あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

Zero ed una bambola   ゼロと人形-33


 アンリエッタの来訪から一夜が明けた。
 アンジェリカはいつもより若干遅く目を覚ました。部屋の中には誰もいない。
 キョロキョロと辺りを見回すとテーブルの上に紙切れが置いてあるのが目に付いた。手にとって見るが書いてあるのはイタリア語ではないし、勉強したことのあるドイツ語でもない。当然アンジェリカは読むことは出来ない。
 ルイズがその場にいないことに首を傾げるが、さほど気にも留めずいつも通り洗濯をしに向かった。その手に紙切れを持って……。

 洗濯が終わり部屋へ戻ってはみたが未だにルイズの姿が見えない。少し心細くなったアンジェリカはその手に先ほどの紙切れを持ってルイズを探しに出て行った。
 しばらく学院を探し回ってみたがルイズの姿は見えなかった。途中妙に親しげに話しかけてくる一組の男女がいた。こちらは名前すら知らないのに……。
 これからどうしようと不安に苛ませるアンジェリカはトボトボと部屋へ歩いていた。そこへ小柄な眼鏡をかけた女生徒が声をかけてきた。

「何してるの?」

 眼鏡をかけたこの女生徒にはどこか見覚えがある気がした。だが名前が分からない。何と言葉を返せばいいのか困惑してしまう。
 一方の女生徒の方はアンジェリカの様子から素早く察し、口を開いた。

「タバサ」
「?」
「私の名前」

名前を名乗られても心当たりがない。アンジェリカはすぐに口を開いた。

「あの、はじめまして…」
「違う」

 初対面の挨拶をしようとするアンジェリカの声をタバサは遮る。

「はじめましてじゃない」

 困惑するアンジェリカを尻目にタバサは言葉を続けた。

「何回か会ってる。あなたの名前はアンジェリカ」

 少し悩んだ後、アンジェリカは口を開く。

「こんにちは、タバサちゃん」
「こんにちは」

 ようやく挨拶を交わしたタバサは本題とばかりに何をしていたのか尋ねた。アンジェリカはその問いに素直に答えた。朝目が覚めたら紙切れが置いてあり、ルイズの姿が何処にも見えないのだと。
 その紙切れはルイズの書置きだろうと見当をつけたタバサはその書かれていた内容を尋ねてみた。
 アンジェリカの返答は短かった。少し困った表情を見せながら彼女の出した答えは「読めない」だ。
 読めないといってもルイズの字が汚いから読めないのではない。ただアンジェリカはこのハルケギニアで使われている文字が読めないだけであった。
 確かに平民の中には文字が読めないものも多く存在する。そのことから考えればアンジェリカの答えはタバサにとって納得のいくものだった。ただ字ぐらい教えておけばいいのにと心の中で少し毒づくだけだった。

「貸して」

 タバサは一言書置きを見せるようにアンジェリカにいった。ただその言葉が足らず、アンジェリカは言葉の真意がわからない、戸惑ってしまいその場に立ち尽くした。

「書置き、読んであげる」

 アンジェリカの様子から自身の言葉足らずな部分を補い、再度告げる。ようやく合点がいったアンジェリカはお願いしますと書置きをタバサに手渡したのだった。



Zero ed una bambola   ゼロと人形



 ルイズはアンリエッタが去った後ずっと考えていた。アルビオンに手紙を取りに行く行程を。
 内乱状態にあるアルビオン行きは恐らく危険が常に付きまとうだろう。果たしてアンジェリカを一緒に連れて行くべきか否か……。
 戦闘能力という観点からみれば、アンジェリカはルイズよりも高い戦闘能力を保持しているだろう。そして彼女の身を守るためにその身を挺して戦ってくれる。そのことは今までの行動から容易に想像できる。
 それと同時に一抹の不安もよぎる。アンジェリカの体調は芳しくない。共に過ごした月日はそう長くはないのに何度倒れたことだろうか。共にアルビオンに行くことがアンジェリカの体に悪影響を及ぼすのではないか。不安は尽きない。
 だがなるべく一緒に居たいのがルイズの心情である。彼女は悩みぬいた末、翌朝アンジェリカの寝顔を見て彼女は決めたのだった。

