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虚無界行-10

第7章 幕間劇

ギーシュ・ド・グラモンと南雲秋人との決闘は、その事実のみを鑑みれば、
南雲の戦闘放棄により終了という事になるだろう。

しかし少なくとも、その場に居て南雲秋人という男の力を、鬼気を、憎悪を、間近で感じ取った人間ならば。
南雲を嘲るような言葉を発する者など、1人たりとて居はしまい。

それはあまりにも凄絶であったがゆえに―――――心に突き刺さり、その体をも凍てつかせるほどの『恐怖』であったがゆえに。

ギーシュは決闘後、すぐさま医務室へと担ぎ込まれた。
全身至る所の骨をへし折られた、その凄惨きわまる有様に、治療担当のメイジは最初言葉を失ったが、長時間の治療の末、最終的には「元に戻る」と請け負った。
(だとしても、当分はベッドの上から動けない事には違いないが)

それは、骨折の大半が非常に『綺麗に』折られていたというのが大きい。
(治療を行ったメイジは後に「治るように折ったのか?」と首を傾げる事となるが・・・まぁ、それはまず間違いなく偶然であろう)

加えて魔法による治療効果の高さもある。
メイジのランクにも依るとはいえ、なるほど術者の精神力と幾ばくかの薬のみでこれほどの効果が生まれるならば、医療―――――ひいては科学技術の発展速度が非常に緩やかだとしても、不思議ではない。

とはいえ、その魔法も無論万能ではない。専門のメイジが精神を振り絞るだけでなく、目が飛び出るほど高価な秘薬を、「どさどさ」か「じゃぶじゃぶ」という擬音でも付きそうなほど使用して、ようやく完治の目処が立ったのである。

ちなみにこの秘薬の代金について、ギーシュとその元恋人のモンモランシーという女生徒、そして責任を感じたルイズの3人には、頭を抱えてしまう事態が降りかかるのであるが・・・それはまた別の機会に語ろう。

さて、それはともかく南雲である。決闘後、生徒はともかく、教師達からはこれほどの行為を働いた自分に対し、何らかの動きがあるだろうと南雲は思った。
今現在の精神状態は『落ち着いている』とはいえ、拘束や、もっと直接的に『報復』といった手段に出るというなら話は別である。素直に従う気など無い。

それゆえ南雲は一旦学院の敷地内から出て、すぐ近くの雑木林へと向かった。尾行の類が無いのは確認してある。
木の陰に身を隠しつつ学院の出入り口を観察し、向こうの出方を伺うつもりであった。

だが日が傾いても、また日が暮れて夜に入っても、学院から追っ手らしい人間が出てくる様子は無い。

これには南雲も意外の念を持たざるを得ない。
では明日か、とも思ったが、南雲の姿が消えている事が分かれば、逃がしてなるかと躍起になって追いかけるのが普通ではないだろうか。

分からぬ。少なくともここに居ては、これ以上は何も。
ゆえに南雲は移動を開始した―――――学院へと戻る為に。

警戒は怠っていないとはいえ、この状況で自ら戻るとは・・・?
この男の、すなわち超人の精神というのも、およそ常人では推察すら出来ぬ構造となっているのに違いなかった。


戻って後。結論から言えば、教師達を筆頭にメイジが群れを成して襲い掛かってきた―――――というような事は全く無かった。
時折擦れ違う貴族から、恐怖やその他諸々のこもった視線は向けられるが、逆に言えばそれだけである。
今後それとなく監視の目くらいは付けられるかもしれぬが、少なくとも南雲に対し何らかの直接的なアクションを起こすという事は、教師・生徒に関わらず無いと見て良さそうだ。

随分と寛容―――――というより、甘い対応である。
これは南雲も知らぬ事であったが、教師達には当初から南雲を捕らえて云々という考えは極めて希薄であった。
決闘の舞台となったヴェストリの広場には、結構な数の教師達が来ていた。
彼らは例外なく感じ取ったモノは、冒頭で書いた通り―――――真の『恐怖』であった。

