あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Mr.0の使い魔 第三十五話

 夜明けと共に、一頭のグリフォンがスカボローを後にした。太い縄で
結わえた棺桶を引っ提げ、朝日の中をニューカッスル城へと向かう。
 グリフォンの背にはワルドとクロコダイルの姿。ルイズは一夜明けた
今でも目覚めず、部屋のベッドで【遍在】に警護されている。トラブル
が起きるのがわかりきっているため、意識が戻ったとしても同行させる
つもりはなかったが。
 厄介の種がなく快適な空の旅かと思いきや、さにあらず。小難しい顔
のクロコダイルは、現状に疑問を抱いていた。

(どういうつもりだ? わざわざ王党派に死体を返すってのは)

 死体を見せれば、厭戦気分を植え付けるぐらいは期待できる。しかし、
それ以上の何かはまず得られない。離反や降伏をするなら、これまでの
勧告で既に白旗を掲げているだろう。
 自分ならいっそぎりぎりまで手元に隠し、戦闘開始時に見せつける。
相手は狂気にかられて思考力を失うか、あるいは気力を削がれて戦意を
失うか。どちらにしろ、敵に感情を整理する時間を与えず、混乱させた
まま戦う事が可能だ。暴走した人間はあっさり玉砕するし、怯える者は
引き際を誤って逃げ切れない。結果、殲滅は容易になる。
 実際にはそれほどうまくはいかないとしても、前日のうちに返却する
よりは効果的だ。しかし、クロムウェルは後者を選んだ。ならば、そこ
には何らかの理由が存在する。立て直す猶予を与える事は承知の上で、
王党派にウェールズを返す理由が。

(……駄目だな。情報が足りん)

 これ以上考えても正解は出せそうにない。結局割り切る事に決めて、
クロコダイルはこの思考を切り上げた。
 実力の一端は既にクロムウェルに見せ、協力的な態度も示したのだ。
頭が働くあの男は、簡単に使い捨てにはせずに今後も利用しようと企む
だろう。であるならば、この程度の仕事で信用を得られるのはかえって
都合がいい。加えて、王党派の現状を確かめる事は今後の戦略の足しに
なる。帰る前に始祖にまつわる宝をいただければ完璧だ。
 ふと、クロコダイルは後ろの棺に目をやった。【レビテーション】で
浮かせた物をロープ一本で繋ぎ止めているため、風に煽られて振り子の
ように揺れている。中身が生きていたら、船酔いどころではすむまい。

「乗り心地は勘弁してくれよ、ウェールズ殿下」


 Mr.0の使い魔
  —エピソード・オブ・ハルケギニア—

     第三十五話


 馬では一日がかりの距離も、グリフォンで飛べば半日で終わる。途中、
一度だけ【レビテーション】をかけ直した以外は特に問題もなく、無事
ニューカッスルの城門前に到着した。
 門番は二人、どちらも槍を構えている。戦う気がない事を示すため、
ワルドは白いハンカチを掲げながらグリフォンを降りた。

「火急の用件だ。ジェームズ一世陛下にお取り次ぎ願いたい」
「クロムウェルの犬に降伏などせん! 尻尾を巻いてとっとと帰れ!」

 門番の一人が発した罵声に、グリフォンがうなり声をあげる。主人を
侮辱されて怒っているのだ。つられて門番達も剣呑な気を放つ。

「子爵、これだけ離れればクロムウェルの監視も届かん。猫を被る必要はねェだろう」

 一触即発の雰囲気が漂う中、背後を眺めていたクロコダイルが呟いた。
その声は門番達にもしっかり届き、彼らは顔を見合わせる。仮にも自軍
の司令官を、この場にいないとは言え蔑ろに扱うとは。
 さらに追随するワルドの言葉が、槍の矛先を地面に向けさせた。

「最初に言うべきだったな。我々はトリステインからの密使だ」
「トリステインだって!?」
「事情は中で話す。通してくれないか」


 謁見の間に通されたワルドとクロコダイルは、国王ジェームズ一世と
対面した。年老いてはいるが、目には強い覇気が宿っている。この王で
あれば、最期の瞬間まで決して弱音を吐く事はあるまい。互いの戦力差
から戦死が避けられないとしても、歴史に残る死となるだろう。

「遠いところをよく来てくれた。
 情けない話だが、明日の準備で手厚い歓迎ができない事を許されよ」
「勿体ないお言葉。ですが、我らには受け取る資格がありません」
「どういう事か?」

