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とある魔術の使い魔と主-57


「ふわぁ……、こんな朝早くから王宮にいかなきゃいけないなんて、従姉姫もしょうがないのね!」
 そう言葉を並べて、ぷんぷんという擬音が合うように不満を、体全体で表現しているのはシルフィードであった。
 時刻は早朝。まだ空が薄暗く、ほとんどの動植物が活動を休止している。そんな中、タバサの使い魔であるシルフィードは主を目的地へと運ぶため、空を飛んでいた。
 地平線から昇る太陽は、とても綺麗な光景であるのだが、その程度でシルフィードの機嫌が治るはずはない。
 むしろ、あの従姉姫がタバサを嘲笑う姿が思い出され、さらに苛立ちを募らせる。
「任務だから仕方ない」
 返答をしたのはもちろん主ことタバサ。彼女はいつも通り、心地よい風に髪を靡かせ、本を読んでいる。
 彼女はトリステイン魔法学院生徒、ガリア王族の人、そしてもう一つ別の顔を持っている。
 北花壇警護騎士団、それが第三の肩書である。
 ガリアには四つの花壇警護団という軍隊が存在するのだが、タバサが所属する北花壇警護団は少し勝手が違う。
 すなわち、仕事の中身が基本汚れ仕事なのだ。
 国内外で起こっている裏の仕事を引き受け、解決していく集団。タバサはそこの団員であった。
 向かう先は団長のいる宮殿、プチ・トロワと呼ばれている所だ。
「仕方ないのはわかっているなのね。でもわかっていてもやり切れないことはあるの!」
 体長が六メイルもある竜が、かわいらしく、女の子っぽい人間の言葉を喋るのは少し不気味だ。
 が、全ての竜がこうであるわけではない。実際に、ここハルケギニアの地でも、動物が人間の言語を話すのは当然ありえないことだとされている。
 竜の中でも、既に絶滅していると呼ばれる「風韻竜」がこれに該当するのだ。
 知能が高い、という事項は人間の言葉を喋っている時点でおそらく納得がいくだろう。
 それに加え、エルフと同等の強力な先住魔法を使える。
 もっとも、シルフィードはまだ人間の年齢に換算すると十歳足らず(それでも既に二百年は生きている)。そのため、先住魔法も、変身魔法ぐらいしか使えないのだ。
「そう、仕方ない」
 タバサは再び短く返答し、本のページをめくる。その顔は以前と同じく、無表情に近いのだが、どことなく雰囲気が変わっているとシルフィードは感じられた。
 今回は珍しく自分と会話をしてくれる。これはチャンスなのね、とシルフィードは無駄にテンションが上がっていく。
「そいえば昨日の夜あの少年と何か――」
「別に、何も」
 おかしい。今の会話のやりとりに驚きを感じたシルフィードは目を丸くして、思わずタバサの方を向いた。
 自分の使い魔から驚きの感情で見られているのだ。直ぐさまその視線に気付き、疑問の言葉を投げかける。
「なに?」
「べ、べつになんでもないのね」
 シルフィードは再び目線を前に向けるのだが、その心は動揺している。
 今まで自分が喋っている最中に割り込んできた経験はない。つまりは、昨日の夜『本当に』あの少年と何かあったようだ。いや、そうに違いないと確信を持てた。
 ならば、と。話題をあの少年にするべきではないか。
 シルフィードはややわざとらしく、しかし出来るだけ自然な形で少年の話題に入ろうと、
「それにしてもあの子、なんとかトウマでしたっけ?」
「カミジョウ」
「そうそう、カミジョウトウマ。変な名前だけどお姉様はどう思うのね?」
「悪くない」
「シルフィはカッコイイ思うね! あの『幻想をぶち殺す!」っていう言葉には惚れたのね!」
「そう……」
「それにしても、あのタルブ村での戦い、なんであんなに力が沸いたのね? あの子の特別な力なのかな?」
「聞いてないからわからない」
 順調だ。シルフィードは心の中で成功を覚えた。
 ここまで会話が続くというのはかなり珍しい。やはりあの少年がタバサに何らかの影響を与えているのだろう。
 でも同時になんだか寂しい。
 自分がタバサをなんとかしようと思っていたのに先に奪われた。
 喜ぶべきだとは思うが、素直に喜べないとはこの事をいうのだろう。しかし、その思いを主に見せてはならない。
「きゅいきゅい。お姉様もあの人をトウマと呼ぶといいのね!」
 ぴたりと、ページをめくっていたタバサの指が止まる。まるで予想外の提案に動揺しているかのように。
「……なんで?」
「このままあの少年と恋をするのね! 絶対うまくいくとシルフィ保証するのね」
「それは、やらない」
「えー、なんでなのね?」
 落胆し、疑問を投げかけるシルフィード。せっかくうまくいくと思えたのに、どうやら失敗なのであろうか。
「……、」
 タバサは本から目を離し、空を仰ぐ。太陽の眩しい光りによってだんだん青くなっているのが目に見えてわかる。