 早朝、未だ大半の人間が寝ている中、ルイズは馬に跨り、一人アルビオンに向け出発した。彼女の部屋にアンジェリカを残して……。


 日は高く、正午に差し掛かった頃だろうか。今まで一度も立ち止まらず、後ろも振り返られなかったルイズは、ようやく馬の足を止め一息つくことにした。
 一人旅というのは孤独だ。今迄短いながらもずっと傍に居たアンジェリカが居ない事がルイズを余計に不安にさせる。

「アルビオンに着く前にこんな様子でどうするのよ!」

 水筒に入れた水を飲みながら自身を叱咤する。アンジェリカを置いていくと決めたのは他でもない自分ではないか。あの子は道具や奴隷なんかじゃないのだと。そして学院に置いて行くと決めたではないか。
 気を取り直し、また歩き出したルイズだった。だが唐突に、何かが日差しを遮った。
 何事かと慌てて上空を見上げるも逆行でよく見えない。辛うじてグリフォンのシルエットが確認できる。

「久しぶりだね! 僕のルイズ!」

 グリフォンは馬を驚かせぬようゆっくりと降下してくる。ルイズはただ驚きの眼でその様子を見ていた。

「わ、ワルド様!? どうしてここに…」

 馬の横へグリフォンを降ろした人物は長身の羽帽子をかぶった男、ワルドだった。驚きの声をあげるルイズに微笑で返した。そして彼女を馬から抱き寄せ、自身の操るグリフォンへと移した。

「はは、相変わらず君は軽いね」

 ワルドの胸に抱き寄せられたルイズは混乱から抜け出せずにいた。

「え? どうして? 何でワルド様がここにいるの?」

 腕の中で疑問の声をあげるルイズにワルドは笑顔を崩さずに応える。

「昨晩遅くに姫殿下から急に呼び出されてね。何でもアルビオンに行くルイズを手助けして欲しいと頼まれたんだよ」
「え?」
「そういえば姫殿下は随分慌てていたな。今回のことは急だったのかい?」

 姫殿下はそんなことを……。ルイズは自身が見限ったアンリエッタのことについて思いをめぐらしていた。正直、彼女が何を考えているのか理解できない。
 もしかしたら自分が何か早とちりをしてしまったのではないだろうか。そんな疑念すら湧いてくる。

「ルイズ、どうかしたのかい?」

 考え込む素振りを見せたルイズを心配し、ワルドが覗き込む。

「な、何でもありません!」

 我に返ったルイズの面前にワルドの顔が合った。慌ててルイズは少し距離を離し取り繕う。
 ワルドはそのようなルイズを得に気にすることなく話を続ける。

「今回は姫殿下より命じられた任務だけれども、心配することはないよ。何ていっても僕がついているからね」
「頼もしいですわ」

 落ち着きを取り戻したルイズはワルドの顔を見つめる。心成しかその頬は赤みを帯びている。

「それに…えーと…」

 何やらワルドが口ごもる。少し照れくさそうに、目線が宙をさまよう。

「何です、ワルド様?」

 ルイズは自信家な彼らしくない様子に疑問を浮かべ、言葉の先を促す。
 その言葉に促され、ワルドは遠慮がちに言葉を紡いだ。

「ほら、僕らは婚約者じゃないか。だから任務とはいえ二人っきりだし、何というか婚前旅行と思えばいいかなと思ってね…」
「こ、婚前旅行…」

 ワルドの言葉を口に出し反復する。ワルドは苦笑いを浮かべて再び婚前旅行と思って欲しいと言ってきたのだ。
 婚前旅行……その言葉を思い浮かべると心拍数が上がってくる。体中が何やら暖かくなってきた。恐らく真っ赤であろう己の顔をワルドにみられぬよう伏せた。
 顔を伏せたルイズを見たワルドは、彼女の気を損ねたのかと思い優しく声をかけるが、彼に恥ずかしくて顔を見せられないルイズはそっぽを向き答えた。

