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もう一人の『左手』-07


「だめか……」
 ぼそりと呟くフーケ。
 まあ、ここは仮にも王立魔法学院の宝物庫なのだ。
 王宮ほどでは無かろうが、それでも歴史的にも貴重な“お宝”の数々が貯蔵されているはずだ。
『アンロック』や『練金』ごときで、容易く扉が開くとは思ってはいない。
 だから、彼女は焦らない。
 これでも『土くれ』のフーケといえば、トリステインはおろか、ハルケギニア全土に跨る神出鬼没の怪盗として鳴らしたものだ。
 この程度の警備は何度も潜り抜け、無事標的を手中に収めている。
 焦らず、逸らず、じっくりと機会を待てばいい。なんせ、今の自分は学院長の秘書なのだから。
 フーケは、そう思い、きびすを返した。
 その時だった。

 廊下の窓から、何かが見えた。
 何か、打ち上げ花火のようなものが、深夜の上空に発射されるのが。
 フーケは、上空を見つめるが、煌煌と輝く双月の夜光の中でも、それらしいものは見えない。
 しかし、見えるものもあった。
 月下の中で、それを打ち上げたとおぼしき一人の男。

 ――あれは、確か……ルイズ・ラ・ヴァリエールの使い魔?

 黒革の上下に身を包んだ、長身の男が、そこにいた。

 V3ホッパー。
 仮面ライダーV3が携帯する、超小型の偵察ロケット。
 静止衛星軌道上まで一気に上昇し、そこから捉えた映像を、逐一、正確に、V3に送信する。
 普段は、V3のアンテナを通して送受信が為されるが、別に変身前でもデータを受信する事は可能だ。
 だが、そのホッパーから送られて来た映像は、やはり昨晩からのものと変わらなかった。

 ハルケギニアと呼ばれる地は、衛星軌道上から観測すると、ヨーロッパ大陸に酷似している。
 が、風見志郎にとってそんな事はどうでもいい。
 ここが地球でないことは、彼はもはや歴然たる事実として認識していたからだ。
 彼が見たい映像は、いわゆる、エルフたちが住まうとされている『聖地』の座標だった。
 しかし、見れない。
 昨晩と同じく、分厚い雲が邪魔をして、おそらく『聖地』と思われるポイントだけが、どうしても見ることが出来ない。

 風見が、オスマンから『聖地』の話を聞いたのは、昨日の事だ。
 始祖ブリミルが六千年前に降臨したという、伝説の地。
 しかし、数千年前から、強大な魔力と進んだ技術を持つというエルフ族によって、その地は封印され、何度も“十字軍”が編成されたにもかかわらず、依然として、聖地を奪回するには至っていない。
 現在『聖地』がどうなっているのか、それを知る人間は、ハルケギニアには誰もいないという。

 しかし、話がただそれだけならば、風見はたいした興味も抱かなかっただろう。
 彼からすれば、そんなハルケギニア版“パレスチナ問題”など、まさに関心を抱く価値すらない事だったから。

 だが、オスマンはこう言った。
 エルフたちは、『聖地』を“シャイターンの門”と呼んでいると。
“門”という呼称が、何を意味するのかは、エルフ以外誰も知る者はいないが、それでも風見の表情を動かすには充分だった。
 もしも、その“門”と呼ばれる地が、この世ならぬ地へのゲートを意味するならば……。
 人間たちより、はるかに優れた魔力と文明レベルを誇るというエルフをして、敢えて封印せざるを得ない“門“。
 ――希望的観測を抱くには、充分すぎる情報だ。
 風見は、オスマンに礼を述べると、その地の場所を聞き、早速V3ホッパーによる観測を実施した。
 が、……結果は芳しくない。
 ホッパーの性能をしても、この積乱雲と見紛う分厚い雲を、透視する事は出来なかったからだ。

 偶然ではない。
 明らかにこれは、エルフたちが意図して行っている、上空からの監視対策であろう。
 しかし、この世界が、いかに魔法という非常識な神秘に包まれていると言えど、まさか気象まで自在に操作するほどの力が、彼らにあるというなら、――ここは、自分が想像したよりもはるかに、恐ろしい世界なのかも知れない。
 それほどのエルフが、敵に回ったら。
 それほどのエルフに、命を狙われたら。
 俺は、V3に変身すべきなのだろうか。変身せずに戦えるのだろうか。
 その思いは、風見を慄然とさせた。


 月光が眩しい。
 ハルケギニアは月が二つある。
 あの月が、仮にフォボスとダイモスであるとしたなら、ここはテラフォーミング終了後の超未来の火星ということになる。
 なら、地球はどこだ? ホッパーの性能なら、ひょっとして観測が可能かも知れない。
 そう思って、風見は苦笑した。
 未来の火星に移住した人類が、科学を忘れ、技術を失い、六千年にもわたる停滞した封建世界の中に生きている。
 ――真顔で考えるには、あまりにも馬鹿馬鹿しい発想だった。

 風見は、ホッパーからの受信回路を切ると、歩き出した。ここでは月光が明るすぎて目立ちすぎる。
 先日、例の決闘騒動のあったヴェストリの広場。そこで彼は足を止めた。
 左手を見る。
 やはり、そのルーンからは、止めどなく“力”が流れ込んでくる。
 風見はその左手を握り締めると、目を閉ざし、周囲の気配を読んだ。

