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もう一人の『左手』-09


「かっ、風見さんっ!! おっ、おれの事はいいから、このクソ女を……うぁぁぁぁ!!」

 ゴーレムが、少し手に力を込めただけで、才人が、その勇ましい発言内容を、あっさり覆す呻き声を上げる。
「余計なこと言うんじゃないよ坊や」
 女は、そう言いながら、ゴーレムの肩から地上のV3を睨みつけた。

 V3は己の迂闊さに、ほぞを噛んだ。
 眼前のミス・ロングビルが戦いを挑んで来たのは、あくまで、この自分――V3を、学院に仇なす不審な亜人と判断したからだ、そう思っていた。
 だが……違う!
 仮にも教育機関の構成員たる者が、不審人物を取り押さえる為の戦闘中に、人質を取るような真似をするはずが無い。
 この女は、もとより、ただの秘書などではなかったのだ。
 なぜ気付けなかったのだ!?
 もし、もっと早く気付いていれば、……こんな結果にはならなかったものを!

「それとも試してみるかい? 私のゴーレムが坊やを握り潰すのと、アンタの跳び蹴りと、どっちが早いか?」
「くっ……!!」
 それを試す気は、さすがにV3には無かった。

「このゴーレムの“眼”は、アタシと繋がってるんだ。下手な真似をしたら、すぐ分かるんだからね」
 そう釘をさすと、フーケは、そのまま自分を乗せた巨大な掌を壁の穴につけ、校舎の中に侵入した。

 もとよりV3は、壁の向こう側が、魔法学院の宝物庫である事実を知らない。
 なにより『土』系のメイジが錬成したゴーレムが、術者と五感まで共有できるのかどうかなど、知る由も無い。
 逆にフーケは、オスマンの秘書として、風見や才人がこの世ならぬ別世界の人間である、という情報を聞いていたので、安心してハッタリをかます事が出来た。

.
 女が、壁の穴から潜り込んで数分後、何者かの足音が聞こえてきた。
 謎の地響きを調べに来た者。その二人目がようやく現れたのだ。
 しかし、その人物が、V3にとって、事態を好転させる存在であろうはずが無い。
(まずい。)
 V3は反射的に変身を解いたが、しかし現れたのは、生徒や名も知らぬ教師ではなく、コルベールであった。

「かっ、かっ、カザミさん! これは一体どういう事かね!?」
 風見は思わずホッとしたが、当のコルベールは狼狽しきっている。
 まあ、それも当然だろう。身長数十mのゴーレムが、校舎の壁をブチ破って、中に手を突っ込んでいる“絵”を見れば、冷静でいろと言う方が難しい。
「コルベール先生、騒がないでくれ。――木偶人形の左手を見ろ」
「あれは……!!」
 さすがに理性的なコルベールは、人質としてゴーレムに握られている才人を見た瞬間、全ての成り行きを察したようだった。
「今は……様子を見るしかない……だから、騒がないでくれ、先生……!!」

 結果として、二人は、女が1・5mほどの細長い木箱を抱えて、再び壁の穴から出てくるまで、動く事が出来なかったのである。

「あらあら、ミスタ・コルベールじゃありませんか? こんな夜更けにどうなさったんです? 夜更かしは育毛の敵ですわよ」
「ミス・ロングビル……!?」
 フーケは、壁の穴から外を覗き、無粋な見物人が一人増えている事を確認したが、全く動じなかった。目的のものを手に入れた以上、学院長秘書としての顔は、もはや必要ないと見極めたのだろう。
「あら、色男に戻っているじゃないの、昆虫男さん? 確か、カザミシロウ、とか言ったっけ?」

