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第五部 第四話 『乙女達』 上



 時速200kmを超えるゼロ戦の翼に、2体の人形が片膝をついている。
 紅い光に包まれる人形が、金色のツインテールをなびかせる。
 緑の光に包まれる人形が、茶色のツインテールをなびかせる。
 荒れ狂う暴風の中、まるで当たり前のように翼の上にいる。
 ゼロ戦の前には、60騎以上の火竜騎兵がいる。

 竜騎士の後ろにはアルビオン艦隊。中型以上の10隻が、全くの無傷。
 ゼロ戦の後ろにはトリステイン艦隊。小型旧型も含めて10隻が、既にある程度の損害
を受けている。
 そして双方とも焼き討ち船4隻を従えている。


「・・・つまりは『ゼロ』が、少女と少年の操るたった一騎が、竜騎士の大群を相手にし
ている間に、我らがあの艦隊を倒せばいいのだな」
「ヤツらは『ゼロ』の力を見てます。既に士気は挫かれているでしょう。艦艇数も同数、
背水の陣で決死の覚悟を持つ我らにこそ、勝ち目はあります!」
 ラ・ラメー伯爵の皮肉と自嘲混じりな現状分析を、フェヴィスは最大限に前向きに解釈
した。
「ふふふ、そうだな。少なくとも、最初よりは随分と彼我の戦力比は縮まった、と見るべ
きだろう」

 目の前では、ゼロ戦から放たれた赤い竜巻を、火竜達のブレスが焼き尽くした。直後に
軽快な発砲音が響き渡り、ゼロ戦の機首から火が噴きだした。
 伯爵は高々と右手を挙げる。
 そして、アルビオン艦隊へ向けて力の限りに振り下ろした。
「全艦前進!最大戦速!!女子供に遅れを取るなど、貴族の名折れぞっ!!」

 双方の焼き討ち船全てが、敵に向けて炎をまとい特攻をかける。うち数隻が衝突し、爆
炎をあげて破片と煙を空域にまき散らす。
 その炎と煙を突き抜けて、トリステイン艦隊はアルビオン艦隊へ疾走した。



―――戦いは、両艦隊の砲撃戦へと移行した。
 圧倒的戦力、聖地回復という大義、しばしの休暇を得ていたとはいえ、長い内戦で厭戦
気分が現れていたアルビオン軍。対するトリステインは劣勢ながら、首都決戦という背水
の陣にて決死の覚悟で臨んでいる―――



「右から三騎っ!」「くぅっ!?」
 デルフリンガーの声にスロットルレバー全開、加速して火竜のブレスを回避。一気に戦
闘空域を離脱して急上昇をかける。
 真紅の放つ薔薇がゼロ戦の周囲に広がり、失速反転した機体と共に急降下を始める。
 照準器には、1騎の竜騎士が入っている。

「行くわよっ!」「おぉっ!」
 真紅のかけ声に、7.7mm機銃が火を噴く。機銃弾を全身に受け、竜も人も力尽きて墜
落していく。
 そして真紅の薔薇はゼロ戦の進路全域に広がり、小さな刃物となって、付近の竜とメイ
ジに大量の傷と痛みを与え、魔法やブレスの射程への接近を阻む牽制となる。

 急降下で竜騎士達の下をくぐろうとした時、一騎の火竜がゼロ戦前方で口を開けて待ち
構えていた。紅蓮の炎が機体の進路を塞ぐ。
「させんですぅっ!!」
 翠星石の如雨露が放水、炎を相殺した。ついでに近くの敵艦へ、思いっきり水を撒く。
 次の瞬間、戦艦は船底から舷側までツタを生やした。大砲の射線を塞がれ、左右のバラ
ンスを崩して傾き、船底に穴が開き、一時戦闘不能に陥る。
 ツタを排除してバランスを取り、射線を戻すまで、トリステイン艦から砲弾を散々に撃
ち込まれ続ける。



