あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

使い魔を使う使い魔-07

 丁寧に敷き詰まれた石畳の上を、ルイズは走っていた。息を切らして、肩を揺らして。
 自分の使い魔に向かい、最高速で一直線に。

 やがてこっちに気づいたレッドが、顔を傾けて何かしゃべろうとした瞬間、
 ルイズはレッドの顔面に、勢いに任せたままで惚れ惚れするほど美しく強力な、

 ドロップキックをお見舞いした。





                    七話





 ルイズはレッドにどんな罰を与えようかと考えながら走る最中、偶然シエスタに出くわした。
 お互いに一瞬顔をしかめたが、立ち直ってお互いにかるーい挨拶を交わした。
 現状で、使い魔に迫る泥棒猫を見たおかげか、イライラが一気に増したルイズがさっさと走り出す。

(……泥棒猫? と、当然『使い魔』としてよ! あ、あんな平民ほ、ほんとはどうでもいいんだけど、
 わたしの使い魔ってことはあいつはわたしのものなの! メイドなんかが横取りしていいもんじゃないの!
 それに……、わたしはメイドなんかが知らないレッドを知っているのよ!) 

 勝ったわ! うん、間違いなく勝ったわ! ざまぁみなさい、このメイドめ!
 脳内妄想からワケのわからない凱歌を上げ、一人勝手に頬を染めるルイズは、何かに納得したように
 うんうんと頷いた。
 シエスタは妄想世界の中に入ったままで小さくなる背中に向けて、一言言った。

「この前のレッドさん……激しかったなぁ……」

 ルイズの動きが、時間でも止められたように固まった。
 ……マテ! 待て! まて! 
 このメイド今……なんていったの……? 激しかった? この前? ……あの、バカ!? 


 噴火のごとき怒りの奔流が、ルイズの中を乱暴に駆け巡った。 


 怒りでぱんっぱんになった首を、老朽化した扉のようにぎ、ぎ、ぎと効果音がつきそうな
 くらいゆっくり回す。
 見ると、シエスタは頬を染めて自分で自分の肩抱き、眼を瞑って愉悦の表情に浸っていた。
 そして「はぅ~」と熱い吐息を漏らし、かなり大げさに体をくねらせている。

 キレた。

 ルイズの中で何かが音を立てて、ぷっつりと切れた。
 そこから先の記憶が、ルイズには残っていない。 

 気づいたら服は土埃やら砂埃やらで茶色に汚れ、マントは途中から破れ、髪はボサボサだった。
 そして片手に杖を握り、食堂までひたすら走っていた。 
 しばらく経ち、息切れ切れにふらふらしながらやっとたどり着いた食堂では、
 あろうことかレッドはキュルケと話しているではないか!
 ルイズの中で、再び黒い炎が燃え盛った。 肩を揺らすほど息が切れていたことも、
 支えがなければ倒れてしまいそうになる疲労もいっぺんに吹っ飛んだ。

(……もう! あのメイドと……メイドなんかといちゃいちゃしてるかと思ったら、
 こ、こ、こんどはよりによってあのツェルプストー!? ああもう! 使い魔なんだから
 少しは主人に従いなさい!! わたしを見なさいよ!!!!)

 流れる汗が頬を伝うと、イライラした気持ちが増幅するので一発蹴りを入れる。
 しかしながら、レッドはそれを何のこともなく容易く避けるので、余計に苛立ちが募る。
 レッドが何か言うたび、ルイズは顔を真っ赤にして今度は殴りつけていた。

 突然ケンカし始めた二人を、あらあらと言いながらにこやかな笑みを浮かべて
 見送った後、キュルケはケンカすら無視してひたすら遠くを眺めるタバサを見た。

「……どうしたの?」 

 親友の突然の行動に驚きつつ、キュルケは尋ねた。
 タバサは答えない。代わりに、読んでいた本を閉じ脇の下に抱えると、空いた手で長い杖を握った。
 同時に、それが何を意図するのかを瞬時に汲み取ったキュルケの表情が、きっと引き締まった。 