――ぎりっ。

 風見の奥歯が凄まじい歯ぎしりを立てる。

.
「ミス・ロングビル!! 一体、何をやっているのかね!? これは全部貴女の仕業なのか!?」
 コルベールが、この一目瞭然の現実を信じられないように叫ぶ。
 フーケは、そんなコルベールに流し目を送ると、
「いいえ、全部だなんてとんでもない。少なくとも、どうやって破ろうかと苦心していた宝物庫の外壁を、いとも簡単に蹴り破ってくれたのは、そこのダンディさんですわ」
「なっ!?」
 コルベールが、驚きの表情で、風見を見る。
「そうそう、宝物庫の扉を開けるより、物理的な力で破った方が早いと教えてくれたのは、貴方でしたわね、ミスタ・コルベール」
 今度は、風見がコルベールをじろりと睨む。
 眼下の二人を嘲弄し終わると、フーケはそれまでのお上品な口調を、がらりと変えた。

「さあ、ご協力感謝するよ昆虫男!! 謝礼の証しとして、この坊やは適当な所で解放してやるよ。もっとも、アンタらが私を追わなかったらの話だけどね!!」
「俺たちが追わなかったとしても、貴様が平賀を殺さない保障がどこにある!?」
 女は、にやりと口を歪めた。
「無いさ、保障なんてね。――ただ、私が嫌いなのは、偉ぶった貴族だけなんでね。行きがかりとは言え、人質の平民を殺すような寝覚めの悪い真似をする気は無いさ……多分ね」

 恐らくは、それも嘘ではなかろう。
 この女は、無用な血は流さない。それを誇りとさえしているようだ。だが、それと同時に、血を流す事をためらう甘さも持ち合わせていないだろう。自分が、少しでも追う素振りを見せたら、躊躇無く才人を殺すはずだ。
 風見は、屈辱の中でそう判断した。
 才人は、失神したのか、もはやピクリとも動かない。

 風見は叫んだ。
「いいだろう、行け! その代わり平賀を殺したら、俺は貴様を絶対に許さんぞ! それだけは覚えておけ!!」
「カッ、カザミさんっ!?」
 コルベールが青い表情で振り返るが、風見の眼差しがコルベールに向けられる事は無かった。
 彼女は、その言葉を聞いてニヤリと笑うと、
「そうかい。じゃあ、見逃してくれる御礼をしなきゃねえ……!!」

 その瞬間だった。
 ゴーレムの巨大な爪先が、風見を襲った。
「ぐふぅぅっ!!」
――完全に不意を突かれた。
 風見は、躱しもならず、数十トンの威力を持つサッカーボールキックを、どてっ腹に喰らい、文字通り虫けらのように吹き飛ばされ、塔の壁に激突した。
「カザミさんっ!!」

「きゃはははははっっ!! ミスタ・コルベール、オスマンのスケベジジイに伝えておくれ!! 『破壊の杖』は、この『土くれ』のフーケ様が、確かに戴きましたってねぇ!!」

.

「とりあえず、もう一度確認するが、確かに盗られたのは『破壊の杖』だけなんじゃな?」

 宝物庫にところ狭しと並べられた、数々のマジックアイテム。
 目録を片手に確認作業をしていた数人の教師たちが、オスマンの声を聞いて、顔を上げる。
「――はい、確かに、他に盗られたものは無さそうです」
 オスマンは、コルベールに目をやる。
「ミス――いや、あの女性が手に持っていたのは、1・5メイルほどの細長い木箱でした」
 コルベールが重い眼で、そう頷いた。

「しかし、ミスタ・コルベール、……本当にミス・ロングビルが、あの『土くれ』のフーケだったのですか……? 私には何だか、とても信じられないのですが……」
「わ、私が嘘をついてると言うのですかっ!? ミセス・シュヴルーズ!!」
「そうは申しませんけど、――ねえ、学院長……?」

 ミセス・シュヴルーズは、オスマンを振り返った。
 壁には、黒々とした文字で、
『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』と書かれている。
「いや……たしかにこれは……ミス・ロングビルの筆跡じゃ……」
 オスマンも、その墨痕累々たる“犯行声明”を睨み、深い溜め息をつきつつ、宝物庫を見渡した。

 コルベールは、壁に叩き付けられた風見を介抱し、その足ですぐさまオールド・オスマンの私室へ飛び、事の顛末を話した。
 最初は、寝入りっぱなを叩き起こされて、少々不機嫌だった老人も、やがて事態の重大さを悟ると、すぐさま全教員を起こし、宝物庫の現場検証を開始したのである。


