あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

神の左手は黄金の腕-01


事の起こりは数ヶ月前の“聖地”での出来事。
その付近において“場違いな工芸品”を回収していたロマリアの密偵達が“ソレ”と遭遇した事から話は始まる。
末端に到るまで鋼鉄で出来た“ソレ”を当初、彼等はガリアの魔法人形ではないかと疑った。
だが、それは彼等が知る如何なるガーゴイルよりも俊敏で何よりも強靭だった。
身の危険を察した密偵達は増援を要請、すぐさまジュリオ・チェザーレは現場へと向かった。

しかし、彼が辿り着いた時には全てが終わっていた。
まるで台風が過ぎ去った痕の様に木々は薙ぎ倒され、地面は深く抉られて一本の溝を刻んでいた。
もはや生存を絶望視しかけた時、ジュリオは密偵達の姿を見止めて舞い降りた。
彼等から口頭で状況報告を受けながらジュリオは大地に付けられた傷跡について訊ねた。
これは如何なる武器、魔法を用いた物なのかと問う彼に密偵達は震えながら答えた。
その返答にジュリオの身体を流れる血液が一瞬凍り付いた。
再び問い質す彼に密偵は再び同じ答えを返した。

“何の武器も魔法を用いぬ、ただの投石による物”だと。


「…これっぽっちしか作れねえのか」

樽に封入された液体を眺めながら彼はコルベールに訊ねた。
それに視線を落としながら弁明するように口を開く。

「ええ。何分、未知の物質となると錬金による精製も難しいのです。
 私一人ではここが限界でしょう。やはり王宮に…」
「ダメだ。俺が追われているのは話しただろう。
 もし燃料なんか作っている事が他に知られればアンタ等を巻き込んじまう」
「しかし! このままでは君は…!」

コルベールの語気が強くなる。
この『燃料』という液体は彼にとって唯一の食料。
それが必要量作れないという以上、待っているのは餓死という運命だけだ。
それでも彼は決してコルベールの提案を受け入れようとはしない。
自分の所為で迷惑を掛けられないと一人孤高を貫き通す。

「なら、せめて燃料の消費を抑えるしかないが…。
 そう言っても君は聞いてくれないんだろう?」
「ああ。それじゃあ、連中が待ってるんで失礼させて貰うぜ」

そう言って彼はコルベールに背を向けて実験室の扉に手を掛けた。
その迷いなき背中に、コルベールは羨望の念を向けながら語り掛ける。

「……君は強いな。ミスタ・ゴールドアーム」
「これしか生き方を知らねえだけさ。
 ありがとよ先生。アンタのおかげで俺はアイツ等と野球が出来る。
 それが少しの間だけだったとしてもな」

覚悟を持つ者とそうでない者に隔てるように音を立てて扉は閉じられた。
悔やむべきは問題を解決できぬ自身の技量か。
それとも彼を力づくでも止めようと出来ない臆病か。
一人取り残されたコルベールの頬を涙が伝った。


学院の外に作られた簡易のフィールド。
そこに遅れてやって来たエースの登場に、
味方チームからは歓声が、相手からどよめきが上がる。
敵味方問わず、この場にいる誰もが彼の一挙一動に注目する。

「遅いわよゴールドアーム! 何してたのよ!?」
「悪いな。ちょっと先生の所で燃料補給してたのさ」

その彼に真っ先に駆け寄ったのは彼の主となったルイズである。
だが、彼はルイズの事を主とは認めていない。
そもそも彼女は召喚の儀式に失敗したのだ。
その事実を知っているのは彼とコルベールだけ。
迷いついたゴールドアームを彼女は自分が召喚したと思い込んでいるのだ。
コルベールに真実を打ち明けるも既に契約は交わされていた。
契約を破棄するというのはアイアンリーガーにとっても重大な裏切りを意味する。
止むを得ず、彼はルイズに一つの条件を提示した。
“元の世界に帰るまでの間なら、その使い魔とやらをやってもいいぜ”と。
使い魔を戻す方法などある筈もない、その条件にルイズは頷いた。
その日から、このちぐはぐな主従が誕生したのだ。

睨むのにも似た彼女の視線から逃れるように目を向けたスコアボード。
そこには10点以上の大差という散々な記録が残されていた。
自分の不甲斐なさを叱責するかと思われたゴールドアームは無言で素振りを続ける。

「何よ! 言いたい事があるなら言えばいいじゃない!」

遂に沈黙に耐え切れなくなったルイズが食って掛かった。
スッと彼女へと伸ばされるゴールドアームの腕。
無骨で無機質な鋼鉄の塊に思わずルイズは身を硬くした。
しかし、その手はメット越しに彼女の頭を優しく撫ぜた。