その教師達、または生徒達が語る、貴族を貴族と―――――否、『ヒト』を『ヒト』とも見ていないとしか思えぬ凄絶さ。

話半分では到底すまされぬ、ギーシュ・ド・グラモンの負傷。
蹂躙を、あそこで止めたのは何らかの気まぐれにすぎないのではあるまいか―――――。
メイジだからといって戦闘経験のある者ばかりではない。
それはもう仕方が無いが、経験のあるメイジまでもが「おお、始祖ブリミルよ・・・」と思わず祈りを口にするのだからどうにもならない。
(教師が荒事慣れした人間ばかりでも、それは問題だろうが・・・)

結局、学院長から出された、
「当人が決闘つってたことじゃし、この件はこれで終わりじゃ。彼にはわしの方から話をしておく・・・まぁその内に」
という通達を受けて、直接的な手段に出るという線は完全に消え去ったのである。

さて、報復が無いのを確認した南雲は、次に厨房へと足を向けた。あの後のシエスタのことが気に掛かったのである。
あるいはこの一事こそが、南雲の足を再度学院へと向けさせた要因なのかもしれぬ。

確認しておかねばならない―――――たとえ自分を『恐ろしい』と思っているのだとしても。
厨房に入る寸前、僅かに・・・ほんの僅かに、歩む足が停滞する。

すぐに振り切った。

直後厨房へ足を踏み入れた南雲に向かって放たれたのは―――――これまたなんとも意外な物である。

天井を突き破らんばかりの、大喝采であった。

「おおっ、来たか秋人!どこに行ってたんだ全く!こっちは昼間からお前の話で盛り上ってたってのに!なぁお前ら!」
抱きつかんばかりの様子で近づいてきたマルトーが振り向いて問えば、見習いや若いコック達が「おお!」と応じる。

高揚と熱気が厨房を満たす。微かに眉根を寄せた当の南雲が、一番この場の雰囲気にそぐわなかった。

「聞いたぜ、シエスタを庇って貴族と決闘して―――――それで、勝っちまったんだって!?」
「俺の気が済まなかったからやっただけだ。  
 ―――――向こうは子供だ。おまけに酒が入っていた。ついでに言うとやり過ぎたかもしれん。
 褒められるような事じゃない」
「おい、お前ら聞いたか、この言葉!
 貴族達の噂を拾ってみりゃ、ナイフ一本でゴーレムを切り裂いたっていうじゃねぇか!
 とんでもない達人だ!それなのにこの謙虚な言葉・・・お前らも見習えよ!」
「「「もちろんです、親方!」」」


不快なわけは無いが、感嘆を満面に浮かべるマルトー達を見れば、自身の内に違和感が生じ無くも無い。
現場で起こった凄惨な光景と、厨房のこの空気とのズレである。

決闘の現場に居て、一部始終を見ていたなら、評価を変える者も居るかもしれない。
だが、彼らは南雲の鬼気を感じてはいない。全身の骨を折られた、ギーシュの姿も目にしていない。
貴族の生徒達が、親しいわけでもない使用人に、事細かに説明をするわけでもない。

結局伝わったのは、大まかな経緯と「平民(南雲)が勝った」という事ぐらいだ。
ならばその有り得ない快挙に興奮し、こういった騒ぎとなるのも自然ではある。

いや、しかし―――――少なくとも、シエスタから話が行っているのではないか?
彼女は間近で感じた。大海の水の、ほんの一掬いとはいえ、南雲秋人という人間の本質とでも言うべきモノを。

直接見てはいないにしても、決闘がどのようなものとなったか、おおよその想像は付くのではないか―――――?