―――『魔力を使い果たした』と思われていた鉄の鳥は、確かに急降下時に見せた大火力
は失った。だが、いまだに風竜並みの高機動と、ハルケギニアではありえない長射程の連
射銃を二挺も有している。しかも、カミソリのごとき薔薇の花弁を雲の如くまとい、近づ
くことも追う事も出来ない。おまけに、ゼロ戦から撒かれる水が生やす植物が、アルビオ
ン艦の行動を阻害する。
 天下無双のアルビオン竜騎士も、ゼロ戦の前では機銃の的にしかならない。竜騎士達は
ゼロ戦と正面から戦う愚を、仲間達の死をもって思い知らされた―――



「やっぱり、風で水が散って、いつもの威力が出ンですぅ」
 左翼の翠星石がぼやく。
「薔薇も同じよ。おまけに、あの火竜のウロコはとても固いわ。致命傷を与えるのは難し
いわね」
 右翼の真紅も忌々しげに頭上の竜騎士を見上げた。
「大丈夫!機銃なら、なんとかダメージを与えれる!危ないからゼロ戦から離れるな
よ!!」
 ジュンは操縦桿を引き、急降下で地上すれすれまで離脱したゼロ戦を、炎上する街の煙
に隠して上昇させる。

  つっても、一騎倒すためにこんだけ撃ちまくってたら、弾が全然足らないや。第一、
 気になるのは…
 ジュンが視線をチラリと左手へ移す。包帯の下のルーンが、光を放ち続けている。


 ゼロ戦は再び遙か上空まで上昇、反転して竜騎士へ機首を向ける。
「2騎が戦艦を襲ってるわっ!!」
 ルイズの叫ぶとおり、二騎が艦隊前方の戦艦へ上からブレスを放っていた。帆が燃やさ
れ、甲板に向けて騎士も『ファイア・ボール』を撃つ。甲板上にいる数人のメイジが氷の
矢を放って応戦、『エア・シールド』で炎を防御する。
 その船の横っ腹にいきなり大穴が開いた。敵艦の砲弾が命中したのだ。大穴からは煙も
上がる、火災が生じたらしい。



―――戦闘空域全体を見れば、ゼロ戦が火を噴くたび、火竜が確実に1騎減っていく。だ
が、その間に砲撃戦で必死なトリステイン艦隊は、竜騎士にも襲われる。
 竜騎士達は既に散開、トリステイン艦隊へ目標を移していた。太刀打ち不能なゼロ戦を
相手にせずとも、艦を全て落とせば勝利出来るのだから。何より、トリステイン艦に接近
していれば、同士討ちを恐れるゼロ戦の機銃を避けられるから―――



「くそ!デル公っ!?」
「俺たちゃ竜騎士に集中するんだ!!余計な事は考えるなっ!
 一撃離脱を忘れるなよ!あんな砲弾と魔法が飛び交う中でちんたらしてたら、流れ弾喰
らって終わりだぜっ!」
「ぅううおおおおおっっ!!」
 ゼロ戦は、再び紅い薔薇の雲をまとって、戦艦へ向けて急降下を開始した。


「艦長ぉっ!『ゼロ』がぁっ!」
「やったっ!竜が逃げていくぞっ!!」
 船員達の目に、ゼロ戦の接近に気付いた竜騎士が、慌てて艦の陰へ隠れていく姿が映っ
ていた。
「副長!消火急げっ!!左舷砲撃戦準備だッ!9から15までは散弾込めぇっ!!」
 艦の左前方から、敵艦が急接近しつつあった。そして急速に右へ回頭、左舷の砲列を向
ける。同時に艦長も面舵を指示し、艦を右へ向けて大砲を敵に向ける。散弾を込められた
大砲は、射程に竜騎士が入るのを待ち構える。
「撃てぇっ!!」
 そして甲板上でも、メイジ達が杖をふって魔法の矢を、炎の塊を、フリント・ロック銃
の弾が届く距離でもないのに銃まで撃ち合っている。