「大したガッツだぜ、お前さんはよ」

これだけの点差が付けばプロのアイアンリーガーでも気力が萎える。
勝ち目を失ったと試合を続ける闘志さえ失ってしまうだろう。
しかし、この少女は諦めなかった。
チームメイトからの叱責を受けたとしても、
相手から失笑されたとしても、それでもマウンドに立ち続けたのだ。
決して屈する事なく全力で投球し続けたのだ。
それを誇りと言わずして何と言おう。
彼女をベンチへと送り、彼はバッターボックスへと向かう。

「遅かったわね。勝負はもう付いたわよ」
「何寝惚けた事言ってやがる…まだ試合は終わっちゃいねえぜ!」

燃えるような髪がマウンドに靡いて映える。
キュルケの挑発に、ゴールドアームは気迫の篭った声で応じた。
それは彼女だけにではなく、ベンチで項垂れるチームメイトに向けての物でもあった。
噴き上げる火山にも似たゴールドアームの闘志に、彼女は艶かしく唇を舐めた。
そうでなくては面白くも何ともない。
全力で立ち向かってくる相手を打ち負かしてこそ勝利。
彼との対決は今まで体験したどの恋愛よりもエキサイティングだった。
バッテリーを組んだタバサがサインを出す。
それに力強く頷いてキュルケは堂々とボールの握りを突き付けて宣言した。

「今日こそ貴方を打ち取って見せるわ、この新魔球で!」
「おもしれえ! やってもらおうじゃねえか!」

手の内で握り締めたバットがギシリと音を立てる。
見せた握りは何の変哲もないストレート。
しかし新魔球と言った以上、彼女は必ず何かをしてくるに違いない。
キュルケの言葉に対抗心は沸けども困惑は無い。
彼女が全力を出すのならば、それ以上の力で上を行く。
それが宿命のライバルとの戦いで学んだアイアンリーガーの魂だ!

ワイルドアップから投球モーションへと移る過程で紡がれる詠唱。
手からボールが放たれた直後、彼女は自分の杖を振るった。
直球を追い抜いて飛ぶ1メイルはあろうかという火球。
バットを振りぬこうとしても前を行く火球に阻まれて打つ事は出来ない。
仮にキャッチャーが『雪風』の二つ名を持つタバサではなくマリコルヌだったならば、
こんがりといい感じで丸焼きにされていただろう。

キュルケの顔に笑みが浮かぶ。
渾身の力を込めた火球は鋼鉄のバットさえも容易く溶かす。
そんなものでストレートを打ち返す事は決して叶わない。
しかし、その絶対の自信は彼の一振りで容易く打ち砕かれた。

「なっ…!」

困惑する彼女の口から驚愕が漏れる。
火球とボール、その両方を切り裂くかの如き一閃。
真心を捉えられた打球はセンターを抜けて外野に深々と突き刺さる。
返球されたボールが内野まで戻ってくる頃には彼は悠々と三塁を踏み締めていた。
複雑な感情が入り混じった目で見つめるキュルケに彼は肩を竦めて答える。

「火力は及第点だが、肝心のストレートがなっちゃいねえぜ。
あの程度の球威と速度なら焼け切れる前に十分打ち返せる」

何よりも彼はバットを焼き切る魔球を既に体験している。
その経験があればこそ確実に打ち返せるという確信に繋がったのだ。
地団太を踏んで悔しがる彼女を眺めながらゴールドアームは笑みを浮かべた。
ホームスティールを狙っているのではと思わせる大胆なリードを取る。

「………タイム」
「必要ないわ、タバサ! 
 打ち取れなかったけど、この回は0点で切り抜けて見せる!」

駆け寄ろうとしたタバサをキュルケは鼻息荒く追い返す。
頭に血が上っている彼女の姿を見てタバサの不安は一層増していく。
確かにキュルケの言う通り、彼に打たれた程度で崩れはしないだろう。
タバサはこの打席で点を取られる事さえ覚悟していた。
事実、彼の俊足ならばランニングホームランに出来る当たりだった。
それを三塁で留まった理由は唯一つ。
彼はチームを勝たせる為にキュルケを揺さぶるつもり。

「くっ……!」

小刻みに動くゴールドアームを牽制するキュルケの投球フォームは、その心の内と同様に乱れていた。
制球が定まらぬままに放たれた球は、どれもタバサのミットを大きく外れていく。
それを三塁ランナーから出された『ボールをよく見ろ』という指示に従い、バッターは四球で出塁した。
ゴールドアームならまだしも他の選手に出塁された事で完全にキュルケは動転していた。
バッターボックスに入ったギーシュが三塁にいるゴールドアームを見つめる。
見ていくべきかと視線で尋ねる彼に出された指示は『好球必打』。
ドットクラスが故か、キュルケはどこかギーシュを実力以下に侮っている節がある。
恐らく確実にアウトにする為に置きにくる球があると彼は予想していた。
その指示に、ギーシュは力強く頷く。
ゴールドアームの言葉は常に的確で力に満ちていた。
彼が“打てる”といったならば絶対に“打てる”のだ…!

