。
体から魂が完全に離れてしまう前に高い声が謎の女性を止めたのは、お花畑に片足がかかってしまいそうな時だった。
「ちょっと!ベル、止めなさいよ。学院長気絶しかけているじゃない!」
「でも、ルイズ。これは大変なことなんですよ」
「何をするかはわからないけど、その前に学院長の息の根を止めてしまったら大問題でしょうが」
どうにか解放されたオールドオスマンは杖に寄っかかって立とうとするが、ダンスでも踊るように足下がしっかりしない。
ふらふらふらふら、あっちにふらつき、こっちにふらつき、どうにも立てずに目の前にある何かに寄っかかってしまった。
「な・に・し・て・る・ん・で・す・か?」
足下と一緒にふらふらしていた意識がようやくはっきりすると、寄っかかっていたものが何かやっとわかる。
謎の女性の胸だった。
「お、おおお?こりゃすまん!!」
あわてるオールドオスマンは風の速さで飛び退く。
謎の女性の右手はすでに肩の高さまで上げられ、オールドオスマンの左頬めがけて突進するために、これ以上ないほどに力んでいたからだ。
肝を冷やすオールドオスマンの顔は冷や汗でびっしょりになった。
「で、じゃ。お前さんは一体誰じゃな?この学院では見ない顔だと思うんじゃが……はて?」
謎の女性の怒りをとりあえず逸らしたいがためではあるが、その至極もっともな質問に答えたのは、オールドオスマンが天に召されるのを防いだ女生徒だった。
「あ、それは私の使い魔のベール・ゼファーです。オールドオスマン、本当に失礼なことをしました」
頭をぺこぺこと何回も下げる桃色ブロンドの女生徒のことは、使い魔召喚の儀式以来、一段と有名になったルイズ・フランソワーズだとオールドオスマンもよく知っている。
人間の使い魔を呼び出したという話ではあるが、オールドオスマンはその人間の使い魔に会うのは今日が初めてだった。
「はて?」
一歩、ベール・ゼファーの前に進み出たコルベールがしきりに頭をかしげ、顔には疑問符を二桁くらい浮かべる。
「私が以前会ったときには、もっと年の若い……そう、ミス・ヴァリエールくらいの少女だったような気がするのですが」
ベール・ゼファーという女性はだいたい二十代くらいに見えるので、コルベールの話とは違う。
だが、その質問にオールドオスマンを深く深くため息をつく。
こいつは全然わかってない、と言うわけである。
「のう、ミスタ・コルベール。お前さんは、女性とあまりつきあった事が無いじゃろう」
「は、はあ……それは……」
「女性はな、化ける物じゃ。魔法など使わなくても、見た目の年齢くらいいくらでも化粧で変える事ができるのじゃよ」
「そんな物なのですか」
「うむ。ゲルマニアの魔法学校の学院長など、150才は超えておるのにこの前会ったときには100才にしか見えた無かったわい」
「なるほど」
ルイズはオールドオスマンの言葉を否定しようと首を左右に、それこそ首が飛んでしまいそうなくらいぶんぶん振った。
──違う、それ絶対違う。ベルのはそんなんじゃない。
だが、誰もそれに気づいてくれなかった。
──違う、それ絶対違う。ベルのはそんなんじゃない。
だが、誰もそれに気づいてくれなかった。
「でじゃ。ミス・ヴァリエール。君はここに何をしに来たのかね?生徒はここには近づかぬように言ってあるはずじゃが」
「そ、それは。私が昨晩、フーケがゴーレムでここを壊すところを見たからです。それに、ベルが犯人を捕まえると言って……」
「犯人を捕まえるとな?」
髭をしごきながら目を向けるオールドオスマンの前でベール・ゼファーはほっぺたをぷくーと膨らませてふくれっ面をしていた。
「じゃがのう、ここには何もなかったぞ。土くれのフーケは何も残さなかったんじゃ」
「そんな事ありません」
ベール・ゼファーは人差し指をちょっと立て、左右に振りながら得意げに話す。
「ここくらい埃が積もっていたら、必ず足跡があるはずです。そこからフーケの足のサイズがわかるでしょう、歩幅もわかれば身長だってわかります、歩き方がわかれば体つきだってわかります」
「ほほう」
一時落ち着いていたベール・ゼファーだが話しているうちにまた頭に血が上っていったようで、どんどん早口になって、どんどん声も大きくなっていく。
「あと重要なのは指紋ですね。それを見つけたら謎に包まれたフーケの正体に一歩近づけます。それなのに土足でべたべた歩き回って、素手でべたべた周りをさわって……台無しじゃないですか!!」
「のう、一つ聞きたいんじゃがいいかね」
「なんですか?」
地獄の底から響くような不機嫌極まりない声だ。
ルイズはベルの場合なら裏界の底からと言った方がいいのかしら、とか考えていた。