『だって俺たち友達だろ? 困っていたら助ける、当然の事じゃねーか』

 二度と忘れることのない言葉、そして光景。自分にとても大切な物を気付かされた少年の顔を思い出す。
 いつか彼みたいな顔になる事はできるだろうか。
 そんな、淡い期待を抱いてタバサは答える。
「彼とは友達だから」
 小さく理由を外に出したその顔は、太陽の眩しさによって助長された、

 笑顔であった。


「うーん……、退屈ね~」
 一方こちらはプチ・トロワ、すなわちタバサの目的地である。
 そこの一室に、一人の少女が眠たい体を覚ますように延ばす。
 ガリア国王ジョゼフの娘、イザベラだ。
 彼女は姫であると同時、北花壇警護団の団長という肩書を持っている。
 が、だからといって有能なメイジではない。それは所詮名前だけの物。実際の実力で見るならば、タバサの方が数段上だ。
「ていうか遅いわね。まさか寝てて気付いてない、とかだったら許さないよ」
 タバサを呼び出したのは、このイザベラである。彼女が言った言葉通り、団長といっても特にやる事はない。
 基本この宮殿に一日中構えているだけの生活、退屈と感じても仕方ない。
 その中で、彼女が見つけた暇つぶしといえば、魔法が使えない召使いたちを虐めてやることか、あるいはその矛先を彼女の従妹であるタバサに変えることぐらいだ。
 もっとも、タバサに関しては虐めてる感触が全くないのだが……。
 さて、そのタバサを呼んだのだが少し遅い。実際まだ夜が明けていない時間に使いの梟で呼んだため、普通に考えて遅くなるのは当然だ。
 しかし、そんなことなどお構いなしにイザベラは苛立ちをあらわにしていく。
 普段の顔、というのは残念なことに貴族とは呼べない顔。あるときは獰猛に笑い、またあるときはこのように眉を寄せて苛立っている。
 本来なら美人とも言える顔立ちをしているのだが、それが性格によって台無しだ。
 もちろん本人はその事実には知らないし、後が怖いからといって誰も触れようとしない。
「お、おそらくもう少しで到着かと……」
 イザベラの問いに、隣で召使の女性が答える。が、その声色は僅かばかし震えている。
 それもそのはず。イザベラの召使に選ばれた者は、毎日毎日怯える日々を暮らさなければならないのだ。
 タバサがいるときはそちらへ対象が移るのだが、いないときは優先順位の繰り上げによってこちらが被害に遭うのだ。
 そのタバサが未だに来ないとなると、いつ自分に迫ってくるかわからない。
 恐怖に怯えながらも必死に言葉を紡ぐ召使に、イザベラは興味をもったのか、
「ふーん……、じゃあ賭けごとでもしようか?」
 始まってしまった。今回はどうやら何か賭けなければいけないらしい。
 が、普段とは違って少し内容が穏やかだ。召使は怪訝な表情を浮かべて、
「……か、賭けごとですか?」
 と恐る恐る再確認を求める。
 すると、イザベラはニタリと不適を通り越して不気味な笑みを浮かべた。
 召使が恐怖に怯え、一歩ばかし後ずさる。
「なぁに、そんなに怯えなくていいわよ。ただあのガーゴイルが……そうね。後十分でくるか否かで賭けましょ」
 逃げることができるなら今すぐ逃げたい。そう召使が思うほど彼女の周りは恐怖で纏まっている。
 しかし、それを実行した日にはおそらく自分は処刑されるだろう。恐怖と死、どちらも選びたくはない二択ではあるが、召使は恐怖を選んだ。
 何か喋らなければと、召使は震える口を必死に動かす。
「し、しかし……わ、わたしには賭けるものが……」
 アァン? とイザベラはぎろりと睨みつける。召使は、自分の心臓がイザベラによってにぎりしめられた感触を覚え、ひっと小さな悲鳴をあげる。
「あるじゃないの、こ、こ、が」
 そう言い、イザベラは自分の手に持っている杖を召使の胸辺りを指す。ここまでのヒントを出され、イザベラの言いたい事がわからない人間などいない。
 命を賭けろ、それがイザベラの思惑であった。
 最初はあまりの恐怖に理解出来なかった召使だが、時間が経つにつれて落ち着いた脳が理解しようとする。
 そのまま恐怖でわけがわからない状態を維持していた方がまだよかったと思われる。
 理解をしたと同時、恐怖のあまり気絶してしまった。ただの召使が、いきなり自分の命を賭けろと言われ、平然としてられる方がよっぽどおかしいが。
「アッハッハッ。命なんてとるわけないだろ? 殺してしまったら遊び相手がいなくなるからねぇ」
 ドサッと、床に倒れ込み気絶した召使を見下して、高々に笑う。静まっていた空間が、イザベラの笑い声によって包み込まれる。
 と、そこへ一人の兵士がやってきて、彼女にだけしか聞こえないように小さく耳打ちをする。
 内容を聞き取ったイザベラは、不満をあらわにするかのように舌打ちし、再び気絶している召使に目を向ける。
「どうやら続けていたらあんたの勝ちのようだったね。ま、賭ける物を出す前だったから意味ないけどね!」
 が、返事はない。イザベラはこのまま気絶している人間を放置するのもどうかと思い、別の召使たちによって運ばされた。
 同時、タバサが入れ違いに宮殿へと入ってくる。そして、いつもと変わらずイザベラの目の前で直立の姿勢のまま、立ち尽くす。
「ふん、なんでいつもより遅くなったんだ?」
「朝早かったから、準備に手間取っただけ」
 おや、とイザベラは思う。いつもと変わらない態度をタバサは取っているが、その瞳の奥に秘められている感覚が僅かばかし違う。
 従姉妹であるからなのか、感じた理由は定かではないがとにかく、
「あんた、なにかあったのかい?」
 疑問を投げかけるが、やはりというべきか返事はない。確かにいつもとは違った感情なのだが、それは変わらずイザベラを襲ってくる。
 そして、無言の圧力は当然のようにイザベラを怯えさせる。
 そこで虚勢を張り、強気に出ることができるのはおそらくイザベラぐらいであろう。
「ふ、ふん……。これが任務の内容よ。さっさと行って片付けなさい」
 タバサはぶっきらぼうに投げられた書簡を拾いあげ、さっさと去るように一礼して、この場から離れた。