―――両艦の間を大量の鉄の塊が、魔法が、騎士とゼロ戦が高速ですれ違う。全ての艦は
舷側が穴だらけになっていた。敵味方とも、無傷の艦は一隻もいない。
 確かにゼロ戦の速度と射程は竜騎士を遙かに上回る。だがそれでも、戦闘空域全体に散
る竜と戦艦を相手にするには、一機では足りなかった。一隻を助けに向かう間に、他の艦
が竜騎士に襲われる。
 また、機首7.7mm機銃は小銃の弾とほとんど変わらない。そのため、火竜の固い鱗を
貫くのがやっとだった。また、火竜は巨大なため、小銃の弾で戦闘不能なまでのダメージ
を与えるのが困難だ。このため、ジュンは騎士をのみ正確に狙わねばならなかった―――



「砲術長!りゅ、竜がぁ!!」
 『メルカトール』号の舷側に取り付いた火竜の首が、大砲が突き出る穴に向けて口を開
ける。平民の砲手は、手に持っていた火薬壷をそのまま投げつけた。
  ドンッ!
 ブレスを放った火竜のすぐ近くで火薬が爆発、火竜の頭を吹っ飛ばした。同時に、投げ
つけた砲手と大砲と砲術長も、舷側ごと吹き飛び、黒こげの肉片となって消えた。
 火竜に乗っていた騎士は『フライ』で飛び、火を噴く舷側の大穴に満足して近くの味方
まで下がろうとした。
  ボンッ!
 空気の塊が騎士を襲い、その体を舷側へ叩き付ける。騎士は衝撃で杖を落とし、地上へ
落下していく。
 舷側の上から震える手で杖を向ける、血まみれのマリコルヌとスティックスがいた。


「ぐふぅぉ!げふ・・・フェヴィス艦長ぉ!もう、だめで、す!!待避命令を!!」
 既に火が、魔法でも消せない勢いになった艦では、ブリッジも煙が充満していた。艦長
は歯ぎしりを響かせて、正面の大型戦艦を睨み付け続けている。
 代わりにラ・ラメーが指示を飛ばす。
「やむを得ん…副長、総員待避指示を。メイジは平民の乗るボートに『レビテーション』
をかけ、牽引しつつ速やかに『フライ』にて地上へ降下せよ」
「はっ!」
 副長は乗員達に退避命令を飛ばし、伯爵と共にブリッジを出ようとした。だが、その足
を止めて振り向く。そこには、動こうとしない艦長がいた。
 副長が足を引きずって駆け寄ってきても、視線をずらさない。
「何をしている、早く待避せよ」
「艦長も!早く!!」
「私には、最期にやる事がある」

 フェヴィスの視線の先には、アルビオンの戦艦がいた。

 その姿に、伯爵も駆け戻ってきて艦長の肩を掴む。
「よせ!待避せよ、これは命令だっ!!」
「いえ、艦長としての責務です。貴族の名誉を、トリステインを守るために」
「忘れたのかっ!?レコン・キスタが自壊する日まで、我らは地に伏して反抗の時を待た
ねばならんのだぞ!」
「!!、く・・・」
 フェヴィスが一際激しい歯ぎしりを響かせる。唇の端から一筋の血が流れる。
「トリステイン貴族として、最後まで生きて戦うのだ」
「・・・はっ!」
 フェヴィスを伴い甲板に出ると、皆大慌てで脱出準備をしていた。

 脱出艇が離れると同時に、戦艦は急激に高度を下げ、炎を上げながら街へと墜ちていっ
た。


―――ゼロ戦の支援を受け、トリステイン艦隊は善戦した。しかし、それでも損害は大き
かった。『メルカトール』号のみならず、他の艦も次々と炎を上げて墜落していく。そし
て、決死の反撃を受けるアルビオン艦隊からも、墜落する艦が現れ始めた。
 艦隊が落とす火の粉、砲弾、破片、死体、そして燃えさかる艦が街に降り注ぐ。火災は
既に下町も邸宅も区別無く、トリスタニアの1/2を焼きつつあった