「指紋というのは、この指に着いている渦の事じゃろ?それがフーケの正体とどう関係するのかね?」
それを聞いたとたん、ベール・ゼファーの表情がさっと消える。
変にまぶたを見開き、立て付けの悪いドアみたいな動きで首を動かしてルイズを見たあと、再びオールドオスマンに向き直る。
「指紋って、人によって違っていて同じ物がないって事知ってますよね?」
「い、いや、知らんが……そうなのかね?」
ベール・ゼファーは一呼吸だけ置く。
その一呼吸が、一日と同じくらいに感じたのはオールドオスマンとルイズくらいだったかも知れない。
「指紋も知らずに知識人気取ってるんですかぁああ!」
「だ、だって知らんもんは知らんわい。たぶん、ハルケギニアでは誰も知らんよ」
「ミニスカートにメイド服があるのになんで指紋は知らないんですか!」
「スカートとメイド服と指紋に関連でもあるのかね」
「特にはないですけどっ!!!」
今度のベルは恐ろしい。
オールドオスマンの襟首を掴んだ上に宙づりにしてがくがく振り回す。
彼の命が尽きるまであとわずかしかなかった。
「そ、それは。私が昨晩、フーケがゴーレムでここを壊すところを見たからです。それに、ベルが犯人を捕まえると言って……」
「犯人を捕まえるとな?」
髭をしごきながら目を向けるオールドオスマンの前でベール・ゼファーはほっぺたをぷくーと膨らませてふくれっ面をしていた。
「じゃがのう、ここには何もなかったぞ。土くれのフーケは何も残さなかったんじゃ」
「そんな事ありません」
ベール・ゼファーは人差し指をちょっと立て、左右に振りながら得意げに話す。
「ここくらい埃が積もっていたら、必ず足跡があるはずです。そこからフーケの足のサイズがわかるでしょう、歩幅もわかれば身長だってわかります、歩き方がわかれば体つきだってわかります」
「ほほう」
一時落ち着いていたベール・ゼファーだが話しているうちにまた頭に血が上っていったようで、どんどん早口になって、どんどん声も大きくなっていく。
「あと重要なのは指紋ですね。それを見つけたら謎に包まれたフーケの正体に一歩近づけます。それなのに土足でべたべた歩き回って、素手でべたべた周りをさわって……台無しじゃないですか!!」
「のう、一つ聞きたいんじゃがいいかね」
「なんですか?」
地獄の底から響くような不機嫌極まりない声だ。
ルイズはベルの場合なら裏界の底からと言った方がいいのかしら、とか考えていた。
「指紋というのは、この指に着いている渦の事じゃろ?それがフーケの正体とどう関係するのかね?」
それを聞いたとたん、ベール・ゼファーの表情がさっと消える。
変にまぶたを見開き、立て付けの悪いドアみたいな動きで首を動かしてルイズを見たあと、再びオールドオスマンに向き直る。
「指紋って、人によって違っていて同じ物がないって事知ってますよね?」
「い、いや、知らんが……そうなのかね?」
ベール・ゼファーは一呼吸だけ置く。
その一呼吸が、一日と同じくらいに感じたのはオールドオスマンとルイズくらいだったかも知れない。
「指紋も知らずに知識人気取ってるんですかぁああ!」
「だ、だって知らんもんは知らんわい。たぶん、ハルケギニアでは誰も知らんよ」
「ミニスカートにメイド服があるのになんで指紋は知らないんですか!」
「スカートとメイド服と指紋に関連でもあるのかね」
「特にはないですけどっ!!!」
今度のベルは恐ろしい。
オールドオスマンの襟首を掴んだ上に宙づりにしてがくがく振り回す。
彼の命が尽きるまであとわずかしかなかった。
ルイズは額に指を当てて考え込んでいた。
さっきのベルの台詞をもう一度考え直していたのだ。
わけのわからない部分はいくつもあったが、とりあえずベルの状況がわかってきた。
「で、ベル。それってつまり、フーケを捕まえられなくなったって事?」
ぴたり。
宙づりにされたオールドオスマンが空中で制止する。
どさり。
オールドオスマンが地面に落ちる。ベルが手を離したのだ。
「そ、そ、そんなことありませんよ。無いんですから」
「足跡とか、指紋とかってのは使えないんでしょ?だったらダメじゃない」
「そんなこと無いですって」
「まったく……ゲームだとか、楽しむだとか言ってて……当てにならないんだから」
「そんなことありません!待っててください、すぐに犯人くらい誰だかわかりますから」
ベルはどこからともなく、召喚した次の日に使っていた小箱を出して開く。
ほんとにこの小箱はどこから出てくるのかわからない。
その小箱がどうやって作られた物なのかは全くわからないが、遠くにいる誰かと話す物であることはルイズにも何となくわかっていた。