 悔しさに顔を歪めるワルドを見て、ジェームズ一世は眉根を寄せた。
 なおも沈痛な面持ちのまま、ワルドは言葉を続ける。

「我々は、密偵として貴族派に潜り込んでいます。
 そして今日、クロムウェルから特命を受けました。この棺を、運ぶように」
「ふむ……中身は、ウェールズじゃな」
「何ですと!?」

 脇に控えていた老メイジ、パリーが叫んだ。王、棺、そしてワルド
を順番に目で追い、信じられないといった風に首を振る。
 翻ってジェームズ一世は特に気分を害した様子もなく、淡々とした
口調で語りかけた。

「貴族派の手にかかったのじゃろう。連中に辱められなかっただけまし、と思うべきか」
「そんな! 殿下が殺されるなど、何かの間違いです!」
「パリーよ、現に棺はそこにある。
 そして、クロムウェルがこんな手間をかける人間と言えばウェールズぐらいしかおるまい」

 「どうかね」と言いたげな視線を受け、ワルドは小さく頷く。悲哀、
それとも憤怒だろうか。ウェールズを助けられなかった事に、ひどく
心を痛めているように見えた。

「お言葉の通りです。我々は部外者故に、貴族派の中では自由に動けぬ身。
 言い訳にもなりませんが、ウェールズ殿下をお救いできなかった事、お詫び申し上げます」
「諸君の責任ではない。むしろ、無事に送り届けてくれた事に感謝したいくらいじゃ」

 ねぎらいの言葉に、ワルドは無言のまま頭を下げる。
 空気が和らいだその時を狙うように、沈黙していたクロコダイルが
口を開いた。こちらはワルドと違い、ウェールズの死を悼む素振りも
見せない。

「陛下。恐れながら、一つ伺いたい事が」
「ふむ、申してみよ」
「ウェールズ殿下の嵌めていた、この指輪について」

 懐から取り出したるは翡翠の指輪。パリーの目の色があからさまに
変わった。ジェームズ一世もまた目つきを鋭くして、クロコダイルを
じっと見つめる。

「それは、どうしたのかね」
「無作法にも兵の一人が持ち逃げしようとしたので、取り上げた次第」
「ほう。随分と欲の皮の張った奴がいたものだ」

 冷えきった王の声色から判断して、かなり重要な品らしい。そして
これが指輪である事を踏まえれば、自ずと正体に行き当たる。万が一
とクロコダイルが考えていた可能性が、現実になったのだ。

「やはり、これは本物の——」
「そう、『風のルビー』だ。トリステインも案外抜け目ない。
 おおかた枢機卿あたりが、始祖にまつわる品を貴族派に渡さぬよう命じたのだろう」
「いかにも。ついては、『始祖のオルゴール』の所在をお教えいただきたい」

 不遜な態度のクロコダイルに、ジェームズ一世は呆れ笑いを浮かべ
つつ首を横に振った。

「残念ながら、『オルゴール』は紛失してしまったのだ」
「紛失?」

 数年前のお家騒動の時、管理していた人間が死亡。さらにその後の
家捜しでも発見できず、完全に行方不明になったそうだ。今手にして
いるのが誰なのか、全くわからないと言う。

「期待に添えずにすまぬ。その指輪だけでも、枢機卿に渡してくれ」
「……御意。子爵、戻るぞ」
「おや、もう帰るのか? 今宵は最期の晩餐会を開く。出席されてはいかがかな?」

 皮肉るようなジェームズ一世の言葉が、踵を返したクロコダイルに
届いた。返答は、随分と不機嫌な声。

「帰りが遅いとクロムウェルが怪しむんでな。失礼する」


 積み荷を降ろしたグリフォンが、長居は無用だと大きく羽ばたく。
見る間に遠ざかるニューカッスル城を振り仰ぎつつ、クロコダイルは
舌打ちとともに愚痴をこぼした。

「喰えねェ上に役立たずな王だな。何かに使えるかと思ったが、まるで駄目だ」
「仕方ないでしょう、彼らは敗残兵ですから。それにしても——」

 相づちを打ったワルドは、城での一幕を思い起こして苦笑する。王
に告げた「無作法な兵」など存在しない。強いて挙げるとするなら、
ウェールズの死体から指輪を奪ったクロコダイル自身である。門番に
わざと聞かせた「監視」「猫被り」といい、よくもまあ平然と言える
ものだ。実際に猫を被ったのは、城の中だというのに。
 ワルドがそれを指摘すると、「子爵も同じだろう」と失笑された。
最初からウェールズを助ける気などなく、むしろ殺すつもりだった事
を考えれば、確かに一笑に付されても仕方ない。
 相手からすれば笑い話ではすまないのだが、ワルドとクロコダイル
にとって、ウェールズはその程度の価値しかなかった。もうじき退場
する彼の父親のように、死んで初めて役に立つ程度の価値しか。