.
 風見は、“目撃者”として、自分も現場検証に立ち会うと主張したが、さすがにコルベールが聞き入れなかった。
 喰らったのはゴーレムの蹴りである。
 叩き付けられたのは、城壁並みの厚みを持つ塔の外壁である。
 いかに改造人間の風見志郎といえど、――しかも、蹴り飛ばされた時、彼は変身を解除していた。
 コルベールならずとも、彼にこれ以上の活動を許す気にはならなかったであろう。
 そして、代わりといっては何だが、“目撃者”風見と、“人質”才人の主として、ルイズが現場に呼び出されていた。
 たまたま彼女と喋り込んでいたキュルケも、何故かついてきたが、教師たちは面倒くさかったのか、キュルケを追い出さなかった。

「オールド・オスマン、これは魔法学院への、いや、トリステイン王国への重大なる挑戦と受け止めるべきです!! すぐにでも王宮へ使いを走らせ、王室衛士隊の出動を要請しましょう!!」
「いや、トリスタニアに頼るまでも無い。我ら魔法学院教師だけで追跡隊を編成しましょう!! 降りかかった火の粉は、自らの手で払うのが貴族の慣わしというもの!!」
 ミスタ・ギトーが勇ましく叫ぶ。
 いや、ギトーだけではない。男性教諭の何人かは、彼の強硬意見に賛成の声を上げる。

「なっ、何を言ってるんですっ!? フーケはサイトを――わたしの使い魔を人質に取っているんですよっ!!」
 ルイズが金切り声を上げて、ギトーを見上げるが、彼は冷たく言い放つ。
「分からんのかミス・ヴァリエール。これは非常事態なのだ。たかが平民一人の命と、宝物庫のマジックアイテムが釣り合うと思うのかね!?」
「でっ、でも……!」
「しかも『破壊の杖』といえば、ただのマジックアイテムではない。数週間後にアカデミーが、研究のために引き取りに来る予定があったほどのレア・アイテムなのだ。それを、むざむざ奪われましたなどと……そんな事が言えると思うか!!」
「そんな……!? じゃあ、面子のために、わたしの使い魔を身殺しにするって言うんですかっ!?」
「面子ではないっ! これはメイジとしての誇りの問題なのだっ! 君とてメイジの端くれならば、理解できぬはずがあるまい!!」
「ならば先生は、メイジに使い魔を見捨てろとおっしゃるんですかっ!?」
「使い魔使い魔と君は言うが、所詮は単なる平民ではないか!! そんな下賎な命など、我らが誇りと、重さを測る価値も無いわ!!」

「――そこまでにしたまえ」
 肺腑を貫くような重い声でオスマンが言った。

.
 その瞬間に、宝物庫に満ちていたざわめきは、ぴたりと聞こえなくなった。
 当然であろう。――真顔になった『偉大なる』オールド・オスマンの前で、私語の出来る者など、この学院には一人もいない。

「ミスタ・ギトー」
「は、はい」
「君の言い分も道理ではあるが、わしはそれを正しいとは思わん。人命よりも尊いアイテムなど、この世にありはせん」
「しかし、学院長!」
「今一度言う、――わしは君の意見を正しいとは思わん」
「……はい」

 さすがに、そこまで言い切られては、この短気な教師もぐうの音も出ない。

「さて、ミス・ヴァリエール」
「はっ、はいっ」
「ミスタ・コルベールの話じゃと、フーケは、平民は殺さんと言ったそうじゃ」
「そっ……それを……信用しろって言うんですか……!?」
「わしは信用できると思う」
「何故ですっ!?」
「わしは、これでも二ヶ月間、秘書と学院長という立場で、彼女と接してきた。正体こそ見抜けなんだが、それでも、人を簡単に殺せる女性ではないと断言できる」
「……」
「どのみち、どこへ逃げたかさえ分からん。後を追おうにも、夜が明けぬ限り足跡も追えぬ」