 その街の中を城へ向けて、アルビオン陸戦隊5000人が火を避けて進軍していく。そ
の真上には浮遊砲台と『竜の巣』号が浮いている。
 もはやアルビオンには竜騎兵も衛士隊もおらず、敵艦隊も遙か彼方で苦戦中という事も
あり、十数騎の竜騎兵は索敵の数騎以外『竜の巣』号にて翼を休めている―――



「閣下、何も・・・いません。周囲に敵はおろか、罠すらありません」
 大勢のメイジに囲まれて前進する一団の中心に、不審がる護衛からの報告を受けるホー
キンス将軍がいた。
 隣の太ったメイジに話しかけながらも、将軍の目は遠くの城を見つめる。
「もしや、全軍で籠城する気かな?ホレイショ、どう思う?」
「私なら、城までおびき寄せて、別働隊と挟撃・・・という所なのだがな」
「上空からは、城の周囲にも、どこにも全く敵は見えない、との事だよ」
「ふぅ~む・・・まあ、城に旗を掲げないと勝利した事にならないんだからな。行くしか
ない」
「まぁ、そうだね。ともかく奇襲に気をつけて、慎重に行こう」
 陸戦隊と浮遊砲台の列はゆっくりと、遠くに見える城まで進軍を続けている。




 次々と墜落していく艦と竜、炎上する街を遙か遠くの林の中で見つめる人物がいる。彼
等、一人の女性と二人の小さな少女は、ひときわ高い木の梢から、大きな望遠鏡で戦況を
見つめ続けている。

『うわああ!ダメっ、ジュンジュン!逃げて、上よっ!!』
 草笛みつが、手に汗を握りながらゼロ戦へ声援を送っていた。
『船が、船がどんどん墜ちていくのかしらーっ!あーっ!!もう、見ていられないわ!ゴ
メンみっちゃん、あたしも行くわ。ピチカート!』
 金糸雀が人工精霊を呼び出し、ヴァイオリンを手にした。
『バカ言ってンじゃないわよぉ!忘れたの?あたし達の存在は、このハルケギニアの、誰
にも知られちゃいけないのよ!今、ここでこうしているだけでも、とてつもなく危険なの
よぉ!?』
 水銀燈は乱暴に金糸雀の肩を掴み、必死に押さえつける。だが、叫んでいる水銀燈自身
も必死の形相だ。
『あ、あああ、ぎゃあーーーーーーーっっ!!』
 草笛の悲鳴に、二人も上空を見上げる。そこには『メルカトール』号からの脱出艇と、
それを襲おうとする竜、さらにゼロ戦が急速に接近しようとする姿があった。





 『メルカトール』号からの脱出艇はメイジ達に守られ、地上へと降下を続けている。だ
が、それは竜騎士には格好の標的だ。脱出艇に『レビテーション』をかけていたり、脱出
艇に入りきれず『フライ』を使っていたメイジは、他の魔法が使えない。このため、攻撃
を避ける事も反撃する事も難しいのだから。
 一騎が脱出艇に気付き、急降下で迫っていた。そして、ゼロ戦からもその姿は見えてい
た。一機と一騎と一艘は、急速に相互の距離を縮めつつある。

 周囲を飛んでいたメイジ達が逃げまどう。
 火竜が口を開き、紅蓮の炎を吐き出そうとする。
 脱出艇に乗っていたメイジ達が『エア・シールド』『ジャベリン』を詠唱する。
 ジュンが火竜に乗る騎士を照準器に入れる。

  ドゥッ!