「ともかく、任務は完了だな。後は明日の戦いが優位に終われば文句なしだ」
「ああ、それなら無用な心配です」

 クロコダイルの独白に、ワルドは何でもないように応じる。
 応じてしまってから、自分の迂闊さを心底後悔した。クロコダイル
はクロムウェルの力を知らないのに、わざわざ自分から明かすような
真似をしたのだ。小さな気の緩みが招いた、とても大きな誤算である。
 一度口にした以上、今更嘘で誤摩化す事はできない。クロコダイル
の携えた鬼札——デルフリンガーが、既に気づいているのだから。今
も「さあ喋れ」とばかりに鍔を打ち鳴らしている。あるいは、間抜け
な姿を嗤っているのかもしれない。
 自分がここで白状するか、それとも後でデルフリンガーに教わるか。
どちらにしろクロコダイルは答えを手に入れるのだ。ならば、正直に
話して不信感を持たせない方がいい。
 素早く結論を出したワルドは、前を向いたまま口を開いた。耳障り
な鍔の音は極力無視する。

「明日の朝には、王党派は全滅していますよ」
「死体を運んだくらいでどうにかなるのか?」
「なりますとも。“殿下”が全て片付けてくれます」


 その夜、晩餐会が開かれた大ホール。
 豪華な料理や流麗な装飾、着飾った紳士淑女が歓談する中、異彩を
放つ物体があった。玉座の隣に安置された、大きな黒塗りの棺桶だ。
ジェームズ一世が亡き息子を悼み、せめてもの手向けとして『出席』
させたのである。
 花を敷き詰めた上に横たわるウェールズには、死化粧まで施されて
いた。悲しみをこらえながら、天国の王子に届くようにと努めて陽気
に振る舞う王党派の人々。明日は自分達も向かうから、もう少しだけ
お待ちください、と。
 そして、ジェームズ一世が皆に演説を行おうとした時。
 それは起こった。

「ウェー、ルズ?」

 棺に寝かされていたウェールズが、目を開けたのだ。ゆっくりと体
を起き上がらせながら、彼はホールを見回す。最後に、柔らかな笑顔
を父へと向けた。

「ただ今戻りました、父上」
「おお、おお……!」

 ジェームズ一世はぽろぽろと涙をあふれさせ、会場が喝采に満ちる。
 ウェールズはしばらくその様子を嬉しそうに眺めていたが、やがて
棺を出ると父へと歩み寄った。泣き笑いになりながら、大切な息子を
抱きとめようとするジェームズ一世の元へ。

「よく、よく戻ってくれた」
「はい。全て彼のおかげです」

 微笑んで、抱擁を交わそうとするウェールズ。

「陛下ッ!」

 どん、と強い衝撃を受け、ジェームズ一世は床に倒れた。最も近く
に控えていたパリーに、横から突き飛ばされたのだ。ジェームズ一世
は怒り心頭で振り向き——。

「ごぶ、じ、で……」

 胸元を深紅に染めた、パリーを見た。背から飛び出た細い杖の先が、
淡く緑色に光っている。接近戦で活躍する刃の魔法、【ブレイド】だ。
そしてあろう事か、凶刃を手にしているのは愛する息子である。
 携帯に便利な伸縮式の杖。ウェールズの袖口から取り出されるそれ
を見て、パリーが咄嗟に身を挺したのであった。

「何をするんだい、パリー。最期の親孝行が台無しじゃないか」
「きさ………何、も、の」

 ごぶり。血の塊を口から吐いて、それきりパリーは動かなくなった。
 ウェールズはかつての忠臣に呆れ顔を見せ、おもむろに【ブレイド】
で老メイジを引き裂く。血塗れのパリーが床に頽れる頃には、冷酷な
視線が王を射抜いていた。

「申し訳ありません、父上。貴方には最初に、幸せなまま死んでもらいたかったのに」
「ウェールズ、おお、ウェールズ! 何を言っているのだ? 何故こんな事をした!?」
「彼のためですよ。この新たな杖も、彼から賜った物」

 ジェームズ一世は混乱した頭で考える。ウェールズの言う“彼”とは
誰の事なのか。ふと、昼間に城を訪れた二人組の姿が浮かんだ。

「あのトリステインの若造共が、お前に【制約】をかけたのか!?」
「いいえ、父上」

 ウェールズの精悍な顔が醜く歪む。光の刃を高々と掲げ、かつては
決して見せる事のなかった嘲笑をジェームズ一世へ投げかけた。

「偉大なるクロムウェル閣下が、僕に新たな命をくださったのです」


   ...TO BE CONTINUED

新着情報

取得中です。