彼女も厨房の中に居た。南雲と目が合うと、わずかに顔を強張らせ―――――そして、それだけだった。
その後南雲に向ける表情も、
「本当にありがとうございました、秋人さん」
感謝を述べる声の調子も、以前のままであった。

その後、用意された椅子に半ば無理矢理座らされた南雲。
料理と酒が出され、ちょっとした宴へと突入するのであった。


適当なところで南雲は宴を後にした。残念がるマルトー達へ「そちらも、明日は仕事があるのだろう」
と言っては見たが聞くものではない。
飲み明かして、明日の朝には潰れなければ良いが。

また昨日の空き部屋を使うかと思ったが、良く考えてみればルイズの事を今の今まで放置していた事に気づく。
仮にも「護衛(だけは)する」と言った相手である。さすがに、部屋に行って少し話をしておくべきだろう。

「あ・・・じゃ、私の途中まで一緒に行きます。もう休まないと」
シエスタが、明かりを用意して付いて来る。

否やは無い。彼女にも少し訊きたい事があった。

厨房を出る前、顔を赤くしたマルトーが「シエスタに襲われるなよー秋人」と軽口を飛ばしシエスタに怒られていた。割と本気で。


一歩通路に出ると、そこは喧騒の無い静謐な空間である。
2人とも、しばらく無言のまま歩き続ける。
南雲も相当に飲んだはずだが、歩みに乱れは全く無い。

肉体的には生体強化の恩恵のほんの一部であり、精神的には問うべき事が頭の芯に居座って動かないからであった。

「怖くは、無いのか?」
足を止め、南雲は切り出す・・・その問いを口にするには、心中で少なくない葛藤があった。
この腑抜けが、と南雲は心中で自嘲する。今になって恐れるというのか―――――拒絶される事を。

ならば自分にはもはや、バイオニック・ソルジャーたる資格は無い。
いや、あるいは自分はもっとずっと前に―――――

「怖い?」
「俺の事が、だ」

南雲は苦笑を浮かべかける。我ながら歯切れが悪いと言わざるを得ない。

「そんな事・・・」
「食堂でのあの時、君が俺の事を『恐ろしい』と感じたならば、それは正しい。
 俺は―――――そういう人間だという事だ」

出来るだけ淡々と言葉を紡いだつもりであった・・・成功したかどうかは疑わしい。
言葉を乱したとすれば、その感情はいったい何であったろう?

また少し沈黙があった。
シエスタは南雲の顔を・・・そして、目をしっかりと見つめていた。

2人の黒瞳が、交差する。

やがてまた口が開かれる。今度はシエスタであった。

「―――――秋人さんは、すごく強い人なんだって、知りました。
 だから秋人さんが戦おうって時、それは私なんかじゃ受け止め切れなくて、『怖い』って感じる事もあると思います。
 でもそれは―――――『悪い人間で、悪い事をするから怖い』っていうのとは、きっと違うんだと思います」


ありふれた言い方ではあるが―――――問いが同じでも、出す『答え』は、人によって変わるものなのだ。

南雲の「力」を知った者が、恐れおののき拒絶する事もまたひとつの『答え』。

今、南雲秋人について改めてシエスタの脳裏に浮かぶのは、洗濯を手伝ってくれた時の頼もしい姿であった。
自分とマルトーへ向け「ありがとう」と言った時の、あの微笑であった。

食堂で、自分に背を向ける寸前南雲の顔を走った―――――『哀しみ』に似た、あの感情であった。

彼は人間だ。少なくとも自分はそう思う。
彼は知っている。拒絶の哀しみを。たとえ胸に抱えて生きていけるのだとしても、何も思わないわけではない。
ならばなぜ・・・彼は戦った?

『守ろう』としたからだ―――――自分を。
ならば自分がすべき事は?

南雲を拒絶する事か?

違う、絶対に違う。

上手く言葉に出来ぬとしても―――――

「だから―――――そんな風に言わないでください。
 私は・・・南雲さんを拒絶したりしないし、したくありませんから」
「―――――そう、か」

助けてくれた事を感謝し、そして―――――これからも、共に居ようとする事。
それが、シエスタの出した答えであった。

そしてもはや、これ以上の言葉は不要であった。

思いは、一番伝えたい人に確かに伝わったのだから。

「・・・ありがとう」
―――――南雲秋人に。

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