 何かが吹き飛ぶ音がした。
 だが、まだメイジ達は魔法を放ってはいない。
 火竜もブレスを吐いてはいない。
 ゼロ戦も機銃を撃ってはいない。
 音は、ゼロ戦の尾翼と、右昇降舵からしていた。

 メイジ達も、騎士も、火竜も見た。
 尾翼と右昇降舵が吹き飛び、きりもみをしながら墜ちていくゼロ戦を。
 『メルカトール』号を撃沈させた戦艦からの散弾が命中したのだ。


「や・・・やった!?当たったぞっ!!」
「ほ、砲術長!やりました、さ、さすがですよ!!」
「な!?言ったとおりだろぉが!!あいつらは絶対、あのボートを助けに行くって言った
ろうがよぉ!!」
「お見事です!大戦果ですっ!!勲章モノですっっ!!!」
 戦艦の中ではアルビオン士官達が手を取り合い、大砲を囲んで万歳を叫んでいた




 回転しながら墜落するゼロ戦。火が吹き出し、煙の尾をひいている。座席の後ろではル
イズがデルフリンガーを抱いたまま、機体の中で振り回され打ち付けられる!
「きゃああああーーー・・・!」「ジュンッ!!逃げるですぅ・・・」
 翼に取り付いていた薔薇乙女達も遠心力で遙か遠くへ跳ね飛ばされる!
「うぅおお!!!」
 ジュンは腰のナイフを抜いた。キャノピーのガラスに突き立て、一気に割り大穴を開け
る!
「ルイズッ!!」「ジュンッ!!」「飛べぇっ!!」
 ルイズが必死にジュンの腕にしがみつく。同時にジュンはナイフで腰と両肩のベルトを
切り、操縦席から宙へ飛んだ。

 ルイズの長いピンクの髪が、マントが突風を受けて上へ伸びる。
 落下しながらも、ジュンはルイズの体をしっかりと抱き寄せ、デルフリンガーのベルト
に腕を通す。
 二人はしっかりと互いを抱きしめながら、真っ逆さまに落ちていく。
 ゼロ戦は、郊外の森へと落ちていった。



「上だっ!!」
 デルフリンガーが叫び、ジュンとルイズは上を見た。
 そこには、ボートを無視して二人へ向かって急降下してくる竜騎兵がいた。
 竜が大きく口を開き、騎士は杖に雷をまとわせている。
「つっ杖を!」「くぅっ!?」
 ルイズは慌てて胸元から杖を抜こうとし、ジュンは握っていたナイフを竜の口へ投げつ
けた。
 だがルイズの杖は、二人がしっかりと抱き合っているがため、胸元から抜き出せない。
ジュンのナイフは、強風の中でも竜の口に向かって飛んだ。しかし、竜の牙に弾かれてし
まう。
「ホーリエッ!」「スィドリームぅっ!!」
 体勢を立て直した真紅と翠星石が、慌てて人工精霊を放つ。だが、間に合わない。


 竜の牙と、騎士の雷が、二人を貫き――――


 だが、二人は貫かれなかった。

 代わりに、火竜の頭が『ブレイド』を付与された杖に、後頭部から下顎まで貫かれた。
 騎士は、首が無かった。

「「なっ!?」」
 二人は、火竜の更に後ろから、突然急降下してきた人物を見た。
 一瞬で背後から騎士の首を切り落とし、竜の後頭部に杖を突き立てていたのは、不適な
笑みを浮かべる男。

 ワルドだ。

 ワルドは、跳ね飛ばされた真紅と翠星石が二人の元へ飛んで戻ってくるのを確認する。
そして
「借りは返したぞ!」
 と叫ぶや、ボンッ!という破裂音と共に、その姿はかき消えた。


「大丈夫!?二人とも」「はぁ~危なかったですぅ」
 真紅はジュンの手を、翠星石はルイズの手をつかまえ、ようやく二人は落下速度を下げ
る。
 そして四人が空を見上げると、そこには巨大竜巻があった。『メルカトール』号を撃沈
しゼロ戦を落とした戦艦は、竜巻に飲み込まれていく。帆を引き裂かれ、マストがへし折
れ、渦の加速に船体がきしみをあげて歪んでいく。
 戦艦が、折れた。
 竜巻が生む加速に、戦闘でダメージを受け続けていた船体自体が耐えきれず、真ん中か
ら裂けたのだ。そして周囲の竜騎士も数騎、巻き込まれ吸い込まれていく。

