あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの夢幻竜-20


アルヴィーズの食堂の上には大きなホールがある。
フリッグの舞踏会はそこで催されていた。
着飾った生徒や教師達が豪華な料理が並べられたテーブルの周りで歓談している。
その様子を人間形態のラティアスがバルコニーから眠たげに見つめていた。
眠たいのには理由がある。
学院長室から出て直ぐにラティアスはシエスタ経由で厨房からお呼ばれがかかったのだ。
何でも『猫の手も借りたいほど忙しい』との事で、もし時間と主人からの許可があれば来て欲しいとの事だった。
時間なら幾らでもあるし、ご主人様は恐らく二つ返事で了承してくれるだろう。
そう思ったラティアスはルイズの元に飛んだ。
ルイズは『死ぬほど忙しくなるんじゃないの?』と不安そうだったが一応許可は出してくれた。
そしてルイズが心配した通り、舞踏会が始まる頃にはラティアスは完全にのびていた。
今はそこまでではないものの、ともすれば立ちながら眠ってしまわないかと思うほどだ。
そんなものだから、気を紛らわせる為にシエスタが持ってきた料理を口にしている。
シエスタはおいしいからと言ってワインも持ってきてくれたが、ラティアスは一口飲んだだけでその場に倒れてしまいそうだったのでそれを持っているだけに留めた。



「嬢ちゃんはあそこには行かねえのかい?着飾ったら誘いの一つや二つは来るんじゃねえの?」
「一度体に覚えこませた幻術を一部でも変えるって結構大変なのよ。それに、私踊りの踊り方なんて知らないもん。」
「教えてもらってないから知らない……ってえ言葉は進歩の無い奴がするもんだぜ?出来ない事ってのは誰かの見よう見真似でも、相手に合わせる形でも次第に出来ていくもんだ。
最初からその可能性を投げ出してるんじゃ、出来るものだって何時まで経っても出来ねえぞ?」
「そうだけど……」

バルコニーの枠にはフーケ逮捕の陰の立役者、デルフが抜き身の状態で立てかけられている。
別にこの場所に持ってくるつもりは無かったし、デルフ自身が行かせててくれと言った訳でもない。
ただ、主人以外あまり親密になって話せる相手がいないラティアスにとっては丁度いい話し相手だったからだ。
眠気も紛れるし孤独感に襲われる事もないのが何より良い。
そんな折、彼女は『こころのしずく』に触れた時の事をふと思い出していた。
あの時自分の技の力は確かに上がった。
それは誰かから聞いた事があったから、取り立てて驚いたり騒いだりするほどの事ではない。
しかし肝心な事はそんな事ではない。
何か、正確には誰かの声が自分の心の内奥に聞こえてきた。
一体あれは誰の声だったのだろうか?
そして最後には自分の声まで聞こえてきた。
兄様と叫んでいたが自分には兄でもいるのだろうか?
よくよく考えてみれば、自分はこの世界に召喚される以前の事はよく覚えていない。
ルイズに話したような元いた世界の常識的な事はすらすらと出てくる。
しかし、ごく個人的な事、例えば両親や兄弟がいたのかといった事は雲がかった様に思い出せない。
学院長は褒美なら何が良いと訊いてきたが、今にして思えばきちんと『こころのしずく』と答えておけば良かったとラティアスは思った。
まあ、正直にそう言ったところで彼が首を縦に振ってくれるとは思えないが。
そんな事を思っているとホール奥の壮麗な扉が開いた。



「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢の、おなあありいぃ!!」

扉の近くに控えていた衛士がありったけの大声でルイズの到着を告げた。
主人の名が聞こえたので、扉の方を見たラティアスは驚いた。
そこにいるのは可愛らしさと高貴さの両方を存分に引き出したドレスを身に纏った一人の淑女だったからだ。
やがてホール内に楽士が紡ぐゆったりとした舞曲の旋律が満ちていく。
ルイズの美しさに見惚れた男子学生達が挙って彼女をダンスの相手にと誘うが、当の彼女は彼らを毛ほども気にかけはしない。
いつも、ゼロだ、ゼロだって馬鹿にしてるからでしょ、とラティアスはぼんやりと思いつつ料理を口に運ぶ。
するとルイズは誰にも何にも目をくれる事なく、真っ直ぐにラティアスの元にやって来た。