フィールドに快音が鳴り響く。
キュルケの指先から放たれた白球は、その球速を上回る速度で内野を突き抜けた。
打球の行く先を確認しながらゴールドアームがホームベースを踏んで吼える。

「さあ野郎ども! 反撃開始といこうぜ!」

彼の鼓舞にチームメイト達も雄叫びを上げる。
ギーシュの上げた一点が試合の流れを大きく変えた。
先程までの敗戦ムードは一掃され、気合も新たに次のバッターにエールを送る。
仮にゴールドアームがランニングホームランで点を上げたとしても、
チームメイト達が彼に頼り切るだけでこうはならなかった筈だ。
だからこそゴールドアームはこのムードを作り出した。
タバサは畏怖と敬意の入り混じった視線で目の前を通り過ぎる彼を見送った。


「見てただろう?僕の華麗なバッティング」
「ああ。あのキュルケから点を取ったんだ。
きっと愛想尽かしたモンモランシーだって惚れ直すぜ」

ゲームセットと共に両軍は互いの健闘を讃え合い、校舎へと戻っていく。
その中には試合の結果に不服の者達も当然のように含まれていた。
ハッキリ言うとルイズとキュルケの二人である。
結局、ルイズのチームは大量の点差が響いて逆転には到らなかった。
敗北を喫した口惜しさに外したグラブを力強く握り締める。
しかしキュルケにしてみれば、それだけのリードがありながら僅差にまで追い詰められた事自体、敗北に等しい。
両者共に勝ち名乗りを上げずに真っ向から睨み合う。
そして未だ熱が冷めやらぬルイズが挑戦状を叩き付ける。

「この決着はサッカーでつけてやるわ!」
「ええ、望む所よ! もっともそんな短い足でシュートできるとは思えないけど。
 まあ平坦な分、トラップはしやすいかもね」

そう言って胸を指差したキュルケにルイズの怒りは最高潮に達した。
試合を待たずPK勝負で決闘するべく二人はフィールドに向かう。
その微笑ましいのか、宥めるべきなのか判らない光景を前にゴールドアームは肩を竦めた。
だが、互いにライバルがいるというのは悪い事ではない。
この学院を卒業してからも二人は競い合い切磋琢磨していく事だろう。
そう。例えるなら俺とアイツの関係のように…。

「あの、お疲れ様ですゴールドアームさん」
「ああ。ありがとよ」

不意に掛けられた声に振り向くと、そこには洗濯籠を抱えたシエスタがいた。
差し出されたタオルを受け取りながら彼女に礼を述べる。
初めこそは風貌の所為で怖がられていたが、今ではすっかり打ち解けていた。
シルフィードやフレイムのような大型の使い魔にも餌を与えていたのだから順応も早いだろう。

「ゴールドアームさんが来てから生徒の皆さんも変わったって学院長が喜んでましたよ。
 誰もが自分の事しか考えない中で仲間との協調の大切を学んだって」
「そんな大層な事は教えちゃいねえよ。
 俺はただ『スポーツ』を教えてやっただけだ。
 そこから何かを学び取れたなら、それはそいつらの努力の成果だ」

彼が知る限り、ハルケギニアで互いに死力をぶつけ合う方法は決闘しかなかった。
だからこそ彼はスポーツを教えたのだ。
傷付けあうのではなく、互いに競い高め合う誇り高き闘いを。

「ところでシエスタは参加しねえのか?」
「わ、私には無理ですよ。それに貴族の方に混じってプレイするのは…」
「気にするな。俺から皆に話を付けといてやる」
「いえ、せっかくですけど止めておきます。
 私は見ているだけでも十分楽しいですから」

笑顔で返すシエスタに、そうかとゴールドアームは頷いた。
無理強いするつもりはない。ただ気が向いた時に来てくれればそれでいい。
更に付け加えるようにシエスタは笑いながら、
新たにユニフォームも加わった洗濯籠を見せて冗談を口にする。

「それに洗濯物もありますしね」
「違えねえ」

豪快に笑い飛ばすゴールドアームに一礼し、シエスタは去っていった。
自分だけとなった中庭でゴールドアームは佇む。
こうして誰もいなくなると彼は決まって元いた世界の事を思い浮かべる。
ルイズ達といる時には、ここで連中にスポーツを教えて過ごすのも悪くないと思えてしまう。
だが一度、彼女達から離れると頭の中はアイアンリーグの事しか考えられなくなる。
自分の兄弟とチーム、そして永遠の宿敵達が次々と浮かんでは消えていく。
最後に浮かぶのは決まってマウンドに立つあの男の姿だった。
バッターボックスに立つ自分と向かい合うように睨み合う。
ワイルドアップから天高く足を蹴上げて放たれる魔球。

「……マグナムエース」

呟くようにゴールドアームは彼の名を呼ぶ。
握り締めたアイアンリーグ用のボールがギチリと鈍い音を奏でる。
モニター焼けの如く眼の奥にハッキリと浮かぶ宿敵の姿に、
彼の回路は焼き切れんばかりの熱を放っていた。


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