 一騎のグリフォンが竜巻から離れ、トリステイン艦隊の後方へと飛び去っていくのが見
えた。



「艦長!あれは、あのグリフォンは、まさか!?」
「あれは・・・間違いない!ワルド子爵だ!!生きておられたか!!」
 ワルドが駆るグリフォンは、あちこちから煙を上げつつも、未だ無事に健在だった唯一
の艦『イーグル』号の甲板に降り立った。そして飛来してくる火竜騎士へ杖を向ける。
「『ウインド・ブレイク』!!」
 ワルドが放った風は、火竜のブレスを押し返すほどの暴風。跳ね返された火炎に騎乗し
ていた騎士自身が巻き込まれ、炎に包まれ悶え苦しみ、竜から落ちる。主を失った火竜は
憎々しげに唸り声を上げ、飛び去っていった。


 岩をも溶かす火竜のブレスを跳ね返すワルドの魔力に、ブリッジのウェールズも感嘆を
禁じ得ない。
「ふはははっ!さすがは風のスクウェアだっ!パリー、どうやらこの戦い、まだ分からん
ぞ!?」
 隣にいるパリーも、力一杯に何度も頷く。
「ですなぁ!見たところ戦艦の数は、アルビオンが7,トリステインは6。竜騎士がまだ
かなり残っていますが、なぁに!どっちも既にボロボロですからな、ここからは気合いの
勝負ですぞ!!」

 そんなウェールズ達の姿は、甲板のワルドからも見えていた。ワルドの参戦を素直に喜
び、気勢を上げる船員達を横目に、ワルドは一人、皮肉っぽく笑う。

  …やれやれ、だ。まさか裏切ったはずの国に戻り、暗殺するはずだった相手と共に、
  仲間になるはずだった組織相手に戦う事になるとはなぁ。世の中はわからんものだ。

 そんなワルドの独り言を聞く者はいなかった。いるのは、結局自分で味方に選んだ背中
の人々と、敵に選んだ目の前の艦隊と竜騎士達。
 風のスクウェアが唱えるルーンは、空域を揺るがす程の魔法を生み出しつつあった。




 ゆっくりと降下していくルイズ達四人は、だんだんと降下速度を上げつつあった。
「ちょ、ちょっとスイ、早いんじゃ、ない?」
「あううぅ~、重いですぅ~」
「しっ失礼ね!あたし、そんなに重くないわよ!?」
「そうじゃ、なくて、ですねぇ~」

 翠星石の体を包む緑の光は、だんだんと力を失いつつあった。真紅の赤い光も、おぼろ
げに薄くなっていく。

 ルイズがタラ~リと流した冷や汗は、風に飛ばされ宙に消える。
「えと、まさか、もう、魔力切れ?そんなっ!?」
 ジュンの手を握る真紅が、苦しげに顔を歪めながら呻くように答える。
「ルイズ。ガンダールヴの力、あたし達3人で、使って、いるのよ・・・」
 当のジュンは、呼吸も荒く大汗をかいている。
「そ、そうだ、から…僕ら3人が、フルパワーで、使い続ければ・・・あっという間に、
エネルギー切れ!!」
「おおおでれえたああーーーっっ!!」