「風がおかしい」

 短く言うと、2人は同時に食堂の外に走り出そうとした。

「まってくれ……」

 が、ぽつりと零れ落ちた言葉が耳に届き、二人は足を止めて振り返った。

「オレも行く」

 声の主はレッドだった。二人に見据えられながら、レッドは低く、落ち着いた声で言った。
 しゃべる合間合間に、しっかりとルイズのパンチや蹴りをひょいひょい避けている。
 顔に似合わず、実に器用なことをするわねと、キュルケは思った。
 キュルケ、そしてタバサは攻撃を避けながら返答を待って自分達を見続けるレッドの眼を見つめ返す。
 ぎらりと尖った眼つきは鋭いナイフのようで、年と不相応すぎる剣幕を見せている。
 顔つきも真剣そのもので、自分達が行こうとする場所に危険があると知っている上で、
 それでもついて行くと言うような明確な意思と、自分のことは自分で出来ると並々ならぬ覚悟を訴えていた。
 キュルケは一度タバサに目配せし、それから軽く頷いた。
 髪を掻き揚げて踵を返し、レッドに近づくと眼の奥まで覗き込むように顔を近づける。

「いいわ。あなた平民みたいだけど、相当修羅場くぐってそうだし、ついてきなさい」

 言い終わると顔を遠ざけ、再び走り出そうとしたが……

「いや……だから……ちょっと手のコレ、ほどいてくれないか?」

 レッドの思わぬ発言に、するりとズッこけた。 
 同時に、ルイズのパンチがようやくレッドの顔を捉えた。

 魔力の篭らない杖を振るう、もとい魔法を使う精神力はほとんど切れかけだ。
 散々『土』系統の上位スペルを唱えたというのに、目の前に立つ男はかすり傷一つついていない。
 床を転がったために汚れにまみれ、片膝を突く女性――『土くれ』のフーケを見下ろす男、
 『炎蛇』のコルベールは、明確な『格の差』をわかりやすく表していた。

 二人のいる部屋の中は、ひどい有様だった。
 壁という壁が不自然にえぐれ、床には大きな穴がいくつも開き、そこから派生したヒビが
 天井まで縦横無尽に駆け巡り、ここと上の階をつなぐ階段は原形を残さないほどぐちゃぐちゃに潰れていた。
 惨状のなかで唯一無事な物といえば、それはフーケの背後に聳え立つ、分厚い鋼鉄の扉。
 それだけが開くことも傷つくこともなく、もともとの姿を残しているのだった。

 ごほっと、フーケが咳き込んだ。
 掛けていた眼鏡はとっくに吹き飛んで、琥珀色の眼が直にコルベールを睨みつける。

「強いね……恐ろしいくらいに。ホント、惚れちまいそうだよ」 

 それ一つに腕を磨けば同じクラスのものでも確かな差が現われる。
 一つの系統しか相乗できない者をひとえにドットといえど、戦闘経験を重ね、それ一つのみを
 徹底して極めつくしたものは、実戦ではトライアングルをも打ち倒すことだってありえる。

 それが魔法だ。

 同じトライアングルなのに、歴然とした差があるのはおかしなことでもなんでもない。  

「いい加減に諦めてくれ。これ以上やっても無駄だと、自分でもはっきりとわかっているはずだ。
 キミほどの使い手が、よもや相手との差がわからない道理はないだろう?」

 力強く言い切り、コルベールは眉間にしわを寄せた。
 フーケの目は、まだ諦めてはいない。まだ確かな光がある。
 薄くにやついた唇が無言にして『まだ切り札がある!』と自信を持って叫んでいたからだ。