「服、やっぱり駄目だった?」
「すみませんご主人様。色々頑張ったんですけど無理でした……。」

開口一番聞かれるのは身なりの事。
変身できる事を悟られた時から言われる度に耳が痛い事だったが、こればかりはどうしようもない。
簡素なメイド服と、宝石の様な輝きを持つパーティードレスじゃ一緒にあるだけで不釣合いにも程がある。
おまけに他の者達は皆異性の相手がいるというのに、女同士で踊ったらおかしい事この上ない。
口調と表情から察するに、どうやらルイズは舞踏会で上手く相手を見つけて踊れているのかが気がかりだった様だ。

「はあ。そうよね。そんな直ぐ簡単にどうにかなるものじゃないわよね……」

落胆するルイズの声が消えない内にラティアスは呼びかけた。

「ご主人様!踊りましょうっ!」
「えっ?だっ、ダメよ!女同士で服もつり合わないのにどう考えたって変じゃない!第一、あなた踊った事あるの?」
「無い……です。」
「それじゃやっぱりダメじゃない!」
「でも!何とかしてみせます!ご主人様の真似でも何でもしますからご主人様に合わせます!」
「でも……」


ルイズはつい口ごもってしまう。
そんな時、バルコニーのデルフが口を開いた。

「娘っ子。嬢ちゃんは嬢ちゃんなりに頑張ろうとしてんだ。ご主人のお前さんがそれを無碍にしてどうするんだい?」
「五月蝿いわね。余計なお世話よ。」
「おほっ。こりゃ強気だねぇ。けどよ嬢ちゃんは真剣だぜ。やってる事が真っ当で当人が真剣にやってりゃ体裁が悪くったって笑われないものなんだよ。見てる連中にそれ以上の何かを訴えるからな。」
「何かって何よ?」
「さあ。その答えは実際踊ってみりゃ分かるんじゃねえのか?」

いまいち要領を得ないデルフの言葉に首を傾げるルイズ。
そしてラティアスは今だ!とばかりにルイズの手を引きホールの中央に進んだ。
そしてそれと全く同時に流れている音楽が軽快な物へと変化する。
場の空気に呑まれたルイズは何とも言えない表情でラティアスの手を取る。

「仕方ないわね……ほら、最初は右足、次は左足……」
「ええと、最初は右足、次が……」
「痛ッ!……ちょっと足踏んでるわよ!」
「あっ、すみません。」
「落ち着いて。リズムに合わせればその内慣れるわ。もう一度いくわよ。せーの……」

繰り返されるぎこちないステップ。
周りの者達はその様子に含み笑いをしていた。そしてそれと同時に軽い驚きも持った。
あの『貴族のプライドが服を着て歩いている』ようなルイズがあんなちぐはぐな事をやるだなんて!
……そんな感じだ。
だが二人の踊りが息の合った軽やかな物になるにつれて、その含み笑いは収まっていった。
実際ラティアスはただ踊っている訳ではない。
ルイズのステップに合わせながら、どうやったら上手く見えるか他の者の足運びを見て真似しているのだ。
始め、唐突な調子の変化に戸惑ったルイズだったが、今は上手く合わせられていた。
気づけばホールにいる大半は彼女達を見ていた。
何かを食べる者も、歓談する者もいない。
その様子を見ていたバルコニーのデルフはぼそっと呟く。

「良かったな。上手くいって。ダンスのお相手を使い魔がやるのもだが、あれだけ早く覚えこむのも……おでれーた。本気でおでれーたよ……」

空では二つの月が寄り添うようにして地上を照らし続ける。
そしてホールに立てられた幾つもの蝋燭の光は、月光と溶け合い幻想的な空気を醸し出す。
泡沫とも言える饗宴は始まったばかりだった。


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