「い、行きましょう! こ、婚前旅行だったら旅路も楽しまないと…」

 どもりながらもワルドの意見に賛同を示したルイズ。彼女自身も羞恥のあまり何を言っているのかよくわからなかった。
 少し驚きの表情をみせたワルドであったが、すぐにその顔に笑みを戻し、ルイズを優しく抱きかかえ、グリフォンを歩ませた。


 寂しい旅が楽しい旅へ……そして後には悲しそうな鳴き声をあげる馬が一頭取り残されたのだった。



Episodio 33

Il compagno del viaggio
旅の同行者



Intermissione



 膝を地面につき、溢れる血を抑えようとその手で傷口を押さえるロングビル。その手から杖を話さない。
 エレオノールはその様子を見つめながら息を整え、口を開いた。

「土くれのフーケさんに話すことなど無いわ」

 何処と無く相手を小馬鹿にしたような物言いをする。

「わ、わたくしが土くれのフーケでなかったらどうするおつもりですか?」

 苦しげな表情を見せながらも相手を挑発する。
 ロングビルはまだ諦めたわけではない。生き延びる術を必死に考えていた。その為にエレオノールの隙を窺う。この会話によって少しでも隙が出来たらと……。

「別に貴女が土くれのフーケかどうか関係ないわ。ただ、土くれのフーケとして死ねばいいのよ」

 話すことは無いと言った相手が乗って来た。だが予想外の返答にロングビルは言葉が出ない。自身がフーケであるとの前口上でも述べるのかと思いきや、ただ死を宣告しただけだった。
 目を丸くしその場に硬直したロングビルをエレオノールは見下しながら止めを刺そうと一歩近づく。

「じゃあね。貴女に恨みは無いけど妹のためよ。そのまま素直に死になさい」

 動けないでいたロングビルの首筋に、手に持ったナイフを突きたてようとしたその瞬間、ロングビルの杖がエレオノールの足を払った。
 エレオノールの放った『妹』という言葉。それがロングビルの手を無意識に動かしたのだ。
 バランスを崩したエレオノールは前のめりに倒れてしまう。ロングビルの首筋にあてたナイフの刃は彼女の右肩から乳房を浅く、吹く後と切り裂き、血が滴り落ちる。

「このぉ! 大人しく殺されなさいよ!」

 元々短気なエレオノールは、悪あがきともいえるこのロングビルの行為に激怒した。顔についた泥を払うことなく起き上がろうとするのだが、それは叶わない。
 ロングビルの方向へ顔を向けた瞬間、彼女の拳が眼前に迫っていたのだ。
 経験したことの無い衝撃。鼻血を出しながら今度は仰向けになって倒れた。ロングビルはよろよろと頼りない足取りでエレオノールに近づくと彼女の上に倒れこんだ。
 だがエレオノールはロングビルの体を押しのけることなくその場に倒れたままだった。気を失っているわけではない。彼女の人生で初めて顔を殴られたのだ。そう軽いパニックを起こしたともいえる。
 ロングビルはエレオノールがどうなっているのか考えもしない。彼女だって必死なのだ。腹部を刺され、胸を切りつけられ血を多く流していた。生き延びるため、生きて妹に会うため…その意思が彼女を動かしていた。

「い…もうとに、テファに会うために死ねるもんかい!」

 己を鼓舞するかのような怒鳴り声を上げるとエレオノールに馬乗りに乗り、その顔面を何度も殴打し始めた。その力は全力とは程遠い力の無いものだったが、戦うのが専門とはいえないエレオノールにとっては十分脅威といえる代物である。