「そうだねぇ。残念だけど、お宝は諦めるとするよ…………なんて言うとでも?」

 フーケは嘲る様に肩を竦め、よろよろと立ち上がった。
 そして、短い杖を一振りすると、大きく後ろに下がり、コルベールを射竦めた。 

 コルベールはフーケのとっさの動きにも冷静に対応し、身構えたのだが……


「う! ぐおわあっ!!?」


 突如、壁を突き破って殴りつけてきた巨大な手に吹き飛ばされた。

 たどり着いた四人が早速見たものは、三十メイルはあろうかという巨大なゴーレムが
 本塔の壁の一角を殴りつけ、爆音を轟かせながら破壊した瞬間だった。

「なんだあれは……?」
「ゴーレムよ……でも、あんな大きなやつ、初めて見るわ」

 眼を見開くレッドの問いに答えたキュルケは、ごくりとつばを飲んだ。
 その後ろで、ルイズがちいさくうなる。 

 薄暗くなってきた時間帯。本来それからハルケギニアを照らし出すはずの双月が、
 ゴーレムの体が邪魔で、まったく見えない。光が遮られている以上、薄黒いゴーレムは
 輪郭をぼやけて立っているのだが、それでも圧倒的な圧迫感と、威圧感だけで巨大とわかる。

 学院内に、これほどのゴーレムを作れる教師など、オールド・オスマン以外にいるのだろうか? 
 いや、いない。教師陣は、言っちゃあ悪いがへっぽこだ。レッドは思う。
 口先は勇ましい物言いを吐くばかりだが、平和ボケしている連中にあれほどの物が造れるとは考え難い。 
 あれはもっと別だ。造ったものの殺意や、気合が見て取れる。ここにたどり着くまでの、使用者の苦難の道が、
 背景に見える。 

「ちょっと、あれ!」

 パニック気味にルイズが叫び、ゴーレムの肩を指差した。
 壁に突っ込んだゴーレムの手を走り、誰かが肩に乗った。
 遠い上空の出来事であるが、これは月の光を独占する背後から伸びる光のおかげで、
 意外とはっきり見て取れた。

 ゴーレムが手を引っこ抜き、本塔の壁は連続して破壊を起こした。大きな穴がさらに広がった。
 ゴーレムを使う者は崩壊した壁を見向きもせず、半身に構えた。

「もしかして……土くれのフーケ……?」
「誰だ……」
「今、世間を騒がせているメイジの盗賊さんよ。『土くれ』の文字通り、
 土系統のトライアングルと噂される、男か女もわからない謎の存在……こんなところで会えるなんてね」

 人生不思議よね。とため息をつき、キュルケは腕を組んだ。

「達観してる場合じゃないでしょ! 何とかしないとまずいわ!」
「……確かにな」

 つぶやいた後、ゴーレムの動きを冷静に見やる。
 デカイ。まずなんといっても、アレはデカイ。言い直す必要ないけど、思わず口に出るほどデカイ。
 肩幅もとんでもなく広いし、威圧的な体の表面は岩石みたいにゴツゴツしている。
 間違いなく相当な重量と耐久度を持っているだろう。万が一踏み潰されでもしたら一発昇天は間違いない。
 動きに自体に速さは感じないが、塔の一部に簡単に穴を開けられるくらいだ、単純な攻撃力も優れている。
 分類するなら『いわ』か『じめん』か――――

 ――はっとなり、首を振る。

 あれはポケモンじゃない、魔法だ。自身の知りうる常識が通じる相手とは限らない。
 となれば……手持ちで対抗できそうなやつは…………

 レッドはゴーレムを見据えながら、片手を腰のボール――その三番目へと伸ばした。

 ゴーレムが片足を上げ、思い切り振り落とす。動作はいびつで実に機械的だったが、
 たったそれだけのことで辺りに地響きが響き、地に付けた足から体はバランスを崩される。 

