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もう一人の『左手』-06


『ゼロ』のルイズが召喚した、もう一人の“平民”。
 黒革の上下に身を包んだ、目付きの悪い長身の男。
 確かにさっきの、一人目の平民とは、何やら纏う雰囲気が違うが、それでも所詮、平民は平民。
いや、考えようによっては、ルイズを相手に大人気ない真似をするよりは、見世物としては、はるかにマシだろう。――
そう思って、ワルキューレによる攻撃を開始した瞬間、
「――なっ!!?」

ワルキューレは宙を舞っていた。
それも、三つの鉄槐に寸断されて。

ギーシュには、何が起こったのか分からない。
彼がその目に捉えるには、あまりにも、風見の剣さばきが速過ぎたからだ。

 無造作に繰り出されたワルキューレの拳、風見はそれを首を振って躱すと、そのままワルキューレとすれ違うように踏み込みながら、その胴を寸断し、返す刀で、燕返しに戦乙女の首を刎ね飛ばした。

――剣の遊びだ。曲斬りだ。

「ぃぃぃっ!!」
 頭に血が上ったギーシュは、今度は6体ものワルキューレを同時に錬成し、風見に向かわせた。
 それでも、すべての戦乙女を攻撃に差し向けず、2体を自分の直衛につけたのは、軍門の生まれらしい慎重さか、はたまた生来の臆病さ故の思い切りの悪さか、それとも、意識の底ではまだ敵を平民と侮る気持ちがあったのか。
まあ、どっちにしろ関係ない。
 風見に向かった4体のワルキューレは――今度は、剣や槍で武装していたにもかかわらず――風見の振るう剣に、一合すら交わす事無く、叩き斬られてしまったからだ。

 ヴェストリの広場は、再び、沈黙に包まれた。


.
 風見志郎は、そのまま剣を見、そして左手を見た。
 手袋を外していないので分からないが、確実にルーンがまたたいているのが分かる。
 ルーンから、ある種の、熱のようなものが体内に流れ込んでくるのを感じるからだ。その熱は、圧倒的な力となって迸り、まるで身体が羽になったように軽い。
 コルベールに研究室で語った現象が、この剣を握った瞬間、さらに加速したようだ。
 いまなら、例えこの姿のまま怪人を相手にしたとしても、負ける気がしない。
――いや、それだけではない。
 風見は、空手・柔道といった格闘技の心得はある。あるが、剣道の経験は無い。竹刀ならぬ真剣――それも日本刀以外の――を握るなど、今日が生まれて初めてだ。
 しかし、分かるのだ。
 太刀筋、タイミング、力加減……それらを内包した圧倒的な量の『剣技』の情報が、ルーンから、脳に送信されてくるのを感じる。

――これが、先生の言うところの、『ガンダールヴ』の力なのか……。

 そう思った瞬間、さらにルーンの力に対する興味は大きくなる。
 ルーンは、何も剣を持った瞬間から輝き始めたわけではない。その前から光を放っていた。ならば――。

 風見は剣を捨てた。

「なっ!!?」
 二体のワルキューレの陰に隠れていたギーシュが、ぽかんとした声を出す。
 そのまま、目付きの悪い男はこちらを向き、歩き出す。
 決闘の最中とも思えない、まるで散歩のような歩み。

 ギーシュは、一瞬、事態が読めなかった。
 男が、まるで大根でも切るかのような無造作さで、自慢のワルキューレを5体も斬り捨てた。
 それは分かる。
 認めたくは無い現実だが、眼前で起こった出来事だ。認めないわけにはいかない。
 だが、その剣を男は捨てた。
 何故……!?
 いや、その疑問と同時に、疑問よりも先行する形で、その解答が浮かんだ。

――こいつは、剣なしでも僕に、いや、僕のワルキューレに勝てる気なんだ……!!
――お前の実力はよく分かった。分かった以上、もう剣は必要ない。そう言いたいんだ!!