 言ってる間に、どんどん降下速度は、というより落下速度は上がっていく。

「キャー!待って!待って耐えてえーっ!!せめて、あの屋敷の庭まで耐えてええー!」
「やってるですよっ!やってるですから、暴れないでぇ!!」

 ルイズ達は街はずれの、一番風上にあったため燃えずに済んだ屋敷の前に着地、という
より落ちた。




「はあっはぁあっふぅはぁぁっ、はぁああ~~・・・。だ、ダメだ、もう、動け、ない」
「まぁ、なんとか無事に降りれたようだわな」
 ジュンは地上に降りるやいなや、ひっくり返って倒れてしまった。慌ててルイズが駆け
寄る
「ジュン!大丈夫!?」
「僕は、だいじょう、ぶ・・・しぃ、真紅と、翠星石は?」
「ダメ、ね・・・もう、倒れ、そう」
「ここは、危ない、です・・・家に、入ら、ない、と・・・」
 真紅と翠星石も、地面にうつぶせで倒れたまま、起きあがれずもがいていた。
 ルイズは慌ててテラスに向かい、石を投げつけてガラスを割った。そこは立派な天蓋付
きベッド、大きなテーブルを挟んで並ぶソファー四つ、執務用デスクなどが並ぶ、どこか
の貴族の私室らしい。
 真紅と翠星石を抱えて室内に飛び込み、ソファーに座らせる。そしてジュンの肩を支え
て、彼をベッドに寝かせた。デルフリンガーも運び入れて壁に立てかける。

 テラスから上空を見上げると、まだ艦隊戦は続いていた。
 彼等の付近には竜騎士も陸戦隊も、何も見えない。街を焦がす炎も煙も、遙か遠くだ。
戦闘地域から離れた事を確認し、ルイズはようやく大きな息をついた。壁にもたれ、ずる
ずると床に崩れていく。
「お疲れさん。後は俺ッちが見張っておくから、少し休みな」
「そ、そうさせてもらうわ・・・」
 デルフリンガーに見張りを任せ、4人ともそのまま動かない。沈黙が流れる。




「なんとか、助かったわね」
「だな」
 うつむくルイズのつぶやきに、答えたのは長剣だけ。他の誰も答えなかった。

「・・・ねぇ、みんな?」
 ソファーに座る薔薇乙女に視線を移す。だが二人は、まるで眠っているかのように動か
ない。
「ねぇ・・・寝ちゃったの?」
 ルイズは初めて見る薔薇乙女達の姿に、一抹の不安を抱く。重い体を必死に起こし、ソ
ファーへ歩いていく。真紅の頬をペタペタ触るが、何の反応もない。
「シンクも、スイも、どうしたの?ねぇ!?」
「おうおう!?二人とも、どうしたってんだ?」
 慌てて翠星石に駆け寄って体をゆすってみる。だが翠星石の目は閉ざされたまま、ただ
頭がカクカクと揺れるだけ。

「大丈夫だよ・・・エネルギーが切れたんだ」

 ベッドで寝たままのジュンが、ささやくような声を、それでも必死に紡いだ。
「力が切れて、眠っているんだ。大丈夫、ネジを巻けば、すぐに起きるよ」
「シンクもスイも、二人とも、寝てるの?」
「ああ。ネジなら、今ポケットに」

 そう言って弱々しく腕を持ち上げたジュンに、ルイズがゆっくりと歩み寄る。
「二人とも、今は、寝てるのね」
「そうだよ。・・・えと、何?」
 ルイズは、ベッドで仰向けに寝ているジュンのすぐそばまで来た。まっすぐにジュンを
真顔で見下ろしている。
 そして


 ジュンの上に、覆い被さった。
 ルイズの唇が力一杯、ジュンの唇に押しつけられた。


 もはや疲れ果て、まともに腕を上げる事も出来ないジュンの首に、肩に、ルイズの腕が
力一杯からみつく。
 見開かれた彼の瞳には、溢れだした彼女の涙が止めどなく落ちてくる。
 少女の細い足が、少年の足へ愛おしげにすり寄せられる。
 ジュンのこわばる右手に、ルイズの左手が重ねられる。

 二人の指が、しっかりと互いを握りしめる。
 残る互いの腕が、相手の腰へ回される。
 二人の足が絡み合う。
 小さな体が激しくすり合わされ、押しつけられ、互いを包もうとする。

 重なる唇から、二人の唾液が混じり合って溢れ、ジュンの頬をつたい落ちる。
 ルイズの舌が、落ちゆく雫を追ってジュンの肌を這う。
 二人は互いの頬に何度もキスし、優しく耳朶を噛む。
 そして、ルイズの舌はジュンの首筋へと降りていく。