「逃がさないわよ!」 

 よたよたと危なっかしげに立ち上がりながらルイズはゴーレムに向けて威勢良く杖を振った。
 二歩目を繰り出そうと片足立ちのゴーレムは、支えている足を爆破され、僅かだがよろける。 
 そして、爆破の衝撃に気づいたのか、ゴーレムの肩に乗っている何者かが、慌ててこちらを向いた。
 顔全体を覆い隠すようなフードを被っている為に顔は見えないが、しばらくぼうっとしていることから、
 きっと驚いているのだろう。

 だが、それだけだった。
 何者かは思い出したようについっと顔を背けると、まるで何かにおびえているように体を震わせ、
 ゴーレムに散々叱咤を飛ばす。
 「今、お前達なんかにかまっている暇はない!」、と焦燥した態度に気持ちが現われている。
 ゴーレムの脛は爆発をうけ、子供一人が潜れるくらいの穴が抉れていたが、
 それでも行動に支障はないらしい。
 ゴーレムは主人の願いを満たすべく、先ほどと変わらない速度で動き始めた。


 レッドはボールに掛けていた手を離し、訪れた安堵にほっと息をついた。

 正直な話、あんな規格外とはなるべく戦闘をしたくない。
 第一、あいての戦術がわからない状況で無理に戦うことはない、と判断していた。
 ここはカントーでもなくジョウトでもなく『ハルケギニア』、自分の常識では計り知れないものが、
 数多く“あたりまえ”に渦巻いている異世界なのだ。
 自身の常識と呼べるものは、幾多の冒険と修行を超えてきた手持ちの六匹しかいない。
 未知のものに無防備に突っ込んでパーティの全滅、それだけは避けなければならない。
 ここにはポケモンセンターもなければ、フレンドリィ・ショップもない。
 手持ちに『かいふくのくすり』や『まんたんのくすり』、『げんきのかけら』があるわけでもない。
 ここで傷ついたりひんしになったら、即座の回復は不可能だ。

 それに……こいつらを無意味に傷つけたくは、ない。

 ちらりとキュルケ、タバサを見る。
 二人とも表情に諦めをまぶしており、戦闘の意志は見られない。
 この二人はどうやら、自分と相手の力量差をしっかりと受け止め、理解しているらしい。
 しかし、二人――特にキュルケ――は、組んだ手の先からはみ出る杖が、折れるほどきつく握り閉めているせいで
 小刻みに揺れていた。
 気持ちは、悔しさと憎さで溢れかえっていた。

「待ちなさぁああああい!!」

 ただ一人、例外がいた。
 ルイズだけは眼を尖らせ、声を奮い立たせ、ゴーレムに向かって駆け出す。

「くっ、なにやってんだ……!」

 叫ぶと共に、レッドも後を追った。その際、体が少し軽く感じたのは気のせいか。
 すぐルイズに追いついた。肩を掴んで踏みとどまらせる。 

「なにって? いいレッド、あいつは今貴族達の中でも危険視されてる盗賊なの!
 目の前にいるのに、みすみす見逃していいやつじゃないの!!」

 真剣な顔だった。眼で睨み尽くし、必死で叫んでくる。
 しかし、レッドは引かない。

「いいか、見逃す見逃さないじゃない。それより……もっと前の話だ。
 仮におまえが先回りして対峙したところで、あのゴーレムを倒せるのか?」
「やってみないとわからないじゃない!」
「……唯一の爆発も効かなかったのにか?」
「あ、あれはただ失敗しただけだもん!」

 思い出して恥ずかしさと怒りが湧き、ルイズは顔を赤らめた。
 肩に置かれたレッドの手を乱暴に振り払うと、再びゴーレムに向かって走り出す。

「く……!」

 自殺行為だ。ルイズのやってることは、自爆しか使えないビリリダマが、ゴローニャに挑むようなもの。
 なんとかして止めなくてはならない。
 再び三番目のボールに手を掛け、こんどこそは腰のホルダーから外した。



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