.
 そう思った瞬間、かつて経験した事が無いほどの屈辱が、ギーシュの身を包んだ。
「かかれぇっ!!」
 そう思った瞬間には、ワルキューレたちに号令を出していた。
 貴様はメイジを、貴族を嘗めたっ!!
 そんな激情だけが、彼を支配していた。

 青銅製のワルキューレが、凄まじいスピードで、こちらに向かってくる。
 しかも、その踏み込みには、才人を嬲っていた時のような“遊び”は無い。
 術者のギーシュが、自分に完全な殺意を持ったのだろう。
 そう思った瞬間、風見は、目を閉じていた。
 目を閉ざし、耳を閉ざし、心を閉ざす。
 ルーンに導かれるまま、自分の身体を預ける。
 そして、……。

 ぎぃんっ!! ぎぎぃぃん!!

 金属が金属を切断する、いやな音が広場に響いた。

 風見がゆっくりと目を開いた時、二体のワルキューレは、四つの破片になって、地面に転がっていた。
 風見の手ではない。
 彼は1mmたりとも動いてはいない。結果として、目を閉じ、その目を開いただけだ。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!!」

 苦しげに肺を上下させ、さっき風見が放棄した剣を握る左手は、彼と同じルーンこそ輝いているが、断続的に痙攣を続けている。しかしながら、その眼光に込められた感情は、いささかも衰えていない。
「平賀……!」
 この決闘の、本来の担当者が、そこに立っていた。
 睨むような眼差しと、ルーン輝く左手に握る剣を、ギーシュではなく、風見に突きつけて。


「何やってるんだよ、あんた……!?」
「なに……?」
「あんたは……ヒーローなんだろ……? 仮面ライダーなんだろ……!? あんたの拳は、こんな一般人に向けていい拳じゃないだろう……!!」
「……」
「それに、――それにこれは、おれの、おれたちのケンカだっ!! 頼んでもいねえのに、野暮なまねすんじゃねえっ!!」

.
「どっ、どうなってんの……!?」
 ルイズは自分の目を疑った。

 風見が放棄した剣。それが才人の手元に転がってきた時、瀕死のはずの彼は、イキナリ瞼を開いた。
 そして、まるでゾンビかグールのように、むくりと起き上がったのだ。
 左手にいつの間にか剣を握っていた事も、その手に刻まれたルーンが、閃くような輝きを放っていた事も、ルイズには気にならなかった。
 ただ、信じられなかったから。
 起きれるはずの無い者が起き、立てるはずの無い身体で立ち上がり、そのまま矢のようなスピードで走り出し、――いかなる理由でかは知らないが――瞑目を続ける風見に襲い掛かるワルキューレを、見事な剣さばきで斬り伏せた。
 さらに、その後、この広場にいる全ての者が理解できない罵声を風見に浴びせ、睨み合う。
――ここではない、同じ世界の同じ国を故郷とする、異邦人同士のはずなのに。
――同じルーンを、同じ箇所に刻み付けられた、使い魔同士であるはずなのに。

 が、二人の異世界人の対峙はそこまでだった。
 才人の気力は、今度こそ、そこで尽きた。
 彼は脱力し、くずれおち――風見はそんな才人を抱き止め、抱え上げた。

「――ヴァリエールっ!!」
 風見のその声で、ようやくルイズは我に返った。
「医者だ! 早く医者を呼べっ!! 早く処置をしないと、こいつは死ぬぞっ!!」

.

 瞼を刺す強烈な陽光が、閉ざされた闇の底から、彼の意識を刺激する。

「……ん、んんん……!!」

 才人は目を開けた。
 その瞬間、電流のような激痛が全身を貫く。
 その痛みが、明確に彼の意識を覚醒させる。

――ここは……?

 周囲を見回す。
 自分が、今まで見た事も無いほど豪奢な寝台に寝かされていた事に気付く。
 いや、豪奢なのはベッドだけじゃない。
 素人目に見ても、値段の見当がつかないほどのアンティーク家具が、12畳ほどの部屋に、所狭しと並んでいる。
 才人は、ベッドから降りる。
 包帯だらけの全身がまだ引きつるが、どうやら普通に動く分には、不自由は無さそうだ。
 彼は、そのまま窓を開いた。
 早朝の冷気と、眩しいばかりの光が、火照りの消えない身体に心地良かった。
 しかし、それ以上に、そこから見える風景は、いやでも彼に事実を思い知らせる。