さっきのベルの台詞をもう一度考え直していたのだ。
わけのわからない部分はいくつもあったが、とりあえずベルの状況がわかってきた。
「で、ベル。それってつまり、フーケを捕まえられなくなったって事?」
ぴたり。
宙づりにされたオールドオスマンが空中で制止する。
どさり。
オールドオスマンが地面に落ちる。ベルが手を離したのだ。
「そ、そ、そんなことありませんよ。無いんですから」
「足跡とか、指紋とかってのは使えないんでしょ?だったらダメじゃない」
「そんなこと無いですって」
「まったく……ゲームだとか、楽しむだとか言ってて……当てにならないんだから」
「そんなことありません!待っててください、すぐに犯人くらい誰だかわかりますから」
ベルはどこからともなく、召喚した次の日に使っていた小箱を出して開く。
ほんとにこの小箱はどこから出てくるのかわからない。
その小箱がどうやって作られた物なのかは全くわからないが、遠くにいる誰かと話す物であることはルイズにも何となくわかっていた。
「あ、リオン?私……」
「リオン・グンダです。ただいま飯田線途中下車ぶらり旅に出かけています。ご用の方は私の歌う鉄道唱歌が終わったあとのピーという発信音のあとにメッセージを入れてください。では(イントロ)」
「聞いてらんないわよっ」
「リオン・グンダです。ただいま飯田線途中下車ぶらり旅に出かけています。ご用の方は私の歌う鉄道唱歌が終わったあとのピーという発信音のあとにメッセージを入れてください。では(イントロ)」
「聞いてらんないわよっ」
ベルは突如叫び声を上げ、小箱を床にものすごい勢いで叩きつける。
──そういえば、なんでベルの靴下肌色なんだろ
なんかもう、わけのわからない疑問もわいてくるがとりあえずルイズはそれを横に置いておく。
「どーしたのよ一体」
「あの女……話をするのは歌を聴いたあとにしろって事、言ったのよ」
よほど頭に来ているのか、ベルはいつもの口調に戻っている
「聞いてあげればいいじゃない。そのくらい」
「334番もある歌、全部聞いてられるわけ無いわよ!」
それにはルイズも納得である。
納得はしたが、状況が好転していないのも確かだ。
「で、ベル。何をしようとしていたかはわからないけど、その方法もダメだったのね」
「う……」
ベルの方が背は高いがルイズは見下ろしているような気分になった。
おまけに何か優越感まで感じる。
いつものこともあって、この優越感は、もう震えるほどに楽しい。
「やっぱり、大ボラ吹きの口だけだったわけだ。ベルは」
「う……」
ベルは意味不明に手をばたばたさせ、視線を左右にしてをルイズと目を会わせようとしない。
明らかにうろたえている。
それを見ていると、わけのわからない感情がわいてくる。
いずれにしてもこれは。
──すごく楽しい
あのベルを追い詰めているのだ。
もう何が何だかわからないくらいに楽しい。
そして、ルイズはベルをさらにたたき落としてやろうと次の言葉を用意した。
「あの……何があったんですか?」
だが、その言葉はたった今やってきたミス・ロングビルに遮られ、口から出ることはなかった。
──そういえば、なんでベルの靴下肌色なんだろ
なんかもう、わけのわからない疑問もわいてくるがとりあえずルイズはそれを横に置いておく。
「どーしたのよ一体」
「あの女……話をするのは歌を聴いたあとにしろって事、言ったのよ」
よほど頭に来ているのか、ベルはいつもの口調に戻っている
「聞いてあげればいいじゃない。そのくらい」
「334番もある歌、全部聞いてられるわけ無いわよ!」
それにはルイズも納得である。
納得はしたが、状況が好転していないのも確かだ。
「で、ベル。何をしようとしていたかはわからないけど、その方法もダメだったのね」
「う……」
ベルの方が背は高いがルイズは見下ろしているような気分になった。
おまけに何か優越感まで感じる。
いつものこともあって、この優越感は、もう震えるほどに楽しい。
「やっぱり、大ボラ吹きの口だけだったわけだ。ベルは」
「う……」
ベルは意味不明に手をばたばたさせ、視線を左右にしてをルイズと目を会わせようとしない。
明らかにうろたえている。
それを見ていると、わけのわからない感情がわいてくる。
いずれにしてもこれは。
──すごく楽しい
あのベルを追い詰めているのだ。
もう何が何だかわからないくらいに楽しい。
そして、ルイズはベルをさらにたたき落としてやろうと次の言葉を用意した。
「あの……何があったんですか?」
だが、その言葉はたった今やってきたミス・ロングビルに遮られ、口から出ることはなかった。