 確かに、フーケほどの大盗賊が、闇にまぎれて逃げた以上、素人がデタラメに追っても、捕らえるのは困難だ。それは子供でもわかる理屈である。
「じゃあ……学院長は、どうなさるって言うんですか……!?」
「……とりあえず朝になってからじゃ。朝になったら学院の周囲の森を、しらみつぶしに捜索しよう。生徒たちも動員してな。もしフーケが、君の使い魔を解放しておったならば、必ず見つかるはずじゃ」

 オスマンはそう言ったが、ルイズは、もはや泣き顔を隠さなかった。
 もう二度と才人と会えないかも知れない。そう思ったら、何故か、胸が張り裂けそうだったからだ。

「とにもかくにも、今晩はこれで解散じゃ。どのみち明日は払暁には動き出さねばならん。今のうちに眠っておくべきじゃろう」

.
 その声は、有無を言わさぬ雰囲気を持っていた。
 そして、半ばホッとした雰囲気すら伴って、教師たちはぞろぞろと宝物庫から帰って行ったが、廊下からあくびが聞こえた瞬間、ルイズは、そんな教師たちに殺意すら覚えた。

「ルイズ……あたしたちも帰りましょう」
 それまで黙っていたキュルケが、かつて無いほどの優しい声で、ルイズに囁く。
 気が付けば、宝物庫に残っているのは、ルイズとキュルケ、そしてオスマンとコルベールの4人だけになっていた。
 先祖累代の宿敵といえど、まさかこんな状況で憎まれ口を叩くほど、キュルケは空気の読めない女ではない。
「あんたの気持ちも分かるけど、今はもう、どうしようもないわ。サイトの無事は、始祖ブリミルにお願いしましょう」
「……」
「大丈夫よ。あたしもあなたの三倍、祈ってあげるから」
「――いや、その必要は無い」


 その声に、その場にいた全員が、振り返った。
 宝物庫の重い扉を開けて、入って来たのは風見志郎だった。


「なっ、何やってるんだカザミさん!? 君はこんなところに来れる体じゃ――」
「カザミィィッッ!!」

 コルベールが、風見に寄ろうとした瞬間には、もう遅かった。
 ルイズの拳が、風見のボディに叩き込まれていた。
「ミス・ヴァリエール! やめなさいっ!!」
 しかし、そのコルベールの声も、いまのルイズには届かない。

「あんた――あんたがついていながら、何でサイトがこんな目に! こんな目に遭わなきゃいけないのよっ!!」
(ぐっ!!)
 風見は、その一撃に思わず声を上げそうになる。
「あんた、カイゾーニンゲンなんでしょっ!? 普通の平民じゃないんでしょっ!? なのに……なのに……何でサイトを守れなかったのよぉっ!!」
 そして、7発目の鉄拳制裁が、みぞおちに決まった時、風見は思わず、膝をつきそうになった。

「……え?」
 その、余りにも予想外な反応に、ルイズは一瞬ぽかんとする。

「やめなさいと言ったでしょう!! 彼は、サイト君を助けようとして、フーケのゴーレムのキックをまともに喰らったのですよ!!」
 ルイズは、呆然となった。
「先生……、あの、フーケのゴーレムって……たしか身の丈30メイルほどあって、宝物庫の壁を外からぶち抜いたっていう、アレ……ですよね?」
 キュルケが、おそるおそる訊いてくる。
「彼でなければ、即死だったでしょう。今、立ってここにいる事が奇跡だと――」
「余計な事はいいんだ。先生」
 風見の錆びた声が、コルベールの弁護を遮る。
 そして、さらにオスマンが、風見を遮った。

「それで……カザミくん。さっきの君の台詞は、ありゃ、どういう意味じゃ?」

 風見は、目を光らせ、答えた。
「言葉通りの意味ですよ、Mr.オスマン。――平賀はまだ生きている。そして、あの女の居場所も分かっている。だから、これから俺は救出に向かう。そう言ってるんです」


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