あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

神の左手は黄金の腕-03


それは刹那の間の出来事だった。
放たれた弾丸の如き瞬発力で互いの距離を零まで縮め、
その勢いを殺す事なく少女を抱きかかえたままスライディングでゴーレムの股下を潜り抜ける。
己が作り出した土巨人より離れた建物の影で、その一部始終を目撃したフーケは戦慄を覚えた。
彼、ゴールドアームの能力は熟知している筈だった。
しかし、生徒達との野球で見せていた動作と今の動きでは比較にならない。
もし自分の正体がバレれば戦いにさえならない。
杖を振り下ろす間に組み伏されて終焉を迎えるだろう。

その前に決着をつけようとゴーレムが敵へと振り返る。
巨体に似合わぬ俊敏な動きで振り下ろされる拳。
だが、彼はそれを鋼鉄の体とは思えぬ敏捷性で避ける。
続く脚での一撃も小回りを利かせ、死角へと身体を滑り込ませる。
絶え間ないゴーレムの一方的な攻撃を、時には巧みなフェイントも織り交ぜて回避し続ける。
この攻防の中、ゴールドアームは完全に巨人を翻弄していた。

「どうした!? 一発ぐらい当ててみやがれ、図体ばかりのウスノロ野郎がッ!」

一見して戦いの主導権を握っているのはゴールドアームに思われた。
だが真実、窮地に瀕していたのは彼の方だった。
サスペンションを失ったかのように大地を蹴る度に軋む駆動系。
身を翻す瞬間、装甲板の重量に耐え切れなくなったボディが捻じ切れるような痛みを発する。
地面を揺るがす拳の衝撃に、モニターにはノイズが走り続ける。
恐らく全力を引き出せば、整備不良の体は付いて行けずに崩壊する。
加えて、一撃でもゴーレムの拳を受ければ容易く粉砕されるだろう。

しかし、彼も無策で薄氷の上を歩むような戦闘を繰り広げているのではない。
塔の一部が崩落し、大地を揺るがせて巨大なゴーレムが暴れ回っているのだ。
ゴールドアームがルイズの失敗魔法の爆発を聞き付けた様に、
間もなく教師や生徒達が駆けつけて来る筈だという期待じみた考えがあった。

「ゴールドアーム!? これは一体…?」

その思いが通じたのか、声のした方へと振り返ればそこには駆けつけたギーシュ達の姿。
即座に状況を理解したキュルケとタバサがゴーレムへと攻撃を仕掛ける。
だが、彼女達が放つ炎の球も氷の矢も破壊するには至らず、
土塊の巨人をその場に足止めさせるのが精一杯だった。
焼き直しのように繰り返される単調な攻撃。
しかし、それこそフーケの油断を誘うタバサの罠だった。
キュルケの放った火球に向けて放たれるウィンディ・アイシクル。
氷の塊が瞬時にして蒸発しフーケの視界を覆う。

「今だ!」

ようやく生まれた隙に、ゴールドアームがルイズ達をゴーレムより引き離す。
それに合わせる様にキュルケ達も一時的に退いた。
この場にいる全員が感じているのだ、アレを倒すには一筋縄ではいかないと。

「『土くれ』のフーケ?」
「ああ。やり口は違うけど学院の宝物庫を狙うような大胆さと、
 それを実行できる実力を兼ね揃えた土のメイジなんてそうはいないさ」

ルイズの問い返す声にギーシュが答える。
円陣を組むように彼等は今後の対策を練っていた。
教師が来るまで時間を稼ぐというギーシュの案はあっさりと却下された。
フーケが相手では教師陣でさえ太刀打ちできるとは思えない。
といっても他に打開策も出て来ず、行き詰った彼等に静寂が訪れる。

「……考えがある」

そんな中で、突然出て来たタバサの発言に皆が驚きを示す。
だが、その時の驚愕など彼女の作戦を聞かされた時に比べれば微々たる物。
誰もが顔を顰め、親友であるキュルケでさえ腕を組んで頭を悩ませる。
馬鹿げた作戦だけど成功すればフーケを倒せるかもしれない。
でも、その為にはフーケを学院の外へ誘導しなくてはならない。
その方法が見当たらない彼女達に、ゴールドアームが口元に笑いを浮かべて提案した。