 ここは地球じゃない。日本じゃない。目が覚めたら終わりの――夢じゃない。

「サイト……?」
 振り返ると、寝間着姿のルイズが、ソファから身を起こして、こっちを見ていた。

「よぉ」
「サイト……サイト……サイト!!」
 驚く暇も無かった。
 ルイズが、くしゃりと顔を歪ませると、いきなり胸元に飛び込んで来たからだ。
「ばか……ばか、ばか!! 死んじゃうかと、死んじゃうかと思ったんだからねっ!! 三日も眠りっ放しで、ひとを散々心配させて、『よぉ』って何よ! 『よぉ』って!?」
「ごっ、ごめん……」
「ごめんって、……ばかばかばかばかっ……ばかぁ……っ……ぅぅぅっ……」

.
お世辞にも、分厚いとは言いがたい才人の胸板を、少女は身体を押し付けて、ぽかぽかと殴るが、無論痛みは感じない。むしろ心地良いものすら感じる。そのうち、ルイズは感極まったか、全身を震わせて泣き始めた。
 才人は、そっとルイズの頭を撫でる。
「お前って……結構よく泣くよな……」

「ちょっ、調子に乗らないでよっ!! ――わたしは、その……そう、御主人様として、当然の心配をしてあげただけなんだからっ!! あんたなんか、あんたなんか、別になんとも思っちゃいないんだからねっ!!」

 という言葉とは裏腹に、頬を真っ赤に染め上げて叫ぶと、そのまま部屋を走り出てしまった。
 その突然の変わり身に対応できず、ぽかんと彼女の背を見つめる才人を残して。

「何なんだ……あいつは……?」
「照れくさかったんだろう。ただ単に、な」
「風見、さん……!」

 ルイズが出て行ったドアを閉めながら、入って来たのは、風見志郎だった。

「あの……風見さん……あの時は、その、剣なんか向けて偉そうなこと言っちゃったけど、その……」
「気にするな。――お前が言った事は、本当の事だ」
「……そう言ってもらえると、助かります」
「礼だったら、ヴァリエールに言うんだな。お前がいま生きているのは、確実にあの子のおかげなんだからな」
「え?」

「体調はどうだ?」
「ああ、はい。……あれ?」
 確かに体は動く。まだ少し痛みが残ってはいるが、それでも日常生活には、もはや全く問題ないだろう。
 けど、おかしいな。確かあいつは、三日も眠りっ放しって、――三日っ!? たったの!?

.
「そうだ。いくら何でも、あのケガが三日で完治するなんて、ありえない」
 そう言いながら、風見は手に持ったトレイ――かなり豪華なメニューが乗せてあった――を、テーブルに置くと、
「食べろ。この世界には点滴が無い。栄養補給の手段は食事しかない」
「あの……いったい、どういう事なんスか? よくよく思い出してみれば、俺のケガって、結構シャレにならないレベルだったはずですよね? 改造手術でも受けたんですか、俺は?」

 風見は、トレイから自分のパンを手に取ると、これまでの経緯を説明した。

 このハルケギニアには、内科・外科といった、いわゆる近代医学療法が存在しない事。
 その代わり、魔法による治癒呪文が、その役割を担っている事。
 その威力は、治療分野にもよるが、場合によっては近代医学をはるかに凌駕する事。
 しかし治癒呪文は、『秘薬』と呼ばれる触媒が無ければ、その効果を十二分に発揮できない事。
 そして、その『秘薬』は、おそろしく高価である事。

「じゃあ……!?」
「そうだ。お前の『秘薬』代を肩代わりしたのがヴァリエールだ。いや、金を出しただけじゃない。あいつはお前が目覚めるまで、三日三晩、ほとんど眠らずに看病していた」
「……」
「あいつはあいつなりに、お前に対して責任を感じているんだろう」
「……そうすか」
 才人は、しばらく黙っていたが、やがて、静かに立ち上がった。

「おれ、あいつを捜してきます」
「食事はいいのか?」
「メシよりも優先でしょう、この場合は。――あ、でも、後で食うから、おれの分は残しといて下さいね」
「だったら、もう一人にも礼を言いに行け。ヴァリエールの持ち合わせで足らなかった分を、出した奴がいる」
「え? それって、誰です?」