「あー、タバサはどこ行ったかわかりますかね?」
「お嬢さまはおそらく宮殿かと」
 当麻は一人、タバサから何も言われずに取り残されてしまった。
 そんなことも知らず、この巨大な敷地内を捜しに捜し、ようやく見つけたペルスラン(名前は昨日の夜に知った)に尋ねると、タバサは出かけているという。
 今までの努力が無意味とわかった瞬間、どっ、となだれ込むように疲れと脱力感がたまった。
 家の端から端まで歩き回ったといっても過言ではないため、距離に換算すると実はかなりの物であるため、仕方のないことだ。
(まぁお約束だけどな……)
 本人も途中から薄々と感じてはいたが、結局最後までやり通すのは性格からであろうか。
 もっとも、本人は「不幸だー」と叫ばずにはいられない目に何回も出くわし、慣れているため、今更このような些細なことで気にかける様子はない。
 むしろ、今までの感情を忘れた方が後の行動に支障がでない、という事実も学んでいる。  さて、と気分転換も兼ねて当麻は辺りを見渡す。
 タバサがいないとなると、無断にこの屋敷から離れるのはまずいだろう。もちろん暇つぶしの遊び道具といった物も存在するようには見えない。
 タバサが帰ってくるまでのんびりしてっかー、と思って貸してもらった部屋に戻ろうとしたら、
「あの、トウマさま」
 声をかけられた。
「ん?」
 無視するわけにはいかないし、暇なのだから話し相手になるのも問題ない。むしろ、なぜそのアイディアが浮かばなかったのさえ思う。
 ゆえに、当麻は何気なく返事した。
 なんでもない、ただの日常会話を期待したのだが、
「お嬢さまを、お願いします」
 突然、ペルスランがこちらに向かって深々と頭を下げてきた。斜め四十五°、冗談にしてはずいぶんオーバー過ぎる。
 相手は本気なのであろうが、思わぬ所からのお願いに、当麻は「はい?」と思わず声が裏返ってしまった。
 しかし、そこで気分を悪くせず、もう一度繰り返すのはやはり執事であるからこそだろう。
「タバサお嬢さま救えるのはあなた方しかおりませぬ。何とぞ、よろしくお願いします」
 しかもさらに言葉を付け加え、ゆっくり述べたのは、当麻が理解していないと思っての好意からか。
 なんだか、自分が悪いことをしたように感じてしまう当麻は困惑し、どのように返事をしようか僅か程悩んだ。
 が、それも一瞬。しゃあない、と心の中でため息を吐いた当麻は口を開く。
「あなた方、ってのは?」
「はい。以前こちらに来られたキュルケさまです。彼女はタバサお嬢さまのご友人。おそらく、あなたさまと同じように救って下さるでございましょう」
「あぁ、キュルケも来たのか」
 そう言い、納得したかのようにうんうんと数回頷く。
「……でも、タバサを救うのはあんたも含まれるぜ?」
「……? それはなぜでしょうか」
 ペルスランは首を傾げた。一体自分のどこにそのような要素を持っているのかと、顔に浮かんでいる。
「おいおい自分がタバサを救ってないとか思うなよ」
 当麻はポリポリと髪をかき、一拍置いてから続けた。