「死ねない! 死んでたまるか!」

 雄叫びの様に上げるロングビルの魂の咆哮。エレオノールは力なく四肢を投げ出したままただ顔面を殴られ続けていた。
 何度殴られただろうか。エレオノールは混乱した状態から回復しつつあった。それまで感じなかった痛みが知覚されてくる。
 ぼんやりとした視点で叫びながら己を殴り続けるロングビルを見つけた。

『殴り続ける?』

 ふと疑問に思う。こいつは何をしているのか。答えは簡単。己の顔を殴っているのだ、何度も何度も。
 母に自分に似て綺麗な顔といわれた顔。ちびルイズに綺麗で憧れるといわれたこの顔を殴っているのだ。
 そのことを自覚した瞬間、怒りがエレオノールの体中に満ちていく。
 ロングビルは必死にエレオノールを殴り続けていた。ぐったりと伸びていたエレオノールの手がしっかりと杖を掴んだことに当然気付かない。
 彼女が気付いたときにはもう遅く、今度はロングビルの眼前に杖が迫っていた。

 エレオノールの上から吹き飛んだロングビル。形勢逆転、今度は逆の立場になっていた。
 何を言っているのかわからない奇声をあげてロングビルめがけて杖を振り落としたエレオノール。もはや怒りで我を忘れていた。
 彼女の頭から魔法を使うという選択肢は抜け落ち、ただやられたことをやり返すことしか頭に無かった。殴る蹴る叩く……その繰り返し。
 ロングビルは呻き声をあげ、そして体を丸め、この嵐を耐えようとしていた。




 どれだけ時間が経過したのか……エレオノールはようやく我に返り、ロングビルへの暴行を止めた。
 慌ててロングビルから離れ、様子を観察する。
 泥や砂、血にまみれピクリとも動かない。

「し、死んだわよね」

 誰に問うべきでもなく、自然と口に出た死という言葉。思えばエレオノールが人を殺すのは初めてである。そのことを自覚し始めると彼女の赤く腫れた顔が青くなってくる。

「こ、これでいいのよ。と、止めを……」

 自分に言い聞かせる。これでいいのだと。自身が殴られるという誤算はあったものの、フーケを魔法を使わずに殺すという目的は果たせる。
 彼女のシナリオ……フーケは仲間割れの果て、殺されたというシナリオが完成するのだ。
 そう、モット伯の屋敷襲撃は土くれのフーケの一味の仕業である。仲間の盗賊と分け前の分配で揉めて殺された…フーケは死に事件を闇の中へ……。
 決してルイズに追及の手が及ばぬように、矛盾点は報告書は改ざんすればいい。全ては妹のルイズのために! そのためなら人殺しだってしてみせる!
 決意を新たに深呼吸を一つ。冷静になってナイフを探す。フーケに止めを刺してからもすることは多い。自身がここにいたことの証拠も隠滅をしなければばならない。
 落ちたナイフを拾うため、背を向けた瞬間、砂煙が辺りを覆った。

「そんな!」

 例え生きていたとしても意識などあるはずがないと思っていた。油断していた。後悔などしている暇などい。咄嗟に杖を振るい、辺りに風を起こした。砂塵は吹き飛ばされた、そこに居るべき人物の姿はなかった。

「あ、あの女ぁ!」

 湧き上がる怒りを必死で抑える。こんな所で地団太を踏んでも仕方がない。すぐに後を追わなければならないのだ。それにあの怪我である。そう遠くには行けないはずだ。
 しかし腑に落ちない。あの怪我で、しかも短時間でこの場から逃げ出せることが出来るのだろうか。
 信じがたいが、風か何かに攫われたかのようにその姿は掻き消えたのだ。
 その場に残されたのは点々と続く血痕……それは月明かりの届かぬ暗い森へと続いていた。


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