「ならアメフトってのはどうだ?」
「アメフト?」
「ああ。パントキックをキャッチしてQBがロングパスを決めてタッチダウン!
 上手く決まりゃあ逆転勝利だぜ……!」

パンと拳を手の平に叩きつけてゴールドアームは告げた。
この状況で何を言っているのか分からず、
彼女達はキョトンとしたまま彼の言葉に耳を傾ける。 
そうして彼の口から無表情なタバサさえもビックリさせる作戦が明かされた。
だけど、その作戦に反対する者は不思議な事に一人としていなかった。


「チィ……!」

視界を覆う一面の蒸気に、苛立たしげにフーケが舌打ちする。
宝物庫の壁に入った亀裂を千載一遇の好機と飛びついたのが徒となった。
不測の事態の連続に見舞われた彼女は困惑を隠し切れない。
だが、彼女も名の知れた盗賊。
一息呼吸を整えると冷静に状況の分析を開始した。
そして、この事態を逆に利用する考えに彼女は至った。
向こうの姿が窺えないという事は、こちらの動きも同様に分からない筈だ。
ならば、これに乗じて宝物庫に潜入し目的の『破壊の杖』を奪取するのが得策だろう。
その後は『破壊の杖』を何処かに隠して何食わぬ顔で姿を見せれば済む話だ。

そう決めた瞬間から彼女は行動に移した。
颯爽とゴーレムの足元に駆け寄ると足場を作り出して、肩の上へと駆け上る。
突き出した腕を伝い、宝物庫に飛び込むと目当ての品を抱えて飛び出す。
そこまで彼女の思惑通りだった。
そして、それはゴールドアーム達の思惑通りでもあった。

人間の視覚を遥かに上回るカメラアイに映る宝物庫より出てくる人影。
それを捉えた瞬間、ゴールドアームが天高く舞う!
更に己が身体を引き裂かんばかりに高速回転させて技の名を叫ぶ!

「竜巻フォォォメェェションッッ!!」

その刹那。吹き荒れる暴風が全て巻き上げ呑み込んでいく。
蒸気の幕も土埃も外壁の残骸も、そしてフーケの手にあった『破壊の杖』さえも例外ではない。
ゴールドアームに吸い寄せられるように飛来してくる『破壊の杖』。
それを極限まで引き付けてゴールドアームは力強く蹴り飛ばした。

「ギィィィシュ!!」
「ああ! 後はこの『青銅』のギーシュに任せたまえ!」

ゴールドアームの呼び掛けに応じながら彼は造花の杖を振るう。
瞬時に生み出されたゴーレム『ワルキューレ』が彼のパスを全身で受け止める。
激突の瞬間に響く鈍い衝撃音。それを耳にした瞬間、彼の脳裏にある恐ろしい想像が浮かぶ。
“もし万が一、受け止め切れなかったらどうなっていたんだろうか…?”
顔を蒼褪めさせながら、それでも彼はワルキューレを引き連れて学院の外へと直走る。
獲物を横から掻っ攫われて、激怒しながら追いかけてくるゴーレム。

ここまでは計画通りだった。
しかし予想外だったのは『破壊の杖』の重量だ。
それは彼が知るどの杖とも比べ物にならない重さをしていた。
速度が落ちた『ワルキューレ』へと迫るゴーレムの足。
抵抗する間もなく胡桃を割るように青銅の戦乙女は押し潰された。

「ふぅ……手間取らせるんじゃないよ」

無論、『破壊の杖』までは壊していない。
やっと片付いて一息つくフーケを余所に、ギーシュは足を止める事なく走り続ける。
不意に視線を向ければ、そこには破壊した筈の『ワルキューレ』が『破壊の杖』を抱えていた。
まさか破壊されたゴーレムを一瞬で修復したというのか。
手足のような末端ならまだしも完全に破壊されたゴーレムを直すなど不可能。
ただの生徒ではなかったのかと再びゴーレムに追撃させる。
しかし、そのトリックは一瞬にして判明した。
踏み砕かれる直前に他のワルキューレへとパスされる『破壊の杖』。
まるでパスリレーの様に『破壊の杖』がワルキューレ間を回されていく。