「あんたがいるからタバサは安心してここに母親を居させていんだろ?」

 タバサとはあまり接していない当麻でもわかる。なんで? と聞かれたら答えるのが馬鹿馬鹿しいぐらいに。
 だから、当麻はすらすらと思いを述べる。
「その時点であんたはもうタバサを救ってるんだ。俺やキュルケにその役を任せろ言われても困るぜ?」
「そんなことは――」
「そんなことは普通にあるさ。あります、あるんだ三段活用。 ……まあ、自分が絶対にないと言い切れるならそう感じても構わないけどさ」
 少なくとも俺は感じてるぜ? と当麻は口の端をあげて笑う。
 一方のペルスランは困惑しっぱなしであった。一体この少年は何を言っているのだろうと、なぜそんなことを言えるのだろうと、目をぱちぱち開いては閉じる。
 同時、
 上空からタバサを乗せたシルフィードが舞い降りてきた。
「あー、タバサ実はさ、ってうぉわ!?」
 当麻が話そうとした瞬間、タバサは昨日と同じようにガシッと腕を掴む。
「っていきなりなんですか一体!?」
「ちょっと、借り物があるけどいい?」
 タバサは当麻の慌てぶりなど気にせず、ペルスランの方を向いた。

 それは、ペルスランにとって考えもしなかったことだ。自分という存在が、当麻の言う通り、タバサの役になっているのならば感極まりないことであろう。
 自分などただの執事だと思っていた。
 この居場所は誰でも代わることができるものだと思っていた。
 しかし、その考えは違うのかもしれない。
 すべてを失ったタバサが、誰でもいいような場所にいる人間にこうやって話しかけるであろうか?
 そんなことはない。タバサがそのような人ではないと、ペルスランは誰よりも知っていると確信を持っている。
 つまり、そういうことではなかろうか。
 少しでも考えればわかることなのに、自分には何も力がないと勝手に思い、殻に閉じこもっていただけだった。

 何年も、何十年も仕えてきた賜物が、
 今、ペルスランの目にようやく形となって見えたのだ。

「かしこまりました。お嬢さま」
 ペルスランはこれでもかというぐらい満面の笑みを浮かべて返事をした。
 本来なら、寡黙のまま一礼をして答えるべきなのかもしれないし、今までそうしてきた。しかし、今のペルスランにそれをやるなど酷な話だ。
 止めようと思っても笑みが零れていく。例え執事失格でも、人生でもっとも恥ずかしい体験をしてるとわかっても笑みが零れていく。
 さらに必死に堪えようとしているため、肩が小刻みに震え上がり、しゃっくりのような音が口から吐き出される。
 当麻はそんな奇怪な行動をとるペルスランに、ぎょっとした表情驚くが、タバサは違う。
 いつもとあまり変わらぬ表情であったが、何年も接した者だけがその違いに理解できる――優しい目で微笑んだのだ。
 それだけで十分。それだけでももったいないくらい幸せだとペルスランは感じた。
「だからタバサさん! 目的地や内容を告げずにそのまま行かないでくれぇぇぇえええええ!」
 二人の意思は伝わりあったのか、タバサはペルスランに背を向けると当麻の腕を引っ張って走り去る。
 そして、走り去る二人の背の姿を眺めたペルスランは、一言ポツリと呟いた。
「ありがとうございます……トウマ様」
 ようやく、今まで堪えていた透明な雫が頬を伝った。


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