 ――誰も、いない、か……。

 そう見極めると、風見は全身の力を解放した。
 革ジャンの腰部に、忽然と現れる変身ベルト“ダブルタイフーン”。
「ぬぅんっ!!」
 左腕と右腕を、まっすぐ右横に伸ばす。
 そのまま両手を頭上までゆっくりと回転させ、左肘を腰に、そして右腕を左斜め上方に伸ばす。

 その瞬間、ダブルタイフーンが回転を開始し、その風車のエネルギーが、彼の姿を“戦闘形態”へとチェンジさせる。

 そこには、トンボをモチーフにしたという、異形の者が立っていた。

 風見志郎――V3は、ゆらり、と振り向いた。
 そこには、学院の敷地をぐるりと囲む形で、城壁のような高い塀がそびえている。

 走った。
 飛んだ。
 塀を飛び越え、――物凄い勢いで、V3の眼前に大地が迫ってくる。着地と同時に、また走り出す。
 瞬発力・跳躍力ともに、以前とは比較にならない。
 着地の衝撃を殆ど感じなかった事から、恐らく筋力も相当アップしているはずだ。
 身体能力の上昇値は、おそらく3割から5割。いや、もしかするとそれ以上かも知れない。
 ルーンの光が、白い手袋を通してさえ見えるほど輝いている。
 流入してくるパワーも、変身前と比べて段違いだ。
「トゥ!!」
 十二分に加速をつけ、再び跳躍する。
 そのスピードとパワーを右足に乗せ、大地に叩きつける。

 V3キック。

 爆発音が響き、その威力で、地面が直径十数メートルにわたり、クレーター状にえぐれてしまう。

 ――これは、異常だ。

 V3は、そう思わざるを得ない。
 身体能力が5割増しだとしたら、技の威力は5倍増しといったところか。
 だが、これは単純に喜ばしいだけの事態ではない。
 スペックが上がるという事は、ボディにかかる負担もまた倍増するという事だ。
 この地での文明レベルから鑑みて、再改造など、逆立ちしても不可能である以上、解決策は二つしかない。
 肉体に負担をかけない力加減を覚えるか、もしくは急激な身体機能の向上に耐えられるだけの基礎体力の強化を、一からやり直すか。


「なんなの、アレ……?」

 フーケは体の震えが止まらなかった。
 いま、彼女は数十メートルはあるゴーレムを錬成し、塀の上に立ち、月下の草原を走り回る“ばけもの”を見ていた。

 男が、――いや、ラ・ヴァリエールが召喚した者たちが、ただの平民でないことは聞いていた。
 ドットクラスとはいえ、魔法も使わずメイジと決闘し、なんと複数の、しかも金属製のゴーレムを剣で斬り捨てたという、一流傭兵並みの剣士。
 いずれは、情報を集め、金になるかどうか、利用価値があるかどうか確認するつもりだった。
 だから、男を尾行した。
 彼女クラスの盗賊ならば、自分の気配を絶つことなど、さしたる難事ではない。
 そして、……彼女は目撃してしまったのだ。
 ヴェストリの広場で、奇妙なポーズとともに『正体』をあらわした怪人の姿を。

 しかし……しかし、これは一体、どういう悪夢だ!?
 あの男は人間ではなかったのか!?
 しかし、あんな奇妙な姿をした亜人は見たことも無い。
 あの昆虫のような顔といい、パワー・スピードといい、どう考えても人間ではない。いや、おそらくは亜人レベルですらない。
 フーケは、ヴェストリの広場で、腰を抜かすほどのショックを受けながらも、それでも呼吸を乱さなかった自分に、拍手を送りたいとさえ思った。
 もし、男が変身直後に、自分の『正体』を見られた事に気付いたら、あの場でひねり殺されていてもおかしくは無いのだ。
 いや、それは何も、あの場だけの話ではない……?




 その瞬間だった。

 フーケは気付いた。
 それまで、まるで自分の身体を試すように、走ったり飛んだりを繰り返していた『ばけもの』が、自分の視界から消えているのを。
 そして、それと同時に、背後から感じる、刺すような視線を。

 フーケは振り向く事が出来なかった。
 何故逃げなかったのだろう。
 ヴェストリの広場で、男の『正体』を見た瞬間、いや、男が自分に気付かなかった瞬間に、逃げ出していれば、こんな事にはならなかったのだ。
 この『生物』が、一体何をしようとしているのか、見極めようなどと好奇心を起こさなければ、今この瞬間に、無防備な背後を『ばけもの』に取られるなどという事態は無かったはずなのだ。

 フーケは、激しい後悔とともに、振り向いた。
 可能な限り、ゆっくりと。

 男は、いた。
 いつの間に移動したのか分からないが、ゴーレムの右肩に屹立し、こっちを見下ろしている。
 その姿は、人間の姿に戻ってはいたが、その凄みのある双眸から放たれる眼光は、まさに物理的なまでの恐怖を彼女に与えた。


「貴様……見たのか……」


 フーケは笑った。
 骨が鳴るような震えとともに、止めどなく流れる涙とともに、しかし彼女は、自分が笑っていることも、泣いている事も、震えている事も気が付かなかった。
 そして、全ての感情が恐怖で麻痺した時、彼女の胆(はら)は、奇妙なほど座っていた。


「……へへ、そりゃあ、……あんだけ派手に、やられちゃあ、ねえ……」


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