 風見は、その精悍な瞳に、めずらしく優しい光を浮かべる。そして、その名を聞いた才人は、その意外さに目を見開いた。

.
 今は昼休みか何かのようだ。
 生徒たちが、校庭のテラスで、メイドたちが給仕するケーキをつまみながら、楽しそうに雑談に勤しんでいる。
 その中に、彼――ギーシュ・ド・グラモンもいた。
 傍らに、彼の後輩らしい初々しい少女を伴い、相変わらずな愛の言葉を囁いていた。
――が、その時、テラスにざわめきが走った。

「おい、あいつ……!?」
「何だ? 何しに来やがった?」
「いや、ひょっとして、アレだ。リベンジしに来たんだよ、多分」
「――平民のクセになめやがって……!!」

 いかに思い当たるフシがあるとは言え、平民から過ちを指摘されて素直に認められるほど、彼らは大人ではない。いわんや、ベンジョムシ呼ばわりまでされたのだから。
 しかし、平賀才人は、それらの真っ白な視線を全く無視して、校庭を横切り、足を止めた。
 勿論、ギーシュの前に、である。

「ギーシュ様……!!」
 少女が、ギーシュにもたれかかり、不安そうに、才人を見上げる。

「聞いたよ」
「何を?」
「助けてくれたんだってな、おれを」
「微力ながら、だけどね。――で、その件に関して、何か文句でもあるのかい?」
 そう言われて、才人はにやりと笑うと、
「ありがとう。お前のおかげで死なずに済んだ」
 ぺこりと頭を下げた。

 周囲にいた連中は、――ギーシュの隣の少女を含めて――あんぐりと口を開いた。

「いいさ、頭を上げてくれ。互いに戦いあった決闘者に、礼を尽くすのは、貴族として当然のマナーだ」
「……そっか」
 才人は頭を上げると、
「礼を言った直後に、こんなこと言うのもなんだが……もうルイズを馬鹿にするなよ。またやったら、今度はおれから『決闘』を挑むぜ」

.
 その言葉で、周囲は再び緊張したが、ギーシュは冷静だった。
「いや、安心したまえ。公衆の面前でレディを侮辱するなんて、考えてみれば、この『青銅』のギーシュらしからぬ振る舞いだったよ。君が怒るのも当然だ」
 そう言ったギーシュの笑顔は、意外に人懐っこいものだった。
 彼は彼なりに、『決闘』で、才人を認めるところがあったのだろう。
 才人は、この少年が、意外に好人物である点を認めざるを得なかった。

「なあ、あいつ――いや、ルイズを見なかったか?」
「いや、僕はずっとここにいたからね」
「そうか……。まあ、いいや。邪魔したな」
 そう言って、才人はきびすを返したが、何かを思い出したように首だけで振り向いた。

「ああ、さっき、頭を下げた時に、転がってるのを見つけたんだが、コレお前のか?」
 そう言ってかざしたガラスの小壜に反応したのは、意外にもギーシュ本人ではなく、傍らの少女だった。
「ギーシュ様……、まさかあれって、モンモランシー様の香水……?」
「へっ!? いっ、いやっ、何を言ってるんだケティ!?」
「じゃあ、じゃあ、やっぱりギーシュ様は、モンモランシー様と……!!」
「ノン! ノン! ノン! ノン!! 何を勘違いしているんだケティ!! 僕の心に住んでいるのは君だけだって、何回も――」
 その様子を凝視しながら、才人は溜め息をつく。

――まったく、どうしようもねえなあ、こいつら……。

「ああ、すまねえ。どうやらこれ、おれのだ」

 へ? と言った表情で才人を振り向くケティ。
 だが、才人は――いかにも取って付けたような演技ではあったが――いかにも一人で納得したように喋り続ける。
「これ、あれだ、その、――そうそう『秘薬』、『秘薬』だ。おれの治療に使ったやつ。その残り。うん、だから、これはそいつの物じゃない。安心していいぜ、カノジョ」

 そう言って小壜をポケットに詰め込むと、才人は飄然と、背中を見せた。

――ぽかんと呆気に取られるケティと、助かったという表情をしたギーシュを、後に残して。


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