最初は余裕があったギーシュも一体、また一体と破壊されていくにつれ、
どんどん表情は引き攣り顔色が悪化していく。
残り二体となった瞬間、既に彼は完全に泣きが入っていた。

「ギーシュ、パス!」

直後に聞こえたキュルケの声が天上の音楽の如くギーシュの耳に響く。
言われるまでも無くキュルケに投げつけられた『破壊の杖』。
それをレビテーションで受け止めて彼女は走り出した。
しかし瞬く間にゴーレムは彼女の影を踏むまでに迫る。
ストロークの距離が違いすぎる。
足の長さには自信があっても巨人とは比べるべくも無い。
ズルは嫌いだけど、そもそもハンデはあって然るべき相手だ。

「フレイム!!」
「きゅるきゅる!」

自分の使い魔の名を呼ぶと彼女はそれに跨った。
虎にも匹敵する巨体を持つサラマンダーの脚力は人の比ではない。
あっという間にゴーレムを引き離せると思ったのも束の間。
詰められこそしないものの、互いの距離は広がらない。

「どうしたのよフレイム!?」
「きゅるきゅる…」
「え? 重たくてこれ以上は無理?」

キュルケの問い返しにフレイムがこくこくと頷く。
彼は主人の質問に明確に答えただけだった。
だが、それは年頃の娘には言ってはならない禁句だった。
がしりと掴まれたフレイムの頭が万力のように締められる。

「……ねえ、フレイム。重たいのは『破壊の杖』? それとも――」
「きゅる!? きゅるきゅる!!」
「そうよね。何が入っているのか知らないけど重いものね、この箱」

ぱっとフレイムの頭から離されるキュルケの手。
彼女が『この箱』という部分を殊更強調したのは言うまでも無い。
主人の感情の変化を敏に察し、フレイムは九死に一生を得た。
だが、まだ背後には別の脅威が残されたままだ。

「パスだッ!!」

その巨人の背後から雄雄しい叫びが響く。
見れば、そこには自分達に追随して来るゴールドアームの姿。
それを確認した直後、レビテーションで浮かせていた『破壊の杖』を尻尾で弾き飛ばす。
真っ直ぐにゴールドアームへと飛んでいく『破壊の杖』を巨大な掌が遮る。
瞬間、『破壊の杖』を追い抜いた火球が巨人の手に穴を穿つ。
生み出された空洞を抜けるように、『破壊の杖』はゴールドアームの腕の中へと収まる。
杖を振り下ろしながら、その光景を見上げてキュルケは微笑を浮かべた。

「やっぱり使えるじゃない、この新魔球」

ゴールドアームの足が止まる。
更には『破壊の杖』を片手で高々と掲げてフーケを挑発する。
キュルケ達を追っていたゴーレムも反転し、今度はゴールドアームに襲い掛かった。
誘いだというのは気付いていたが、それでも『破壊の杖』を見過ごす訳にはいかない。
しかし彼女には勝機があった。
ここからパスをするつもりだろうが既にキュルケ達は相当な距離を離れている。
如何なる魔法を用いてもゴーレムを追い越して彼女達に『破壊の杖』を届ける方法はない。
大地を揺るがせながら迫る巨人を前に、ゴールドアームは不敵に笑った。

掲げた腕を引き絞るようにしながら、脚は天を貫くかのごとく上げられる。
モーターや駆動部が悲鳴にも似た唸りを上げる中、尚も彼は力を蓄える。
間際にまで迫った巨人の手を見据えながら、彼は己が腕を振り抜いた。

「いくぞォォォ!! ロングパスだァァ!!」

ゴールドアームの全力の投擲。
放たれた剛速球はフーケに反応する間さえ与えず、彼女の背後へと飛び去っていく。
目前で起きた異常事態に唖然としつつも、咄嗟に踵を返したゴーレムがその軌跡を追う。
敵の後姿を笑みを湛えたままゴールドアームは見送る。
その彼の肩から激痛と共に放電が迸る。
燻る様に上がる白煙に、彼は自分の選手生命の終焉を確信した。


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