 全身を貫く初めての感覚に、ジュンの頭がのけぞる。
 うっすらと開けられた彼の瞳に、ソファーに座る薔薇乙女の姿が逆さに映った。


 とたんに、彼は真っ青になった。


「ま!待ってルイズさんっ!!ダメ、今は、まずいぃっ!!」
 だが、ルイズは止まらない。彼女の指が彼の服のボタンを
「ごっゴメンんっっ!!」
 最後の力を振り絞り、ルイズの腕を振り払って飛び退いた。

  どてっ
 飛び退きすぎて、床に頭から落ちた。


「どうして・・・どうして、ダメなの?」
 ベッド上のルイズが、哀しみの色を浮かべてジュンを見つめる。
「あ、あの、真紅くくくとと、すいせいせいせい」
「二人とも、今は寝てるんでしょ?」
「そ、そうだけど!」
「だったら、今しかないんだもん。
 お願い、あたしにもジュンのために、何かさせて欲しいの。今、あたしにできるのは、
これくらいしか」
「いっいいい、いや、その、今が、まずいんであって、敵が来るとかどうとか言うんじゃ
なくて、その!!つまりっっ!!!」

 ジュンはよろよろと立ち上がり、ポケットからネジを取り出した。そして、冷や汗をダ
ラダラと滝のように流しながら、真紅の背中の穴にネジを差し込んで、震える手でゆっく
りと回す。
 きりきりと、ゼンマイが巻かれる音が響く。
 ゆっくりと真紅の目が開き


  びったーーーーーーんっ!


 真紅の平手打ちが、渾身の力を込めて、ジュンの頬に叩き付けられた。

「じゅ・・・じゅ、じゅ、ジュン・・・あなたって人は、あなたって、あなたってぇ!!
 あなたって人はあーーーーーーーーーっっっ!!!」

  びしばしぼこすかどこげしょぶかべけどてぴろぽてこき

 真紅の蹴りがステッキが頭突きがツインテールの髪が平手打ちが鉄拳が。
 ジュンを瞬く間にボロボロのズタズタに変えていく。

  はぁっはぁっはぁっ…

 真紅は、自分のミーディアムが、かつて人間だったモノに成り果てたのを確認した後、
じろりとルイズを睨み付ける。
 そのルイズは、あんぐりと開けた口が塞がらない。
「し、ししししシンクぅっ!?」
「るぅいぃずぅ~・・・何、かしら?」
「あ、あああ、あなた、寝てたんじゃ?」
「寝てたわよ!でもね、私達ローゼンメイデンの眠りは、人間のそれとは違う物なのよ。
 寝てても、周囲の状況はちゃんと分かるのよぉっ!!おまけに!あたし達は指輪を通
してミーディアムの心と繋がってるんだわ!!だから、ジュンの思考や感情も流れ込
んでくるのよっっ!!!!」
「なあああーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!」

 真紅は、チラリと翠星石を見る。
 そして、ルイズを見る。ニヤァリと笑いながら。

「ルイズ」
「はっ!?は、はぅい・・・」
「翠星石が、まだ寝てるわ」
「う、うん、寝てる・・・わね?」
「起こして頂戴」
「あうぐぅっ!あ、あたしは、その・・・」
「大丈夫、簡単よ。そこのネジを回せばいいだけ」

 真紅がステッキで指し示す先には、もはや赤いゴミ袋と化したジュンの手から落ちた、
翠星石のネジ。

「薔薇乙女の目覚めは、いわば、ミーディアムにしか許されない行為よ。光栄に思いなさ
い」
「あ、なら、それも、ジュンに」
「生憎と、ジュンはもうネジを回す力も残ってないの」

  どすっ!
 真紅の靴が、何か生物の頭部だったモノを力一杯踏みつける。

「さあ、やって頂戴」
「あ、あう、ううぅ」

 顔を引きつらせたルイズは、恐る恐る真紅からネジを受け取り、震える手で翠星石のネ
ジを回して
「こおおんのぉおおおおおおおおちちちんちくりんわああああああああああああああ」
  びしばしぼこすかどこげしょぶかべけどてぴろぽてこき
 飛び起きた翠星石に、ボコボコにされた。



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